古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい編 54話

「むむむ...むむむむ」

 

カタカタパソコンを動かしてはカーソルを合わせて、スクロールし、またカタカタする。

 

「むむむむむ......」

 

出てきたものを纏めた私は、息を細く長く吐いた。

 

「ふー...よし。これで!」

「園子、お昼どうする?」

「食べるんよー」

「いや食べるのは知ってるけど。何食べる?」

「ミノさんは?」

「カレーな気分」

「じゃあカレーうどんだね~」

「了解...外出るか」

「はーい!ちょっと待ってね」

「じゃあ上着持ってくる」

 

部屋から出ていくミノさんをよそに、私は資料を保存した。

 

ファイル名は悩んだ結果『デート計画 普通編』にした。

 

 

 

 

 

私、乃木園子は所謂普通の女の子ではない。自分で認めるのもちょっと変な話ではあるけれど、そこは今回置いておく。

 

生まれは大きな組織のトップの家。勇者として世界を守るために戦って、小学校は中退し約二年間動けなかった。

 

性格というか普段の感じも皆の可愛い所や面白い所をメモ書きして、つっきー曰く『暴走を始めると止めにくい』と言われる。

 

ゆーゆ関係で暴走したわっしーよりは大丈夫かもしれないけど、『お嫁さんになりたい』と恥ずかしく言ってたミノさんみたいに乙女でもないし、わっしーのような大和撫子でもない。最も今の勇者部は凄い数がいるからここだけ比較として出すのもあれだけど、話が長くなっちゃうからそこも置いておく。

 

別にこれをやめたい、変えたいなんて思わないし、思ったこともない。でも、少女マンガとかでなかなか出てきそうな人じゃないのも確か。

 

ここで、つっきーのことを含めて考えてみる。普段優しいし、何かとかっこいいし、振り回すと凄く可愛かったり面白かったりする。

 

問題は今の最後の部分。振り回すと確かに新しいことを発見できるし、つっきーもなんだかんだ楽しそうにはしてくれる。でも、結構疲れてそうなのも確かにある。

 

心からつっきーを楽しませるには、やっぱりどちらかと言えば普通の方が良いのではないか__________少なくとも、一度ギャップを狙ってみるのは良いのではないか。そう思うのも、不思議じゃなった。

 

そして、王様ゲームで運良く手にいれたつっきーを一日自由にできる権利。私はこれを使って計画を練った。

 

「あ、つっきー!」

「はっ、はぁ...悪い園子、遅れたな」

「そんなことないんよ。ほら、時間ピッタリ」

「マジか...走ってきた甲斐があったな」

 

すなわち『乃木園子。普通の女の子を演じてみる』計画である。荒ぶる魂を抑えて、一般的な中学生になってみる。

 

「遅れそうになった理由だって、落とし物届けてたんでしょ?」

「流石に免許証はな...なんであんな所に落ちてたのか謎だが」

「うむ。良い行動じゃ」

「ありがとう...って、頭撫でんな。俺は交番に小銭を届けた小学生かっての」

 

少し撫でられただけで、つっきーは離れてしまった。

 

「むー」

「いや、そんな顔されても...」

「はっ!」

 

つっきーの困惑した表情で思い出した。今私は計画の最中だったのだ。

 

(ついやってしまった...)

 

一つ年上の人に頭を撫でるなんてことは普通しないだろう。

 

(...ちょっと待って。つっきーは年上。年上に敬語を使わない...?)

 

「園子?」

「な、なんでもないで...なんでもないよ。つっきー先輩!」

「先輩?」

「じゃあ、時間が勿体ないし早く行こう!!」

「え、あ、園子!?」

 

敬語は咄嗟に出せず、なんとか敬称だけつけた私は、つっきーの腕をとって歩きだした。

 

(大丈夫。これから取り返すんだから...!)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「つっきー先輩、どれにする?」

「...じゃあ、このパスタにする」

「成る程成る程...じゃあ私はこれー!」

 

メニューを確認した後店員さんに注文をして、俺はコップに入っていた水を一口飲んだ。

 

