古雪椿は勇者である   作:メレク

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遂にゆゆゆい編も50話を越えました。そろそろ神世紀の章を追い抜き一番長いシリーズになりそう...いつも見てくださってありがとうございます。

ちなみにゆゆゆい編が始まったのは大体100話前です。ちょっと値大きすぎて感覚狂ってきたな。こんなに書いてましたっけ...?


ゆゆゆい編 51話

「おはよう...」

「おはようさん。もうちょっと待っててね」

「......なんでお前がいんの?」

 

朝、自分の家のリビング。今日は休日のため本来ならば両親がいるか、まだ誰も起きてなくて無人かの二択なのだが、そこには本来ありえない三択目があった。

 

「お父さんとお母さんは朝に出てったよ?今日は二人で出掛けるんだって」

「それは昨日聞いた。大学時代の人達と遊ぶんだと。挨拶は癖だ...じゃなくて、なんでいるんだって聞いてんだが?」

「アタシがいちゃ悪い?」

「...悪いなんてことはないが」

 

そう言うと、オーブンに食パンを放り込んだ銀が笑う。

 

「実は園子が朝から実家に戻っちゃってさ。今日一日行ってるみたいで暇なんだ」

「ふーん...」

「あ、安心して?このパンとか卵は買ってきた奴だから」

「そこの心配はしてないが...やるか?」

「目玉焼きの気分」

「了解」

 

寝ぼけ眼を擦ってフライパンに火を当てる。油を少量いれて、少ししてから卵を投下。

 

「固さは?」

「半熟!」

「ん」

 

手早く調理して一個目を作り、銀が用意してくれた皿へ乗せる。続けて自分用を投下し、さっきより固めになるよう火の時間を調整して乗せた。その頃にはもうオーブンが音を鳴らしている。

 

「他はあるのか?」

「これだけー。お昼は任せる」

「じゃあ後で考えるか...とりあえず食う?」

「食う食う!」

「「頂きます」」

 

出来立ての目玉焼きをパンの上に乗せた目の前の彼女は、そのまま大きく口を開けた。

 

「溢さないよう気をつけろよ」

「らいひょふらいひょふ」

「そのモゴモゴ具合だと大丈夫じゃなさそうなんだがな...」

 

無駄に器用と言うべきなのか、半分齧られたパンの上にはドロドロの黄身が広がっているいくも、それを何処にも溢していなかった。

 

「無駄に芸当の高いことして...はむ」

「それ何?」

「ピーナッツクリーム。食べるか?」

「欲しいけどもう卵染みてるし」

「ん」

 

クリームを塗った箇所をちぎって渡そうとすれば、雛鳥みたいに口を開けてきたので突っ込んだ。

 

「ん、美味しい!」

「この前店頭販売してたのを買ってきたんだって」

「へー。じゃあアタシも今度買おっかな」

「いいんじゃないか?」

 

それから何個か話題があがれば、あっという間に皿にあったものはなくなった。

 

「ご馳走さまでした...で、お前は今日一日いるのか?」

「その予定。どうせ外出しないでしょ?」

「勇者部の予定もないしなぁ...買い物行くかもしれないが」

 

外の景色は見事な雨模様で、確かに外出する気力は失せる。

 

「じゃあ一時間くらい好きに遊んでてくれ。先に宿題片付けるわ」

「ラジャー。皿は洗っとく!」

「助かる」

 

敬礼する銀に敬礼を返して、俺は部屋に戻って着替えだした。

 

今更だが、朝一で家族以外の人間が家にいることに対する違和感は全くなかった。

 

 

 

 

 

シャーペンを走らせる音と、後ろのベッドでマンガのページをめくる音と、たまに銀の笑い声が聞こえる。かといって、俺はほとんど気にならない。

 

二年近く二人で同じ授業を受けてきた中学時代、銀は学年的に分かる問題が少なかった。授業が分からなければつまらないからとちょっと雑談するのも不思議じゃない。とはいえ、俺としてはそれにある程度答えながら授業を聞かなきゃならず。

 

結果、このくらいなら意識しなくても全く気にせず作業出来るようになった。

 

(ま、授業中寝てる回数も少なくなかったけどな...っと)

 

