古雪椿は勇者である   作:メレク

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約一月更新できず申し訳ないです。なんとかゆゆゆ六周年に間に合わせました。またちょいちょい投稿出来たら良いなと思います。


ゆゆゆい編 69話

新たにこの世界を訪れたメンバーや、拠点が讃州中学、讃州高校とは離れた位置にあった防人組は、同じ寮(宿舎と言った方が適切かもしれない)で過ごしている。

 

部屋はそれぞれの家具なんかで特色が出るものの、外から呼び出すインターホンの音は当然同じものだ。

 

(なんというか、聞き慣れた感が凄い...)

『はい』

「お待たせ」

『今開けますね』

「ん」

 

数秒で開いた扉からは、ラフな格好をした芽吹がひょっこり顔を出してきた。

 

「いらっしゃいませ」

「おじゃまします」

「はい。どうぞ」

 

別段驚かれることもなく、緊張するわけでもなく。極々普通のやり取りで部屋に入った俺は、冷蔵庫へ直行する。

 

「とりあえず買ってきた物冷やしとくな」

「すみません。わざわざ買いに行って頂いて」

「来る途中で寄っただけだから。気にしすぎだよ」

「...ありがとうございます」

「いいえー。じゃあ入れ終わったし、早速取りかかるか」

「もう準備はしてあります」

「ありがと。よし、やるか!」

 

冷蔵庫を閉めて振り返れば、薄桃色のクッションに座る芽吹と、大きな箱_______スケールが大きめのプラモデルがいた。

 

 

 

 

 

『展示品の作成依頼?』

その日の夕方、依頼を終わらせて帰る直前、部室のパソコンに通知が入ってきた。内容としては、数日後に飾る予定のプラモデルを組み立てて欲しいというもの。

 

『はい』

『珍しいな。こんな女子ばかりの部活に男子がメインの趣味に関する依頼なんて』

『それが、この前芽吹さんが出展したプラモデル展示会の関係者さんかららしくて』

『芽吹、いつの間に出てたんだ...』

『たまたま募集要項と被ってたので、出してみただけですよ』

 

しれっと言う芽吹だが、それだけで依頼が来るまでになるのが既に普通じゃないわけで、俺は二重の意味で驚いた。

 

『何作ったんだよ?』

『ええっと...これです』

『......えぇ...?』

 

見せてもらった写真だけでもクオリティが高いと分かる作品。東郷や雪花が見たらきっと早口で話し出すであろう小型の城がそこにあった。

 

『これって前に箱だけ見せてくれたキットだよな?この辺とか塗装したのか?』

『まぁ、はい』

『タマにはイマイチ凄さが分からんのだが、そんなに凄いのか?』

『米粒に筆で色を塗ってると考えてみ?』

『スゲー!!!』

 

球子と騒ぎながら見てると、芽吹は照れたように頬をかく。

 

『ありがとうございます...それで、どういう依頼内容なのかしら?樹ちゃん』

『えっと、多分見て貰った方が早いと...』

『......内容自体に問題はないけど、時間が苦しいわね。流石に間に合わないかも...』

『時間なんて指定されてるのか?』

 

(新作を店に届いた日から発売日までに作って展示サンプルとして作る。か...なかなか厳しいな)

 

届いたメールを見て率直な感想は難しいだった。確かにお店側としては綺麗なサンプルを発売日に合わせて展示したい気持ちは分かるが、そもそも発売する商品がお店に届くのなんて、高々三日くらい前だろう。

 

『うーん...お店に届くのがいつなのかなんて詳しくは分からないけど、時間厳しくないか?短いと一日か二日だろ?現に発売はあと一週間後だし...』

 

なんならお金が発生しかねない依頼なのではと思ってしまうも、俺は言葉にせず芽吹を見た。依頼されたのも、この依頼をどうするか判断するのも俺ではないのだから。

 