(......妙なんだよなぁ)

 

何が、というのは、目の前の彼女についてだった。いるのは特段変わった様子のない乃木園子である。

 

(前髪は...いや、切ってる感じしないし。イヤリングとかもつけるタイプじゃないし)

 

しかし、俺は園子のことを見つめて色々考えていた。

 

「つっきー先輩?どうしたの?」

「ぁ、いや...」

 

理由は、この先輩つきの呼び方にあった。小学生の園子ちゃんは俺のことをつっきー先輩と呼ぶが、俺の一つ年下の中三園子は、普段から俺のことをつっきーと呼ぶ。

 

しかし、今日は出会って少ししてからずっと先輩つき。呼び慣れないからか彼女の言い方もどこかつっかかるものだったなら、何でこうなったのか考える必要がある。

 

かといって記憶を巡ってもここ数日変だった感じはしないし、今なんて鈍感な彼氏が気づかなさそうなポイントばかり探していた。

 

(俺は彼氏じゃないし、園子は彼女じゃないんだが...)

 

すっと視線を落としても、綺麗に揃った指と爪が見えるだけ_______

 

(槍を握ってマメが出来てるのは知ってるが、そんなの今関係ないし)

 

「つっきー先輩?」

「?」

「どうかした?」

「いや、別に...」

 

(聞いた方が良いのかな...)

 

何かしてしまったなら謝りたいし、メモを埋めるためなら少し怒りたい。

 

色々考えてると、園子がすっと手を机の下に隠した。

 

「見すぎだよ...」

「あ、そんなつもりは......」

「......つっきー先輩、面白くない?」

「へ?」

「私と一緒にいるの、面白くないかな...?」

 

しばらく悩んでたからなのか、園子に言われたのはそんなこと。俺の返事は決まりきっていた。

 

「そんなわけないだろ」

「あうっ」

 

おでこに小さく、痛くないようにデコピンをかます。

 

「俺は園子と一緒にいるだけで楽しいよ」

「つっきー...本当?」

「嘘はつかない」

「心から思ってる?」

「思ってる」

「つっきーは私のこと好き?」

「好き好き...で、先輩がつかないってことは、もしかしてそれで悩んでつけてたのか?」

「...察しが良すぎるのは嫌い」

「それだけ園子のことも分かってきたってことだ」

「むー...」

 

奇想天外な行動も多いけど、初対面の時からはずっと分かってきた。

 

「なんでそれで気づかないの...」

「何が?」

「何でもない!聞こえないフリしてて!」

「んな理不尽な...」

 

困惑してる間に、俺のパスタと園子のオムライスが届く。フォークに伸ばそうとした俺の手は、園子が全部のフォークを奪ったせいで掴めなかった。ついでにパスタも取られる。

 

「えーと......園子さん?」

「つっきーなんて困っちゃえばいいんだ」

「確かに困るが...いや待て。そっち?」

「今日の私は女王様なんよ。拒否権はないぞ。執事よ」

「確かに王様ゲームの命令だけど...!」

 

パスタをフォークにまいた園子(女王様)は、そのまま手をまっすぐ伸ばして動かない。カルボナーラだったので黄色と白のソースがよく絡んで旨そうだが、俺もすぐに飛びつかなかった。

 

お店の窓側席。園子がちょっと声を大きくしてたため注目してるギャラリー。強制的なあーん。スリーアウトである。

 

「その」

「拒否権はないぞ。執事よ」

「こ...」

「拒否権はないぞ。執事よ」

「......」

「拒否権は」

「あーもー分かったよ!!」

恥ずかしいのも確かだが、園子にやられて嬉しがっている自分も否定できない。周りの視線を感じながら、俺はなるべく大きく口を開けた。

 

「ぁー」

「はい、あ~ん」

「ん...」

「お味はー?」

「...美味しいよ」

 

(俺の知ってるカルボナーラじゃない感じがするけど)

 

勿論そんな筈はないが、雰囲気に飲まれた俺に判別は出来ない。

 

(切り替えろ俺。周りのことは気にせず、集中...)

