古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回は☆ここな☆さんからのリクエストです!ありがとうございます!見る機種に関わらず☆がちゃんと表記されてることを願います。


ゆゆゆい編 64話

「千景に勝ちたい?」

「うん...お願いしたい。これは、私とシズクのお願い」

 

そう言って、しずくはあるゲームを取り出した。

 

「私達で、勝つ」

 

 

 

 

 

きっかけは、なんてことなかったらしい。しずく達が気になった対戦型アクションゲームを千景が持っていて、一緒にプレイして。

 

『ごめんなさい。手の抜き方が上手く出来なくて』

 

七戦全敗した後の台詞。多分千景は悪気があって言った訳じゃないのだろう。千景が持ち主だし相手は初心者、そういった所からの発言だと推測は出来る。

 

ただ、目の前の少女達にはそれがクリティカルヒットだったようだ。

 

(あいつも不器用というか、なんというか...)

 

ある意味もっと酷い罵声を浴びせられてたことのある俺だが、こう言われたら別の意味で傷ついていた気がする。

 

とはいえ、それは過去の話であり。

 

「それで、俺は練習相手になればいいのか?」

「うん。カセットも持ってるって聞いた」

「あぁそれで...そうだな。そういうことなら協力するぞ」

 

千景にリベンジしたい気持ちがよくわかる俺は即諾した。何より、喧嘩ではないものの険悪な雰囲気は嫌なのだから。

 

(にしても、珍しい組み合わせだな)

 

「じゃあ、泊まり込みで特訓」

「それはダメに決まってんだろ!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「どのゲームでも通じることだとは思うが、まず基礎と定石を学んで、そっから視野を広げて応用技を身につけるのが大事だと思うんだよな。基本は」

「基本は...?」

「あぁ。こういう対人ゲームなら、より勝率を上げるために、上手いプレイをするために...だけど、それだと千景が相手なだけあってどうしても時間がかかる」

 

あまり物がない私のテレビ前で、ゲームを立ち上げながら隣に座る人はそう言う。

 

「だがまぁ、『千景を倒す』ことだけに注力するならば、それは必ずしも当てはまらないだろう」

「どうして?」

「人だから当然癖があるし、その時の気分で状況なんて変わる。一人の相手に勝つだけなら、そいつの弱点をついて、苦手な攻撃をし続ければいい」

「...汚い」

「まぁその辺はお前がどう勝ちたいかによるよ。ただ白星が欲しいだけならユウに頼んで千景の隣でちょっかいかけてもらえばお前の勝率は跳ね上がるだろうさ......でも、そうじゃないだろ?」

 

こうして話してくる所は、凄く上級生っぽく感じる。実際上級生なのは分かってるけど、ため口で話してる私の同級生が多いから普段はそこまでそう感じないのだ。

 

(...防人の一番年上、弥勒だし)

 

「お前はどうしたい?どう勝ちたい?」

「...郡にタイマンで勝ちたい。とりあえずそれだけ」

「キャラは何でもいいか?」

「拘りはない」

「了解。じゃあ千景がよく使ってるキャラが苦手な奴を選んで、基礎の動きを練習したらひたすら対戦するか。なるべく千景に近い動きを出来るよう頑張るよ」

「出来るの?そんなこと」

「結構戦ってきてるしな。癖くらいはなんとなく」

 

それは、観察眼の成せる技なのか。それとも__________

 

「それじゃ、適当に教えてくから」

「分かった。よろしくお願いします」

「おう。よろしくされた」

 

 

 

 

「だぁらっしゃぁぁあぁ!!!」

「うおっなんだそれ!?」

 

郡の真似をしたこいつの腕はなかなか上手く、とはいえこれで俺達が三勝ずつ出来た。

 

「それ繋がるのか...嘘だろ......」

「どうだ見たか!」

「確かに腕上げたな。この短時間でよくやれる...亜耶ちゃんといい、防人組はゲームセンス高いのか?」

「へへっ、まぁな!そら、次やるぞ!」

「お...いや、ちょっと待て」

 

隣に座っていたこいつは、スッと立ち上がった。

 

「おい、どこいくんだ?」

「飯だよ飯。作らなきゃいけないから一人で練習しててくれ」

「...手伝わなくていいのか?」

「どっちでも構わないぞ。ゲームしてても手伝ってくれても。飯はとりあえずお前の分も作るから」

「おう...」

 

(シズク)

(分かってる)

 

心の中から聞こえる声に即答して、俺はゲームを操作した。

 

「...っし。ゲーム終了っと。手伝うぜ」

「いいのか?」

「教えてもらって飯までただ作らせるんじゃ虫が良すぎるだろ?寧ろお前が何もしなくていい」

「えぇ...」

「ほら、冷蔵庫の中身で適当に作ってやるから、風呂でも入ってこい!!」

「あ、ちょっ、強制!?」

「当たり前だ!!」

 

こいつは面倒見が良いが、良すぎるのも考えものと言える。もう少し我が儘というか、暴れてもいいと思うんだが。

 

「そらそらっ!」

「...冷蔵庫に冷奴とチンジャオロースの具材がある。後は米と味噌汁。作り方は分かるか?」

「んなもん分かるに決まってんだろ!」

「......じゃあ、任せるよ」

 

そう言ってリビングから大人しく出ていく姿を見て、俺はほくそ笑んだ。

 

(...なんつーか、やっぱバカみたいに優しい奴だよな)

(そうだね...)

