古雪椿は勇者である   作:メレク

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恐らくこの作品で最も期間をあけてしまいました...申し訳ないです。

前回体調に気をつけてと言ったのに、コロナではないものの重めの風邪をひいて半日で3kg痩せたり、山奥に連れてかれて氷点下の中キャンプ生活をさせられたりしてました。後半はマジで謎。

感想も溜め込んでしまって申し訳ないです。いつも温かい感想ありがとうございます...!

皆さんも体調気をつけてくださいね。ホントに。これを見るときも是非暖かい場所で見てくださいね。


ゆゆゆい編 56話

「お疲れさん」

「あ、椿君こそありがとう!わざわざ来てくれて」

「それ、行きにも聞いたぞ。俺は気にしてないから」

 

「ほら」と言われて渡されたタオルを受け取って「ありがとう」と遠慮なく使って、返そうと__________

 

「洗って返すね!?」

「そうか?別にいいけど」

「ううん!!え、えっと...そう!シャワー浴びた後もこれ使うから!じゃあすぐ浴びてくるね!!」

「あぁ...ゆっくりでいいからなー」

 

見送ってくれる椿君をよそに、私は荷物を持ってシャワー室に入った。

 

(汗臭いなんて思われてないよね...?)

 

椿君が気にするかは微妙だけど、意識してしまったら気にせずにはいられない。タオルも返さず私の胸元に握ったままだった。

 

(と、とりあえずシャワー!!)

 

 

 

 

 

今日は勇者部の依頼で、ある大会に出ていた。

 

『武道大会の助っ人?そんなの受けたのか?』

『そんなのとは何よ』

『いや、受けること自体はいいが、大会にもよっては手続きまで時間かかるだろうし、もう間に合わないんじゃないかと思って』

『げ...』

『今日、遅くても明日に連絡すれば大丈夫みたいです』

『樹ー!!!流石あたしの妹ーっ!!!』

『お姉ちゃんちょっと苦しい...』

『成る程、流石部長...メンバーは女子一人と。誰行く?』

『はい!』

 

その場にいた私は、椿君達に元気よく手をあげた。元々武道はやってたし、勇者部でも運動系の依頼をこなすことは多い。

 

『ユウならいいんじゃないの?元々やってたし』

『決まりですね』

『頑張るよ!』

 

そうして、ぐんちゃんをはじめとした皆の応援を受けていざ当日__________とはいかなかった。

 

『ここ、駅から遠いな』

『そうなの?ここから近くなかったっけ?』

『こっから最寄り駅までもそれなりに遠いんだが...あぁ、直線距離的には近いんだな』

『げ、じゃあバスかしら』

『何言ってんだ。わざわざ料金のかかることしなくてもいいだろ?』

『え?』

『俺には立派な足がある』

 

こうして椿君のバイクで送ってもらった私は、時間に余裕をもって行動できた。しっかり睡眠も取れた分集中して試合に望めたし、結果は準優勝。

 

『高嶋さん!本当にありがとう!!』

 

依頼してくれたチームの人も喜んでくれていたし、依頼は完璧に出来ただろう。

 

(出来れば優勝までいきたかったけどね...)

 

「お待たせ!」

「お、来たか。全然待ってないから気にするな」

 

バイクに寄りかかってスマホを弄っていた椿君は、確かに全然気にしてなさそうな顔をしている。

 

(でも、待っててもそうでなくてもこんな顔してそうだなぁ...)

 

「寧ろちょっと待ってくれ。今東郷に依頼完了の連絡いれてるから」

「あ、うん」

 

隣で自分のスマホをつけたら、ぐんちゃんからメールがきていた。

 

『高嶋さん、応援に行けなくてごめんなさい。今度古雪君から録画した映像を見せてもらう約束をしたから、今度見るわね』

 

「え、椿君私の試合撮ってたの?」

「ん?あぁ千景からのメールか。頼まれたからしっかりビデオカメラ持ってきた」

「知らなかった...」

 

目線はそのまま、椿君が持っている肩掛けのバッグに移る。タオルもビデオカメラも入ってて、お昼のお弁当まで入ってる大きさにしては小さく見えた。

 

「あ、そうだ!お昼ご飯もありがとう!!美味しかったよ!」

「それならよかった...ユウが集中出来る環境作りに貢献出来たみたいだな」

「環境作りって...」

「よし。送信完了っと。どうする?このまま帰るか?」

「んー...」

 

何かやり残したこと、家に帰る前にしといた方が良いことを思い出して__________

 

「椿君、買い物したいんだけど、いいかな?」

「このバイクに積める物に限るけど」

「大丈夫大丈夫、そんなに大荷物じゃないから...お願いしてもいい?」

「任せろ。折角だしこの近くに行くか」

「!ありがとう!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...」

 

リップクリームの商品サンプルを手に取りキャップを開けてみると、少し磨り減ったクリームの頭が見えた。

 

(店の試供品とはいえ、誰が使ったのか分からないのをよく試すな......)

