古雪椿は勇者である   作:メレク

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スマホを機種変して初投稿。osが変わったらしくコピーしていたデータは抹消されましたが、必要最低限の分はどうにかしました。

文を作ってるアプリも少し違うので、前回までと変わらないようにしたつもりですが、見にくくなってたらすみません。


ゆゆゆい編 45話

「いやっほぉぉ!うーみだー!!!」

「銀!まずは準備体操よ!」

「わかってるよ須美~!でも楽しみだったからさ!ね?球子先輩?」

「そうだな!よし銀、怒られる前にしっかり体動かして、それから行くぞ!」

「了解です!!」

「元気だなぁ...おーい!目の届かない場所には行くなよ!」

『はーい!!』

 

活発なメンバーが張り切って体をほぐしていくのを見守りながら、いつかのように砂浜へパラソルを刺す。あの頃より大型の物だが、俺自身もあの頃よりは体が出来上がっている。

「なにおじさんみたいなこと言ってんのよ」

「いやだってさ?流石に暑すぎるぞ?」

 

ジリジリと照りつけ、雲一つない空で輝く太陽は、絶好の海水浴日和の証拠ではある。ただ、汗のかき方も尋常じゃない。水分を取れば一気に体から流れ出てくる。

 

「確かに体調管理はしないとねぇ。海の家があるわけでもないし」

「ないことが凄いんだけどな」

 

去年プールに行ってる俺達勇者部だったが、今年は誰かが『海行きたい!』と言った。結果、大赦が抑えているらしいビーチを貸し切りである。

 

(いやまぁ、プール貸し切り出来るくらいだし、プライベートビーチくらいあって不思議に思わないが...)

 

個人的に背筋が冷えたのは、園子がぼそりと言っていた『私もあるのに...』だったが、真実を確かめるのがなんとなく怖くてやめている。全然普通にありえることだが、後輩の感覚に狂いが生じそうで嫌だった。

 

(貸し切りじゃなくてもいいんだがなぁ...)

 

安全面や、可愛い子揃いの彼女達に変な奴が寄ってくるだろうことを考えると最善手なので、俺は黙って準備やら手伝いやらをするだけにした。

 

(寧ろ、俺が変な奴にならないようにしないと)

 

「椿?どうかした?」

「ん、いや、なんでもない」

 

話していた風に首を傾げられ、俺は自分の首を横に振る。心音はちょっと煩いが、許容範囲だ。

 

(まさか、こんなことで効果が出るとは...)

 

前回、というか去年。俺はプールで鼻血を出している。理由は男としての性だ。いや、仕方ない。裕翔も『あのメンバーの水着を見てたらしょうがないよな』と言ってくれた。あとあの園子の刺激が悪い。

 

かといって、他人のせいにばかりしていたら去年と同じである。この女子だらけの日常に多少慣れたとはいえ、彼女達の魅力は去年以上になっているし、芽吹達防人組も増えたのだ。事前準備もほぼ無駄行為だったわけだし。

 

一度は諦めるしかないと思い、俺だけ休むと言いかけたのだが________友奈とひなたが一緒に遊べないのかと泣きそうになり、慌てて否定した。本当に嬉しいことだが、露出の多い彼女達相手に暴走しそうなのも事実なので、色々調べ、取れる行動はしてきた。

 

(上手くいってよかったわ...ここまでやって無駄とは思いたくないからなー)

 

やったことはそこまで多くない。まず昨日は寝なかった。俺自身の集中力を削り、純粋な思考スピードを落とすためだ。

 

次に皆と合流する前、春信さんに教えてもらった場所で滝にうたれてきた。夏とはいえ普通に冷たかった。

 

そして、かなり暗めのサングラスを買った。太陽の光は勿論、それを受ける彼女達の眩しい肌を直視することもない。というか暗すぎて欠陥品とまで言えるレベルだろう。更に、去年殆ど俺の手元から離れていたパーカーを装備。今年は園子も最初から紫と白のちゃんとした可愛い水着を着ていて、嬉しさのあまり頭を撫で回してしまった。園子は喜んでたようなのでよかったが_________

 

ともかく、どれが主な要因なのか分からないが、今年はもう全員の水着を見ているのにも関わらず、ここまで落ち着けている。芽吹がギャップのある黒い水着だったり、園子と樹に抱きつかれたりしたが________まだ大丈夫だ。

 

(しかし...)