(まぁいいか。じゃあしずく、チンジャオロース作ってくれ)

(?シズクはサボり?)

(ちげえよ。お前がレシピ知ってるだろ?)

(知らないよ?)

(...は?)

 

俺達は、速攻で固まった。

 

 

 

 

 

「ん。美味しい」

「...よかった」

 

大口を(シズクが)叩いておいて、スマホで検索してレシピを見ながら作ったとは言いづらく、私はそう言うだけにした。

 

目の前のまだ髪が少し濡れている彼は「また味付け違うな」なんて言いながらご飯と一緒に食べている__________が、その顔は微妙そうだった。

 

「...何か、悩み事?」

「ん?あぁいや...風呂入ってた時から考えてたんだ。あれについて」

 

指をさしたのは、さっきまで遊んでいたゲーム機。

 

「さっきのプレイを思い返してさ。当然だけど、千景に勝つのはかなり難易度が高い」

「うん。そもそも、さっき勝てたのだってそれ以外負け続けてやっと」

「まぁ、それは...んんっ。でも、俺がさっき言ったこと覚えてるか?人だから当然癖があって、苦手な動きをすればいいっての」

「うん...」

「千景の苦手なことをすればいいが、当然千景自身も警戒するし、しずくの苦手なことをすぐ読み取ってやってくるだろう」

「...」

「でも、そこがチャンスかなって」

「??」

「確かに千景は適応能力が高い。技術もある」

 

どうにも要領を得なくて、私は首を傾げる。

 

「やれるかは二人次第だけど...二人にしか出来ない、面白い戦法があるなって」

 

それに対して、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「決闘して。私達と。この前のリベンジマッチ」

「...いいわよ」

 

しずく達と練習を重ねて数日。二人の会話から、部室でのバトルが始まった。

 

大きめのパソコン画面へゲームを表示させ、二人は早速キャラを選んでいく。

 

(この前と同じキャラか...よかった。助かった)

 

三人して、千景がそのキャラを確実に使う確証はないというのを対策特訓を終わらせてから気づいたため、根底が崩されたら流石にきつかった。

 

「椿さん、これは...?」

「あぁひなた。すまん、パソコン使いたかったか?」

「いえ、それは結構ですが...」

「......珍しいものが見れるかもしれないぞ」

 

小さく、今来たばかりのひなたにだけ聞こえるように言ったのだが、何故かちらりと千景が見てきた気がした。

 

「じゃあ、よろしく」

「えぇ...リベンジは受けたけど、そうそう成功させないわよ」

「分かってる...それでも、勝つ」

 

確かな決意の籠った声をしずくが漏らし、対戦の画面が表示される。

 

(悪いけど、今回はしずく達を応援するからな...頑張れ)

 

すぐに対戦は始まった。最初に攻撃を仕掛けたのはしずく。千景は様子見なのか、防御寄りの動きを始めた。

 

この場面だけ見たら、押しているようにも見えるが__________

 

「確かに、腕をあげたわね」

 

千景が相手の力量を見定めながら、徐々に攻撃の手を増やしてきた。しずくの攻撃は少しずつ勢いをなくし、五分になり、劣勢へと変わる。

 

「ッ!やるなぁ!!」

「!」

 

一瞬ズレたタイミングが、優勢だった千景にダメージを与えた。犯人はしずくじゃない。

 

「成る程...そういうことね」

 

やられたことを理解した千景は、一瞬で体勢を立て直した。

 

しずくから操作を変わったシズクは、それでもがむしゃらに攻撃を続ける。

 

「はぁっ!!!」

 

相手が圧倒的に速く癖を読むなら、操作する人を変えて読ませなくすればいい。しずくからシズクへ変われる二人だけの戦法である。

 

「......」

 

とはいえそれも幾らかの時間だけで、すぐに千景の攻撃が増えてきた。しずくより回避、防御が得意じゃないシズクはそれなりのダメージを貰ってしまう。

 

(流石千景だな...無言で集中し始めた)

 

ゲームにおいて、やはり千景は最強に思える。少なくとも俺と近しい仲の人の中では間違いなく一番。

 

「これは...」

「やっぱ千景は上手いな」

 

(...だが)

 

「このくそっ!!」

「...?」

 

悪態をつくシズクだが、状況は少しずつ五分へと戻っていく。千景の読みが急に冴えなくなったように、攻撃を外すことが増えた。

 

(始めたか)

 

理由を知っている俺は、一人ほくそ笑んだ。

 

「椿さん?」

「...いや、いい試合するなって」

「今度は私」

「っ、これは...どうして」

 

声色はしずくに代わり、千景が動揺の声を漏らす。状況は完全に五分に戻った。

 

「......!!」

(よくやるよ...)

