そして明けましておめでとうございます!年があけてから時間が経ってしまって申し訳ない。
「これでよし...と」
スマホにメモしていたことは全て終えた俺は、部長の樹に任務完了の連絡をいれる。すぐに返ってきた『お疲れさまでした!』という連絡に、スタンプで返した。
(カラフルな絵文字を使うのは慣れないからな...)
女子はメールで顔文字、絵文字を使う奴が多いが、それをくどいと感じることはない。もし俺が同じことをすれば、加減が分からず変なイメージを持たれるだろう。
(そういう技術はいつどうやって身につけるんだろうか......)
人間、慣れればある程度のことはそれなりに上手くなる。というのは分かる。とはいえ慣れるまでどうするのか。
ファッションや化粧なら、雑誌で学ぶ、一人家でやるというのが分かるが__________
「つんつん」
「ぶ」
「ぷっ、素直にひっかかりましたね」
「...完全に気を抜いてたわ」
肩を叩かれ顔を向けると、頬に指を押し当てられる。悪戯でよくあることをしてきたのは、いたずらっぽい笑顔を浮かべる雪花だった。
「普段ならこんなことはないからな」
「負け惜しみですか?」
「...そうだよ。分かったら手をどけてくれ」
「はーい」
(...誤魔化せたか?)
正直驚いたのをなんとか出来たのかと彼女の顔を伺う。見る限りは特に何もなさそうだ。
(よりによって雪花か...危ないな)
今日俺が動いていたのは、明後日行われる雪花の誕生日を祝うための準備である。つい先程までいたケーキ屋さんで会っていれば、どんなケーキを予約したのかバレていた可能性もあるだろう。
ちなみに誕生日を祝うこと自体はサプライズに出来ないほどバレてるため、そこに関してはもう気にしてない。
「それにしても、何してたんですか?」
「みかんが良い時期になったんでな」
「あ、もう分かったので大丈夫でーす」
実際にみかんジュースが入った袋も持っているため、嘘をついていないのは確かだ。
「雪花は?」
「私は小物の補充なんかと、夕飯の買い物もしちゃおうかなと」
「荷物持ちはいるか?」
「いいんですか?」
「用は済んでるんからな」
「んー...じゃあ遠慮なく!」
「了解」
歩調を合わせ、まずは彼女が向かっていたという百均の店へ歩きだした。
「何を見るんだ?」
「メモ帳とか、シャープペンの芯とかの消耗品です。冬休み終わる前に補充するの忘れちゃって」
「あー。休みに入る直前に使ってる時は補充しなきゃって思うのに、休みに入ると忘れる奴な」
「そうなんですよー」
自分も通ってきた道だからこそ、共感できる部分も多い。俺の言葉に何度も頷く雪花は、少ししてからノートを手に取った。
「見つけたか?」
「はい。芯も0.5のやつを...と。椿さんは何か見るものありますか?」
「んー、特に......」
辺りを見回せば、ある一点に目がいってしまった。
「どうかしました?」
「いや、あれ...」
指を差した先には、兎の耳がついたカチューシャが並んでいた。恐らくはパーティー用の小道具コーナーだろう。少しチープさがあるものの、百円としては十分に思える。
「あんなもん売ってんだなって...」
「年末年始で買う人がいたのかもしれませんね」
「新年で買わせるなら干支全部用意すれば......と思ったけど、猪の耳とか無理か」
「あはは、確かに」
俺の自問自答に笑った雪花は、おもむろにそのコーナーへと歩いていく。
後を追う頃には目的が分かった。彼女はかけてあったうさみみを手にとり__________
「おい」
「はい?」
「違うだろ」
俺の頭にかけた。
「いや、よく似合って...ふふっ」
「我慢できてねぇじゃんか!ほらっ!」
明らかにつける相手を間違えている彼女に、うさみみをつけた。
「あ、ちょっと!?」
「うん。俺がするよりずっと似合ってる」
「椿さん私のキャラじゃないですから!」
「それ言ったら俺の方がキャラじゃないわ!!」
男子高校生が一人でこんなものをつけてるのを見られた日には、トラウマ確定である。今は一人ではないが。
「椿さん!」
「雪花!」
「あのー......」
「「ぁ」」
二人で声をかけられた方を向く。そこには、笑顔でありながら怒りを表してくる店員さんがいた。
「椿さんのせいですよ。全く」
「俺のせいなのか?先に遊びだしたのは雪花じゃ...」
