古雪椿は勇者である   作:メレク

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さりげなくこの作品のUAが50万を突破しました。ありがとうございます。もう規模でかすぎてピンとはきてないんですけどね。

250話も射程圏内。8月中にはいけるかな...?


ゆゆゆい編 63話

「お疲れ様でーす」

「おつかれー!じゃあ今日はこれで全員ね。部会を始めるわよ」

「はーい!」

「副部長は私なんだけどね...はぁ」

「...あら?これで全員なんですか?」

 

私の問いかけに、風先輩は「そうよ。あたしが部長代理」と答えた。確かに現部長である樹ちゃんがいないのは事前に聞かされていたが、ある意味この部で最も目立つ先輩の姿が見えない。

 

「樹ちゃんは、確か明後日開かれる高校籠球の方で開会の歌をすると」

「籠球(ろうきゅう)?」

「バスケのことよ...」

「そう!樹に開会式の歌を頼む依頼が来てね!?もう舞い上がっちゃって!!」

「はいはい。舞い上がってるのはあんたでしょ」

「というわけで、樹さんはそちらの打ち合わせ、雪花さんと芽吹さんが付き添いなのですが...東郷さんが仰りたいのは、椿さんですよね?」

 

ひなたさんの言葉に、私は一度頷いた。この部で唯一の男性はすぐにいるのか分かるし、何も話さなくても存在感がある。

 

「椿は別件の依頼なのよね。といっても、樹が出るバスケ大会の内容ではあるんだけど」

「というと?」

「なんでもうちの高校の出場メンバーが怪我をしたらしく、メンバーを募集していたらしいですわ」

「つまり、椿が明後日の大会に選手として出るということね」

「それは...大丈夫なのかしら」

 

確かに古雪先輩はそれなりに高い運動神経を持っているし、籠球もどちらかと言えば得意分野だった気がする。だが、それはあくまで『それなり』で『どちらかと言えば』というのを自ら話している。

 

「いきなり普段練習している方々に混ざってというのは...」

「ですので、今日と明日はバスケットの練習に参加しているそうです。『やらなくていいと言われたが、依頼として渡された以上はな』と」

「『頼ってくれるならなるべく答えたい』なんてのも言ってたわよ」

「そうでしたか...」

 

言っている姿が容易に想像できて、少し笑ってしまった。

 

「まぁ椿の他にももう一人代理だし、戦力ダウンは否めないでしょうけどなんとかなるわよ。あいつら何だかんだ運動神経良いし」

「でしたら、そちらはもう任せるということで...私達はどうします?」

「そこなのよ東郷!」

 

風先輩は最近使ってなかった黒板に文字と絵を書いていく。

 

(また、独特な絵を...)

 

「今週勇者部は樹と椿の依頼を除いてなる作業はゼロ。久々な完全フリーなわけだけど、そこで提案ってわけ」

「提案?」

「あたしは元々樹の晴れ姿を撮る使命があるから明後日行くけど、椿が出るんだったらそのまま応援しないかって提案よ。チア部っぽい格好で応援したり、横断幕っぽいの作ったりさ」

 

風先輩の提案を纏めるなら、古雪先輩を応援するための準備を勇者部全体で行おうということだろう。

 

「勿論やりたい人だけで良いわ。休日だしね」

「アタシやりまーす」

「私も!」

「私も是非行きたいです!」

「あややまで...?うーん、これだけ多かったら私はパスしとこうかな。人数多過ぎても迷惑だろうし」

「タマもパスかな。応援は行きたいが、ただ見てるだけはやりたくなって敵わん」

 

それぞれがどうしたいか意見していく。その間、私は__________

 

 

 

 

『古雪先輩、お疲れ様です』

『ん?東郷か。お疲れ』

『体に良い漢方を作ってみました。どうぞ』

『お、ありがと...んっ、んっ...何だこれ、そんな苦くないし寧ろ旨い』

『ふふっ、飲みやすいよう自分で作ったんですよ』

『本当か?自分で漢方ドリンク作るなんて凄いな...流石東郷!』

『ありがとうございます...あ、あの!この後も頑張ってください!』

『おう。体も元気になったしな。任せろ!』

 

 

 

 

 

(これはありかしら...?)

 

「東郷、東郷!」

「東郷さん?どうしたの?」

「あっ、ううん。なんでもないわ...」

「それで、あんたはどうする?」

「私は古雪先輩の応援をしたいので、何か手伝えることがあれば」

「よし、決まりね。じゃあ早速何を準備するか決めましょうか!」

『おー!!』

 

風先輩の声に皆が同調する。かくして、勇者部による応援の準備が始まった。

 

 

 

 

 

「と、意気込んでみたはいいものの...大したことしなかったわね」

 

あれから一日。樹ちゃんや古雪先輩は今日も出ていて、部室では遠慮なく準備が進んでいた。とはいえ、やることはかなり少なかったのだが。

 

「流石に二日間で新しいチア衣装ってのは難しいし、そもそもうち結構な種類があるのよね...」

「横断幕は全員で取りかかってすぐ終わっちゃいましたし」

「漢方はもう調合を終えたので、当日お湯を注ぐだけですし...」

「...待って東郷、漢方ドリンク渡すの?」

「えぇ。それがどうかしたの?夏凜ちゃん」

「......なんでもないわ」

「ともかく!なんか物足りない!アイデア募集!!」

 

(足りない...確かに、足りない)

 

思い返すのは普段の古雪先輩。細かい所まで目が届いて、教え方も優しく、銀と一緒だった時期があるからなのか柔らかさもある。一つ上の男性の先輩なのに、私も安心するというか。

 

そんな先輩が普段見れない姿で大きな晴れ舞台に立つというのだ。確かに物足りなさはある。

 

(なら、私達がするべきことは...)