 

二人が行ってるのは、千景の頭を混乱させること。二人のプレイングスタイルをそれぞれ見せ、その上で『お互いの演技をしながら戦う』こと。

 

(銀と一緒に話ながらゲームしてた経験が、ここで生きるとは)

 

「そらそらどおしたぁ!!」

「なっ、くっ...」

 

普段なら声帯というか、声の強さも結構違う。それをもう一人の自分に合わせ、口調を合わせ、でもプレイングは自分のものを貫くことで、実質四パターンの攻撃が千景の判断を鈍らせる。

 

今も、声を張り上げているのはしずくだ。確かに同じ口から出してる言葉だが、普段とは全然違う。

 

(練習の甲斐があったな...)

 

上手く動かす他に、上手く声を混ぜれるよう演技の練習もした。流石の千景も一回の対戦で実質四パターンの違いがある対戦相手なんてのは、戦ったことがないだろう。

 

寧ろ、色んな対人戦に慣れてきた彼女だからこそひっかかる。

 

「......そういうわけね。やるじゃない。でも...!」

 

千景も気づいたみたいだが、状況は不利と言えるくらいにはなった。

 

「ここからが...俺達との勝負だ!!」

 

二人も勝てる自信がついてきたのか、より攻める。

 

後はもう、一進一退の攻防だった。俺自身余計な口も出さず、見入ってしまうくらいには。

 

「頑張れ...二人とも」

 

 

 

 

それから決着までは、二分くらいだった。

 

「あーっ!!」

「ふぅ...危なかったわね」

 

コントローラーをブンブン振り回すシズクに、大きく息をつく千景。どちらが勝者なのかは言うまでもないだろう。

 

「惜しかったな。でも三人ともナイスファイト」

「うぇぇぇぇ!!!」

「うごっ」

「勝てんかったぁぁぁ!!!!」

 

やたら良いタックルを腹に受け悶絶するも、当のシズクはお構い無しといった様子だった。

 

「ちょ、いたい、やめろ泣くな、俺の服で拭くな!」

「......ごめん」

「あ、うん...と、とりあえずお疲れ様」

 

頬を少し赤くして離れるのはしずく。急に戻るのはテンションの差が激しすぎて流石にビビってしまうが、逆に俺も冷静になれた。

 

「...まぁ、あれだけギリギリの試合だったんだ。勝ちたきゃまたリベンジすればいい」

「...そうだね」

「やっぱり今の戦い方、貴方の入れ知恵だったのね」

「入れ知恵ってお前...」

「だって彼女達だけで考えるより、貴方が助言したって方が納得できるもの。それぞれの演技をしながら戦って私を混乱させようだなんて」

 

そう言う千景の顔は確信を持ったもので、俺は頬をかきながら頷くしかなかった。

 

「確かに、提案したのは俺だが...」

「やっぱりね...でも、お陰で面白い試合が出来たわ。ありがとう」

「そりゃよかった」

「山伏さん達も、対戦ありがとうね」

「...戦術はバレたけど、次も、手を抜くなんて言わせない」

「?...そんなこと言わないわ」

「そんな感じのことを言われたって、しずく達が言ってたぞ?まぁ本心でないとは思ってるけど」

「言ったかしら...」

 

思考する千景に、「言ってた。だから特訓をお願いした」と続けるしずく。やがて、彼女が頭を下げた。

 

「ごめんなさい。不快な思いをさせてしまったみたいで...そういったつもりはなかったの。多分...珍しく貴女達が声をかけてくれて、一緒にゲームしてくれたのが嬉しくて、何か言おうとして......」

「ぁ...」

「な?言った通りだったろ?」

「...うん。ありがとう。椿」

「ん」

 

少し口角を上げて微笑むしずくは、凄く嬉しそうにしていた。

 

(よかった...)

 

「よし。じゃあ折角四人いるし二対二でやろうぜ。ひなたも」

「よろしいんですか?私では役不足かと...」

「そんなの気にしなくていいわ」

「うん...皆で、楽しくやりたい」

「......それでは」

「決まりだな」

 

思い立ったらすぐ行動するのが勇者部らしさであり、今回も一度消したゲームを再起動させるのはすぐだった。

 

(にしても...)

 

俺は横目で千景の方を見る。仲間が増えたからか、その顔は嬉しそうだ。

 

(変わったな...千景)

 

相手に歩み寄ろうとする姿は、流石にユウが隣にいる時が多かったから。すぐ自分から謝って、説明して。そういった姿は、どことなく嬉しく思う。

 

「...どうかした?」

「いや、なんでもない」

 

だが、俺は何も言わなかった。『妹の成長を喜ぶ兄みたいな気分になった』なんて言ったら、何かお小言が飛んでくるに決まってるから。

 

「椿さんが私を守ってくれるんですか?」

「...お望みならば。お姫様」

「じゃあ山伏さん、あのナイトを二人でやっつけましょう」

「ん、ぼこぼこにする」

「......守りきれる自信は今なくなったけどな」

 

楽しそうに言ってくる二人から目を反らした俺は、ひなたへ乾いた笑いだけを届けた。

 

結果は文字通り(俺が)蹂躙されたが、三人が笑顔だったから、まぁいいだろう。

 

 

 

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