「うっ...椿さんの意地悪」
「そんな目で見てくんなよ...まぁでも、お店の人に気づかなかったのは俺もだしな。悪かったよ」
「......優しすぎます」
「どっちみち何か言われるんかい」
あの後、雪花の買いたかった物と遊んでたうさみみを買い、素早く店から出ていった。
店の物で遊んだわけだし、責任もって買い取るのは罪悪感を感じる身としては必然だった。
「それにしても、随分はしゃいでたな」
「椿さんはそうでもないんですか?」
「昔銀につけられたことはあるから...てか、多分部屋漁れば出てくるんじゃないかな」
捨てた覚えはないので、部屋の物入れを探せばありそうではある。
「ぁー...私はつける機会なかったから新鮮です」
「昔、東京って場所の一部には、つけてない方が異端になる地域があったって聞いたけど」
「えー?北海道民ですけど、そんなの聞いたことないですね...テーマパークの話かな?行ったことないし、買ってないので分からないです。そもそも誕生日を祝うことも祝われることも少なかったので、他の人より見てないかなー」
「......」
「椿さん?」
「なんでもな...くはないんだが、気にしないでくれ」
無自覚なのか分からない雪花の話を聞いて、黙ってしまったのを誤魔化した。色々と思うところがあり、ちょっと考えを巡らせる。
「......ん。それでいいか」
「どうしました?」
「いや、お前さっき夕飯も買うみたいなこと言ってなかったか?」
「言いましたよ?気分も乗らないので出来合いの物にすると思いますけど」
「じゃあその予定は変更しよう」
「...へ?」
----------------
「~♪」
椿さんの好きな曲なのか、即興で作ってるオリジナル曲なのか判別は出来ないものの、炒める音に混ざって椿さんの鼻歌が聞こえた。
『あ、じゃあ俺でも作れるな』
今日は元々チャーハンが食べたい気分で、椿さんにもそのまま口にした。それに対しての返事をされてから、チャーハンの材料を買って来てもらい、何故か作ってもらってる。
私はそこへの驚きより、ちょっと整理されてない自分の部屋に急遽人が来ることに驚き、すぐに椿さんと別れて部屋の片付けを始めた。その後、色々買ってきてくれた椿さんが訪れたといった形だ。
(別にねだるつもりじゃなかったんだけどな...)
あの聞き方をされた時点で気づけなかったのは私の落ち度だけど、本人がやらせろと言ってきてるのを断る理由もない。
(今じゃなくてもいいだろうに)
自分で言うのもあれだが、私はもうすぐ誕生日なのだ。料理が得意な椿さんなら、そっちに参加する可能性も十分にある。今日やってしまったら『またか...』となってしまわないだろうか。
(あれかなー。また振り回されるかもって思ってるのかな)
なんだかんだ椿さんは料理組より、皆が準備してる間誕生日の人を相手してるのが多い。今回もそうなるのかもと睨んでの行動なのかもしれない。
(私は頼むつもりなかったんだけど...)
「雪花ー。そろそろ出来るからなー」
「はーい」
色々考えても、結局今の私に出来ることは美味しく頂くことだけ。出来立てのチャーハンは光りながら良い湯気を出していて、否応なしによだれが生まれてしまう。
(いけないいけない。私は可憐な少女...でも)
「美味しそう...」
「ちょっとこがし過ぎちゃったけど、大目に見てくれ」
「いえいえ。寧ろ作ってくださってありがとうございます」
「ん...じゃあ食べるか?」
「はい!」
『頂きます』
二人で揃えてからスプーンで食べてみると、どこを焦がしたのか全然分からないくらいに美味しかった。
「美味しい!十分美味しいですよ」
「よかった...」
「でも椿さん、将来の夢料理人だったりするんですか?」
「いや?最初は料理をする必要があったから初めただけ。今もそれほどレパートリーが多いわけじゃないし」
「そうでしたっけ?」
「同じ料理を作ることが多いし、レシピなしで作れるのは簡単なのばっかだしな。逆に、レシピ見れば大体の物を並みに作れるとは思うが...そういう意味でも風の方がずっと多いし美味しい。最近は園子も上手くなったし」
「あー......」
椿さんにお弁当を渡してる二人だと聞くけど、中学と高校で別のため実際にお弁当を渡してるのを見たことはない。
(よく考えたら、それも変な話だけど...お弁当作るって......)
