古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回は金剛型三番艦さん他、お二方のリクエストを混ぜました。短編にした理由も含め詳しくは後書きにて。


短編 交錯し、選びとる

『呼び出しマシン?』

「らしいぞ。これ。精霊の力を借りて、俺達みたいに異世界から勇者を召喚する...らしい。詳しいことはなんとも」

 

部室にて皆が首を傾げる中、俺が情報を補足する。小突いた物は、金属音を響かせた。

 

「そ、それって大丈夫なんですか?牛鬼の友達がここに囚われてるってことじゃ...」

「俺も気になったんだが、そんな野蛮な感じじゃないんだとさ。俺達が心配することは何もないって」

 

最初こそ俺達に対して勇者システムについて秘匿していた大赦だが、それはあくまで勇者のことを思ってのこと。基本的に騙したりする必要はないため、信用はしていいだろう。

 

(確か赤嶺も、訓練に使ってたとか言ってた気がするし...)

 

「ホントに...?というか、なんでこれ持ってきたの?」

「使用感をテストして欲しいんだとさ。呼び出せる時間が短いから連れてこられる勇者にも影響はほぼないし、これの開発が進めば、一戦闘だけ手伝ってくれる勇者を召喚できる。その分戦いやすくはなるだろ?」

 

もし本当にそんな装置が出来ても、正直他の世界の勇者に迷惑をかけるようなことはしたくないから、個人的には頓挫して欲しい計画だが________

 

「まぁものは試しで、折角なら上手く使って有効な話が聞ければいいなと思ってさ」

「成る程、うまくいけば戦いについて話ができる」

「私達に足りないものもアドバイスしてくれるかもしれませんね」

 

若葉と芽吹が乗ってくれたお陰で、周りも徐々に頷きだした。

 

「あ、じゃあじゃあアタシ最初に押したい!!」

「いや、誰が押しても変わらないとは思うけどな...はいどうぞ」

 

机に置いた装置を銀に向ける。目を輝かせた彼女は何の躊躇いもなくボタンを押した。

 

「きゃっ!」

「なにこれぇ!」

 

瞬間、煙と光が溢れてきて________目の前にいる銀とは異なる人の気配を感じた。

 

(というか、これは...)

 

「けほっ、けほっ。これは......」

「うわー、ホントに小さい椿だ!」

「へ?うわっ!?」

 

目と鼻の先に現れた女性に驚く。その顔を見て、俺は更に驚いた顔をする。

 

「ぎ...銀!?」

「え、アタシ!?」

「そうです。えーと、他の子も勇者部なんだよね。そこにいる乃木銀の未来の姿、古雪銀です」

『!?!?』

 

今度こそ、俺も含めて全員が驚いた。突然俺の名字を使う銀は、面白いおもちゃを手に入れたような笑みを浮かべていた。

「お、俺の名字...?」

「ん?あー、このくらいの椿ってこんな感じだったっけ...そうだぞ。アタシは古雪一家の仲間入りしたんだ」

「...それは、乃木じゃなく古雪にしたってことか?」

「んにゃ。結婚してそっから変わった」

『結婚!?』

 

突然の情報に俺は混乱ぎみだった。

 

「いやお前、結婚て」

「椿さん結婚したんですか!?」

「おおっ!?離せひなた!結婚したのは確かに俺だが」

「やっぱりしたんじゃないですかぁぁ!!」

「俺であって俺じゃないだろぉ!?」

「おー!!!おっきいアタシ!!結婚したの!?」

「椿さんとですか!?」

「そうだぞー。えっと、中くらいのアタシにちっさいアタシ」

 

頭を撫でられてる二人をほっといて、俺はちらりとあの機械を見る。

 

(普通にヤバいもの作りやがって...!!)

