古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回なクロックロさんからのリクエストになります。リクエストありがとうございます!

ゆゆゆい編の20話と32話を見返すとスムーズに読めるかもしれません。


ゆゆゆい編 57話

「で、話ってなんだよ?」

 

とある駅に近い喫茶店で、俺は片肘をテーブルにつけて相手を見た。勇者部の皆との会話でこんな態度はとらないが、これは肘をつけるのが楽だからではなく、呼び出された内容がある程度下らないものだと分かってるからこその反抗的態度だ。

 

「ふっふっふ...」

 

現に、テーブルを挟んで反対側に座る倉橋裕翔はいたずらな笑みを浮かべていた。大体こういう時はろくなもんじゃない時だ。

 

「実はな。お前にプレゼントがあるんだ」

「クーリングオフは可?転売は可?」

「どっちも可だけどそこまで喧嘩売ってこなくても......」

「はぁ...悪い悪い。それで?」

「んんっ!それで、その中身なんだがな...これだ!!」

 

少し大きめのバックから取り出されたのは、真っ黒なビニール袋だった。

 

中を見ると、グラビアと堂々書かれた雑誌と、白い服だった。俺のテンションは一気に最下点を突き抜ける。

 

「いらないから返すなじゃあ俺帰るから」

「まぁまぁ待てって」

「待てるか。またこんなもん渡してきて!しかもなんで服までセットなんだよ!?」

「雑誌の内容がナース特集だったからだよ。じゃなくて、まぁ座れって。帰ろうとするなって。ねぇ、帰らないでねぇ!!」

 

即帰ろうとする俺と、必死に引き止めようとしてくる裕翔。喫茶店の空気に似合わない奴等がそこにはいた。

 

 

 

 

 

「で、なんなんだよこれは」

「何って、お前へのプレゼントだけど」

「倒されたいのか?」

「何でだよ」

「だってお前、これまでのこと振り返ってみろ。ろくな目にあってないだろうが」

 

これまでにあったことは(本人達の名前は勿論伏せているが)、話の流れなんかでこいつに話したこともある。だからこそ散々(というよりはなかなか大変)な目にあっていることを知ってる筈なのだ。

 

「はぁ...いいか椿?確かにこれまでお前は大変な目にあったかもしれない。だがな、目標である勇者部の皆のドギマギする姿に慣れるってのは達成してないだろ?」

「その目標はこの手段じゃ辿り着けないってことで纏まったんだよ。過去のことから学んだの」

「諦めるのはまだ早いだろ。手段があるならチャレンジしないと...これはその為の物だ。受けとれ」

「嫌だっての。てかお前どっから調達してきたこれ。私物?」

「んなわけあるかぁ!誰が自分用にナースコス衣装用意するか!!」

「てことはわざわざ買ってきたのか?うわぁ...」

「それはそれで引かれるのかよ!」

 

裕翔の叫びに「当たり前だろ」と返す。男友達のためにこんなものを買ってくるのはなかなか頭がおかしい。

 

「俺はただ親友が困ってるから手助けしてやろうと...しかも!普段からいい思いしてるお前に対して私情を挟まずにやろうとしているだけなのだ...ついでにこれ使った写真貰おうと」

「本性表したなお前!!勇者部の誰に着せるつもりだよこれ!?」

「い、いや別に?可愛い子が着てくれればそれで満足だから...」

「ざっけんな!お前が彼女作って着させとけボケぇ!!うちの部に変なもん持ち込むな!!」

「えー」

「こんなんホントにまともな展開にならないんだからな!!俺がどれだけ理性やら精神やら削ってると思ってんだ!!大体な!せめてこういうのは家に呼んでとかにしろよ!こんな所で外から誰かに見られたらどうす......どう......」

 

適当に指をさした窓の向こうを見てしまい、そのままゆっくり動く。視界の端を正面に戻した時には、こっちを向いてた雪花と夏凜と目があった。

 

「...ほら、見ろよ。詰みだ」

 

俺は、声にならないかすれ声で絶望を口にした。

 

 

 

 

 

突然指をさしたのはここが外だということを表したかっただけだし、その先にいた二人も買い物帰りという偶然だった。また、ほとんど面識のない裕翔がいるため、そのまま二人がスルーして帰ることもあった。

 

