古雪椿は勇者である   作:メレク

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S属性高めな友奈ちゃんよくない?いや良い(反語)なお、今回の話には全く関係ありません。

そしてあの子の登場です。




二十一話 覚えているか

あの旅行から何日か経って。長くなった髪は前だけ切り、後ろは放置していたものを一つ結びにしてみた。

 

ここまで長くしたのは初めて、とはいえ男子の長めなので結んだ先はちょろっとしかない。

 

(銀スタイル...短めだしまだいけるかな)

 

勇者部からは賛否両論だが、暑い時期後ろ髪を一つに纏めるのは涼しかったため続けている。

 

楽しかった夏休みが終わり、新学期。演劇の準備で夏休みほとんど勇者部にいたから大して気持ちが変わることのない中で。

 

「バーテックスには生き残りがいて、延長戦に突入した」

 

未だ片目の風が言ったのは絶望的宣告で、アタッシュケースに入ったスマホがそれを間違いないものとしていた。

 

「生き残り...戦いはまだ続く」

「本当、いつも突然でごめんね」

「今さら生き残りの一体や二体関係ないわ」

『そうだよ!』

「みんな...ありがとう」

 

それぞれが端末を起動させると、精霊達が飛び出た。一匹、二匹三匹四________

 

「前より数増えたな」

「大赦がアップデートしてくれたらしいんだけど...ちょっとした百鬼夜行ね」

「精霊の管理くらいしときなさいよ!」

 

何故か夏凜と、大赦に端末を返してない俺だけ精霊の数は増えていない(俺の場合元からゼロだが)

 

(増えた数...やっぱり原因は満開なのか?)

 

「っ!樹海化警報!」

「噂をすればなんとやら...」

「皆準備はいい!?いくわよ!」

 

皆がそれぞれの装束を着て、俺もアプリを起動させる。

 

「敵は...一体!」

「私が倒したやつ...」

「初めから、二体で対になる奴なのかもしれません」

「よーし!延長戦頑張ろう!」

「殲滅してやるわ!」

「......行くぞ!」

「椿!あんた」

「大丈夫。ここにはみんながいる!」

 

止める風は、きっと俺が満開で銀を失ったことを気にしている。無理して敵討ちでもするんじゃないかと。

 

でも、もう俺は一人じゃないと知っているから。葬式の日に泣くしかなかった俺ではないから。

 

刀だけ出して足を踏み出す。夏休みの間もやりつづけた特訓のお陰で刀の使い方は慣れたが、斧はやっと前の時くらいになった程度だろうか。

 

(斧使ってる時は、銀の力を借りてたんだな...前の方が上手くできてた)

 

今では二本の木刀に重りを貼って双斧もどきとして練習しているが、まだ時間はかかりそうだ。

 

「先行くわよ!」

「よーし、私も!」

「...全員、無茶はダメよ!」

「はい!」

「わかってる!」

 

生き残ったバーテックスの特徴は速くて小さい。恐らく他のバーテックスと現れて気づかぬ内に神樹様にたどり着こうというやつだろう。個人的には見た目も他より気持ち悪く見えた。

 

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

「うぉぉぉ!!」

 

友奈と夏凜が殴ってできた隙をついて刀を突き刺す。勢いよく突いた為バーテックスはそのまま倒れた。

 

「東郷!」

 

盾を構えながら即離脱。東郷が狙いを違えることなくバーテックスを撃ち、風が大剣を叩きつけた。

 

「やったぁ!」

「このまま封印するわよ!」

 

飛び出た御霊は数を増やすが、樹が糸で破壊。必要ないが、盛り上がることもないなんとも微妙な延長戦だった。

 

「私がやる!」

「下がってなさい風!私はここに助っ人できてるの。やらせてもらうわ!」

「夏凜...」

「よっと」

「「あー!」」

ごちゃごちゃ騒いでる間に俺が刀で御霊本体を切り、バーテックスは砂となった。

 

「あんた何勝手に」

「いや、話してる時間勿体ないじゃん?」

「椿先輩怪我は!?」

「んー...特にないよ」

 

満開は戦うことでゲージが溜まり、それを使うことでなれる。風も夏凜もみんなに満開______それによる後遺症が出ないように配慮しての結果だろう。

 

