古雪椿は勇者である   作:メレク

216 / 333
今回は雀さんの誕生日記念!おめでとう!

自分の中ではドラマCDで印象が強く変わった子です。いい意味で。

それから次回の更新ですが、携帯の機種変を予定しているので、また少し期間を頂くと思います。今から課金して手に入れたsdカードにバックアップ取れるメモ帳に、スマホの原稿を移す作業に入るので...これが何かのミスでダメだと、投稿してないもの全部パーになる可能性も...

長々失礼しました。楽しんでいってください!


誕生日記念短編 胸の内に秘めたもの

入念に体を伸ばしている椿が、仕上げにと言わんばかりに軽く跳ねて、大きく深呼吸した。

 

「よし......やろうか、加賀城さん!」

「はい!!やったりますよぉ!」

 

その声に、隣にいる雀が_______いつもだと考えられない熱量で答える。

 

「いやー、でもよく雀がやるって言い出したよな。いつもなら芽吹に変わってもらうとかしそうなのに」

「多分、その発想が出てこなかったんだと思うわ。椿さんとトントン拍子で話を進めてたし、これは別に危険を伴うものではないし」

「成る程ねー...おーい椿!!頑張れよ!!」

「おーう!任せろ!!」

「気合いたっぷりねー。流石だわ」

「椿先輩らしいですね。雀ちゃんも頑張ってー!」

「ありがとうございますー!!」

 

周り含めてテンションが高まってくる中、アナウンスの声が聞こえてきた。

 

『それではこれより、夏のスプラッシュ大会を始めます!』

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

まさに夏といった強い太陽が照りつけてくると、何もしてなくとも汗が出てくる。裸な上半身もじんわりしてきた。

 

「あ、お前いたのか」

「裕翔?どうしたんだよお前」

「これのアルバイトスタッフだよ」

 

裕翔の言う『これ』は、この大会のことを指しているんだろう。夏のイベント_______簡単に言うと、水を使った障害物競争というか、水鉄砲を使ったアトラクションというか。

 

まぁ、ただの大会であれば俺は出なかっただろう。水鉄砲使って遊ぶなら、皆で楽しむ日を用意する。実際別日で予定はしているが。

 

『古雪さん!これ出ません!?』

『ん...?へー、なんか珍しいな。加賀城さんが......分かった。出よう』

 

加賀城さんが持ってきたビラには、『夏のスプラッシュ大会!男女ペアなら誰でも参加可能!!』とでかでか書かれていたが、加賀城さんが指差してるところも、俺が見ているところも違う。

 

『愛媛主催!!みかん等豪華景品あり!!』

 

多分、星のように十字の光を目に宿らせていただろう。同時に、やるしかないと。

 

固く握手を交わし、ルールやらなんやらを確認し、準備をして、今日を迎えた。

 

狙うは当然、一位のみ。流石に時期が違うので生ではないと思うが__________

 

 

(みかんジュースみかんジュースみかんジュース...ッ!!!!)

 

「はい。じゃあこれな」

「サンキュー」

 

16と書かれたゼッケンは、それなりに強い水しぶきで切れるだろう。気をつけながらもある程度ゆとりを持たせて結ぶ。

 

(これならパーカーも持ってくるべきだったな...汗で着れないとは思うが)

 

参加中にずぶ濡れになり、紙でできたゼッケンが破れる等した場合、そのペアは失格になる。対策を万全にしたかったが、今更仕方ない。

 

参加しているのは俺達のような子供から御高齢の方まで。警戒すべきは三つ隣でマッスルポーズをとってるガチマッチョの二人だろうか。

 

「だが、負けるわけにはいかないってな」

「ここまで準備して負けるわけにはいきません」

「おう...やるぞ」

 

アナウンスが響き、参加者や応援席が少しずつ静かになる。

 

『それでは始めます!一体誰が一位になるのか!?よーい...スタートォ!』

 

パンっと発砲音が響いた瞬間、俺達は砂地を駆け出した。

 

水を使った障害物競争。内容ごとにステージを分けるとすると、第一ステージ、第二ステージは事前に分かっていた。

 

最初は、『設置してある水鉄砲を避けながら進む』ステージ。さっきの通り極力ゼッケンを濡らすわけにはいかないので、普通であれば隙間を縫って行くなりタイミングを考えなければならないが。

 

分かっていれば、事前対策等いくらでもする。

 

「突っ込めっ!!!」

「うぉぉぉ!!!」

『おぉっ!?一組突き進んで...え、あれ通したんですか?』

 

この大会。基本ルールは『ゼッケンを上から守るものは禁止』というのと、『水鉄砲が必須となりますが、こちらでは用意致しませんので持参をお願いします』というのだけである。

 

つまり、『手作りの(大型の盾としても扱える)水鉄砲を持参する』のはセーフなのだ。事前に運営にチェックされて許されているので尚更。

 

防人としてずっと盾を扱い、生存本能が凄まじい加賀城さんにかかれば、水鉄砲ごとき大したことはない。

 

問答無用で直進した俺達は、あっという間に独走状態に入った。

 

『さ、さぁ!一位の二人が次のステージに進みました!次は...あれ?』

 

動揺を隠せてなさそうな司会者は、また変な声をあげる。

 

(自覚はあるが、勝ちにきてるんでね!!)