 

知り合いならともかく、流石に見ず知らずの誰かのを試すつもりは毛頭なく、クリームの色だけ確認した俺はそのままキャップを戻した。

 

(にしても...)

 

こうしたリップクリームやハンドクリームは、男子としては乾燥肌の症状が酷い人以外なかなか身につけない物というのが基本的考えである俺だが、見ただけで大体分かるくらいには知識があったことに驚いた。

 

まぁ、休み時間風や郡が話してることを聞いてただけなんだが。

 

(あ、これあいつが持ってたやつに似てるな)

 

「ユウー、これ確か風が持ってるやつに似てる」

「そうなの?ふむふむ...」

 

何故俺がこんな物色をしてるのかというと、ユウの買い物内容がこうした物だったからに他ならなかった。

 

『最近切らしちゃってねー。なんだかんだで買うの忘れてて...』

 

彼女の要望で近くのショッピングモールを訪れてたが、ふらりと立ち寄った店のラインナップがなかなか豊富で即決とはいかなくなった。これだけの種類があれば悩むのも十分分かる。

 

(まぁ、俺がいるかは微妙だが...)

 

「んー、悩むな~。こっちかこっち...椿君はどっちが良いと思う?」

「俺か?流石に良し悪しをつけられるほどの知識は」

「椿君に選んでみて欲しいの」

「...そっちかな」

 

指差したのは、よりスタンダードなタイプだった。

 

「別に讃州中学は色つきがダメとかないけど...なんとなく」

「ふーん...じゃあこれにする!」

「いいのか?」

「椿君が決めた物を私は選んだんだよ」

「っ、そうか...」

 

不意に言われた言葉にどこか恥ずかしくなってしまい、言葉を返すのも一瞬つまってしまった。

 

「後は...」

「......遠慮せずどんどん選べ。ちゃんと付き合うから」

「!うん!!」

 

 

 

 

 

「確かにさっきあんなことは言ったけど...流石に買い込み過ぎじゃないか?」

「あ、あはは...楽しくなっちゃって」

 

ユウの手には、あれ以降も選んでいったハンドクリームや石鹸、制汗剤、他の店で買ったシャーペンやメモ帳等で一杯になった袋が握られている。持とうとしたら「それは...ダメ」と断られた。

 

「売り切れになるわけじゃないだろうに」

「でも、これでしばらくは買い物しなくていいから!ありがとう!!」

「...それならよかった」

 

それでも、彼女の感謝を受けれたから、笑顔が見れたからいいだろうと思ってしまうのは、単に甘い証拠だろうか。

 

どうにも友奈やユウは甘え上手というか、前々から逆らえないところがある。

 

(割りとマジで、東郷や千景のこと言えないかもしれん...)

 

「後は寄るところあるか?それとも」

「ちょいと待ちなよ」

「「?」」

 

互いに今まで聞いてきた声じゃない声がして、そっちの方を向く。いたのは本に出てきそうな魔女が被ってそうな帽子をしたおばちゃん。

 

(...いかにも占い師って感じの......)

 

すっと目線をずらせば、おばちゃんの前にある机にはでかでかと『占いの場』と書かれていた。

 

「お二人さん。どうだい?今ならタダで見てあげるよ」

「えっと...見るって何を」

「手相さ」

「はぁ...」

 

ちらりとユウの方を見る。ショッピングモールの中に店を構えるのだから許可は取れてるんだろうがどことなく怪しいし、なんなら勇者部には優秀な占い師がいるから、ここでわざわざ見てもらう必要は薄い。

 

でも、隣にいる彼女は目を輝かせていた。

 

(...まぁ、樹も手相は見れないしな)

 

「......じゃあ、お願いします」

「はいよ。じゃあここに座って、左手を見せとくれ」

 

机を挟んでおばちゃんの反対側に座り、二人で左手を見せた。おばちゃんはまずユウの手を取り、じっと見つめてくる。

 

「...なんで声かけてきたんです?お金もかけないのに」

「今日は客足が悪くてね。店をしまおうとしてたところにカップルが歩いてるもんだからさ。好きだろ?こういうの」

「はぁ...」

 

(既に違うんだが...)