「そもそも俺を誉めなくても勇者部は料理スキル高いやつ多いだろ」
「んー...」
数人、椿さんに負けられないと意気込んでる人を見た私としては、なんともコメントに困る。
「でも、椿さんも上手なのは本当ですよ。お世辞抜きで」
「それは分かってるつもりだ...ありがとな」
「はい」
面を向かって言われたお礼を、素直に受けとる。それに違和感はない。
(...あれ?)
でも、それが分かった瞬間、私は違和感を覚えてしまった。
私は一人でいることが好きだった。誰かが側にいるのは嬉しいことであると同時に、少し窮屈に感じることもあった。
『ありがとう』なんて言われることも、言われ慣れないものだった。この世界に来てからすぐは、少しむず痒く感じることもあった。
でも、今は__________
(私、いつの間にか凄い慣れちゃってる...?)
他人を、しかも異性の先輩を家にあげ、料理を作ってもらったという状況に、マイナスなことは何も思わなかった。精々今度何人か詰め寄ってきたらどう対応しようかなといった程度。
「雪花ー?」
「!!はいっ!?」
「うぉっ、いや、なんか思い詰めてる感じしたから...大丈夫か?」
「だ、大丈夫です......」
意識してしまうと、なんだか急に恥ずかしくなってしまい、目を合わせられなかった。さっきとは違い、無言に近い状態でチャーハンを食べ進める。
椿さんは首を傾げながらも、追求はしてこなかった。
「ご馳走さまっと...」
「私もご馳走様でした」
「ん。じゃあ洗っちゃうか」
「いいですよ!そこまでやって貰わなくても自分でやりますから」
「いいからいいから。座っててくれ」
有無を言わさぬ態度は椿さんにしては珍しさがあって、自分の部屋な筈なのに借りてきた猫のように大人しくしてしまう。
「......えーと、椿さん、お風呂入ります?」
「いや、そんな長居するつもりは...ていうか、男を入れるな」
「で、ですよね......」
なぜ聞いたのか自分でも理解できない。その後続くのは、水道から流れる水の音と、それがお皿に当たって洗剤が泡立っていく音。
(あーもー何やってんの私はぁ...)
頭が熱くてぐるぐるする。冬の北海道に比べれば暑いけど、こっちだって寒いのに__________
「雪花」
「ひゃいっ!?」
「...大丈夫か?熱でも」
「なな、ないです!ないです!!」
いつの間にか洗い物まで済ませた椿さんが目の前にいて、両手を前へぶんぶん振った。
「そうか...なら良いんだけど」
「はい!大丈夫です!」
「ん...なぁ雪花」
「?」
「無理だったら明日以降に回してくれて良いからな...」
そう言って差し出されたものに、私の思考は今度こそ止まった。
「...なんで」
「いや、誕生日だし」
大きなイチゴが乗ったショートケーキ。そこに立て掛けられてるチョコプレートには『happy birthday』の文字。
「え、だって、それは...」
「あぁうん。皆とやるのは別にあるけどな?誕生日祝われること少なかったって言うから、一回くらい多くやっても良いかなって」
「!!」
「これなら不意打ちにもなるしサプライズとして完璧だろと思って、夕飯の材料と一緒に買ってきて...っておい!?え!?」
私はケーキをテーブルに置いてから、椿さんを押す。
「え!?雪花!?雪花さん!?」
そのままトイレまで押し込んで、扉を閉めた。
『何!?何事!?雪花さん!!』
「ちょっと静かにしてください!!!」
椿さんが出てこないよう扉に寄りかかって、そこまでが限界だったのか、座り込んでしまった。
(......落ち着け。落ち着け私)
指を顔に当てて、熱を逃がすようにする。効果が殆どないなんて今の私には分からない。
ただ、頬が湯気を出しそうなくらい熱くて、口角もだらしなくあがってしまってるのは確かだった。
(嬉しい、嬉しいけど...う~!)
目の前にいた先輩が、いつも同じクラスで授業を受けているメンバーが、部室で会う皆の顔が浮かんでくる。
皆と会える世界で、私は何度も誕生日を祝ってもらえている。
(でもこんな顔、誰にも見せられるわけないでしょうが!!!!)
結局、私が椿さんをトイレから解放したのは、五分くらいしてからだった。
「...えーと、雪花?俺何か......」
「椿さん!」
「はい!」
「一緒にケーキ食べましょう!ほら!」
「あ、お、おい!?」
何事もなかったかのようにする私と、クエスチョンマークが頭に浮かんだままの椿さん。
「ありがとうございますっ!!!」
でも、とりあえず感謝の気持ちだけは、十分に伝えられたんじゃないかなと思った。