古雪椿は勇者である   作:メレク

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この作品もついに250話を迎えました!折角なので何か記念っぽいことをしようかとも考えましたが、何も思いつかなかった。

今回はmegane/zeroさんからのリクエストです!ありがとうございます!

数話前に偽名出してたし、この話は必然だった...?


ゆゆゆい編 68話

「では、今日も部活を始めます!」

『はーい』

 

樹の声に皆が返事をする。あの樹が成長して~というのはもう流石に心に留めるだけになってきた。

 

「休日ですが、今日は色々やらなきゃいけない依頼、明日の市民会館での劇の最終チェック等、しなければならないが多いので部室を開けて貰いました。既に重たい物を運ぶ依頼を椿さんと銀さんが行っている連絡が来ましたが、私達も負けずに頑張っていきましょう!」

『はーい!』

「樹の指揮も慣れてきたものだな」

「そうね。私が入部してきた時とはホントに変わったわ」

「......うっ、ぐすっ」

「風先輩、そろそろ泣くのは...」

「だっでぇ、だっでぇ...!」

 

あたしの次に樹の成長を見てきた椿がここにいないのが残念で仕方なかった。とはいえ、あいつがいても『風、そろそろいい加減なぁ』とか言いそうではあるけど。

 

「お姉ちゃん落ち着いて...それではこれから各依頼を割り振って」

 

樹の話を遮る様に鳴ったのは、他ならぬ樹のスマホだった。素早く確認した樹は不思議そうな顔をしながらポケットにしまう。

 

「樹ちゃん?」

「いえ、銀さんから依頼が終わった連絡が...」

「もう終わったのか!?タマげたなぁ...」

「はい。なので二人を入れ直してもう一度割り振りたいと思ったんですが...ちょっと気になる文があって」

「気になる文?」

「これなんですけどね」

 

すっと皆に見せてきたのは、今さっき受け取ってた銀からのメール。

 

『こっちの荷物運びの依頼、案外アタシ一人でもあっさり終わったから今から部室向かいまーす!あと、皆驚かないよう構えといてね』

 

「構えとくとは...一体なんなのでしょう?」

「椿が遅れたから簀巻きにされて怒られるとかかしら」

「ええっ!?椿先輩が!?」

「...確かに、文脈として三ノ輪さん一人でやったようだし、あり得るわね」

「ぐんちゃん、椿君がそんなことすると思う?」

「普段ならしないけど、彼だって完璧超人ではないもの...だから心配でもあるけれど」

「また何か厄介なことに巻き込まれてなければ良いですわねぇ」

「残念それは叶わない!!」

『!?』

 

勢いよく開いた扉の方を見れば、ドアを開けたポーズのまま固まった銀がいた。

 

「銀か。早かったな」

「でも、叶わないってどういう...」

「言葉通りの意味さ。椿はもう厄介なことになってる」

「それはまた...って、そちらの子は?」

 

よく見ると、銀は小さい子どもを背負っていた。多分五、六歳くらいだろうか。少しぼさっとした黒髪と、若干年に似合わない疲れた目が印象に残る。

 

あたし達の中で一番最初に反応したのは_____

 

「!?ちっちゃい椿が何で!?」

 

ちっちゃい方の銀が驚いたことで、ほとんど答えが出た。

 

「ちっちゃい椿って...」

「それじゃあ、その子は」

「小さいアタシせいかーい!ほら、挨拶して」

「子ども扱いはやめろと...はぁ。どうしてこんなことに」

 

すらすらと聞こえてきた声は普段より凄く高いものの、どことなくいつもの感じがして。

 

『椿(先輩)!?』

 

私達は大きな声をあげるばかりだった。

 

 

 

 

 

「いやー、まさかアタシの方がお姉ちゃんになるとはなぁ。懐かしぃ~」

「やめっ、銀ちゃん!頭撫でるなぁ!」

 

小さい方の銀に頭を撫でられてる椿は面白いものの、あまりそうも言ってられなかった。

 

「これ、また神樹?」

「そのようですね...今回は数日間みたいです」

 

巫女の意見を代表して言ってくれたひなたが、大雑把に伝えられた神託を口にする。集中しているのか、あまりこっちに説明してるような感じではない。

 

