ということで、わっしーと同じように園小の誕生日を祝う回を作りました。今回は予定していたことなのでちゃんと当日に出せる!
「つっきー先輩?離さないでくださいね?」
「分かってる。エスコートはしっかりするから」
「はーい!」
目を閉じたまま知らない場所を歩くのは正直言って凄く怖い。しかし、今目を閉じている彼女はそんなこと全く思ってなさそうだった。ヘッドホンをつけた今も、その表情は変わらない。
『俺の決めた場所に行く?』
『そうなの!つっきー先輩に私を連れていきたい所を決めてもらって、そこに行きたい!』
二人いる乃木園子の誕生日、小学生の彼女からそう言われたのは、誕生日の二週間くらい前だった。確かに二人同時にお願いされて実行出来ることは、一人にお願いされて実行することより限られるだろうし、ありがたいのだが_________
(なんともまぁ、珍しさのあるお願いだ)
『いいけど、どうしてまた?』
『えっと、私も小説作ってるんですけど、園子先輩が経験してないことを盛り込みたいなって』
『成る程...?』
園子の小説は良くも悪くも凄く引き込まれる。時々読ませて貰う物はどんなジャンルでも面白いのだが、気づいたら夜中になってるのがいつものことなのだ。
そして、なんだかんだ園子ちゃんのは読んだことがない。
『俺読んだことないけど、もう違うんじゃないのか?』
中学三年の時間を過ごした後と前では、書くものは変わってくると思う。二年くらい動けない生活をしていたとはいえ。
『確かに違うんだけど、私より上手いなーって思うことの方が多くて。私もあれとは違う形で、同じくらいのものが、ううん、それ以上のを書きたいなって思うの!』
『んー...』
俺には小説を書く際のいろはというか、彼女達の求めるものは分からない。だが、問題は当人がどう思うかだ。オリジナリティのために自分とは違う人のアイデアを受けるというのは、利にかなってるようにも思う。
『わかった。じゃあ行くか。ちゃんと案内出来るように頑張るよ』
『ありがとうございま~す!』
そんなやり取りの末、今の状況があった。行き先は事前に調べたし、実際現地に足を運んでいる。
(園子があまり体験してなさそうで、園子ちゃんも自分じゃあんま行かなさそうな場所...まぁ、気に入ってくれるといいんだが......)
せめて嫌な顔をされなければ良いなと思いつつ、俺は道を曲がった。
(いや、それより前に、これ誘拐現場とか思われてないよな...?)
「おっきー!!」
「園子ちゃん、静かにな」
「あ、は~い」
最初に訪れたのは、讃州中学から最寄りにある駅から12駅離れた場所にある大型図書館だ。県内でもここを越える規模はないと言われている。
(普段なら讃州中高の図書室でどうにかなるから来ないし、園子も来てる様子はなかった...良い参考資料があるかもしれない)
普段他の部員同士のやり取りでメモを進ませていることが多い彼女達だが、ゲームを上達させるのに上手い人のプレイを見て学ぶ方法があるように、色んな人の作品、文章構成を見ることは大切だろう。
ネットにも色んな作品があるが、商業として通された物はまた少し異なる筈。たまに読む、加筆修正されてラノベになったもの等はともかく。
(園子も、あんまり本読んでるイメージないからなぁ)
「気になった物があれば借りていけるから言ってくれ。俺も含めて20冊は借りられる。返すときは寮の近くにある図書館で大丈夫だ」
「そんなにですか?」
「勿論園子ちゃんが気に入ればだけどな。荷物持ちは任せろ」
辞書並みの厚さが何冊も入るバッグを持ってきたため、なんとかなるだろう。
「折角だから普段読まないようなジャンルとか、探してみたらどうだ?」
「!じゃあ...あっち!」
「おう、行ってらっしゃい」
「え?つっきー先輩は行かないの?」
「...いや、一緒に行くか」
「やったー!」
さっきより小さな声で喜ぶ園子ちゃんに、くすっと笑いが溢れる。
(俺も、たまには新しいジャンルに手を出してみるか...)
結局、園子ちゃんが九冊、俺が二冊の本を借りて、図書館を後にした。
彼女が借りた本をバッグに入れていく。一緒に見たから知ってはいたが、ジャンルもタイトルもバラバラだ。
(選び方もなかなか凄かったもんな...)
