そのっち(中)、(小)のように、タマっち(小)がいなくて助かった...来年になったらいるかもしれませんけどね
「あ、東郷!」
手のひら側で小さな腕時計を見ていた東郷が、俺の声を聞いて顔をあげた。
「おはようございます。古雪先輩」
「おはよう!遅くなって悪かった...こっちが頼んだ身なのに」
「集合時間より早いですよ。気にしないでください」
「ありがと」
一言お礼を言うと、彼女は「では、行きましょう」と歩いていく。俺や銀と同様、東郷にとってもイネスは既に勝手知ったるものだ。
「それにしても、珍しいですね。家具が欲しいなんて」
「俺じゃなくて、俺の親なんだけどな。なんか頑固で」
数日前。和の感じのある家具が欲しいと言われた。勿論俺は両親に自分達で買ってくれば良いと言ったのだが、それに対しての返しは『日本とか和に詳しい子がいるって言ってたでしょ?』とのこと。
いつだか話した東郷のことが覚えられてたんだろう。
「自分達で好きなの選べばいいのに、お前に選んで貰った方が良いって言うんだから」
「...責任重大ですね」
「いやいや。全然気にすんな」
「いえ!任命されたからには、この東郷美森、全力でやらせて頂きます!」
「......ありがとな」
癖に近いもので手を伸ばしかけ、止めた。東郷に頭を撫でるのは、あんまり良く思われない気がする。
「......」
「と、東郷さん?なんでそんな目を...?」
「...なんでもありません。行きましょう?」
「あぁ」
何故か微妙な顔をされた東郷は、やれやれとでも言いたげな、どこか苦虫を潰したような顔をして、元に戻った。
「ところで、家具と一口に言っても何が欲しいんですか?」
「...ソファー」
「...私、役に立てますか?」
「それも含めて今日頼むか微妙だったんだよなぁ...」
ソファー(海外からきたと言われる家具)を東郷(生粋の日本国民)に選ばせることになり、意見を変えない両親。俺もこうなるとは気づかず、出かける前に聞いたのだ。
(今日の東郷には、何言われても従うしかないだろうな...)
俺は一人、静かに息をついた。
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(古雪先輩の御両親が望むのは、和風のソファー...)
二人でデー_____お出掛けに来た目的にそって、家具を取り扱うお店についた。
古雪先輩がこうして頼りにしてくれることは決して多くなく、基本は頼りにさせて貰っていることが多い。
(そうしたら、嫌でも気合いが入るわね...!)
例えそれが、ソファー(カタカナ文字)だったとしても__________
「和風、と言っても、意外に種類あるんだな」
古雪先輩の言うとおり、置いてある物でもそれなりに種類がある。大きく分けると二つ。畳を使うか使わないかだ。
焦げ茶色に塗装された木材の骨組みに敷くものが畳な物が半分くらいだろうか。
(固そう...)
床に正座する等ならともかく、ソファーとしてこれを使うのはどうなのか。私は、そうまでする必要もなく床に敷かれた畳に座る。
(慣れてない人からしたら、違うのかしら)
「古雪先輩の御両親は、普段どうやって休日を過ごされてます?」
「普段?んー...ぼけーっとソファーに沈みながらテレビ見たり、柔らかい人形抱えて寝てたり」
「可愛らしいですね」
「だらしがないとも言うけどな。仕事忙しいみたいだし、俺がとやかく言えることはない。ま、俺もそれなりに家事を手伝えるようになったし...」
「?古雪先輩?」
不自然に止まった先輩の方を見ると、その目は大量に置かれた棚に向いていた。かなり小さめだが、小物を入れるには適しているように見える。
「...そちら、見てきますか?」
「いや、悪いし...今度でいいよ」
「大丈夫ですよ。私にも考える時間をください」
「.....ありがとな」
「ちょっと見てくる」と言って歩いていく古雪先輩を見送って、私は元の方へ向き直した。
(さっきの話を纏めるなら、御両親は柔らかい物の方が良さそうね...ということは畳はなしとして)
