古雪椿は勇者である   作:メレク

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前話からの期間でフォースインパルスのRGを組み立てたんですが、外見(特に顔)がアニメそのままで感動しました。

GWですし、メブみたいにプラモ作る方は是非。


ゆゆゆい編 61話

「すー...すー...」

「......んっ、ふっ!」

 

小さな寝息をBGMにしてパソコンを動かしていたが、作っていた資料の確認が一段落したところで伸びをした。

 

「......」

「すー......」

 

(落ち着くような、落ち着かないような)

 

なんとなしに振り返るも、そこにいるのはさっきと変わらない安らかな表情で寝てる杏。

 

(どうしたもんかねぇ)

 

どことなく緊張してる自分の心を抑えて、俺は一人ごちた。

 

 

 

 

 

『お疲れさ...』

 

今日俺は高校で用事を済ませてから来たのだが、その時にはもう杏が窓際ですやすや眠っていた。確かに今日は年間で見ても気候が安定していて、気温も程よい。太陽光を背に本を読んでたら眠気を誘われること必至だろう。

 

『...』

 

他の皆はいなくて、連絡するともう今日は解散したとのこと。

 

(良い場所で読書してたら、寝ちゃったってとこか...)

 

寮に戻るまでに天候が変わるかもしれないと思ったら、この場所で本を読みたくなる気持ちも十分理解できる。一人残ったのはちょっと意外だが。

 

別途東郷から送られていた書類の確認をしたかった俺は、杏の睡眠を妨げないよう静かにパソコンを立ち上げた。

 

(風も気持ちいいもんな...って)

 

『...しょーがないな』

 

窓から吹き込んでくる風は確かに心地よかったが、カーテンが揺られて杏の体によく当たってた。静かに、音を立てないように気をつけながらカーテンを端で纏める。

 

差し込んできた夕日は、杏の艶やかな髪を照らした。

 

『...くー』

『......っと、お仕事お仕事』

 

つい目を奪われていたものの、誤魔化すように声を出しながら立ち上げたパソコンとにらめっこする。

 

『今日部室の鍵は?』

『杏さんが最後まで残るって言ったので、渡しています』

『了解』

 

手早く部長とメールを済ませながら、俺はファイルを開いていった。それが、約30分前のこと。

 

(気持ち良さそうに寝ちゃって...)

 

少し口が開いてて、規則正しく呼吸を繰り返している。ただそれだけなのに幸せそうに見えるのは、単に杏の外見だけの話ではないだろう。

 

(とはいえ、このままにもしとけないし...)

 

最終下校のアナウンスが流れるまでそう時間はない。例え部室で流れる音を切ったとしても起きてしまう音量は流れるだろうし、それを耳障りにも感じてしまうだろう。

 

かといって、俺が小さく声をかけて起こすのも大して変わらない。起こさず運ぶのは難しいし、そもそも部室の鍵は杏が持ってる。本人が寝てる状態でどこにあるのか分からない鍵を探すには限度があった。

 

一番ありそうなスカートのポケットでも探したら、一瞬で通報されても文句は言えない。

 

(んー...どうしたもんか)

 

「んっ......」

「あぁ...全く」

 

杏が少し体勢をずらし、持っていた本を落としてしまったのを見てため息混じりの声が出た。

 

(仕方ない。起こすか)

 

「ほら杏、そろそろ起きて......」

 

小説としてはいたって普通の大きさの本を拾い、本人を見上げようとして_________思ったより近かった彼女に動揺する。

 

いや、勢いもつけずに物を落としたのだから本人に近いのは当然なのだが、突然目に飛び込んできたような状況を作ってしまったがために息を飲んだ。

 

「うっ...」

 

夕日を受ける色白の肌は元々病弱だったからなのか、どこか儚げな感じもする。

 

何が言いたいかというと、目に毒なのだ。

 

「椿さん、何してるんですか」

「......」

 

そして、いつの間にか目を開いて俺を見下ろす杏の顔は、夕日に照らされてなのか色白の肌に目立つ赤色をしていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「まぁ、そういうことです...」

「納得しました。こちらこそ起こそうとしてくれてありがとうございます」

「いやいや、それは感謝されることでもないから」

 

否定する椿さんは、そこまではっきり言いきってからハンバーグを食べきった。

 

「ご馳走さま...美味しかったな」

「良かったです。オススメした甲斐がありました」

 

私と椿さんは、讃州中学から少し離れた洋食屋さんに来ていた。前々から場所と有名だという話は聞いていたものの、来ることのなかったお店だ。

 

「皆とは来なかったのか?」

「他の皆と行くときは、大体うどんなので...」

「あぁ、納得」

 