「何が目的なんだあの神樹は...って、ひなた?何その顔...」

「いえ、普段通りですよ...小さい椿さんが思ってた以上に可愛いとか、ちょっと意地悪したいとか全然」

「嘘だぁ!?てかカメラ構えるな!!写真撮るなぁ!?」

「これはSDカードが一杯になります!!」

「ひなタン詳しく」

「お前らぁ!!」

 

いつも通り叫ぶものの、舌足らずにも聞こえる声には全く覇気がなく、寧ろ可愛く思える。実際、暴走気味のひなたもより動きを激しくしていた。

 

「しかし、いいのか?このままで」

「神託では、何もせずとも数日後には治るみたいで...逆にその間は何をしても戻らないみたいです」

「みーちゃん達の言葉通りなら、打つ手なしってわけね。じゃあもう気にしなくていいんじゃない?」

「確かにね」

「あんた達も慣れたわねぇ...」

 

その通りとはいえ、落ち着いた対応に少し呆れてしまった。

 

「......」

「...樹?」

「!?どうしたのお姉ちゃん?」

「いや、ぼーっとしてたみたいだから。大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だよ...とりあえず、椿さんに関しては気にしても仕方ないみたいなので、ほっときましょう」

「樹ぃ!?」

「皆さんも年下の椿を味わえるのは今しかありませんよ!!かかれぇ!!」

「銀ちゃんそんなこと言うのは...おい何だその構えは。やめろ。やめっ!!」

 

(別に、普段から椿は年齢的には下だし)

 

どうせ見るなら年を10くらいプラスした姿を見たかった________なんて少しだけ思いながら、あたしはもみくちゃにされ始めた椿を見ていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「全く、ホントに...」

「悪かったって。サプライズで見せようなんて言ってさ」

「反省は?」

「してない。あ」

「はぁ...」

 

わざと大きくため息をついた椿は、「まぁ、もういい」と言って歩きだした。向かっているのは町の中心部で、ゴミ拾いの依頼のためだ。

 

起きたらあの姿になっていたという椿は、多分椿の見た目に違和感を持たないようになっていたご両親から『こんな小さい子が持っちゃいけません』とスマホを没収されて、大赦にも話が通じそうな人と会う前に門前払いされてしまったらしい。

 

アタシは別に小さい頃から知ってる顔だったから、すぐに対応できた。アタシに気づいた椿の嬉しそうな笑顔はかなりグッと来たものがあったけど、今は置いておく。

 

「友奈とユウには高い高いされるし、芽吹とか若葉達には頭撫でられるし、ひなたにはそれを滅茶苦茶写真撮られるし、園子はもう小説書き出すし...どうせなら精神年齢も下がって喜べればよかった」

「それはそれでどうなの?」

「確かに...後々ベッドの上でもがいてそう......」

 

どこかの有名な名探偵みたいに見た目だけが子供になってしまったことは椿としては複雑のようで、アタシとしてはちょっと残念だった。いくら声が高くなって一々動作に可愛さが出てきたとはいえ、思い出の言動とのギャップが激しくて微妙な気持ちになる。

 

(どうせなら、中身の子供になった年下椿に思いっきり甘えられたかったな...)

 

「でも椿さん、可愛いですよ」

「やめろ樹。撫でるなぁ...」

「あぁ......!!」

 

とはいえ、それはこの姿の頃の椿を知っているアタシだけの悩みらしく、現に隣を歩く樹ちゃんはなかなか怪しい笑みを浮かべていた。普段なら椿も気づきそうだけど、まだ視野や高さに慣れてないからか、気づいた様子はない。

 

(ずっと椿はお兄ちゃんっぽく、樹ちゃんを妹みたいに接してたもんなー...)

 

椿と樹ちゃんが初めて会った時からアタシは椿と一緒だったわけで、最初の頃お互いがどういう話をしてたか、どういう風に仲良くなったかは全部知っている。だからこそ感じるところはあった。

 

「まぁまぁ。たまには年下気分を味わっときなよ。勇者部には同学年までしかいないんだからさ」

「それでもこの扱いはなぁ...分かった。大人しくしてるからそんな顔しないでくれ。樹」

「言いましたね?二言はありませんよね?」

「その発言で撤回したくなったけど、どうせやられること変わらないだろうしなぁ...この体じゃ逃げることも出来ないし」

 

普段なら戦衣を着てダッシュで逃げるなんてこともしたりする椿も、今回はダメらしい。そもそも今向かっているメンバーも、椿が突然迷子になったりしないよう素の身体能力が高いアタシと、部長として話が通しやすい樹ちゃんという椿のことを考えての構成だ。

 

「そう言えば、今の椿も勇者システムは使えるの?」

「さっき確認はしたが、使えばするけど戦えないって感じかな」

「戦えない?」

「展開そのものは出来るが、服のサイズが合わない。自動で調節してくれる機能が戦衣には搭載してないのか、それとも勇者システム共通なのか...その辺は謎だが、今の俺は戦力にならないさ」

「そっか...じゃあ尚更守ってやらないとな!!」

「おっ、うわっ!?」

 

アタシは椿を抱えておんぶの形へ持っていく。

 

「椿は離すとすぐどっか行っちゃいそうだしな」

「別に行かないわ!精神年齢は下がってないんだっての!」

「ほらほら、ゴーゴー!」

「ちょ!揺れる揺れる!!荒い走りするな!!」

「ふふっ...」

 

小走りで行くアタシ達に、樹ちゃんは笑いながらついてきた。

 

 

 

 

 

「...しっかしまぁ」

 

自分の身長の半分くらいあるトングを使ってゴミを拾いながら、椿が呟く。

 

「背丈が変わるとやっぱり変な感覚になるな」

「普通はそんなことないから」

「分かってるよ。誰が一日でこんな身長になるんだって話だよ...だが、やっぱり慣れないわ」

「ちょっとの辛抱ですし、私達も支えますから。椿さん」

「ありがと、樹...ただ、頭撫でるのはやめてくれ」

「えー?嫌ですよ」

「く、くすぐったいから...」

 

(...ヤバい。可愛いかも)

 

嫌々と動く椿は本来の年じゃ再現出来ないもので、思わずゴミを拾うため動かしている手を止めて見てしまった。

 

「銀助けて...」

「......」

「銀!銀さーん!」

「ぁ、う...」

 

声的に本当に困ってそうだから、普段ならなんだかんだ言って助けるアタシも、その声に寧ろ限界が来る。

 

「無理。アタシもするー!!」

「え!?銀!?」

「うりうりうり~!!」

「あぁぁぁぁ!?お、おいっ、やめろって言って」

「これ最高だね!?」

「銀さんもそう思いますよね!?私もそう思うんですよ!!」

「やめろぉぉぉぉっ!!!!」

 

椿の静止なんて聞かずに、アタシ達は依頼人さんに声をかけられるまで撫で回し続けていた。

 

 

 

 

 

(いや、これは良かった)

 

あれからアタシと樹ちゃんはこってり怒られ、二人して反省の意を示した。とはいえ、後悔とか反省とかは何もしていない。

 

寧ろ明日以降、椿の警戒心は今日と比べて格段に上がるのは目に見えているから、今日十二分に楽しめただけ得だった。

 

(皆には悪いけど、楽しめたなぁ...)

 

昔に比べたら一緒にいれる時間は確実に少なくなってるから、昔の椿の姿と長い時間触れ合えたのは凄く嬉しく思う。

 

「ふふ、ふふふ...」

「樹ちゃん、笑いが漏れてる」

「はっ!すみません...でも、背中で寝てる椿さんって状況が不思議過ぎて」

 

椿は今、怒って疲れたからなのか、依頼人さんと話している間にベンチで寝ちゃってたから樹ちゃんに背負われて家まで送られていた。

 

「や...やめろ......」

「夢の中でも頭撫で回されてるのかな?」

「ですかね...可愛い。次はお姉ちゃんものの音声を録ってもいいかも...」

 

虚ろな目をした樹ちゃんが危ない扉を開きかけてるのからは目を反らして、椿の顔を見た。

 

夢は疲れそうなものを見てるだろうに、寝顔は完全に安心しきっていてちょっと笑ってしまう。

 

「昔はこんな顔してたんだなー。今じゃ変わっちゃって」

「そうですか?確かに普段大人っぽいですけど、寝てる時の顔は似てるような...」

「似てはいるけどさ。やっぱり可愛い感じが残ってるというか...うり」

「うにゅ...」

「おおっ」

 

頬っぺたをつつくと、柔らかさがダイレクトに伝わってきた。逆にアタシが驚いてしまう。

 

(でも、こうしてやってると...成長したんだなぁ。アタシ達)

 

この頃の椿と今の椿を比べると、凄く逞しくなった。勿論身体的にも言えるけど、精神的にとっても大きく。

 

(今は、頼れる男の子なのにさ...)

 

「...銀さん、私にも頬っぺたやらせてください」

「樹ちゃん...秘密で?」

「秘密で」

「悪い子だなぁ」

「昔の時代劇で見た、お主も悪よのぉ。ってやつです」

「よしよし...お主も悪よのぉ」

「いえいえ、私等まだまだです」

「「ぷっ、あはは!」」

 

悪い笑いを出しながら、アタシ達は椿を家に送り届けるまで色々いたずらをし続ける。

 

(小さくなっても、椿と一緒だと楽しいな)

 

心から漏れでた本心を込めながら。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...なぁ、これでいいのか?」

「この方が周りが気にならないでしょ」

「それはそうだが...」

「私は気にならないわ。重くもないし」

「......はい」

 

千景さんが早口で言って、ゲームのコントローラーを椿さんに渡した。椿さんは両手で持っていたみかんジュースの紙パックからコントローラーに持ち変える。

 

『本当にいいの?』

『俺はここ数日で学んだんだ。親の反応は違和感凄いし何処にいても弄られるし逃げられないから、ゲームに没頭して周りを気にしないことにするしかないってな。ていうか協力してください』

 

事の発端は、二人が始めたそんなやりとりだった。数日間小さくなった体で構われてきた椿さんは、千景さんにすがりついた。その様子はお姉さんにおねだりする感じでとても良かったけど__________

 

(カメラさえ...カメラさえあればっ!!!)

 

昨日度が過ぎた写真を撮りすぎたせいでカメラを没収された私は、その光景と、今現在千景さんの膝に座ってゲームを始める椿さんを目に焼きつけることしか出来なかった。

 

「じゃあやるわよ」

「...あの」

「何?」

「いや、コントローラーそう持たれると俺完全に捕まってる」

「他に構えやすい所ないでしょ」

「うっ...」

「別に他の人みたいにやらないから安心して...自我を抑えてはいるけど」

「今なんて?」

「さ、やるわよ」

「なぁ。今なんて??」

 

膝上に椿さんを抱えながら座って、コントローラーを握る形で椿さんを抱きしめる形になった千景さんに、正直変わってほしさはある。

 

(でも、今行ったら...昨日のデータも全部消されてしまう...ッ!!)

 

まさに鬼の所業。とはいえ非は私にあるため、何も出来なかった。

 

「おし」

「ちょっと腕落ちてない?」

「手が小さいからボタンが微妙に届かないことがあるんだよ。許してくれ。寧ろお前の方が操作怪しくないか?」

「気のせいよ...気のせいよ」

「二回も言うか」

「今のは良かったわね」

「おい頭撫でないでくれ」

「いいじゃない。位置的にやりやすいのよ」

「うー...」

 

表情の制御が難しいのか単に恥ずかしい顔を見られたくないのか、手で顔を隠す椿さんと、逆に表情を固めて頭を撫でる千景さん。

 

「ぐんちゃん!私もやりたい!!いいかな?」

「いいわよ」

「す、凄いね...高嶋ちゃん、あそこに入ってくなんて」

「そうですね...結城さん。スマホ貸して頂けませんか?」

「ごめんねヒナちゃん...私も壊されたくないから......」

「そうですよね...まぁ、あのお二人よりは許されてますから、よかったんでしょうけど」

 

そう言って、ふと廊下の方を見る。部室の中から見えたのは揺れ動く三つ編みだけだったものの、銀さんと樹さんが正座している筈だ。

 

「椿さんごめんなさい...」

「もう、無理...足が......」

 

温情なのかクッションは敷かれているものの、正座でかれこれ一時間もさせられていれば足が痺れてくる筈。

 

(一体、何をしたんでしょうか...)

 

真相を探ろうともう一度椿さんの方を見ても、何も分からないまま。

 

(......深く追求するのはやめときましょう)

 

だから私も気にしないことにした。

 

「椿ー!!!」

「あ、千景。そこレアアイテム」

「あら、ありがとう」

 

後日、銀さんが元に戻った椿さんに突っ込んだ事件もあったが、これも半分自業自得な所があったので気にしなかった。

 

 

 

 

 

「ところで銀さん」

「なにひなた?ちょっと本気で足が痺れてるんだけど...」

「交換しませんか?私が昨日撮ったものと、貴女が持ってる昔の、本来の年齢の椿さんの写真」

「...お主も悪よのぉ」

「お代官様程ではありません♪」

 

 

 

 

 

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