 

「全力で」

『え?』

「全力でいきましょう。折角古雪先輩が出場するんです。出来うるかぎりの応援をしましょう」

「東郷...何か策があるのね?」

「はい」

「なら任せた!!!今回の監督は東郷、あんたよ!指示をお願い!!」

「分かりました...」

「と、東郷さんの目が燃えてる...私も手伝うよ東郷さん!」

「ありがとう友奈ちゃん...では、これより作戦を開始します。目標は古雪先輩に喜んでもらえるように!!」

『おぉー!!!』

 

拳を掲げる私達を止めるものは、いなかった。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

今朝、こんなメールが届いた。

 

『椿、ごめん、でも応援するから頑張って』

 

元々あまり絵文字を使わない銀だが、朝イチに謝罪をいれてくるのはあまりにも普通じゃなかった。返信を送っても未読のまま。

 

とはいえ依頼もあったので、疑問を持ったまま外へ。

 

『古雪先輩、お疲れ様です』

バイクを降りた所で突然声をかけられ、振り返ると東郷がいた。凜としたいつものものに柔らかさが混じった声は、安心すると同時にちょっと身が引き締まる。しゃんとするというか。

 

『東郷?樹を見に来たのか?』

『それもありますが、折角古雪先輩が出場する大会なので応援しようと』

『あぁ...』

『それから、これを』

『これは?』

『独自に混ぜた漢方を使用したお茶です』

『お手製!?凄いな...ありがと、東郷』

 

咄嗟に頭へ手を伸ばしかけて、その手を下げた。頭を撫でようとするのはもはや昔からの癖みたいなもんだが、精神年齢的にはもう高校卒業くらいになる彼女の艶やかな髪に触れるのは、彼女の心情的に微妙だろう。

 

『......そこまで上げて、しないんですか?』

『そんな睨むなよ...寧ろ弾く勢いでいいんだぞ?折角綺麗にしてる髪をくしゃくしゃにされたくもないだろ』

『......そうですね!』

 

(そんなそっぽ向かんでも...)

 

何故か余所を向いた彼女の髪の隙間から、赤くなった耳が見える。とはいえそのタイミングは一瞬で、すぐに東郷が前を向き直した。

 

『ともかく、頑張ってくださいね!皆で応援しますから!では準備がありますので』

『え、準備って...あ、東郷!』

 

声をかけ直す前に走り去ってしまった東郷に、俺はなんとなく嫌な予感を受けた。

 

 

 

 

そして、現在。

 

 

 

 

「......」

「......」

 

俺は静かにある方向を向き、視線を戻し、隣にいる倉橋裕翔に声をかけた。

 

「帰りたいぃ...」

「あーはいはい。うん。正直気持ちは分かるわ」

 

訂正するならば、声をかけるのではなく泣きついていた。

 

「なんなんだよアレ。あそこ」

 

指差す先には、俺のよく知る勇者部がいる。『fight!!』の横断幕は俺も製作に携わったし知っていることだが、問題はそれ以外に山積みだった。

 

「何で学ランにチアがいるの?」

「風のは見たことあるし...別に不思議なことじゃ」

「不思議だよ!!あそこだけ応援の量がおかしいよ!全国決勝レベルだよ!!」

 

いくら大会とはいえ、規模はまだ小さい地区の一回戦である。なのにあそこは声量も見た目も文句なしのレベルの高さだ。というか高過ぎる。

 

特に、国防仮面(仮面なし)の格好でかっこいい応援団の隊長をしている東郷。

 

(うん。かっこいいことはかっこいいんだけどさぁ...!)

 

おまけに、極めつけは横断幕。俺の知らない『古雪椿!!』とでかでかと書かれたものは、動いていないメンバーがしっかり持ってここまで見えている。別にこれだけなら、俺がその応援に応えるため全力を尽くすだけなのだが_____ただ、俺が気にしてるのは。

 

「もうそれしまえよぉ...今だけ改名したいよぉ...」

「相当参ってるな...」

 

今俺達が話しているのは、球を取り合い試合を行うコートではなく、ベンチ席だった。

 

俺と、ついでに裕翔に頼まれたのは、足りないメンバーの補充。しかし、試合に出せるだけのメンバーは依頼主たるバスケ部のメンバーでいるため、言うなれば『ベンチメンバーの代理、補充要因』なのだ。

 

万一のために練習は数日行ったが、あくまでベストは部員で固めること。俺達は更にアクシデントが起きた場合の保険であり、つまり試合に出ることは基本ない。

 

一番目立つグループの横断幕に書かれた選手が試合の場にいない。それを俺のよく知る皆が喜んでやってくれている。嬉しさもあるが、申し訳なさと恥ずかしさがあまりにもでかい。

 

「古海石榴(ふるうみ ざくろ)とかに改名したい...」

「なにそれ」

「椿は別の書き方で海石榴と書く......」

「そうなんだ...うん。豆知識ありがとね」

 

俺達の会話に、顧問の先生も少し気まずそうにしている。あの応援が始まった時点で『俺を出す理由にあれを考慮しないでください』とは事前に言ったので平気だとは思うのだが。

 

とはいえ、そっちを気遣える程の余裕は今の俺にない。

 

(穴があったら入りたい...)