さらに言えば二人が俺達の間にあったビニール袋の中身に興味を持つ可能性も、それが邪魔に思わないような場所に店員が飲み物を置く可能性だってあった。

 

しかし、現実として一部が噛み合い、一部は噛み合うことがなく、いつの間にか雪花と夏凜が裕翔の持ってきた物を俺の隣で覗いているという地獄の様な状況が出来上がっていた。

 

(......空気になれたらなぁ)

 

それが出来ればここから逃げることも簡単だっただろう。もしくは幽体離脱を習得するべきだっただろうか。或いは瞬間移動か。

 

「なるほどなるほど...」

「...」

「まぁ、そういうことでして...おーい椿、聞いてる?」

「ん?瞬間移動会得は無理だと思うぞ」

「何急に」

 

俺が現実から逃げてる間に話は進んでいたらしく、咄嗟に答えた俺に裕翔が半目で睨んできた。雪花はどことなくニヤニヤしていて、夏凜は真顔である。

 

「とりあえず纏めると...これは俺が椿に押しつけただけだから......」

 

裕翔の話を聞いてると、俺と二人の間に変なヒビが入らないよう言ってくれてるんだろう。こういうのを普段から真面目にやれれば本当に彼女が出来てもおかしくないと思うのだが。

 

「思ったけどこれお前が蒔いた種だから自業自得じゃん。というかマッチポンプじゃんふざけんな」

「椿さんいい加減戻ってきて!?」

「あはははっ!!ここで漫才しないでくださいよ!!」

「...全く......」

 

雪花が爆笑し始め、夏凜は呆れたようにため息をつく。といっても負の感情は少なそうな表情で、「しょうがないわね...」と続けた。

 

「...で、さっきから現実逃避して聞いてなかったんだけど、今どうなってる?」

「あ、やっとか...二人が来て、こいつを誑かそうとしてたのは俺だとお前の株が下がらないよう謝ってる」

「既に遅いと思うが」

「はーっ...確かに、もう見ちゃいましたからね」

 

改めて中身を覗く雪花。そこの中身は勿論変わる筈もない。

 

「でも別に、私は特に何も思いませんが...特に勇者部に言ったりもしませんし。というか普通の男子高校生ってこんなもんだと思うんですけど」

「け、結構ぐいぐいくるね...えーと、秋原ちゃん。でも椿は普通じゃないから」

「あー」

「あーってなんだあーって...」

 

色々ツッコミをしたい所だが、それなりに気まずい話題のためなかなか言えなかった。ここで普通じゃないとなると勇者部に対して良くない視線を向けてるように思われかねないし、変に言い訳っぽくなりかねない。

 

そもそも、男友達だけならともかく、普段親しくしている勇者部とそんな話をするのがもう気まずかった。これで彼女達が普段からそういったことに自らオープンであれば気にすることもないだろうが、実際はそんなこと全くないのである。

 

現に、夏凜も会話に参加しようとしない。普段なら「この変態!」とか言われたりしかねないのだが__________

 

「ていうか、もう帰っていいか?流石に気まずいんだけど...」

「あー...すいません椿さん、ちょっと珍しい物が見えて舞い上がっちゃって」

「いや、雪花は悪くないが...」

 

前にも特殊な格好で、というのは似たようなことがあった手前、正直テンパっているというか、精神的にきつかった。

 

「多分もう今日はまともに考えてらんないし、帰るわ」

「椿...なんかごめんな。今度埋め合わせはするから」

「ん。お釣りはあったら今度でいい」

 

飲んでいたコーヒーの代金を多めに置いた俺は、そのまま店を出た。

 

(......)

 

別にあれを見られるぶんには構わないが、普段そういった話をしない彼女達に見せるのは申し訳なく思うし、これで芽吹や若葉辺りと気まずくなるのは嫌だし、東郷なんかは友奈に近づけないようしてくるかもしれない。そういうのはきつい。

 

万が一亜耶ちゃんに「変態」なんて言われたら日には心がぽっきりいくまである。

 

(まぁ、どこか深刻気味に考えてるのは今のテンションのせいではあるだろうが...)