 

「椿ー!浮き輪くれー!」

「...まだ膨らませてないぞ」

「分かってるよ!そのくらいこっちでやるから」

 

精神的には数年前に行った勇者部の合宿。精神的に辛かった時期、その時にはいなかった彼女がいる。

 

フラッシュバックする光景よりずっと良い光景に、どことなく不思議に思い、じわじわと嬉しくなる。

 

「寝不足か?」

「っ!?」

 

気づけば銀がおでこを当ててきてることに硬直した。サングラスまでしてるのに簡単に看破されるとは思わなかった。

 

「熱はないか...というか、これだけ暑いと分からないな」

「いや、大丈夫。大丈夫だから...」

 

突然のことに壊れた機械のように呟くことしか出来なかった俺が考えることは一つ。

 

(持つだろうか。俺は)

 

既に最終兵器、本来人に向けるべきではない魔改造水鉄砲『長門』のトリガーを引くべきか悩んでいた。

 

 

 

 

 

その後、案外何か事件が起こることもなく、ただただ楽しんだ。

 

スイカ割りでは歌野が勢いよく振って見事五等分にしてみせたり。

 

お昼は持ってきてた鉄板をはじめとした道具を使い、俺と銀で焼きそばを作り、棗が取ってきたマテ貝を炭火焼きにしたり。

 

東郷と須美が砂で日本の城を建てていく隣で、園子ズが自分達の夢の世界を表現してたり。

 

友奈と夏凜のタッグと、若葉と球子のタッグによるビーチバレーが始まったり。

 

樹に杏、亜耶ちゃんの三人が浮き輪に捕まって海を漂ってたり。一方でシズクと棗が海に潜ってたり。

 

自分で用意した環境で日焼けしていた弥勒を加賀城さんがからかい、鬼ごっこを始めてたり。

 

風と水都が千景とユウ相手に水鉄砲かけまくってたり。雪花にとばっちりが飛んで怒ったり。

 

そんな楽しげな空間の中で、俺はパラソルで作られた日陰に入り、ぽけーっと眺めていた。

 

(眠たい...)

 

何もしてなかった訳じゃない。さっきまでバレーに混ざってたし、俺も砂で山は作った(というか、城を作れる高等技術なんて持ってない)。ただ、ちょっと休憩としてスポーツドリンクを飲みながら座っていたら、急にきたのだ。

 

「ふぁーぁー......」

「お疲れですか?椿さん」

「...別に、そんなんじゃないさ」

「そうでしたか」

 

聞いてきたひなたは、そう言いつつも表情はちょっときつめのまま隣に座ってくる。

 

「...私、聞いたんですよ」

「何を?」

「椿さんがこの場所を調べるお手伝いをしていたこと。大赦の方から」

「......」

 

なんと答えるべきかすぐには分からず、結果沈黙する。確かに今回この場所を使うにあたって、海に危険な生き物が住み着いてないか等のチェックを大赦と一緒にした。

 

ただ、それは大赦が毎年やってることであり、ちょっと混ざっただけなのだ。本当に負担になるようなことじゃない。

 

「私達のことを考えてくださってることは嬉しいことですけどね。無理をされても良くは思いませんよ?」

「いや、別にそれが原因じゃない。過保護気味な所もあるかもしれんが、俺だって好きでやってることだしな」

 

勘違いしてそうなひなたに否定する。彼女は自分の読みが外れて残念そうに__________することなく、寧ろ口角をあげた。

 

「?」

「椿さん、やっぱり何か疲れてる原因があるんですね?」

「...あ」

 

ひなたが気にしていたのは俺の返事の前半部分だった。

 

「誘導尋問じゃん...というか今のは揚げ足取られただけというか」

「そうやって言い訳を始める辺り、ますます何か隠してますね?」

「...言うつもりはないからな」

 

完全に見抜かれているが、『お前らの水着姿が刺激強すぎて対策するため』なんて素直に言うのは辛いため、そこだけは死守する。

 

「私ではダメですか?」

「いやこれお前らだからこそ言いたくないから」

「むー...」

 

頬を膨らませた顔を見て罪悪感が浮かんでくるのは、俺が彼女に対して弱いからか。

 

「......なんかすまん」

「すまんと言うなら、誠意を見せて貰いましょう」

「え、ちょひなたっ!」

 

一瞬でサングラスを取られ、一気に眩しくなった彼女に腕を引っ張られる。抵抗する暇なく俺は文字通り彼女のお膝元へ。

 

「っっ!?!?、!!!」

「サングラスをかけた椿さんも良いですが、やはりいつもの椿さんですね」

 

何か言ってる気がしたが、俺には何も聞こえなかった。五感の集中力が全て視力に持っていかれてる。

 

(これは不味いって!!!)