 

「ちょいさー!」

「あぁ!?何やってんだ園子!!」

「いやー、あははー」

 

いつもよりぎこちない笑い方をする園子だが、そこに違和感を持っても機械のボタンを押していて、煙をまた吐き出している事実は変えられなかった。

 

「およ、およよー...つっきー!」

「むがっ!?」

「きゃっ」

 

やはりと言うかなんと言うか、現れた大きな園子は俺とひなたを一緒に押し倒す。

 

「いたた...大丈夫か?ひなた」

「は、はい...」

「で。そっちの園子は...」

「やっほーつっきー...って、まだ私のつっきーじゃないんだよね?」

「へ?私のって...」

「乃木椿の妻、乃木園子です!」

「あぁ、今度は普通の乃木園子...乃木椿ぃ!?」

 

ついさっき現れた銀と同じく、俺と結婚したという彼女は、妻という単語だけでそれを表した。

 

勿論、普通じゃない。

 

「いやいや、どうなってんの!?」

「とりあえず、離れて...」

「あぁ、ごめんねひなタン」

 

飛び上がる園子に、深い深いため息しか出てこない俺。脳内はこの装置をかち割ってやりたい気持ちでいっぱいだった。

 

「俺は重婚してんのかよ...」

「んーん。重婚じゃないよ。私達はそれぞれ別の世界から来たってだけ」

「そうそう。うちの椿はアタシを選んだんだ」

「私も~」

「そ、それぞれ分かってるんですか?」

「ん?あぁ。この世界に来る時に知識を大体貰うからさー。な?園子」

「うん。ミノさんイェーイ!」

「イェーイ」

 

ハイタッチをする二人。困惑する周り。黙り込んで頭を抱える俺。

 

「てか、呼んだのは勇者であって、俺の妻じゃないんだが...少女にしかなれないんじゃないのかよ?」

「適性も貰ってるから。そうでなくても若いけどさ。大体そんなこと言ってー。嬉しいだろ?うりうり」

「うっ...」

 

そりゃ、銀や園子が自分の奥さんだと言うのなら、嬉しくはなるだろう。心を許している美少女が俺を選ぶなんて_____

 

「可愛い反応だな~。この椿も欲しいんだけど」

「...あげないからな」

「分かってる。言ってみただけだよ」

「......」

「あら、ひなたさん...ひなたさん!?」

「お、おまっ!何やってんだ!!」

「...」

「なんでそんな笑顔で黙ってるんだお前ぇ!?」

 

俺の叫びを遮る勢いで、ひなたが押した装置から再び煙が溢れ出る。

案の定、新たな人の影が生まれた。今度は目の前に出てくることもなく、飛びかかられることもない。

 

「あら、面白そうなことになりましたね」

 

ただ、今よりずっと大人っぽい雰囲気を纏い、さらさらした髪を肩まで切ったひなたがいる事実も、何一つ変わらなかった。

 

「これが大きい私ですか...」

「そうですよ。皆さん、お久しぶりですね...ここでの記憶は失くしていたので、こう言うのが正しいのかはっきりしませんが」

 

どこか穏やかな彼女を見てると、無性に心が落ち着いてくる。巫女は大人になってから出来るのかもしれないし、これなら__________

 

「ママ。このひとたちだーれ?」

『ママ!?』

「私の大切なお友達ですよ。日菜ちゃん。そこにパパもいます」

「あ、ほんとだ!パパー!」

『パパ!?』

 

パパと呼ばれ、呼んだ子が俺の足に抱きついてきたのを確認して。

 

「あぁ...」

 

俺は、耐えられずに倒れた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「飲みますか?」

「あぁ、うん...そうだよな。知ってるよな」

「知ってますよ。僕の父親ですから」

「父親ってのがもうわけわかんねぇんだけどな...」

 

古雪宏介(こうすけ)______東郷と俺の間に生まれたという男に渡された好みのみかんジュースを、一気に飲み干した。

 

「大体、同い年じゃん」

「なんというか、大家族の運動会みたいですね」

 

夕焼けバックに喧嘩して友情を深めるのにピッタリな河川敷の堤防に座る俺達。俺は死んだ目をしていた。

 

「古雪家長男。古雪快斗(かいと)」

「古雪家長男!古雪悠(ゆう)!!!」

「行くぞ」

「倒します!!」

 

眼下では、友奈との子供だと言う中学生の快斗と、風との子供だと言う小学生の悠が、それぞれ母親の勇者服を纏って戦っている。

 

「これが、勇者の力...」

「凄い凄い!アニメみたい!!」

 

まぁ、やってることは子供のごっこ遊びにガチの力がついただけだ。

 

本来、あの子達は勇者ではない。それも当然で、別に少女でもなければ神樹もおらず。バーテックスが現れるわけでもない。そんな中で勇者が生まれるわけがないのだ。

 

しかし、今回母親のついでのように現れた彼らには、親と同じ力が備わっていた。後は__________戦って(遊んで)みたいと言うのは、男の子としての性だろう。

 