 

実際は全然気にしない、少なくともこんなことで引いてくる仲ではないと思いたいが、動揺したままの思考はなかなか上手く回せなかった。

 

(...とりあえず、今日は帰って寝よう)

 

家にあるみかんジュースを思い浮かべて__________

 

「待ちなさい」

「へ?」

 

何故か、夏凜に服の袖を掴まれていた。

 

「夏凜?」

「っ...ちょっと、来なさい!」

「え、あ、ちょっ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「夏凜、なんで...」

「気にしすぎなのよ。そんな顔見てらんないわ」

 

椿を引っ張って連れてきたのは、私の部屋。入った直後のやり取りだけで、椿の顔ははっとした。

 

窓越しに見てから、椿の顔や態度は「嫌われたかも」と不安がってる感じだった。確かに男女間でこういった雑誌を前にするのは男の子側として恥ずかしさとかもあるのかもしれないけど、今更勇者部の皆が椿のそういった一面を知ってもマイナス方向には働かないだろうし、寧ろ興味を持ちそうだった。特に園子とひなた。

 

だから、そんな不安そうな顔をいつまでもしてほしくなかったのが一つ。

 

「...あ、あと、感想を聞きたかったのよ」

「はい?」

「ッ!!だ、だから!!今からこれを私が着るからその感想を言いなさいっ!!拒否権はないから!!」

「......へ?」

 

そのまま私は別の部屋に行って、持っていた袋の中身を取り出した________すなわち、ナース服を。

 

「いや、何で?」

「う、うるさいわね!!この服、ちょっと可愛いと思ったのよ!!他の奴に後から見せたらただのコスプレ好きに思われちゃうでしょ!?」

 

恐らく顔が赤くなりながらも、大声で叫ぶ私、椿は動揺したまま「お、おう...」とだけ言った。

 

今日はもともと雪花と服の買い物をしていた。持って帰ってきたのは雪花セレクトのだったり、私が好みなタイプなのもあったが、この服を見たときも、正直着てみたいという思いは浮かんだ。

 

更に椿を放っておくことも出来なくて、着る口実のために利用もした結果、こうなった。恐らく私も動揺したままなのだろう。

 

(でも、仕方ないじゃない...!)

 

この服と一緒に入っていた雑誌の中にあった、とあるページ。そこでナース服を着てるモデルの人は、どことなく私に似ていた。雪花がボソッと「これ夏凜に似てるね」と言うほどには。

 

そう思ってしまった瞬間、妙な恥ずかしさが襲ってきてしばらく考えられなかった。もしかしたら、椿もこの一枚を見て私を思い出すかもしれないと思うと________

 

滅茶苦茶恥ずかしい故の暴走。その結果は、本人に対して先に自分のを見てもらうになった。

 

(ってそうはならないでしょ!?)

 

冷静そうな頭が言ってくるものの、もうオーバーヒートしたみたいに熱い頭はまともさを捨てている。

 

「っ...」

 

気づけば、着終わってしまっていた。この部屋に鏡はないため自分の姿を見ることは出来ない。

 

(......えぇい!)

 

普段ならもっと迷いそうな判断も、そう時間を置くことはなかった。履いたスカートのひらひらした感じが太ももをかすめるものの、それすらお構い無し。

 

勢いよく開けた扉から出て、椿の正面に立った。

 

「......」

「......ど、どうなのよ」

 

なんとか言えたのはそんな一言。椿なら似合ってなくても似合ってると言ってきそうなものだが、返事はない。

 

(...っ)

 

時間が過ぎていくと、どうしても考えが巡ってしまって顔が赤くなってきた。

 

そもそも私は服装に関して基本無頓着、というよりトレーニングに使えるかといった実用性を重視している。今日雪花に勧められて買ったフリフリの洋服や、こういった衣装は基本買わないし着ないのだ。

 

だから今、自分を見られるための服を着ているんだと思い、椿の視線を感じると________どうしても恥ずかしさが凄い。

 

「な、何か言ったら?らしくないとか、似合ってないとか」

「らしくない...似合ってない...」

 

私の言葉をオウム返しに喋る椿は、改めて全身を見て、少ししてから顔を赤くした。

 

「...可愛いとは思うぞ」

「あぁ、そりゃコスプレ服だもんね」

「いや......その、お前の真っ赤にした顔が」

「......!!!」

 

今度は私が顔を赤くする番だった。最も、元から真っ赤ではあったらしいが、そんなのは関係ない。

 

「あ、あんたはいつもそうやって...!!」

「何言って...うおっ!?」

 

私は感情そのままに、椿をソファーへ押しつける。

 

初めて会った時からからかわれることは多かった。狙ってやってきたり天然でやってきたりと。その度に私は慣れることなく戸惑ってしまい、トレーニングで鍛えられるものじゃないことに悔しさを感じてしまう。

 

(いい加減にしなさいよ...)