「ん、終わりっ!」

「お疲れ様ー。じゃあ何して遊ぶ?」

「そっちはキリ良いのか?」

「大丈夫大丈夫。二周目だから」

「了解...にしても今日は何もしてこなかったな」

「いつもしてるみたいな言い方するなよ。真面目な椿をつっついて楽しみたい時もあるけど、今日はちゃんと遊びたかったの。ほっとくのが一番早いから」

「そりゃそうだろ...で、何する?」

「まずはこれしよ!コレ!」

 

銀が持ち出したのは、隅っこで充電していた携帯ゲーム。

 

「ん。じゃあリビングのテレビに繋いで対戦でも...」

「いやそうじゃなくてさ...」

「?」

「じゃーん!こんなものを買ってみました!」

「それは...」

 

パッケージのタイトルは見たことがある。確かRPGゲームだった筈だ。内容は何も知らないが。

 

「クラスにゲーム好きの友達がいてさ、オススメされたんだよね。一つのエンディングまでならゲームの慣れてれば8時間くらいでいけるらしいし」

「内容薄くないか?」

「エンディング後のストーリーとかその後のやり込みがメインらしいから...でも、そこまででもストーリーが凄く面白いらしいんだ!というわけで、椿の操作でやらない?」

「まぁ、いいけど...」

 

折角持ってきたわけだし、やることに反論はない。

 

「でもいいのか?俺がやってるの見てるだけだろ?」

「それがいいんじゃん。早くやろ?」

「...分かった。準備しといてくれ。何か飲み物いれてくる」

「みかんジュースでいいよー」

「ココアもあるぞ?」

「あ、じゃあそっちで!」

「はいよー」

 

あっという間にお湯が出来るケトルをつけて、同時にココアの準備とみかんジュースを取り出す。出来たら注いで牛乳を足してリビングへ。

 

「はい」

「ありがと。こっちも準備出来たよ」

「サンキュー。じゃあやりますか」

 

ソファーに二人で座り、ゲームを起動させた。よく動くOPを見ながら_____

 

「...なんか近くね?」

「そう?こんなもんじゃない?」

 

何もしなくても互いの肩が当たり、彼女の声がより近くに感じる。

 

「そうか...そうだっけか」

「そだよ。ん、ココア美味しい!」

 

とはいえ、そう言われてみると俺が意識しすぎてる気がして、特にずれることもなくコントローラーを握り直した。

 

「あ、この子可愛くない?」

「俺としてはこっちのがタイプかな」

「ふーん...一杯活躍してくれるといいな?」

「それフラグじゃない?やめろよ...」

 

 

 

 

 

「......」

「あー、よしよし」

「やめろ...」

 

さっき俺が推したキャラは、銀のフラグを壊すことなく最大の見せ場を作って散った。ちなみにまだ中盤に入ったくらいである。主人公の行動指針を作った大事なシーンとはいえ、死ぬのはくるものがある。

 

しかし、それで銀が頭を撫でてくるのはちょっと悔しい。嬉しいことではあるけど、普通に恥ずかしいのもある。

 

「はぁ...もういい。大丈夫」

「そう?アタシはまだまだやってもいいんだけど」

「やめろ。いいって...っと、そろそろ昼にするか?何食べる?」

「えーどうしよっかなぁ。つけ麺?」

「うちでか?流石に作れないぞ」

「別にスーパーで売ってる冷凍のでいいって。折角の休日なんだし、椿もなるべく休まなきゃ!」

「......そこまで言うなら」

「よし決まり!」

「ま、それも家にないから買いに行かなきゃならないんだがな」

「えっ」

「ついでに夕飯の材料も適当に買ってくるから待っててくれ...おい」

「行くに決まってるでしょ。バカ」

 

俺の服の袖を掴んだ銀は、余計に引っ張らないようにしながら立ち上がった。

 

「雨も弱まってるし、行こ?」

「...40秒で支度する」

「三分は待つからなー」

 

結果20秒で支度を済ませた俺は、外を見て玄関に置いてある傘を持つ。

 

「もう雨降ってないよ?」

「この雲見てたら、帰りに降ってもおかしくないだろ...お前は?」

「パーカーだから平気!」

 

フードをかぶって笑う銀は、ちょっとネコみたいで愛嬌がある。

 

「雨降らないといいな」

「椿、それフラグ」

 

 

 

 

 

「ほらー!椿が言うからー!」

「俺が悪いのか...?」

 

つけ麺と、夕飯にしようとしているカレーの材料を買ってスーパーから出る頃には、とてもパーカーのフードで防げる量ではない雨が降っていた。

 