 

そこに遊びの意識はない。獲物を手にする為に動く戦争だ。

 

第二ステージは、海上に浮かぶ的を撃ち落とすというもの。浜辺から届かない位置に設置してあるが、恐らくライセンスを持ってるスタッフが操る水上バイクに乗って行くんだろう。高い場所には設置されてないので、近くまでいけば誰でも当てられる。

 

男女ペアでの参加だし、本来の楽しみ方は水上バイクに二人で乗ってイチャイチャすることなんだろう。『普通であれば』

 

「頼む」

「アイアイサー!」

 

背負っていた物を持ち、予備の水入れを加賀城さんに渡す。一発分の水はいれてあったが、流石に一撃で当てられる気はしなかった。

 

(まぁそれでも、ここで狙った方が早い)

 

「あのー...」

「......」

 

16の腕章をつけた人が水上バイクに乗ったまま何か言ってきたが、無視。ご利用は計画に入ってない。

 

しっかり中の水圧を高めてから、構える。この水鉄砲______いや、この狙撃銃の名は『長門』。東郷と芽吹の協力のもと、魔改造されたこいつの最大射程は_________驚異の51メートル。

 

「発射っ!!」

 

ズバンッと普通の水鉄砲からは聞けない轟音を響かせ、水のアーチは的の横を通りすぎる。周りからどよめきの声が聞こえたが、そんなものを気にする暇はない。

 

(...届きはするな)

 

「はい古雪さん!追加です!」

「ありがとさん...次で仕留める!!」

 

構え直し、引き金を引く。今の俺達に出来ないことなどないと言わんばかりに、二発目は的の中央に着弾した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「うっはー...やってんなぁ」

 

観客席でジュース販売の売り子をしていた俺は、こっちにまで聞こえてきた慣れない音に振り向く。犯人なんてすぐに分かった。

 

(どう考えてもあれ市販品じゃないでしょ...)

 

椿が見せてきたことがある銃の本に、あんなのがあった気がする。というか水鉄砲であんな真っ黒で武骨なデザインの奴は売られてない。

 

「東郷、芽吹...あんた達最近何やってるのかと思ったら、あんなもの作ってたの?」

「古雪先輩に頼まれまして」

「楽しかったです」

「誰も感想なんて聞いてないわよ」

「勇者部って戦闘民族かなんかなのか?風」

「ん?裕翔?あんたなんでここにいんの?」

「ここのスタッフですー」

 

持っている販売道具を見せながら、初対面の人もいたのでお辞儀しておく。

 

「椿の親友、倉橋裕翔です。勇者部の話は沢山聞いてるよ」

「あら倉橋さん。ごきげんよう」

「ごきげんようでございます弥勒様」

「なんか口調おかしいわよ...」

「ちなみに私(わたくし)め、歩合制の販売なので...是非、こちらのお飲み物を購入して観戦して頂ければと」

「それが狙いか」

 

同じクラスにいる三人が反応してきてくれてほっとする。他の皆も最初よりは柔和な感じになってくれた。

 

(いやでも、これは...)

 

勇者部は、一人一人で見てもとんでもなく可愛い子達ばかりだった。おまけに水着。近寄るチャンスなど滅多にない俺にとって、最高過ぎる。

 

(いやぁ眼福眼福ぅ!!!)

 

普段からいる椿への憎悪は少しだけ消えた。

 

「でも、そんなに売る時間なさそうよ」

「だよなー」

 

あくまで『自分普通ですけどなにか?そんな見てませんけどなにか?』というオーラを出し、勇者部の面々を見ながらも、あっちを目を向ける。

 

椿は腰につけていた二丁拳銃(水鉄砲)を取りだし、三ステージ目_____もぐら叩きの水鉄砲バージョン_____の的へ向けて連射していた。あれなら素早くクリアできるだろう。

 

「あいつ凄い慣れてる感じだな。いつの間に練習を...」

「......」

「風?」

「うん?あ、何でもないのよ?何でも」

 

何か思い当たることでもあったのか、風は取り繕ったように言ってきた。

 

(なんか怪しい...でも、椿が普段から銃使ってなきゃ誤魔化す必要もないしなぁ......)