だが、いずれ治ると言われ続けている後遺症は、恐らく治らない。これは現状俺だけが知っている。他の人より満開は危険だと自覚しているので、これでいいだろう。

 

(そういえば、俺の満開ゲージってどこだろう)

 

あちこち見ると、腰の側面に咲きかけの花があった。

 

(...なんだろう)

 

花に関して詳しく無いため全くわからない。

 

「椿!聞いてるの!?」

「あ、あぁ聞いてなかった」

「全く!今日うちに来なさい!たっぷりお説教してやる!」

「許してくれよなー」

 

討伐完了から時間が経ったので神樹化は解け________見知らぬ景色が目に映った。

 

「え?」

 

いつもなら讃州中学の屋上にいるはずなのに、夕焼け空のこの場所はまるで違う。

 

「あれ、皆は!?」

「古雪先輩...」

 

友奈と東郷だけは隣にいるが、犬吠埼姉妹と夏凜はいない。

 

「あれしか立ってた場所違ってないのに、戻る場所にこんな違いが...前はそんなことなかったのに」

「ここ電波入ってない!?」

 

スマホをいじる友奈が「うー」と 唸っていると、声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ずっと呼んでたよ。わっしー。会いたかった」

 

どこかで聞いたことがあるような、懐かしさを感じる声__________

 

「あなたが戦っているのを感じて、ずっと呼んでたんだよ」

「っ...」

 

声の方へ向いて息を飲む。いたのは左目と、右手の指以外の全身を包帯と衣服で隠された、かろうじて人とわかる人物だった。声からして、若い女。

 

その目は、東郷をじっと見つめている。

 

「わっしー?わ、鷲!?」

「友奈それは...東郷、知り合いか?」

「...いいえ、初対面です」

「っ...」

 

一瞬、彼女の目が細くなった。

 

「あぁ...わっしーってね。私の大切な友達の名前なんだ」

「......」

 

体のどこかが焼けるようにちりちり唸る。あと少しで何かに気づけそうな__________

 

「バーテックス退治お疲れ様」

「っ!バーテックスをご存知なんですか?」

「一応先輩ってことになるのかな。乃木園子って言うんだ」

「っ!!!!」

 

スマホが手から離れるのを、俺は気づかなかった。

 

「先輩?」

「......」

「先輩!」

「っ...ごめん、ちょっとビックリしただけだ」

 

心配かけまいとスマホを拾う。乃木園子__________かつての勇者。

 

(やっぱり、東郷は鷲尾須美だった...!)

 

わっしーと呼ばれたから間違いない。

 

「私も勇者として戦ったんだ。大切な友達と一緒に。今はこんなになっちゃったけどね」

「...満開か」

「え!?」

「......友奈ちゃんは満開したんだよね」

「は、はい」

「咲き誇った花はどうなると思う?」

「それは...」

 

察しのいい東郷はもう気づいたみたいだ。つけているリボンに手を当てている。

 

「満開したあと、体のどこかがおかしくなった筈だよ」

「!!」

「散華。神の力を振るった満開の代償」

 

そうして乃木園子は、散華について話した。花を一つ咲かせば一つ散る。二つ咲かせば二つ散る。そして、勇者は死ぬことがない__________

 

「それで、戦い続けて今みたくなっちゃうんだ」

「...まるで、供物だな」

「じゃあ、その体は代償で...」

「うん」

 

夏休み明けとは思えない冷たい風が肌を撫でた。誰一人動く者はいない。

 

「どうして私達が...」

「神に見初められるのはいつだって無垢な少女だったから。汚れなき身だからこそ大きな力を使える...何故あなたが勇者になれるかはわからないけれど」

 

乃木の目がこっちを向いた。確かに、勇者となれる男というのは常識から外れている。

 

「...あぁ、そうだな」

 

だが、俺も常識から外れた存在。死者の魂と過ごしていたのだからこのくらいのイレギュラーはあるのだろう。おまけにその魂は先代勇者。

 

(銀のお陰で、ここにいられるんだな)

 

その後も勇者になれるのは、単に俺の素質なのか銀の残滓によるものなのかわからないけれど。

 

(きっと、銀の魂が変わらずここにあるからだ)

 

都合の悪いこと解釈なんてとうに捨てた。

 