 

「そっかそっか~!じゃあ私も」

「!」

 

その瞬間、俺はスプーンを纏めて取った。ついでにオムライスも取り、素早くすくう。

 

「つっきー?」

「お嬢様の手を煩わせるわけには参りません。今度はこの執事が」

 

(同じだけ味わえ!)

 

「わーい!頂きまーす!!」

「...あれ?」

 

 

 

 

 

その後、30分くらいかけて全てを食べさせあった俺達。

 

数日後、店の外からたまたま目撃したらしい裕翔はこう言ってきた。

 

『人類にあれを見て砂糖を吐き出さない人種は少ないから、二度とあんな目立つ場所でやるな。もぐぞ』

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

午前中は計画通り、超純愛ものの映画を見た。ヤンキーだった男の子とクラスの委員長だった女の子の話。

 

どこかで見たことあるような感じはあったけど凄く面白かったし、女の子の動きが参考に出来そうと見ていた。

 

でも、お昼でほとんど覆されてしまった。結局は私の一人相撲だった。

 

そこからはもういつも通り。振り回して、甘えて。

 

『すっかり元通りだな...でもよかった』

 

あと、今日は帰り道に言われたことが凄く嬉しかった。

 

『結局、俺も一日中楽しかったしな』

 

それはつまり、午前中の私も一緒にいて楽しかったってことで__________普通でも、そうじゃなくても、どんな私でもそう思っていてくれているということで。

 

嬉しかったし、心臓がばくばく言ってるのを止められなかった。

 

 

 

 

 

でも、だからこそ分かった。今日はそれを疑ってたのだから。

 

つっきーは確かに、少し疲れてそうではあった。多分、私が相手だと凄い疲れるとかではなく、一日動いてたからだとは思うけど。

 

でも、つっきーは先週も予定があって、最近の勇者部での動きも見てればあまり休めてないことは分かっているのだ。本人に言えばきっと否定するけど。

 

だったら、私は何が出来るか。普段疲れさせる側に回りがちな私に出来ることはなんなのか。

 

「んっ、んっ...!」

「あー、そこ。もう少し強く」

 

結論がこうだった。

 

「でもまさか、突然マッサージするなんて言い出すとはな...」

「だってつっきー、こんなに凝ってるから...!」

「自分のなんて分からないからなんとも言えんが...あ、それは流石に痛い」

 

つっきーの部屋までついていって、マッサージを敢行する。帰り道の途中だとつっきーは断ろうとするからそこまでずっと腕を組んで一緒に行き、頑固に迫った。

 

うつ伏せで寝てるつっきーの肩を、私が揉んでいく。つっきーの肩はガチガチに固かったけど、十分くらい揉んだら少し柔らかくなってきた。

 

「どうかな?」

「んー、上手いと思うぞ...肩の辺り暖まって眠くなってきた......」

「寝てもいいんよ?」

「いや、誰がお前のこと送るんだよ。もう外も暗くなってきてるし...ふぁ...」

「そんな眠そうなのに?」

「なんか、急に睡魔が......」

 

気づけば、つっきーはうつ伏せのまま寝息をたてていた。

 

(あれー...睡眠薬とか使ってないんだけどなぁ)

 

それだけ安心してくれてるのかと思うと嬉しくなるし、少し寝転がっただけで眠くなるくらい疲れてるなら申し訳なく思う。

 

後は__________少しの緊張。

 

(私だって、いつもつっきーに振り回されてるんだよ...?)

 

人の気も知らないで、いや、自分から気にしないようにしてるのかは分からないけど、言葉や行動で気持ちを揺さぶられることが多くて。

 

今だって自分の部屋まで女の子を通しておいて、無防備に寝ちゃっている。私がそんなに何もしないと思っているのか________

 

(私だって、自分で自分のこと止められるか分からないのに......)