私自身うどんが好きなのもあるけれど、私の周りのほとんどもうどん好き。うどん屋さんの方が近くにあれば、他に選択肢が発生すること自体が少なかった。

 

その点、そこまで麺類へのこだわりがない椿さんと二人で来るには良い所だろう。

 

(他の人も来ないだろうし...というか、内緒にしておきたいし)

 

今日は部の活動が早めに終わり、天候がよかった為部室で本を読んでいた。恐らくそれで気づかぬうちに眠ってしまっていたのだが_________誰かに声をかけられた気がして目を開けたら、足元に椿さんがいた。

 

顔を見上げられて、目が合った時感じたのは恥ずかしさ。下から上へ見られてるということは、下手をするとスカートの中身を見られてるかもしれなくて。そう考えると寝ぼけた頭が暴走していた。

 

『椿さん、何してるんですか』

 

自分で出した声は思ったより低くなってたみたいで、さっきまであの状況になった経緯なんかを話してくれたのだ。

 

(いや、よく見たら分かったことだし、椿さんが謝ることなんかないのに...)

 

帰らなきゃいけない時間まで寝かせてくれて、落とした本を拾ってくれただけ。急いで足を閉じた私が恥ずかしさで難癖つけてるだけにしか見えない状況。

 

それでも、椿さんは『悪かった』と言ってくる。

 

『突然目の前にいたら誰だって驚くだろ?あそこで寝ちゃう気持ちも凄く分かるし』

 

(あぁもう、私は...)

 

「杏?どうかしたか?」

「い、いえ!何でもないんです」

「そうか...あ、そういえばこれ、読み終わったから返すな」

 

鞄から取り出したのは、文庫カバーがされた一冊の本。丁寧に扱われていたのか、カバーの端が潰れてるなんてこともない。

 

「今返しちゃって大丈夫か?」

「全然問題ないですよ...それで、どうでした?」

「うーん...良くも悪くも一昔前の作品って印象を受けたな。展開というか文章の言い回しとか、細かい所が集まってそう思わせてくるんだと思うんだが...」

「分かります。後半の疾走感はちょっと前のものって感じますね」

「あー、それな。俺は好きな部類だったぞ」

 

椿さんが渡してきたのは、元々私が買った小説。それを受け取りながら感想を聞いてみたら、大方私と似た意見だった。

 

神世紀301年には、当然私がいた西暦にはない本が沢山ある。前の本を漁るのも忘れていないけど、新刊のチェックも欠かさない。

 

とはいえ、それだけならこの本は________バトル描写が入ったライトノベル_________私が手を出すことはなかったと思う。影響を受けたのはひとえに目の前の先輩のお陰。

 

『こういうのもあるぞ』

 

西暦でも似たような本を買ってた椿さんは、この世界に来てからは自分の部屋の本を貸してくれることも多かった。

 

『何かと外で暇を潰す時は本読んでるんだよな。ゲームだと途中で終わらせられなかったりするし』

 

私にとっては未知の本しかない場所。食いつかないわけがなかった。そうして椿さんの勧めた本を大体読んだ私は、こうして今もお互い何となくで手を伸ばした新刊を交換して読んだり、感想を話し合ったりしている。

 

椿さんの意見は肯定も否定もして、ちゃんと自分の好きな部分を言ってくれる。それがちゃんとこの本を読んでくれたんだと意識できて、凄く嬉しい。

 

「杏?どうした?」

「す、すみません。やっぱり慣れないので」

「まだ慣れないのか?」

「だって、こんなに本を交換するのも話をするのも無かったですもん...!」

 

タマっち先輩は基本読まないし、他にも西暦で一緒にいたメンバーもそこまで本を読まない。ギャルゲー、乙女ゲーで文章を読んでいる千景さんとは似たようなものがあるけど、こんなに同じ物の感想を言い合ったりはしない。

 

「椿さんだけでなく雪花さんや芽吹さんも読んでくれますし」

「まぁ、自分の好きな作品を語り合いたい気持ちは分かるからな」

「最初から勇者部にいた皆さんとこういった話はしてたんですか?」

「いや、銀とかな。一時期は読む本どころか見るもの全てが完全に一致してたわけだし。文学少女って意味では東郷が一番近いだろうが、あいつはなぁ...」

「物語というよりは、歴史文献ですもんね」

 

顔に言いたいことが書いてあって、くすりと笑ってしまった。案外普段の椿さんは表情が読みやすい。

 

(...辛い時は、分からないんだけどなぁ)

 

まだ付き合いが浅かった頃だったというのもあるけれど、西暦の頃は分からないことが多かった。

 

分からないからこそ、聞いて、手を伸ばして。

 

『だから、相談してください。あなたの悩んでいることを』

 

拒絶されても、最後には助けてくれて、笑顔を見せてくれた。

 