タイトルを見て、目次を見て、パラパラページをめくって、本棚に戻すか俺に渡してくる。どういう選考基準なのか聞けば、『大体内容わかったので、じっくり読みたいやつだけ残してます!』と言われた。
とてもじゃないが俺には出来ないと思う。恋愛小説をよく買う杏だってある程度の選別はするだろうが、とりあえず恋愛小説だからと買い込み、後で微妙かもと唸っているのを聞くことは少なくない。
(いや、改めて振り返ってもすげぇな...)
ビックリする俺が横に目を向けると、園子ちゃんは自分に目隠しをしていた。
「次はどこ行くんですか?」
「...次はな」
「おまち」
「ありがとうございます」
「ほわぁぁぁぁ!!!」
よだれを垂らしそうな勢いで大口を開ける彼女を見ながら、俺も、口の中に唾液が出てきてるのを感じた。
出てきたのは、山盛りのもやしが乗った豚骨ラーメン。 一人の時はたまに食べるが、勇者部はうどん派が多いため来ないし、そもそも女子と出掛けたらまず行かないような店だ。
「さ、食べよう」
「頂きます!!」
割り箸が綺麗に割れたことにちょっとだけ嬉しくなりながら、二人で手を合わせ食べ始めた。スープを飲めば空きっ腹に暴力的な味が広がり、麺を食べればそのスープが絡み付いた太麺を噛んで口の中で暴れる。
「うまっ」
「美味しい~!!はむっ!」
分厚いチャーシューを食べては頬を緩ませる園子ちゃんを見て、俺と店主らしき方は微笑んだ。
カロリーを気にすることの多い女子だけではなかなか来ない場所だろう。事前に銀に聞いたが『まず女子だけじゃ入りにくい雰囲気あるし』とのこと。
(小学生の時、銀と一緒に大きいのを一つなんとか食べきったこともあったっけ)
__________ちなみに、『もうちょっと痩せたいわね』と、風が最近流行ってるらしいタピオカミルクティーを飲みながら言っているのだが__________それがラーメンと対して変わらないカロリーなのは、言わぬが花なのだろう。
準備段階では園子ちゃんもそう言うのを気にしてるか不安になったが、店の前や今の反応を見るにそんなことはないだろう。
「あまり普段食べないだろ?」
「うん!今度つっきー先輩作ってください!」
「流石にこれは作れないと思うが...また食べに来れば良いさ」
「じゃあ、またデートしましょう~!」
「お、おう...」
デートという言葉に一瞬動揺してしまった。俺としては、どちらかというと小さい子を連れたお出かけ気分だったから。
ただ、目の前でラーメンを食べてる園子ちゃんの否定をわざわざする必要もないため、俺は誤魔化すように笑うだけだった。
「って、食べるの早いな...詰まらせるなよ?」
「大丈夫でーす。そんなこと簡単に...っん!?」
「あぁほら言わんこっちゃない。はい水。美味しいのは分かってるしラーメンは逃げないから、ゆっくりな」
「すいません、予約していた古雪ですけど」
「古雪様ですね。御予約ありがとうございます」
予定していた場所も残すは一つとなった。ここまでは用意していた通りである。園子ちゃんも喜んでくれてるみたいだ。
因みに荷物になる本を見に行くのを最初にする流れにしたのは、昼御飯の開店時間や、この予約時間等を考慮した結果である。
「つっきー先輩、ここは...?」
「ここはガラス工房。名前の通り色んな物をガラスで作ってる所だな」
指をさした方向には、見本品として様々なガラス製品が飾ってある。
熱したガラスを息を吹きかけたりして変形させるため、色や模様、形でオリジナル性の高い物を作りやすい場所である。
「今日は園子ちゃんが好きなのを一つ、自分で作れるぞ」
「おぉー!!」
小学生一人でもしっかりレクチャーしてくれる場所を選び、当日好きなものを言ってくれて大丈夫ということで、嬉しい限りである。
園子ちゃんは真面目な指示はちゃんと聞くし、きっと綺麗な物を作るだろう。
「じゃ、頑張れよ」
「え?つっきー先輩は?」
「俺は見学だ」
「一緒に作らないんですか?」
「予約したのは一人分だしなぁ...ちゃんと見てるから、楽しんできな」
「......はーい」
間違いなく何処か納得してない顔をしていたが、俺も園子ちゃんも何か言うことはなく、事が進んでいく。
指示に従いながら進めていくうちにオレンジ色の明かりを灯したガラスが出来て、園子ちゃんの顔にも笑顔が浮かんできた。
(...やっぱ、ここを選んで正解だったかな)
お店の人と話し合った結果、彼女はコップを作ってるようだった。徐々に形が形成され、どこか失敗したりしないだろうかと自分の事のようにドキドキしながら見守る。