「まぁ、持ってきてるから問題なし。ほら、帰るぞ」

「相合い傘だね...?」

「お前となんて何回やったか数えられないくらいだろうが」

「むー...」

 

傘を開いて屋根から出すとボタボタと勢いの良い音がなる。手をとってちょっと引っ張ると、大人しくついてきた。

 

「行くぞ」

「......えいっ!」

「!」

 

彼女の方を向くと、周りから恋人に思われるくらい完璧な形で腕を組まれていた。雨から伝わってる冷気もあって、より暖かさを感じる。

 

「これだけくっつけばお互い濡れることないね?」

「だからってお前、これは!?」

「アタシとなら何回もやってるだろ?」

「いや、そうじゃ......あぁ...」

 

俺が思ったのは別。しっかりくっついてきた銀はいかにもいつも通りで来てるのにも関わらず、腕から伝わってる心臓の音は激しく大きいのだ。

 

これは、否応なしに銀が俺と同じくらい緊張してる、『このことを意識してるってこと』を意識してしまって__________

(何でお前、こんなにっ...!!)

 

「さ、帰ろう!」

「~っ!」

 

降り続く雨の中、俺は何も喋れなくなった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「うん。じゃあ冷蔵庫いれて明日にでも食べれるようにしとく。うん。じゃあ楽しんで...夕飯も食ってくるってさー」

「園子も似た感じみたい。アタシはここで夕飯食べたいなー」

「はいはい」

 

スマホをしまってカレーを作ってる椿を眺めてると、視線に気づいたのかこっちを見てくる。

 

「どうした?」

「んーん。何でもない」

「?」

「いいからいいから。気にしないで」

 

そう言いながら視線を外さないことに疑問を持ってそうな椿だったけど、やがて諦めたのかカレーに視線を落とした。

 

(ずっと見てたいから...ってのは、流石のアタシも恥ずかしくて言えないな)

 

久々の椿と二人。勇者部が二人だけなんてのは絶対に嫌だけど、大人数になった勇者部でこの状況が珍しいのも事実。

 

(さっきも恥ずかしかったし)

 

相合い傘で帰った時、二人で一つずつ袋を持って、もう片方の腕を組んで歩いた。

 

やったのはアタシからだったし、しっかり組んじゃったから恥ずかしかったけど__________動揺してた椿が何故か突然黙りだしちゃって、尚更恥ずかしく感じてしまった。折角の相合い傘だったのに、全然覚えてない。

 

それも、つけ麺食べてゲームの続きを始めた頃には何もなかったようになったけど。

 

(まぁ、あれだけどさー...)

 

同じ体にいた頃だって相手の心を正確に読み取るのは不可能だったのだから、今の状態はもっと無理がある。

 

全部分かっちゃったらつまらないし、それでいいんだけど。

 

「椿」

「ん?どうした?」

「ただ呼んでみただけ」

「そっか」

「そうだ」

 

文字にすればたった三文字、言うのにかかる時間は一秒もない。なのに、どうしても嬉しくなる。

 

「うん、椿...つばき」

 

自分の口で名前を言えることが。自分の目で彼を見れることが。

 

(あー!アタシはこんなに乙女だったかなー!?)

 

「荒ぶってるところ悪いが、もうできるからなー」

「あ、はーい!」

 

机を拭いてスプーンなんかを用意してるうちに、カレーの入ったお皿が二つ運ばれる。

 

「美味しそう!」

「これといって特別なことはしてないぞ」

「椿が作ったんだもん、美味しいよ」

「......よくもそんなことがスラスラ言える」

 

恥ずかしそうな椿は、照れ隠しなのか手で頭をかいた。

 

「そっちに言われたくないよ...」

 

普段アタシ達がどれだけ椿の言葉に動揺してるかは、椿自身は知らない。いや、それでアタシ達が恥ずかしがってる本当の理由を分かってない。

 

ただ本心を言ってるだけだし、皆が好きな人は自分じゃないと思ってるから__________

 

「え?」

「ただの本心だから、言うのに詰まったりしないだけ!」

「...そっか。嬉しいよ」

 

(全く、おかしな話だけどさ)

 

『つっきー先輩は勇者部の誰かと付き合いたいとかないんですか?』

『俺?えーと...皆意味わかんないくらい美少女揃いだからなぁ。隣に立つのは絶対良い男じゃん?俺なんかじゃ足りない足りない。シスコン除いた春信さんくらいじゃないと』

 