 

膝枕はまぁ、まだ、いつも通りと言えても_____普段なら服で見えないひなたの胸を、本来見れない真下から覗いている。とても中学生に見えないそれがはっきり主張されている。

 

それに、さっきまで海で遊んでたせいで彼女は水に濡れている。後頭部に伝わる熱には水分が多いし、そして。上から滴ってくるのは。

 

「!!!!」

「少しお休みになってから、また遊べば...あら?椿さん?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「まさか、寝ちゃうなんてねぇ」

「何かあったんでしょうか?」

 

帰り道を歩きながら、椿先輩の方を見つめる。目を閉じて眠ってる先輩は、銀ちゃんにおんぶされてることにも気づいてないみたいだった。

 

もう寮に住む皆とは別れてるから、凄く静かに感じる。

 

「刺激が強すぎちゃったのかなー...去年よりは自重したんだけど」

「園ちゃん何を自重したの?」

「んーん。なんでもないよ~。ゆーゆはそのままでいてね~」

「?」

 

園ちゃんの言ってることは今一分からないまま話が終わってしまったため、なんとなく消化不良になってしまった。

 

(んー...モヤモヤするぅー...)

 

「じゃ、アタシ椿を置いてくんで、園子はまた後で」

「はーい」

「じゃあよろしくね。銀」

「任せてください!あ、友奈」

「あぁはい!?」

「今度椿にマッサージでもしてあげて」

「わ、分かった!」

「じゃ!」

 

椿先輩のお家に入っていく銀ちゃんを見送って、私達はまた歩きだした。親御さんにバレずに部屋に運んで起こしておくって言ってたけど、どうやるのかさっぱり分からなかった。

 

 

 

 

 

「はふぅー...」

 

海に入った後の髪は、何回か洗っても少しギシギシして好きじゃない。けど、楽しかった思い出の証でもあるから嫌いにはなれなかった。

 

(あ、メールだ)

 

送り主は椿先輩。お風呂に入る前には全体に目が覚めたことを連絡してた。今通知されてるのは、私がさっき出したメールのお返事。

 

『椿先輩、今日はお疲れでしたか?もしよかったら、私が今度マッサージします!』

『お手柔らかに頼む。ホントにお手柔らかにな』

 

何故か二回言ってるけど、返信が来ただけでちょっと心が喜んでた。

 

『任せてください!全力で椿先輩を柔らかくします!!』

『......うん。楽しみにしてる』

 

(...)

 

返信に『はい!』とまで打ち込んで、送信しようとしていた手を止める。

 

『あの、それと...海で聞きそびれてしまったのですが......私の水着、如何でしたでしょうか?』

 

「い、いやいや...あ」

 

(お、送ってしまったー!!!)

 

ちょっとだけつっかえていた今日のこと。モヤモヤの原因。今日のために芽吹ちゃんと一緒に買いに行った桜柄の水着は、椿先輩に何も聞けなかった。

 

無意識に打ち込んでしまった必要以上に敬語なそれを、動揺のあまりそのまま送ってしまった。

 

(ど、どうしよう...今から消しても間に合わないし、あわわわ...)

 

自分の部屋の中をうろうろしてたら、すぐに返信が返ってきてしまった。

 

「な、なんて書かれて...」

 

『可愛かったんじゃないか?友奈によく似合ってて』

 

顔から火が出そうなくらい熱くなってるのを感じる。ここ何年かで、もう分かってしまった。

 

分かりきっているのに、ドキドキは止まらないし、熱くさせない方法なんて分からない。嫌だなんて絶対に思えない。

 

「バカ。バカ。椿先輩のバーカ」

 

普段なら言わないことも、特に先輩には言うことはないであろうことも、すんなり出てきた。

 

「...ふふっ」

 

言葉の割に、笑顔を浮かべながら。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「へっくしょんっ!...冷房強すぎたか?」

 

手早くエアコンの設定温度を少し上げ、スマホを見直す。既に来ていた通知に加え、新たに追加されたことを伝えてきた。

 

「ひなたに、友奈か...」

 

ひなたのはほとんど話が済んでいて、本文も『はい。おやすみなさい』というものだけだった。友奈も、『それならよかったです!ありがとうございます椿先輩!おやすみなさい!』と書かれていた。最後に可愛らしい絵文字を添えて。

 

「...はぁー」

 

友奈が突然聞いてきのは、自分の水着の感想。今日はもう十分刺激のあることを済ませた筈だが、睡眠を取ってしまったからなのか、彼女の姿を思い返してまた心拍数が上がった。

 

それで、三回くらい書き直しながら返信したのだが__________

 

(まさか、こんなになってるなんて思わないだろうなぁ...)

 

思い返すだけでも、こんなに風に動揺してるなんて、あまり思われたくなかった。

 

(ふぅ...おやすみ)

 

ベッドに寝転がると、途端に眠くなってくる。俺は睡魔に逆らわず、目蓋を閉じた。

 

今日は良い夢が見れるかも。なんて思いながら。

 

 

 


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