「はぁ...」

 

かといって、別方向に目を向ければ、保護者会かとツッコミそうになるくらいの人数で、勇者部の女性陣が話し込んでいた。

 

「うちの子ったらね?」

「いい?椿を落とすならまず外堀をね」

「いや、耳で一発」

「ご両親に挨拶して。そしたら協力してくれるから」

 

何を話しているのか聞こえないが、皆に限って悪い話ではないだろう。

 

そう。結局、俺が気絶して目が覚めた頃には、大体の人があのボタンを押していた。現れていたのは例外なく、『俺の奥さんになった』という彼女達。色んな時期から呼ばれたようで、中には子供と一緒という人もいる。

 

とんでもない事態に気づいた俺は一番年が似てそうな宏介だけ連れて、皆から離れた位置に座り込んだ。

 

まぁ、もういいのだ。あの装置は粉々にしたし、春信さんは夏凜に頼んで脅した。あの装置が二度と生まれないのなら、今いる皆が元の世界に帰れば終わる。

 

「どうせ夢なんだし。大丈夫。いつ景色が天井になっても『夢か...』って呟く準備は出来てるから」

「夢じゃないと思うけんですど...」

「自分の妻と子供が二桁いて、同級生の息子がいる世界なんて夢じゃなきゃ嫌だよ...」

 

本当に、何の冗談なのか。

 

「じゃあ、もう心に決めた人はいるんですか?」

「......」

「やっぱり、母さんが言ってた通りの時期なんだ」

「え?」

「何でもないです...いっそのこと全員選んだらどうですか?」

「それは...ダメだろ。不誠実だ」

「でも」

「まず、あっちからすればただの部活仲間って感覚だろうけど...でも、複数人は選べないよ......世間の常識がどうとかはそこまで気にしてない。大昔の海外ではあり得る話だったみたいしな。ただ、俺はそんな出来た人間じゃないから...きっと、平等に愛するなんて器用なこと出来ない」

「......」

「なんだよ」

「いえ、ちょっと言おうとしたんですけど、やめました」

「そうか...」

 

そう言うと、宏介は俺とよく似た黒髪をかきあげる。

 

「よくこの人を捕まえたな...」

 

ぼそりと呟かれたそれも聞き取れなかったが、どうせはぐらかされると思って何も言わなかった。

 

東郷の息子というだけあって、落ち着きを払ってるししっかり通る声で話す。だからこそ、わざわざ小声で言うのは聞かれたくない独り言なのだろう。

 

なんとなく気まずくなった俺は、別の話題がないか探す。

 

「そういえば、お前はいないのか?好きな子」

「いますよ。もう捉えてます」

「え?」

「え?」

 

今、凄いことが聞こえたような________

 

「子供相手に大人げなかったか」

「三つしか違わないのにそんなこと言うな!!こうなったら...お父さーん!!力貸して!!」

「お、おう!任せろ!」

 

本能的にここから逃げたくなった俺は、条件反射で返事をして走った。

 

「へぇ...父さんが相手か」

「いやまぁ、やらなくてもいいんだけど...あと父さんって違和感しかないんだが」

「俺にとっての父さんは変わらないから」

 

桜色の勇者服を着る快斗は、言葉はいらないとばかりに構えをとった。

 

「......ま、じゃあ。やってやるか」

 

普段出来ない対人戦の練習と考えれば良い。

 

「やるからには手加減しないからな」

「そんなものいらない」

「お兄ちゃん頑張って!」

「おう」

 

妹と言っていた美桜(みお)に手をあげているうちに、戦衣を展開した。

 

「これがお父さんの...」

「さぁ、やろうかぁ!?」

 

瞬間、銃弾が俺達の間を通った。

 

「僕も混ぜてください。父さんにはさっきの続きも話したいですし」

 

銃を構える宏介を見て、一瞬で悪寒が走ったのは、夢であっても忘れないと思った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あらあら。椿さんも混ざりましたね」

「うぅ...」

「若葉ちゃんも混ざりますか?」

「...あぁ。行ってくる」

「はい。行ってらっしゃい」

 

そう話しているのは、大人の姿のひなたさんと若葉さん。一応別々の世界から来た筈なのに、いつも通り息があっていた。

 