『......なかなかできる体験でもないですし、私は受けようと思います』

『いいんだな?』

『はい...ただ、流石に一人では時間的に厳しい可能性もあるので、手伝って頂けますか?』

『...俺が?』

『えぇ』

『俺でいいのか?』

『椿さんなら』

『......分かった、その辺りは予定あけとくよ』

 

 

 

 

 

こうして約束し、その通りに手伝いに来たわけだが、役割が決まってからはお互い一言も話さなかった。元からそう時間のある依頼でもないし、お喋りしながら作業するのが好きなタイプでもない。依頼主さんのご厚意で普段使えない機材もかなりの量を運び込んである。

 

俺がひたすらパーツをランナーからなるべく綺麗に切り離し、芽吹がヤスリがけ等の細かい加工をしていく。それを終えて軽く組み立ててから、パーツごとにばらして下地を塗ってから塗装。吹きかけ具合でムラが出ないよう俺が調色に専念し、芽吹がそれで吹きかけ__________

 

(いや、ガチだなこれ)

 

説明書の例を参考にしながら塗料を混ぜ合わせる俺は、ちらりと作業中の芽吹を見た。その目は真剣そのもので、バーテックスとの戦いでもそんなに見れるものじゃない。手の動きが丁寧かつ迅速なのは、大工だというお父さんの姿を見てきたからなのか、血筋なのか。

 

「...ふぅ」

「次の調色終わってるが、一度休憩するか?流石に」

「いえ、乾燥の時間も考えてこのまま行きます」

「...分かった」

 

ならばと渡した塗料を芽吹は一目見て使っていく。

 

『おい芽吹』

『?』

『いや、いいのかよいきなり。もうちょっと暗めの方がいいとかあれば』

『椿さんの作ったものにあれこれ言うことはありませんよ』

 

最初も迷わず使いだしたため聞いたが、返ってきた返事に俺は『そ、そうか...』なんてどもったことしか言えなかった。

 

(思い出したらちょっと恥ずかしくなってきた...っし!集中!!)

 

芽吹が一生懸命やるのなら、俺だっていくらでも付き合う。今日はその為にここにいるんだから。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「これで、終わりですね...!!」

「はぁーっ...長かったっ!!」

 

私の仕上げを待って胡座を組んでいた椿さんが、背中からごろんと倒れて床に寝転がった。私も今作り上げたプラモデルにかからないよう上を向いて大きく息をつく。

 

「あとは乾燥させて、明日朝一で持っていけばいいでしょう」

 

結局二日かけて作り上げたロボットのプラモデルは、かなりの自信作になった。塗り残しや変な箇所もない、元の色に徹底させたカラーリング。贔屓目を差し引いても、これまで見てきた店頭に飾ってあるサンプルと比較して遜色ない出来だろう。

 

「じゃあ、明日バイクで迎えに来るよ」

「そこまでして貰うのは」

「何言ってるんだ。俺にも飾る瞬間見せてくれよ?」

「...そうですね。ではお願いします」

「了解。にしても、ホントに間に合ってよかった...」

 

ずっと下を向いて作業してたからか、椿さんが肩を回すと骨が鳴る。本人は思ったより痛かったみたいで、その後何度も回していた。

 

「じゃあ、こんな時間だし夕飯にするか」

「こんな...って、もう八時なんですか!?」

「しょうがないだろ。お前六時くらいから一切休まず周りも見ないで作業してたんだから...前もこんなことあったような」

「す、すみません......」

「あぁ悪い。別に責めてるつもりはないんだ。第一、分かってれば対策もする」

「対策?」

 

疑問を口にした所で、電子音が鳴り響いた。

 

「お、出来たっぽいな」

「それは...」

「レンジでチン出来る即席グラタン。今日もしかしたらと思って持ってきてたんだが、正解だったみたいだな。俺も料理する時間はなかったし...かといって遅い時間に食べるのもあれだしな」

「あ、ありがとうございます」

「気にするな。この辺外の店は早く閉まるか混んでる時間だし...あちち」

 