(...結局、この人と話してると楽しいんだよね)

 

落ち着くし、楽しい。この人自身はアレだけどラブストーリーの感想なんか話すときは興奮する。

 

タマっち先輩の隣もいいけれど、この人と話してる時は心地いいのだ。

 

「一度戦艦について聞いたら凄かったぞ。二時間動けなかった」

「風さんとか、止めなかったんですか?」

「途中で風と樹も説明受けてたなぁ...友奈は確か用事でその時いなくて。まぁ本人が楽しそうだし、話自体は興味あったからいいんだけどな。途中参加の二人はちんぷんかんぷんだっただろう...」

「あはは...」

 

話は本だけでなく、勇者部の皆についても広がっていく。いくら話しても話題が尽きることがないのは、人数が原因か、一人一人の話題に事欠かないからか。

 

でも、例え後で内容がちゃんと思い出せなくても、話していて楽しいという感覚はずっと私の元にあった。

 

 

 

 

 

「すみません。バイクでもないのに送ってもらって」

「何言ってるんだよ。もう日がくれてるのに、暇な俺がお前を一人で帰すわけないだろうが」

「っ...ハイ」

 

こういうことをさらっと言うのは、本当にずるいと思う。

 

「それに、最後は俺のワガママに付き合ってもらったわけだしな」

「ワガママなんて、私も行きたかったですし」

 

ご飯を食べ終わってからは椿さんの提案で本屋さんへ行ったのだが、そこでも盛り上がって閉店ギリギリまでいてしまった。

 

「ふぁーっ...帰って宿題終わらせないとな」

「私ももうすぐテストなので、勉強しないといけませんね...分からない場所があったら聞いてもいいですか?」

「俺で教えられる範囲ならな。そっちは特殊だから......」

 

西暦時代四国にいた私達は、特別に学年関係なく別のクラスで受けている。丸亀城で授業を受けていた時も同じだったし、大赦の人が便宜を図ってくれているみたいだ。

 

「そんなに違いますか?」

「前球子に泣きつかれた時は、やっぱり進みが独自なのと時代が大きく違うからな...分かる分からないというより、こっちにとって初歩的な事から教える分野がある一方、逆に難しいのも解けたりしてるってのはどうにも教えにくい」

「でも、私達の時代にいた時はそうでもありませんでしたね?」

「あの時は分かる問題が多かっただけだし...ま、分からない物が来たとしてもまともに解く余裕なんてなかっただろうし」

「あー...」

 

そう言われてしまえば、何も言えない。

 

「...なんかすまん」

「い、いえ...私は、私達は知ってますから」

「......そっか」

 

二年近く見てきても、初めて出会った頃の椿さんより酷い様子なんて一度もなかった。だからこそより昔の酷さが分かる。

 

(年月が経って、思い出として補正されてる部分もあるだろうけど...)

 

思い出している間に静かな雰囲気になり、私達の歩く音と、それに合わせて本が入ったビニール袋の揺れる音が耳に響く。気づけば、私はその方向を見ていた。

 

「...」

「...?」

「......」

「......あぁ。はい」

「!?!?」

 

突然手を握られ、私の思考回路は爆発した。

 

「つ、つつ椿さん!?何を!?」

「え?ずっと俺の手見てるから...あ、もしかしてこっち?」

「!?」

「?これか」

「...!?」

 

何故か恋人繋ぎをされてから、小指同士だけ繋ぐ謎の繋ぎかたをされた。

 

「あれ?違う?」

「何がですか!?」

「いや、ずっと手を見てきてたから、したいのかなと」

「だ、だからってこれは...!」

「違ったっけ?本でやってたの」

「......アー」

 

椿さんの一言で、私のテンションは一気に冷えた。恐らく椿さんの中では『さっきまで借りてた本のシチュエーションをやってみたくて椿さんの手を見つめてる杏』という状況だったんだろう。

 

(...どうしてそこまで考えて、その先は出てこないのか)

 

この考えが当たってるとは限らないものの、何故そこから『俺だからやりたいんだな』とならないのか。本のヒロインは主人公が好きでやってたのに。

 

まぁ、急にそんなことを思う椿さんではないことも知ってるけど。

 

(...まぁ、いっか)

 

「杏?」

 

余計なことで一喜一憂しているくらいなら、今の状況を楽しんだ方が良い。そう考えた私は、やっと口を開いた。

 

「...椿さんからしてきたんですから、拒まないでくださいね?」

「拒むくらいなら最初からしてない」

「では、帰るまでお願いします!」

 

それから、小指だけを繋いで夜風に当たりながら帰っていく。

 

「...ふふっ」

 

感じる熱が少ないながら、どこか笑みを溢して。

 

 

 

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