そこから約一時間程度。特に目立ったミスや怪我もなく、彼女のコップ作りは終了した。
「良かったな。綺麗にできて」
「うん!すっごい楽しかった!!」
園子ちゃんが住む寮までの帰り道、なんだかんだ街灯の光が不必要に感じないくらいには遅い時間になってしまった。
とはいえ、その光に照らされる園子ちゃんの顔は満面の笑みだから、確かに一日を楽しんで貰えたんだろう。
だからこそ、ちょっと気になるのは。
「...なぁ、園子ちゃん」
「なんですか?」
「なんでさっき、微妙な顔してたんだ?」
「へ?」
「ほら、ガラスの奴作る時」
思い出したのか、彼女が声をあげる。
「だって、つっきー先輩やらないって言うんだもん」
「そりゃ...俺が教えられる立場ならやっただろうけど」
「だってだって、図書館行った時も、ラーメン食べた時も、一緒だったのに」
「......」
つまり、それまで一緒に何かするって形だったのが、最後だけ園子ちゃんだけがやることになってしまったのが良く思わない。ということだろうか。
(目的は園子ちゃんを楽しませることだが...逆に、俺は最後の最後でこの子を完璧に楽しませられなかったってことになるよなぁ)
思考能力を高めて考える。これで終わりにするには悔しい。何か今から出来ることは__________
「...あ、そうだ。園子ちゃん」
「はい?」
「この後でも寒くない用意して待っててくれ」
最近、人数も増え、遅くまで出掛けることも増えるかもしれない。そう考えて、夜遅くになっても安全運転で送っていけたらいいなと、夜にバイクを走らせている。
その時見えたものなら________まぁ、気に入ってくれるかは分からないが。
(とりあえず、バイク取りに帰らないとな)
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「園子ちゃんは小学生ですよ!そんな遅くに外に出すことないでしょう!」
「いや、その、バイクで移動できるし、俺もずっと側にいるし...」
「夜間運転は危ないのでなるべくやめて欲しいんですよ!最近よく出掛けてるみたいですし」
「バレてる...え、東郷、俺の家にカメラとかつけてないよな?」
「前話してました!」
「ゲッ...」
床に正座しているつっきー先輩が頬をかいて目をそらす。でも、わっしー先輩は怒った顔を変えなかった。
「園子、園子」
「なーに?ミノさん」
「いや、お前逃げといた方が良いんじゃないか...?椿先輩の次は園子じゃ」
「今日お先に失礼しま~す!!」
「え、園子ちゃん!?」
「古雪先輩!まだ話は」
「届け物がありますから~!!」
「園小お疲れ」
風先輩の労いの言葉を背に、つっきー先輩を置いて走り去る。
『バイク走らせてて、適当に見つけたんだがな』
昨日の最後、つっきー先輩がバイクに乗せて連れいてってくれたのは、山の上の方だった。その一角が、整地された跡だけ残っている。椅子とか手すりとかはあるけど、雑草とかがぼうぼうに生えてる。
『はい到着』
『......』
『綺麗なもんだろ?』
『......』
『...園子ちゃん?』
その景色を見て、私は最初何も言えなかった。
下の方は、人が住んでる照明の光が。上の方は、空を照らす星の光が。
人工も天然も関係なく、私の目に飛び込んでくる明かりがキラキラしてて、ただどっちか片方だけ見ても感じることのない気持ちがプカプカ浮かんできて__________
『良いなぁ...』
『ならよかった。ここを教えたのは園子ちゃんが初めてだから不安だったけど』
『!』
『喜んでくれてなにより』
隣にいるつっきー先輩が教えてくれた、まだ誰にも、未来の私も知らない場所に来れたのが、胸を高鳴らせる。
『つっきー先輩、ありがとう』
『どういたしまして』
(...えへへ)
写真も一緒を見てたら、もう自分のお部屋についていた。
逃げ出す時に言った『届け物』は、嘘じゃない。
脱いだ靴もほったらかしで、箱を開ける。沢山入ってる梱包材をどけて、中身を見る。
「はわぁ~!!」
作ったガラスのコップ。あそこで冷ます必要があったから送ってもらったのが、やっと届いた。
薄紫色の斑模様がコップを覆ってて、光に当たった時色を変える。更に薄く、純白に近く。
それは、思い出の景色と同じくらい綺麗で。真逆の色をした先輩のことを思い出して。
「...よぉーし!!頑張ろう!!」
今なら凄い作品が書ける気がする_______いや、書けるという確信をもって、私は麦茶をコップにそそぎ、机に向かって座った。
(出来たら、一番に見て貰うんだ...!)