「凄いですね。さっきも若葉さんの飲みたい飲み物当てて」

「世界が違うくらいで若葉ちゃんが分からなくなる筈がありません!」

「そうですよね!」

「あはは...」

 

二人のひなたさんに、苦笑いで返す。世界が違うタマっちのことが何でも分かる。というのは流石に言い切る自信がなかった。

 

結構な人があの装置のボタンを押した中、私は押さなかった。これ以上人が増えたら大変だって思いもあったし、もし、自分が押した時だけ、未来の自分が来なかったら__________なんてことも、少し考えてしまったから。

 

何故かあれは、椿さんと結婚した人しか勇者として出さない。というか、椿さんと結婚した人やその子供を勇者にして召喚している。椿さんも頭を抱えていたけど、私もわけがわからなかった。

 

ただ、今言えることは__________

 

(私は、そんなことは...)

 

この世界が終われば、私達西暦の勇者と神世紀の椿さんとの関係は途切れる。もしその後で目の前のひなたさんのように人生を共にするというなら、それはもう一度椿さんが西暦に来るということで、それだけ大きな事態が起きるということになる。

 

苦しんでいた椿さんを知ってるからこそ、そんな思いをするために来てほしくなんてない。私は嫌だ。

 

「杏さん?」

「はっ!はい!?」

「どうかしました?深刻そうなお顔をしていますが」

「い、いえ...ひなたさんは」

「「私ですか?」」

「あ、えーと...大人のひなたさんは、どうして椿さんと添い遂げられたんですか?千景さんや友奈さんもそうですが...あの人は、私達と違う時間で生きている人じゃないですか」

「あぁ、成る程...さっき皆さんと話したんですが、それぞれちょっとずつ事情が違うみたいでして...ですが、椿さんも一緒に幸せに過ごしてるのは変わりませんよ」

「そう、ですか...」

 

それで済ませて良いのか。ちらりと見た先で、椿さんは短刀と銃をを振り回している。

 

「三人はずるいだろ!」

「ずるくないですよ。立派な戦術です」

「折角だしお父さんと戦いたいもん!」

「こっち拳なんだが...銃使ってる父さんに言われたくない」

「そっちの一人も銃だろうがよっ!!」

「私とも戦ってもらうぞ!椿!!」

「若葉...さん!?貴女まで!?ちょ、流石にきつっ!!」

 

文句を言いつつ器用に四人と戦ってる椿さんは、真剣な顔だ。

 

『俺は!こんな場所に来て!勇者やらされて!!悩んでない時があった!?必死に考えて!!生き残る方法をとって!!』

 

唐突に、あの頃がフラッシュバックする。

 

(あの顔に、またしてしまう...)

 

「杏さん」

「え?」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。椿さんは強いですから。多少振り回しても受け入れてくれます」

「!」

「逆に、あの人が潰れてしまいそうになったら、優しく支えてあげれば平気です」

「私が、支える...」

「勇者部の全員が、それを出来ると思っていますよ」

 

こんなに沢山の素敵な人がいる中で、私が役に立てるんだろうか。不安はあっても、ひなたさんに言われたことで少しだけ思い直した。

 

(そうだよね。私が、あの人を支えたいって気持ちに、嘘はないもんね)

 

「ありがとうございます。ひなたさん。ちょっと分かった気がします」

「それは良かったです。あ、おまけでもう一つ」

「はい。なんでしょう?」

「椿さんを捕まえておく方法を」

「?」

「絶対逃がさないよう捕まえておけば一発です」

「...へ?」

「捕まえておけば、一発です♪」

 

綺麗な笑顔で微笑むひなたさんに、何故か私は恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はーっ...やっとお帰りか」

 

夕暮れ時、時間切れなのか、一組ずつ元の世界へ帰って行った。

 

別れ際に抱きついてこようとする人もいたけど、大体小さい方の(というか、俺としては普通の)本人が足止めしてくれた。

 

「...どうしたんだ?」

「べっつにー...ちょっと話して色々思っただけ」

 

その一人である銀は、こう答えるだけでそっぽを向いた。

 

「...まぁいいや」

「パーパ?」

「はい。パパじゃないけどなー。本当のパパの所に戻りなさい」

 

古雪真由(まゆ)ちゃんの頭を撫で、お母さんの方へ送り出す。

 

「なんだか年下の椿さんって不思議です」

「俺も、自分より年上の樹って新鮮だよ」

 