寧ろ、限りなく柔らかい素材が良いのかもしれない。目星をつけた物を、ひとまず値段を気にせず触れてみる。
「随分お若いんですね」
「!?」
何個めかの調査を始めた時突然声をかけられ、急いで振り向く。いたのは安芸先生と同じくらいに見える________
「店員...さん?」
「あ、すみません。驚かせてしまいました?」
名札を胸元につけた店員さんは、一度綺麗なお辞儀をした。
「先程の旦那様も相当お若く見えまして...」
「だ、旦那様!?」
「違いました?てっきりそうだと...いかにも若夫婦といったようで」
「わ、若夫婦じゃありません!私達まだ結婚出来る年齢ではありませんから!」
両手を大きく振って、自分の顔も隠しながら否定する。
「まぁ、そんな年齢?じゃあ婚約者かしら?将来設計が早いのね。お値段が難しそうだったらなるべく下げるよう努力するから」
「な、ななな!?」
それでもこの店員さんの勘違いは更なる方向へ行ってしまった。私は動揺して口から声をあげるだけ。
「東郷?どうした?」
「古雪先輩!!こ、この人...!!」
「?」
「あら...すみません」
「はい、どうしました?」
「この子のこと、大事にしてくださいね?」
まるで私の気持ちが筒抜けだったかのような発言をされて。
「はい。勿論。ずっと大事にさせていただきます」
古雪先輩の間髪いれない答えに、今度こそ私は固まった。
「ふふふ...可愛いわね」
「そうですかね...てか東郷、本当にどうした?ずっと俺の手を掴んででっ!?」
「あー...またのご来店をお待ちしておりま~す」
心臓が弾けてしまいそうなくらいうるさい。それ以外には、手に伝わってくる熱さしか感じない。
(ぁぁぁぁぁ...)
『はい。勿論。ずっと大事にさせていただきます』
あれは、この人のあの発言は、つまり__________
「おい東郷!」
「はっ!?」
気づいたら、さっきまでいた家具屋ではなかった。周りを見ると、それなりに離れた所のようだ。
「どうしたんだ一体?って凄い顔赤いぞ...もしかして熱出してたのか?」
古雪先輩が私のおでこに手を当ててきて、顔を覗き込んでくる。私はまた顔から火が吹き出そうな感覚になった。
「だ、大丈夫ですから!!」
「そうか?」
「はい!!!」
「...まぁ、本人がそこまで言うなら......じゃ、戻るか」
「......あ、あの」
「ん?」
手を離してしまった先輩に、声をかける。
「さ、さっきのって...」
聞きたくないという思いもあるけれど、口が開いてしまう。
(気になる、聞きたい、ちゃんと聞かせて欲しい...)
「へ?」
「さっきの言葉!!本当ですか!?」
「さっきのって...大事にするってやつか?当たり前じゃん」
「!!!」
(普段こういったことに鈍い椿さんが、こんなあっさり...!?)
つまり、本気。ということなのだろうか。本気で。
(じゃ、じゃあ、本当に私と...!?)
私の前に片膝をついて、小さな箱を見せてくる古雪先輩のことを想像して__________
「東郷がちゃんと考えて選んでくれたソファーだぞ?大事にするに決まってる」
私の想像は、急に止まった。今日の私はどこか暴れたり止まったりしてばかりだな。なんて、他人事のように思った。
「......はい?」
「あの店員さんが手を添えてたソファーが良いだろうって目星をつけといてくれたんだろ?。『この子』なんて呼んで、もう買うのが確定みたいに言ってさ」
つまり、あれか。
(古雪先輩が言っていたのは、私じゃなくて、ソファー...)
「......」
「...おーい、東郷?」
「古雪先輩」
「はい?」
「私、貴方のこと、嫌いです」
「!?!?」
気づけば、心臓の音は全く聞こえなくなっていた。
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「「ごちそうさまでした」」
うどんを食べていた二人の声が重なる。その瞬間、ちらりと彼女の方を見た。
(機嫌は元に戻ったみたいだな...)