 

椿がちゃんと言葉にする相手を一人に選んでおけば、私がこうしてあたふた動揺することもない。少し動きにくい服とセットで近寄り、そう言おうとして__________

 

 

 

 

 

「夏凜ー、忘れ物してたけど...」

「お邪魔します。夏凜、この前借りたトレーニング道具を返しに...」

「「あ」」

 

部屋の中にいた私達は、訪れた雪花と芽吹に対して同じ反応を返した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

「あの、椿先輩」

「ん?」

 

亜耶ちゃんが声をかけてきた時点で色々察せられる部分はあるのだが、万一の可能性にかけて何も気づいてないような反応を返す。相手が彼女なだけに罪悪感が俺を苦しめた。

 

「今日は部室に来てからというもの、夏凜先輩は様子がおかしくて、芽吹先輩も黙ったままなんです...何かご存知ないですか?」

 

儚い可能性は潰され、俺は現実と直視する。すなわち、昨日コスプレを見られてから完全に壊れた夏凜と、そのコスプレ夏凜を見て目のハイライトを失っていった芽吹についてだ。

 

「ァー...」

「......」

 

現在夏凜は虚空を見つめて乾いた笑いを浮かべており、芽吹はよからぬ方向に察知したのかどこか達観した様子で夏凜を見ている。ちなみに、より真実に近いもう一人の雪花は、いつも通りかつ知らぬ存ぜぬだった。

 

「あぁ、うん。そうだなぁ...」

 

そして、俺は。

 

本来であれば夏凜がコスプレして俺に寄ってきてた経緯を芽吹に話したり、亜耶ちゃんや他のメンバーが心配しないよう事情を話すべきなんだろう。

 

しかし、それは原点である俺と裕翔のやりとりまで戻る可能性が高く。恥ずかしさとか面倒とかは昨日の夏凜の家の時点でぶっ飛んでいるものの、あんなことを目の前にいる天使のような存在に説明出来る筈もなく。

 

「......俺もよく分かんないや。どうしたんだろな?」

 

結果として、俺も目のハイライトを消して答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

結局俺達三人が元に戻ったのは、それから四日経ってのことだった。芽吹には雪花が色々伏せた状態で話してくれたらしく、感謝しかない。夏凜とは「お互い苦労するな」とやけ酒ならぬやけみかんとやけ煮干しをした。

 

諸悪の根源である裕翔は確実に絞めようと二人で誓いあった時は、お互い凄くいい笑顔を浮かべていたと思う。

 

(...にしても)

 

そこから更に数日経過しても、まだフラッシュバックするのはコスプレ衣装の夏凜。リアルであの服を着た看護師はいないだろうが__________普段のギャップも相まって、可愛らしいという感想が先行してしまう。

 

(あぁ、くそっ...)

 

脳内に焼きついた記憶は消すことが出来ず、夏凜を見ては動揺するのを直すのは、更に時間がかかってのことだった。

 

「椿さん椿さん」

「ん?」

「この前のやつ、私も着ましょうか?」

「やめてね雪花。ホントにやめてね」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

倉橋さんという椿の友達を二人で遠慮なく絞め上げた後。少し鬱憤が晴れた私は自分のベッドに倒れ込んだ。

 

「はぁぁっ...」

 

自分でも制御出来ない、重苦しいため息が出る。

 

芽吹がしていた勘違いも雪花のお陰で解決し、私にとって今回の件は無事に済んだとも言える。

 

でも、元通りとはいかない。椿が何かと苦労していることを知ってしまったし、今回のことでは何も解決していないのが現状なのだから。

 

かといって、私がやれることなどなく________

 

『いや......その、お前の真っ赤にした顔が』

 

(~ッ!!)

 

思い出してしまった言葉を消し、椿への対応を戻すのは、それからまた数日かかった。

 

「...ホント、バカ椿」

 

 

 

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