母親である樹は、見てるだけで幸せに思えそうな笑顔をした。

 

「ふふふ...それじゃあ椿さん。皆。今日はありがとうございました。また」

「おう。ありがと...」

 

(または流石に困るけど)

 

もうこんなことは沢山だと思ってる間に、二人も消えてしまった。これで全員が帰ったことになる。

 

「...はぁ。凄く濃い一日だった......」

「でも楽しそうだったじゃない」

「風...お前あの若葉にボコボコにされるの見て言ってるのか?」

「鍛練は続けているみたいでよかった」

「若葉ちゃん、ツッコミ入れられちゃいますよ?」

「ん?そうか?」

 

若葉とひなたのコントに、ちょっとだけ疲れが飛ぶ。

 

「はい。じゃあ樹、今日は解散でいいのか?」

「そうですね...皆さん、色々作戦も立てるでしょうし」

「作戦?」

「気にしないでください。では皆さん、お疲れ様でした!」

『はーい!』

 

足早に帰る者、全体で寮に向かう者、種類はあれど全員が帰ってる。

 

(...何か思うところがあったんかね)

 

普段ならうどんを食べに行ったり蕎麦を食べに行ったりするグループも多いのだが_________

 

(まぁいいや。俺も帰ろ)

 

「また明日な」

「はい。お疲れ様でした。パパ」

「俺はお前のパパじゃないだろ...じゃ」

 

樹の冗談をスルーして、スマホを開きながら駐車場まで向かった。ながら歩きは危ないが、大赦からの連絡は早めに見ておきたい。この時間帯に人などほとんどいないことも知っている。

 

(夏凜にお礼のメール送っとこ...)

 

メールを送信して、他の通知がないか確認してから画面を消した。丁度バイクの姿が________

 

「...杏?」

 

俺のバイクの横で、杏が立っていた。首もとには生地の薄い、彼女の髪色と同じマフラーが巻かれている。

 

(さっき、早々に帰った組の...)

 

「あ、椿さん。お疲れ様です」

「おう...で、どうした?何か用事?」

「......はい」

 

あげられた杏の瞳と、俺の瞳が合う。どこか決意に満ちているような、そんな__________

 

「どうし...」

 

言いかけて、止まった。杏が俺に抱きついてきたから。

 

「え?え!?」

「椿さん」

 

優しい声音。昼間の様に戦ってるだけじゃ感じられない熱。動揺して跳ねた心臓は、それで落ち着いていく。

 

「もしあなたが困ったら、悩んだら、苦しんだら。私のことも頼ってくださいね。絶対支えますから」

「杏...」

「で、では!それだけです!!おやすみなさい!!」

 

一瞬で離れて走り去って行く杏を呆然と見て、次に意識がちゃんと戻ったのは、寒く強い風が俺の肌を撫でた時だった。

 

「...えっ、と」

 

突然の出来事に驚きながら、俺は一言だけ告げた。

 

「......ありがとう」

 

胸元に手を当てる。錯覚に決まってるが、自分以外の熱が当てられている気がした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい......!)

 

走っても走っても熱が取れないで、寮にある自分の部屋に入ってもダメだった。思いっきりベッドにダイブして、その上を転がる。

 

(別に、今日初めてやったことでもないけど!!けど!!)

 

意識して、私からしっかり抱きしめたこと。他に待ち伏せしていた銀さん達に見られたこと。未だに体が熱いこと。

 

「ぁー...」

 

うつぶせになった状態で、動かして体をピタリと止める。低く唸った声が出た。

 

でも、全然嫌な気持ちとか、不快には感じなかった。寧ろ、心地良い。嬉しい。

 

「...うん。いいよね」

 

椿さんが『ありがとう』と言ってくれてる姿を想像してしまって、勝手に笑顔になってしまっていた。

 

「ふふっ...」

 

私は心がぽかぽかしたまま、目を閉じた。

 

 

 




『成る程、うまくいけば戦いについて話ができる』
『私達に足りないものもアドバイスしてくれるかもしれませんね』
間違ってはいなかった。

ちなみに、

・現状大人になった勇者部は勇者になれる訳ではない。
・その息子、娘は基本勇者ではない(なれない)。
・でも頂いたリクエストは作りたい

という理由で、今回ifとして扱える短編として作りました。ちなみに大人のキャラはアフターシリーズや短編if、誕生日記念短編等に登場した人達でした。
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