 

おばちゃんは目線を動かさないし、ユウも見つめられてる左手を緊張した様子で見ている。その様子は少し微笑ましく思えるのだが、 的中率には不安がよぎる。

 

「ふむふむ...!ほー。分かったよ」

「どうですか?私の手相は」

「太陽線とソロモン線が濃く目立ってるね」

「太陽線?」

「ソロモン?」

「簡単に言うと、願いが凄く叶いやすい状態だね。大抵のことは叶う筈さ。幸運線も良い」

「!」

 

唐突なべた褒めにユウの顔が明るくなる。例え間違ってても嬉しいことだろう。

 

「カレシに迫るなら今だね」

「えっ!?」

「んんっ!?」

「ん?あぁ、流石に帰ったらにしな。人目のつかない場所でね」

「あ、は、はい...」

「いやユウ!?頷いてどうする!」

「アンタもうだうだ言ってないで男を見せな。全く」

「えぇ...」

「折角この子にアンタの成長も促す線があるんだから。この子は凄く優しい子だよ。大事にしな」

 

その言葉に、少しイラッときた。別に目の前の占い師に言われなくても、俺はユウのことを知っている。

 

「...言われなくても、ユウが優しい子ってのは知ってますし、変わらず大切にします」

「ちょっ!?椿君!?」

「ほぅ...少しはまともな面構えも出来るんじゃないか」

 

何故かわたわたしだしたユウを置いて、おばちゃんが俺の手を見た。

 

「...つまらないね」

「人の手相見てつまらないなんて言わないでくださいよ」

「相当良いものを見てからいたって普通のを見たからね...アンタは家族思いで家庭運にも恵まれてる。ただ、放縦線が酷い」

「放縦線?」

「ここさ。不健康なことを示してる。自分のことを考えない行動が多いんじゃないかい?」

「......」

 

これまでのことから、心当たりが無いわけではないだけに、言葉を詰まらせてしまう。おばちゃんはそれを肯定と受け取ったようで、別の位置に指を走らせた。

 

「このままだとこれからもそういうことがあるだろうね。ここにある健康線を伸ばせば改善されるよ」

「伸ばすって、どうするんです?」

「毎日ペンで線を引きな」

「んな眉唾物な話で...」

 

占い師が言ってくる内容とは思えず、思わずツッコミを入れる。しかし、当のおばちゃんは真剣な顔だった。

 

「バカにならないからそんな話が受け継がれてるのさ」

「へー...」

「信じてなさそうだね......」

「まぁ、今のところ占いの中身が当たってるのかすぐ判断出来ませんからね」

「すぐ先のことが知りたいかい?そうだねぇ...」

 

おばちゃんは俺の顔をじっと見つめて、一度頷いた。

 

「アンタは今日中に心拍数が上がることがあるだろう」

「結構曖昧な...」

「細かく言うと避けようとするかもしれないからね。このくらいさ...さ、以上だよ」

「......ユウ、帰るか」

「あ、う、うん」

 

正直、どことなく突っかかってくるような言い方だったし、占いも今一信用出来ない。微妙な空気の中ユウが最初と変わらずワクワクした感じなのだけが救いだった。

 

「見てくださってありがとうございました!」

「いいんだよ。あ、ちょっと待ちな」

「はい?」

「耳貸しな...そっちのアンタは聞かないようにね」

「...離れときます」

 

内緒話を始める二人から離れ、スマホで軽く天気と時間だけ調べた。今日は天候が急変する可能性があると言われていたから、バイクで帰るには難しいかもしれない。

 

(ま、そんなことないか)

 

窓の外に見える景色は雲がなく、スマホが示した結果も傘マークは皆無だった。

 

(そういや今日は夕飯隣だったな...後で三ノ輪家に何か買ってから行くか)

 

適当に考えていると、視界の隅でユウが小走りしているのが見えた。

 

「椿君!ごめんね?待たせちゃって」

「いや。全然気にしてないぞ...何言われたんだ?」

「えっと...内緒!」

 

返された答えは察しがついていたため「そっか」とだけ返した。

 

(...)