 

「にしてもあいつ、何であんな本気なんだ?」

「そりゃ勿論、一位をとるためでしょ?一緒に出てる子もそうだけど、みかん好きなのよ」

「...あー。やっちゃったなあいつ」

「え??」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「誤算だったなぁ...マジかよ」

 

さっきまで出ていた夏に相応しい大会は、独走で私と古雪さんが優勝した。

 

お客さんやスタッフさんも、速すぎた私達に対して『イベントにいる空気の読めない奴ら』ではなく、『応援すべきアスリート』みたいな雰囲気になってくれたお陰で表彰式にも満面の笑みで出れたし、企画した代表みたいな人が『これほど真剣に望んでくれたのは君達が初めてだ。良いものを見せてくれてありがとう』と言ってくれたのも嬉しかった。

 

ただ、今の私とこの人の顔は喜んでない。

 

「これどうしよ」

 

古雪さんが掲げたのは、今回の優勝賞品_______愛媛で有名な職人さんが作ったらしい、水色のペンダントだ。ちなみに私の手には桃色のがある。

 

そう。優勝賞品はみかんじゃなかった。みかんセットは二位の景品だった。確かに事前に言われてなかったし、勝手に優勝賞品がみかんだと勘違いしたのは私達だし、なんなら男女ペア、というかカップルばかり参加しそうなこの大会に相応しい優勝賞品だと思う。

 

ただ、中身が発表された時の私達の顔は、とても優勝した喜びが入っているとは言えなかった。

 

「うーん...」

 

唸りながら古雪さんが胸元に手を当てる。考えてるのは、きっとこんなことだ。

 

(俺はもうつけてるしなぁ...)

 

もうサファイアのペンダントをつけてるから、みかんじゃなかった残念さを抜けば、こんな感じ。だから私にとっては『本気でどうでもよかった』

 

そんなことより、自分のことの方がよっぽど大変だ。

 

(どうしよう......!!)

 

みかん好き同士で盛り上がったのは良い。結局みかんじゃなかったのもまだいい。このペンダント可愛いし。

 

問題は、それを手に入れるまでに何をやってきて、この後どうなるか。だ。

 

一位を取るために全力だった私達は、最後のステージ______まさかの水要素一切なしの、片方をお姫様抱っこして砂場を走る場面で、躊躇うことなくしてもらった。

 

後、ゴールした後喜びのあまりハイタッチだけでなくちょっと抱きついた。水着で。

 

更には、どっかで興奮した古雪さんが『雀っ!!』と呼んでた気がするし、私も『椿さんっ!!』と呼んでいた気がする。

 

結論。

 

(椿さん争奪メンバーに、完全に目をつけられたっ!!いや椿さんじゃなくて古雪さんだけど!!!)

 

私は忘れない。表彰台に登った時にとある方向から感じた黒いオーラを。その隣にいた古雪さんの友人らしい人が、遠くからでも分かるくらい震えていたのを。

 

その上、もしペンダントのペアルックなんてしてしまったら__________

 

 

(け、消されるっ!!!確実にっ!!!!今度こそ命を刈り取られる!!!)

 

守って貰うとかそんな話じゃない。また最前線で暴れなきゃいけなくなる。というか今回はそれで許してもらえるか分からない。

 

(な、何か出来ることは!何か、これ以上怖いことにならないように出来ること...!!!)

 

「古雪さんっ!!」

「うおっ!?どうした!?」

 

咄嗟に思いついた切り札を、私は躊躇なく切った。

 

「私今度誕生日ですよね!?」

「お、おう...そうだな。おめでとう」

「ありがとうございます!それで誕生日プレゼントなんですが、古雪さんのそれが欲しいです!!」

「え、これ?こっちの色のが良いのか?なら交換で」

「いえ!!!二つ欲しいのでください!!」

「お、おう...まぁ俺もそこまで手元に欲しい訳でもないし、そんなに欲しいなら。はい」

「ありがとうございます!!大事にしますね!!!」

 

これでいい。後はしばらく距離を取っておけばいいはずだ。

 

何で私がここまでしなきゃいけないのかって気持ちも、あるにはあるけど__________

 

(皆が告白するなり、古雪さんがさっさと相手を決めてくれればなぁ...私もこんな思いすることないのに)

 

恐怖でドキドキすることも、別の意味でドキドキすることも。

 

(いっそハーレムルートでも進んでくれればなぁ...こんなことしてても許して貰えるだろうに。でも、それは古雪さん自身から許して貰えるだけで周りの女子がどう思うかは別問題かな。古雪さんも不誠実とか思いそうだし......ん?)

 

自分の思ったことを振り返る。三秒くらいかけて意味を理解して、気づいてしまった。

 

(い、いやいやいや。私、あれだから。別に恋する乙女じゃないから。古雪さんの隣を狙うポジションじゃないから)

 

「加賀城さん?」

「はいっ!?」

「いや、どうかしたか?」

「何でもないで...古雪さん、私のことは加賀城さんって呼んでてくださいね」

「??」

 

まだこの呼び方をされてれば、私も周りも、何も考えなくてよさそうだから。なんて言える筈もなく、私はただ誤魔化して笑うだけだった。

 

「ん、似合うと思うぞ。そのペンダント。あげてよかった」

「古雪さんストップ!!ストーップ!!!!」

「へ?」

 

 

 

 

 

ちなみに、周りの空気は翌日には直っていて、とてつもなく大きな安堵の息をついた。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。