熱そうにしながらも持ってきて貰ったグラタンをテーブルに並べ、場所の分からない椿さんの代わりにスプーンとフォークを持っていく。

 

「どちらを使いますか?」

「んじゃスプーン」

 

そうして食べ始めたグラタンはやっぱり冷凍食品の味がするものの、集中力が切れて疲れた私にはとても美味しく感じた。

 

「美味しい...」

「使ってる技術としてはこっちの方が凄そうだよな...」

 

あっという間に食べ終えた私達は、二人で作ったプラモデルを眺める。

 

「やっぱり、凄い作り込みだな...色ムラ全くないし、ただ組み立てるだけでこの出来なら倍の値段でも買うぞ俺」

「私としてはそれは微妙なところですね...確かに嬉しいですが、自分で作り込みたい気持ちもありますし」

「違いない...んーっ、じゃあ早いとこ帰るか。夜遅くまで女の子の部屋にいるもんじゃないし」

「ま、待ってください!」

 

咄嗟に手を伸ばし、椿さんの服の袖を掴む。

 

(...って、私)

 

「?」

「い、いえ...折角なのでテレビでも見て待って貰えませんか?ちょっと、やりたいことがあって...」

「いいけど...やりたいこと?」

「すぐに分かります」

 

勢いそのままに言ったものの、その言葉に嘘はなかった。

 

(丁度良い機会だし...狙えるわね。出してみましょうか)

 

キッチンに戻った私は、棚からティーカップとポットを、引き出しから幾つかの缶を取り出して並べる。

 

(分量はこれくらいにして...)

 

椿さんは何も言わず、片肘をテーブルに乗せながらテレビのチャンネルを変えていた。全てのチャンネルを確認し終えたのか、ニュース番組で明日の天気を見つめている。

 

大勢でいる時は年長組としてなのか、ツッコミ役が少ないからなのか、どうしても真面目な空気を醸し出す椿さんばかり見るため、こうしてふと見れるのが珍しく感じる。

 

(元々そう接点があったわけじゃないし)

 

元々は、戦衣での戦闘データを貰い、彼がピンチになった時には私達の装備を一部譲っただけ。天の神の騒動が終わってからは一緒に土地の調査をしていたくらい。

 

それが今では、夜まで一緒に作業するようになった。それも、そのことに違和感を感じないレベルまで。

 

「へー、あそこの遊園地新しくなったのか。今度調べとくか...」

「お待たせしました」

「いや、全然待ってない...それは紅茶か?」

「そこまで間違ってませんが、ハーブティーですよ」

 

様々な種類のハーブを使った、密かに始めた新たな趣味_________趣味と言えるほど凝ったものでもないけれど________は、他人に見せるのは初めてになる。

 

「自分で色々選んで作るのが面白くて。結構香りも違うんです」

「紅茶を飲む機会はあるが、ハーブティーはなかなかないな。どんな味だったっけ...」

「ちゃんと椿さんが好きそうな柑橘系をメインにしていますから」

「マジか、嬉しい...けど意外かも」

「珍しいのは自覚しています」

「いや、こういうのは弥勒がしそうだなって」

「弥勒さんは紅茶派ですし、パックの奴が好きですよ」

「それはなんとも庶民的な...いやまぁ滅茶苦茶高級なのを部室に置かれたりしてても困るけどな」

 

(多分、園子や東郷は凄いのを持ってきてそうだけど...)

 

椿さんが見落としていそうな点に関しては何も言わず、少し待ってからカップへ注いでいく。薄いオレンジ色の液体が流れ出て、カップを満たしていく様子を食い入るように見ているのが少し面白かった。

 

「ちょっと独特な匂いがするな」

「味も賛否あるかもしれないので、気に入らなければすみません」

「いや、芽吹が淹れてくれたものなら大丈夫だろ。頂きます」

 

「ふー、ふー」と息で冷まし、口へ運んでいく。

 

「どうですか?」

「うーん...言いにくいな。美味しいんだけど、やっぱ独特。でも長い時間つけすