前置きはこのくらいにして、今回もゆゆゆい編です。これももうすぐ70話いくのか...
夏で幸せを感じる瞬間は何だと聞かれた時、俺の答えはまちまちではある。ただ、特定の時間は決まっていた。
(あえてエアコン切ってから食べるアイス、美味しぃ......)
外を数分歩けば茹でダコになりそうなくらい厳しい暑さの残暑日。IQが下がってそうな状態でソファーにだらけながら、俺はアイスを食べていた。
ここ数日は異常な暑さが続き、外で遊ぶ子供達へ注意喚起が出る程。そのため、勇者部の活動も普段より控えめになっている。
結構忙しい部活動がなくなると、自分で使う時間が増える。とはいえ流石に外に行く気も起きない俺は、ゲームをやったりプラモを作ったりといったことばかりしていた。
(あ、友奈と東郷と芽吹から返信来てる)
その休憩時間、アイスを食べながらスマホの通知欄から届いていたメールに返信した俺は、大きく息をつく。
「はふぅ...」
(誰かから出かける連絡でも来るかなーなんて思ったけど、それもなし。久々にゆったりした時間だが...物足りなさはあるな。やっぱり)
普段が煩いとまではいかずともあの人数なわけで、突然それがなくなるのはどうしても考えてしまうものがあった。
(ま、とりあえずこの後はさっきの続きでも...)
「?はーい」
静寂を破るように鳴らされたインターホンに従って外に出ると。
「づっぎぃぃぃいー!!」
「は、そのうわっ!?」
インターホン以上の声をあげる園子が、体当たりをかましてきた。
「うまーっ!!」
「そりゃよかった。はい。水分もちゃんと取りな」
「ありがとつっきー!」
一瞬でバニラアイスを平らげた園子は、続けて出したお茶も一気に飲み干した。その顔はご満悦だ。
(そりゃ、この暑さの中歩いてるわけだしな...バカになりかねん)
「にしても、こんな日に大赦に用事とはな」
「ホントなんよ。私としても断ればよかったんだけど、まさか今日に限ってこんなに暑いとは思わなくて...」
「!」
服の胸元を持って動かす園子から目を反らしながら、俺は彼女の目の前に羽なし扇風機を置いた。最近親が買ったものだ。
「んで、その帰り道で限界を感じたお前はうちに寄ったと。着替えとかあればシャワーも貸せるけど...」
「つっきーの家にはないの?着替え」
「女物の服は母親のだけだよ。当たり前だけど。銀に取ってきてもらうか?」
「んー...ミノさんに申し訳ないから」
「じゃあそれで我慢してくれ」
「......我慢はしたくないなー」
「そうだよなぁ...その服をすぐ着直すのも嫌だろうし......」
一着くらいなら銀の服もうちに残ってそうではあるが、あっても小学校時代の物だ。今の園子じゃ着れないだろう。
とはいえ、シャワーを浴びるなりでさっぱりさせてあげたい気持ちもある。
「...お前が嫌じゃなければ、フリーサイズの俺の服が」
「そうする!!嫌じゃない!!」
「おぉっ、返事が早いな...分かった。風呂はどうする?シャワーにするか?」
「じゃあ、シャワーかな」
「了解。じゃあちょっと待っててくれ」
答えてから、俺はリビングから自分の部屋へ行き、あまり着てない服をタンスから出した。ここで園子を先に風呂場へ行かせるようなことはしない。
(それなりに読んできたからな。この手の展開は)
洗面所に俺が服を届けると、園子が服を脱ぎかけで~なんて展開になるわけにはいかないわけで、対策はバッチリだった。
当然、見たくないとは言わないが________
(いやいや、後で殴られても文句言えないし)
邪念を振り払いつつ、俺はまたリビングに足を向けた。
「ほら、これ貸すから入ってきな」
「わーい!!ありがとうつっきー!!」
「ん。今の服はハンガーで干すとかしとけば、うちで休んでる間に乾くだろ。この服で帰ってもいいし。好きにしてくれ」
「はーい...ねぇつっきー」
「?」
「一緒に入る?」
「早く行ってこい!!」
「んー...よし」
「ふわぁー、さっぱり!!」
「お、あがったか」
「うん!ありがと~」
今日は両親の帰りが遅く、夕飯も食ってくる旨の電話を受けて、献立の組み立てを脳内で済ましてる間に園子が戻ってきた。サイズはちょっと大きかったようで、袖が掌の半分を隠している。
「下は短いのにして正解だったな」
「!う、うん...でも、今お風呂に行っちゃダメだからね?」
「?何で?」
「何でも!!」
「お、おう...」
珍しくプンスカ怒った様子の園子に、俺は頷くことしか出来なかった。目力による圧を感じたのもあるが、近づいた園子からふわっとした香りが来たのが大きい。
(おかしい...同じシャンプーの筈なのに......)
「...それで、服が乾くまではどうする?うちにいるか、帰るならバイクで送るぞ」
「そうだねぇ、折角だしお邪魔しちゃおうかな」
「了解。じゃ、何するか...」
「さっきまで何してたの?」
「プラモ作ってた。でもあれは一人で作業するもんだしなぁ...なんか手頃なゲームでもするか?」
「...全く、もう」
「んっ」
何故かおでこをつつかれ、一歩よろめいた所を詰められる。
「ど、どうした?」
「つっきーはいつも皆のことを考えて動くんだから、今日くらい気にしなくていいんよ?私は置物だと思うと考えてれば楽でしょ?」
「いや、そういうわけにも...」
「押し掛けてきたのは私だし、つっきーの予定を変えたくないの」
「普段暴れる筆頭が何を」
「つっきー?」
「悪かったすいません!!」
壁まで追いやられた俺は両手を上げて降参の意思を示す。
「でも、俺は園子をほっといて気にせずに過ごすとか無理だから」
「!っ、じゃあ、私が今したいのは一人でプラモデルを作るつっきーが見たいから見せて!!」
「えっ」
「ほら、きっと部屋でやってたんだよね?ゴーゴー!!」
「え、あ、そっ、園子!?」
肩を掴まれ、あれよあれよという間に連行される俺と、連行していく園子。
当の本人は、俺を引きずりながら笑っていた。
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つっきーの一人で何かをする姿は、実はそんなに珍しくない。私が勇者部に入る前、皆が勇者として活動を始める前はメンバーの数もかなり少なかったけど、勇者部の唯一いる男の子という立場は変わらないから、重たい物を運んだり、パソコンに何かを打ち込んだり、疲れて寝てたり。そういったことは部室でも見れたりする。
「Gの5、後はBの3...」
でも、多分部室でのことを除いたら、逆につっきーが一人で何かしてる姿を見ることが極端に少なく思えた。精々が待ち合わせまでに本を読んでたり、スマホを見てたりするくらい。
つっきーは誰かが遊びに来ればゲームの用意をしたり話ながら料理を作ってたりしてる。誰かが目的を持って誘って来てるわけだし当たり前ではあるんだけど、だからこそこうして誰かの目を気にせず、自分の趣味に真剣に打ち込んでる姿を見れることはない。
『椿の部屋に面白いマンガ置いてあってさ。持ち帰るのも面倒だし読んできちゃった。あいつも隣でゲームしてたけど静かに集中してたし、滅茶苦茶面白かった!』
(きっと、それが珍しくないのはミノさんだけの筈...)
多分、普段であればつっきーとしても気にならないのはミノさんだけなんだろう。きっと、ずっと前から隣にいる方が自然な関係だから。
「......あの、園子?」
「んー?」
「流石に、それだけ見つめられてるとやりにくいんだが...」
「気にしないで?」
「そう言われても...大体楽しいか?俺なんか見てて」
「楽しいよ」
それは断言できた。見ていて飽きないし、私自身凄く楽しめている。
「でも、つっきーが気になるって言うなら......」
「...?言うなら?」
「......うん。こうだ」
躊躇うのも一瞬ならば、決めるのも一瞬。僅かに出た熱を払う様にして、私はつっきーの後ろに立つ。
「園子?」
「これなら私は見えないよね?気にならないでしょ?」
「いや、圧っぽいのを感じるんだが...ほら、その辺の本とか読んでいいから」
「むー...えいっ」
「!?」
つっきーの体がぴくんと動くのを体全体で感じながら、私はよりつっきーの背中にくっついた。
「園子さん!?」
「私はつっきーが見たいなぁ」
「いいよ見なくて!!というかくっつくのはやめて!!」
「ほれほれ、ここがええのか~?」
「んっ!?んんッ!!」
耳が弱いのは知ってるから、そこを指で遊んでみる。内側をなぞったり、裏側をかいてみたり、小さめな耳たぶをふにふにしたり。
「気にせずプラモ作りに戻るなら、耳はやめてあげましょう」
「っ...わかっ、た、から...やめっ!」
「んっ...よろしい」
仕事を失った手は肩に置いて、体も離す。
(...うん。流石にね。うん)
「ふぅ...続ければいいんだな?」
「うん。あ、でも他のことしたくなったらしていいからね?後今私の方を見ないこと」
「?」
「なんでもだから。いい?」
「分かった...気にせず肩も動かすからな」
「はーい」
「どのパーツからだっけ...」と言って前を向くつっきーに、私は気づかれないよう息をついた。お陰で、真っ赤になった顔を落ち着けることが出来そうだったから。
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「それじゃあバイバイ、つっきー!」
「あぁ。またな」
日も暮れて暑さが収まってきた頃に園子をバイクで送り、ついでにうどん屋に寄って肉うどんを注文する。その頃には疲労感が襲ってきていた。
(いや、随分緊張してたんだなぁ...)
視線について聞けば抱きつかれ、肩を揉まれ、着替えを済ませた後もバイクの後ろに座る。今日は園子と会ってから基本的な距離が近かった。
特に、部屋に行ってから背中を襲われた時は、意識が全部背中へ集中するのを避けられないレベルでヤバかった。風呂から出たばかりの彼女に対して理性が大変なことになっていた。
(あいつ、あんなの見てて何が楽しいのか...)
相手が芽吹なら分からなくもないが、それ以外のメンバーは正直そこまで興味もないジャンル。その上一緒に作ってるわけでもない。でも、園子は実際後ろにいた時もご機嫌そうに鼻歌なんて歌っていた。
「おまたせしました。肉うどんの大です」
「あ、どうも」
(...まぁでも、いっか。本人が楽しそうなら)
理由は分からなくとも、特に悪いことが起きた訳でもない。寧ろ裕翔辺りに話でもしたらまた鉄拳が飛んでくるかもしれないが。
(触らぬ神に祟りなし。いや、この場合は口は災いの元か?言わない方がいいな。うん)
ほっかほかの肉うどんを箸で持ち上げて冷ましつつ、方針は決めた。
(大体、うちで着替えてたってだけであいつは反応......ん?)
気づいた_____気づいてしまった違和感は止められず、逆に俺の右手は動きを止める。
着替え直した上で、俺が貸した服は洗って返すと譲らなかった園子。彼女が洗面所に行くなと言った意味。背中に伝わった熱の差。
(......いや、いやいやいや。園子だぞ。sonokoだぞ。普段はぽけーっとしてるけどしっかりする時はしてる園子だぞ。そんなことするわけない静まれ俺それは個人的なただの妄想で幻想に過ぎないあれでもやっぱりあれはいや待ておかしいおかしいおかしいから__________)
考えれば考える程深みに嵌まり、意識が持っていかれる。気づいた頃には、目の前の肉うどんは冷えていた。
(...帰ろう。うん。全てを忘れて帰ろう)
翌日。
「おはよう椿...って、なんだよその顔!?どうした!?」
「あぁいや...うん。何でもないんだ。うん」
学校に来た俺は、大きな隈が出来て目が死んでいながら笑顔だったとかなんとか。
(あいつ...どうしてくれるんだぁぁ...!!)
「おはよ~ゆーゆ」
「おはようー!あれ、園ちゃん寝不足?」
「え?」
「ホントだ。ちょっと目の下、隈出来てるわよ」
「ぁ、うん...ちょっとね~」