 

いたたまれなさは、とんでもなかった。

 

「つ、椿!応援でもして気を紛らわせようぜ!ほら、追加点のチャンス!」

「...が、頑張れ~」

 

これ以上目立ちたくなかった俺は、なんとも言えぬか細い声しか出なかった。

 

 

 

 

 

結果だが、試合は圧勝した。

 

『いやーあんなに可愛い子達が応援してくれてたら、意地でも勝たないとな』

『それに、なんか古雪がくれた飲み物飲んでから凄い好調だったんだよ。どこで買ったんだ?』

 

この二言を言われた時、裕翔曰く俺は複雑すぎる顔をしていたと言う。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「お疲れ...あれ、東郷だけか」

「お疲れ様です、古雪先輩。もう他の皆は帰っちゃいました」

「友奈も?」

「高嶋さんとお買い物に。それに、少し編集したい物が残っていたので」

 

編集作業は一人で行うしかないため、ただ誰かを待たせるのが申し訳なく感じた私は自分から一人で残ることを伝えた。

 

「でも、古雪先輩はどうしたんですか?」

「聞いてなかったのか?バスケの依頼が今日までで、早めに終わったから顔出しくらいはしようかなって」

「ですが、確か試合は明日も...平日なので応援には行けませんが」

「元々俺は怪我人の変わりだからな。怪我が治ってきて復帰したから、俺はお役御免ってわけ」

 

古雪先輩はそう言って、椅子に座り鞄から本を取り出した。桜色の栞が本から指の間へ移される。

 

「あの」

「ん?どうした?」

「...送ってくださるんですよね。ありがとうございます」

「ん」

 

返事が想像できた私はお礼だけ言った。きっと私が「先に帰ってて構いませんよ」と言っても「ここまで来て、女の子一人残して先に帰るとかするか」なんて返ってくるだろうから。

 

「......」

「......」

「...そ、そういえば」

「?」

「凄かったですね。先日の籠球部員さんの活躍」

「籠球...?あぁ、バスケか。そうだな。特に後半...なぁ東郷、あの漢方ドリンク、ヤバいもの使ってないよな?」

「何ですかその表現は。そんなもの使ってません。市販されている物だけです」

「だよな...うん。悪い」

「......私達の方こそ、暴走してしまったみたいで」

「へ?」

「風先輩から聞きました。控えで古雪先輩が震えてたって...」

 

風先輩に当日の古雪先輩のことを話した別の先輩がいたらしく、さっきその話が出ていた。私の目的は古雪先輩を喜ばせるためで、困らせるためではない。

 

(失敗してしまった...)

 

「あぁ...さてはあいつか。余計なこと言いやがって」

「あの、古雪先輩...」

「......正直に言えば、出てないんだから横断幕くらいしまってくれればと思ったよ。凄い気合い入ってたし」

「っ」

「でも」

 

私の息を遮るようにして、古雪先輩が声をあげた。ただその後が続かない。

 

「...?」

「......でも...嬉しかったからな。あんな凄いの作ってもらって、一生懸命応援してくれて。だから気にしないでくれ」

「古雪先輩...!」

「あー今こっち見るな。見ないでください。思ったより口にするの恥ずかしいなこれ...」

 

そう言う古雪先輩は、確かに頬を赤くしていた。手で隠された隙間から小さく見える。

 

「何を恥ずかしがってるんですか」

「だって...自分がそれだけ良く思われてるって感じちゃうだろ」

「聞こえないですよ」

「聞こえなくていいから!あーもー!」

「ふふふっ」

 

私は微笑みながら、古雪先輩から見えないように動く。

 

(こ、こんなになるとは...)

一度誤魔化してしまった以上、気づかれたくなかった。聞こえないと言ったそれはしっかり聞こえてて、私も顔を赤くしてしまったなんて。

 

(...かくなるうえは)

 

「!?東郷?」

「じっとしててください」

「いや、何で」

「...古雪先輩と同じですよ」

 

頭を撫でながら私は言う。つい先日やられなかったことに対して。

 

(したくなったら、していいんですからね。私からもやりますから)

 

「おい...」

「動かないでください」

「......もう好きにしてくれ」

 

諦めたように、古雪先輩は本を閉じる。私はそれを見て、もう一歩近づいて頭を撫で続けた。

 

見られまいとしていた自分の頬は、もっと赤くなったように感じた。

 

 

 

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