まだ勇者部が10人ちょっとくらいだった頃、部室で小学生組の二人と話してた時に言ってた言葉。あの時アタシは廊下で作業してて、部室に残ってたのは四人だけだから、恐らく小学生組以外に聞かれてないと思ってる。

 

『後は、皆が本気で好きになった人と付き合えたらいいなって』

『......椿さん、鬼ですね』

『何で!?』

『なんて言うか...いや、何でもないです。これで気づかないからこんな状況なんだろうなぁ』

 

小さいアタシが言ったことは、全面的に同意せざるをえない。

 

(いや、小さい頃にアタシがちゃんと告白してれば、また違ったのか)

 

あの頃は付き合うってことに特別さを感じられなかったし、気づいた時には死んじゃってたし。

 

「銀?食べないのか?」

「あ、ごめん...頂きます!」

「頂きます」

 

食べ始めたカレーはやっぱり美味しかった。

 

(...うん。やっぱり好きだな)

 

「それでどうする?ラスボス戦やってくか?」

「ここまできたらやろうよ。目指せクリア!」

 

ゲームは恐らく最後のボスがいる場所の直前まできた。やり始めると夕飯の時間が遅くなっちゃうかもしれないから一旦止めている。

 

「帰りは送ってくからな」

 

椿もその返事が来ると分かってたのか、すぐにそう言ってくる。

 

「大丈夫だよ、走って帰ればすぐだし」

「それ屋根を走ってだろ...いくらお前が常識はずれの力を持ってるからって、一人で家まで帰すなんてするか」

「...じゃあ、お言葉に甘えて。お願いしまーす」

「はいはい」

 

こうしていると、やっぱり嬉しくて。

 

アタシが須美と園子と成し遂げたことで、椿としてきたことで、この世界を守り通したことで、やってよかったと思えるだけの日常を過ごすことが出来ている。

 

「......」

「...?銀?」

「椿...」

「ん?」

「......なんでもない!!」

 

 

 

 

 

「え~、いいないいな~!」

「ふっふっふっ...詳しい話はまた明日ね。おやすみ」

「はーい。おやすみなさ~い」

 

園子に言ってから、自分の部屋に行って寝床につく。日によって二人で同じ布団に入って寝たりするけど、今日は別々だ。

 

「はーっ...」

 

ゲームのエンディング、というかストーリーは、オススメされただけあって物凄く面白かった。アタシは最後涙目で、椿に頭を撫でられた。子供扱いでムカつくけどやられて嬉しいので差し引きゼロである。

 

(椿だってちょっと涙目だったくせに...)

 

『あーもう、流石にくっつきすぎだって...顔も俺の背中で擦ったな?赤いぞ』

 

それでも、バイクの後ろにしがみついて家まで帰るまでは本当にあっという間で。

 

というか、今日一日があっという間で。

 

(椿と一緒にいると、ホントに時間過ぎるの早いんだよな...後三日くらい休日が欲しい)

 

勿論嘆いたところで意味がないことくらい分かってるけど、嘆かずにはいられない。

 

(全く...好き)

 

今日だけでも、ココアにアタシの好きな具合に牛乳入れてくれたり、カレーもちょっと暖房の設定を高めに変えてくれたり。『お前のことならなんでも分かるぞ』と言わんばかりの動きをしてきた。

 

呆れても、ちょっとチョロい気がしても、自分のこの気持ちには全く嘘も誤魔化しも出来なくて。

 

(いつの間にかモテモテになりやがって...)

 

好きになってくれる人も少なくないのは幼なじみとして誇りだが、恋人の座を取られるなら話は別。

 

(いつかちゃんと言う。でも今じゃない)

 

ハーレムでも良いけど、椿の隣にいるのはアタシが良い。でも、それ以上に椿が真剣に選んだ人と一緒になって欲しい。

 

だからまだ思いを決められてない周りを待つ。あいつが気づいて選択肢を考え始めるまで待つ。

 

その間椿が選んでくれるよう努力するのも忘れない。これは先に思いを決めた人の特権だ。例えその結果、勇者部部員同士で戦うことになっても。

 

(そこだけは譲れないよ。あんまり遅いともう決めちゃうからな。幼なじみとしても負けないから)

 

布団を敷いて横になれば、すぐに眠くなってきた。今日あった思い出を深くに残すために目を閉じる。

 

(...明日も良い日になるといいな。ね?椿)

 

心に残る思いは、いつも通りほんのり暖かかった。

 

 

 

 

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