家具屋に言ってから情緒不安定な感じで、とどめに嫌いとまで言われてしまった俺は相当なショックを受けたのだが_________その後すぐに彼女が涙目で謝ってきて、何も言えなくなってしまった。
それから家具屋に戻って買い直したり(選んだのは店員さんが『この子』と言ってた奴ではなかった)、運送の手続きをしてる間に、普段通りの東郷に戻っていった。
『分かってる。相手は古雪先輩なのだから...はぁ』
その言葉の意味はよく分からないが、まぁともかく、さっきよりは落ち着いただろう。
「そういえば古雪先輩」
「ん?」
「いつからそんなにみかんを好きになったんですか?」
そう言う東郷の目線は、俺の右手に納まっているみかんジュースを向いていた。
「ちゃんと聞いていなかったなと思いまして。私や友奈ちゃんと出会った頃にはもうそんな感じでしたし」
「まぁな」
確か二人が勇者部に入った歓迎記念で、結構渡した気がする。
「でもなー、いつからかって言われると...覚えてないというか。物心つく前から好きだったんだと思う」
「随分長いですね」
「幼稚園か、それより前か...銀なら覚えてるかも」
「それだけ長ければ銀も覚えてなさそうです」
「確かに」
ここにはいない奴を想像して、二人でくすっと笑いあう。
「では、イネスによく来るようになったのは?」
「それもそんなに覚えては...家族で行く大型ショッピングモールってこの辺じゃここだけだしな。赤ん坊の頃から来てるかも」
「古雪先輩の幼少期はあやふやですね」
「皆小さい頃の思い出なんてそんなもんじゃない?」
「...私もでした」
何でもないような会話だけで、目の前の少女は幸せそうに微笑む。その姿を不意に可愛らしく感じて、俺は目をそらした。
「せ、折角だし今度見てみるか。卒園アルバムとかあるだろ」
「古雪先輩か私の誕生日がもう少しずれていたら、同じアルバムに載っていたかもしれませんね」
「あー、そうか」
確かに俺の誕生日は二月、東郷の誕生日は四月だから、実質的な差は約二ヶ月しかない。
「そう言われるとほとんど同学年か」
「古雪先輩じゃなく、古雪君?」
「...もう一回」
「え?」
「いや、珍しいからな。折角だし。うん」
何かに言い訳するように早口で言い出す俺を見て、彼女はまた口を開いた。
「じゃあ今日一日は、古雪君でどうかな?」
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「お疲れ様ー」
「遅いじゃないの椿」
「面談が長引いてな...あの先生面倒見は良いけど話が脱線しやすいだろ?」
「あーそれ分かるわ」
入り口の方から始まった会話を聞いて、操作していたパソコンから目を離して振り向く。想像通りの表情で風先輩と古雪先輩が話していた。古雪先輩はまだ、私が見ていることに気づいてない。
私達以外は依頼だったりで出払っているので、やけに静かだった。
(いえ、そうじゃないわ。えっと、確か...)
「時間が進まない中進路がどうこうって言われてもねぇ...現実味がないというか。そもそも元の世界じゃやること制限されるだろうし」
「大赦とでも言っとけば?」
「まぁ、職場見学とか出来るならな。春信さんの仕事現場見てみたい」
「夏凜のお兄さん?」
「仕事に関して、というかほぼ完璧超人だからな。見習いたい所は多いさ。さ、今日の依頼はっと...あ、東郷」
「お疲れ様です、古雪先輩」
私は鞄の中に入れていたみかんジュースのペットボトルをすっと差し出す。保冷はちゃんとしていたから飲むのには程よく冷たいだろう。
「え、いいのか?」
「その為に持ってきたんですよ?」
「じゃあ遠慮なく。ありがとう」
「あんたも好きねぇ」
「うどん狂いのお前に言われたくないわ」
小さく「あそこの限定品じゃん...良いセンスしてるなぁ」なんて呟かれて、ちょっと頬が熱を持つ。でも今日はそれが目的じゃない。
「東郷、パソコン使っても良いか?俺宛に依頼するって裕翔と郡から言われてさ」
説明しつつ、手はペットボトルの蓋を開けて口に運んでいく。外が蒸し暑かったからか、かなり良い勢いで減っていくのを確認して__________
「古雪君が喜んでくれて嬉しいわ」
「んっ!?」
彼の耳元で、そう囁いた。
「こほこほっ...と、東郷さん?どうした?」
「私はただ素直な感想を言っただけよ?」
「......と、東郷が椿に、目上の人にタメ口!?突然!?!?」
「ちょ、風?」
「事件!!事件よ!!!友奈呼んでこなきゃ!!!」
「あ!おい風!」
部室を飛び出して行く風先輩と、取り残される私達。
「...はぁ......で、本当にどうした東郷?何かあったか?」
「昨日のように言っただけですよ」
口調を戻して、人差し指を口元まで持っていく。古雪先輩の_____はやめて、私自身の所まで。そして。
「ただのいたずら心です」
その後の古雪先輩の照れた顔は、ひなたさんのカメラで写真に残したいくらいだった。