「...力の代償として、体の一部を供物として神に捧げる。それが勇者システムだよ」

「私達が...供物!?」

「私達がやるしかないとはいえ、酷い話だよね」

「で、でもバーテックスは全部倒したから!!もう戦わなくて...きゃっ」

 

友奈が驚いて東郷の車椅子にしがみつく。俺は無意識に勇者アプリを開いた。まだ勇者にはならない。

 

「大赦の...人?」

 

同じ服、同じ仮面を被るのは、仮面のマークからして大赦の人間。

 

「何の用だ」

「私を連れ戻しに来たんだよ。抜け出してきたからね」

「園子様...」

「彼女達を傷つけたら許さないよ?大切なお客様だから」

 

二年前まで小学生だった筈の少女が出せるとは思えない感情のない声。それに反応して大赦の人間は頭を地面につけた。

 

「悲しませちゃってごめんね。大赦がこのシステムを隠すのは一つの思いやりだと思うんだよ」

 

でも、私は最初にちゃんと言って欲しかったから__________

 

左目から、感情が抜け落ちるように涙が流れる。

 

「最初にわかってたら、友達ともっともっと遊んでたから...」

「っ」

「!友奈、ちょっと」

「え、わわっ」

 

東郷が車椅子を寄せて乃木の隣に行くのを見て、友奈を引っ張った。

 

「大人しくしてろ。今はあの二人だけにしてやってくれ」

 

記憶のない東郷と、体のほとんどが動かない乃木。望む形では到底ないだろうが、今だけは二人だけの再会をして欲しい。

 

「あの、先輩...」

「いいから黙ってろ」

「は、はい...」

 

物陰に隠れてから、二人は東郷のリボンについて話していた。

 

銀の話なら、あのリボンは乃木の物。

 

「そのリボン、似合ってるね」

「これは...凄く大切な物なの。けど......ごめんなさい。私、思い出せなくて」

 

その言葉を、乃木はどんな気持ちで聞いているのだろう。

 

一、二分して。話に区切りがついたところで戻った。

 

「あの...方法は?勇者システムを変える方法はないんですか!?」

 

友奈の叫びは、恐らく無駄だろう。そんなものがあればここにいる乃木がこんなことになるとは思えない。

 

「神樹様の力が使えるのはごく一部。勇者だけ」

「そんな...」

「こうして会った以上、大赦はあなたの存在をあやふやにしないから大丈夫だよ」

 

後半は東郷に向けた言葉だが、当の本人は絶望的な表情をしていた。

 

「園子様...」

「...そろそろ時間みたい。車も来てるし......また、話せるといいね」

 

話は終わりだとばかりに大赦が用意した車が来た。

 

「......友奈」

「はい」

 

二人が車に乗って、後は俺だけ。

 

「お前自身も辛いだろうが...東郷のこと、頼む」

「先輩は...?」

「...あの子と二人で話したい事があるから。また明日な」

 

何か言おうとする友奈を遮ってドアを閉める。

 

(ごめん友奈、東郷。一緒にいて励ますべきなんだろうが...)

 

すぐに乃木がいたところまで戻ると、まだ大赦も乃木も残っていた。

 

「あれ?忘れ物?」

「...まぁ、そんなもんだ」

 

そして、勇者システムを起動させる。

 

「っ!」

「それ...!!」

「乃木園子と二人で話がしたい。明日の朝まで彼女から離れろ。でなければ大赦本部を潰す」

『!!』

 

これから話すことを大赦に聞かれれば俺の身がどうなるかわからない。

 

「...私からもお願い。朝には迎えに来ていいから。少し話したいことも出来たし」

 

乃木の言葉は絶対なのか、聞いた大赦の人間は渋る素振りを見せながら消えていった。

 

「ふぅ...緊張した」

「ねぇ、その服...」

「互いに話したいことがあるだろうけどさ。まずは確認させてくれ」

 

一つ息をついてから、乃木と目を合わせる。

 

「自己紹介が遅れた。古雪椿」

「っ!」

 

二年前、勇者をしていたのは三人。鷲尾須美、乃木園子、そして__________

 

「三ノ輪銀と幼なじみだった者だ」

「椿...」

「お前は、三ノ輪銀を覚えているか?」

 

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