 

王様ゲームの時も、最後にはつっきーを指名した。

 

今だってそう。いつの間にか、つっきーに寄りかかるように体を倒してしまっている私がいる。

 

(...動き出す、べきなのかな)

 

関係を変えたいとは思う。でも、その先が怖いから進めない。今一緒に住んでいる友達でさえ、このことについては手を抜かないだろうから。

 

(......動かないのなら、もう少し。まだ、少しだけ)

 

今日一日のような空間を、今この時のような瞬間を、味わっていたい。そう思った。

 

 

 

 

 

「園子!」

「はいぃ!?」

 

突然の大声に飛び起きる。目の前にいたつっきーは__________

 

「...つっきー?」

「アタシが椿に見えるか?」

 

目の前にいたのはミノさんだった。周りを見渡せば、つっきーの部屋じゃなく私の部屋に変わっている。

 

「...夢?」

「夢じゃない。事情は話すけど先に夕飯にしよ。冷めちゃうから」

「あ、はーい」

 

ミノさんに続いて部屋を出ようとしたところで、時間が気になってスマホをつけた。もう八時を回った時刻と、新着のメッセージ通知が届いている。

 

『俺も皆も、園子の側にいるからな』

 

「んー?」

 

文面を見て、それ以外に何か書かれていないか確認して、結局何も無かった。これだけだと唐突に脈絡のない話題をふられただけ。

 

なのに、心はほんのり暖かくなっている。

 

「...ありがとう。っと」

 

だから私は、つっきーのことをもっと振り回したいと思うくらいに夢中なのだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「悪いな。わざわざ来てもらって」

「それはいいけどびっくりしたわ。亀の親子かと」

「小亀は親亀の上に乗るんだっけ...?」

 

園子のマッサージが気持ちよかったのか、いつの間にか俺は寝てしまっていた。目が覚めた時には外がかなり暗くなっていて、自分の違和感にも気づいた。

 

「知らない」

「あ、そう...」

 

やたら体が重く感じた原因は園子だった。何故か彼女は寝ていて、俺に覆い被さっていたのだ。慌てて起きようとした俺だが、首が動くギリギリで見える園子が気持ち良さそうにしてたこと、俺のベッドで彼女をどかしながら起きようとすると壁か床に叩きつけてしまうことを考慮して、近くにあった携帯へ手を伸ばしたのだ。

 

電話をかけた相手である銀は、園子を連れて帰るため10分くらいで来てくれた。

 

「にしても、園子もなかなか起きないな」

「ここ数日は色々パソコン使ってたりしてたからかな。もしくは今日はしゃぎ過ぎたんじゃない?」

「確かにはしゃいでたけどな...ま、後は頼む」

「頼まれました。じゃあね」

「あぁ」

 

相変わらずの動きで帰っていく銀を見送ってから、俺は部屋を出ようと_____して、スマホをつける。

 

(まぁ、覚えてなきゃ誤魔化せばいいし...)

 

『やだ...もう、離れないで......』

 

それは、聞こえてきた彼女の寝言。二年近く誰かと触れる機会が少なかった、一人でいた少女の気持ち。

 

『俺も皆も、絶対園子から離れないから』

 

(......)

 

書き込みをして、メールの送信ボタンを押そうとした俺は、その指を止めた。

 

(......違うか)

 

神が干渉してくるような世界で色々してきた俺が、この文言を躊躇った。

 

別に、離れるつもりなんてさらさらない。しかし、いや、だからこそ。強制力に縛られず、己の意志で貫くために。

 

『俺も皆も、園子の側にいるからな』

 

「...これでいいか」

 

躊躇なく送信ボタンを押した俺は、スマホをベッドに放って部屋を出た。今日は俺が夕飯を作るつもりで__________

 

「あれ、椿、あの子ともう寝なくていいの?」

「......タイム」

 

リビングにいた母親の言葉に、思わず開けた扉を閉めた。

 

(まぁ、そうよな。あの部屋の扉開いてたし。俺も園子も寝てたから気づかないし)

 

俺は静かに膝をつき、頭を抱える。

 

(......見られたぁぁぁぁぁぁ!!!)

 

今日一番恥ずかしい事実を認識した俺は、声にならない悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

まぁ、恥ずかしさ以上のものを味わえてはいるし、それで良いと思える自分がいるのだが。

 

 

 

 

 

 

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