 

隣を歩くユウは、少しだけ緊張した感じがする。いつもなら楽しそうな_________

 

(そうなんだよな)

 

ユウはいつも楽しそうにしている。それこそ西暦時代で会っていた時より、この世界に来てからは。今日の試合も真剣に楽しんでいたし、千景といる時なんか顕著だ。

 

それが悪いなんて全く思わない。寧ろ周りすら楽しくさせる姿は、凄く彼女らしさを感じる。

 

(今更だが、勇者部って俺がいていい場所なのか不安になるよなぁ...)

 

学校中どころか周辺の学校の男子すら巻き込んで虜に出来そうな容姿、性格の集まったクラスの中に、一人だけいる普通の男。そう考えるとなかなかに思うところがある。

 

(別に辞めろとか言われない限りやめるつもりもないけど)

 

側にいたいと思ってるから__________

 

「?」

「ぁ、ごめん」

「いや、こっちこそボーッとしてて...!」

 

手の甲に何か当たったと思ったら、ユウの手の甲に触れてたらしい。余計な考え事をしながら歩いてたため寄ってしまったんだと謝りかけ、すぐ目の前にいた彼女に驚いてしまった。

 

「えと、うん。悪い」

「あ、まっ、待って!」

 

突然鼻をくすぐった甘い感じの匂いを含めて動揺した俺は、少しつっかえながら二歩下がる。しかし、伸ばされた手に捕まった俺は一歩戻った。

 

「...駐車場まで」

「え?」

「駐車場まで、手を繋いで帰ろ?ダメ?」

「......ダメって言うと思うか?」

「!ありがとう!じゃあ行こう!!」

 

途端に嬉しそうに歩くユウを見て、俺も自然に口角が上がってしまう。同時に諦めたように息をついた。

 

(...これは、甘くなっても仕方ないよなぁ。うん)

 

 

 

 

 

「それ、占いの女帝じゃないかな?」

「占いの女帝?」

 

翌日。クラスでたまたま昨日の話になった時、そんなことを郡が言った。

 

「うん...そうそう、これ」

「ありがと...確かにこんな顔だったな」

 

見せてもらったスマホには、見覚えの新しい人が写されている。

 

「やっぱりそうなんだ。この人の占いよく当たるって有名なんだよ」

「そうなのか?」

「うん。でも四国中を転々としてるからなかなか狙って見てもらえなくて、知ってる人が多い場所だと見つかったらすぐ行列が出来るくらいだって」

「へー...人気なのかは疑わしいが、確かに当たってはいたか......」

「やっぱり凄い人なんだね」

 

後の帰り道を思い出せば、間違いは言ってなかったと言える。寧ろ心拍数は上がりまくっていた。

 

(てことは、これからも俺は無茶する可能性があるのか...心配かけるし控えめにしないとな)

 

「あ、そういえばあの人、ペンで手相を書いて伸ばすのは有効だって言ってたぞ」

「そうなんだ?」

「あぁ。確かこの線だったな」

「椿ー、何してるんだ?」

「寄っ掛かってくんな裕翔...手相見せてただけだ」

「手相?お前占ってもらったの?」

「まぁな。そこそこ有名だったらしい」

 

さっきまでの話を手短に話すと、裕翔は興味がなさそうに反応した。

 

「ま、勇者部にも優秀なタロット占い師がいるからな」

「じゃあまた何で昨日は見てもらったんだよ」

「......」

 

ふと頭をよぎったのは、彼女の笑顔。

 

「...俺は甘えられると断れないからな」

 

この後気持ち悪く高い声音で甘えてきた裕翔を殴り飛ばしたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『この後あいつの近くを意識して歩きな。昼にかいた汗は心配しなくていいから』

『!?!?』

 

占い師さんに指摘されたのは、まるでさっきまでの私を見てきたかのようなことだった。

 

『な、何で分かるんですか!?』

『占いの一部みたいなものさ。あとそうそう。さっきは言わなかったけど、あの男の子かなりきつい女難の相が出てるから気を付けな』

 

こそこそ話に付き合っていたら、私と椿君が恋人同士じゃないことを否定しないまま去ってしまった。

 

ただ、その後は占い師さんの言った通り椿の近くにいただけで手が触れたし、自然と口からしたいことがこぼれた。

 

「高嶋さん」

「!ご、ごめんぐんちゃん!何?」

「いえ、ぼーっとしてたから...何かあった?」

「えっと...」

 

ぐんちゃんの質問で思い返されたのは、昨日のこと。

 

「うん!昨日嬉しいことがあったよ!」

 

その声は、いつもより大きくなってた気がした。

 

 

 

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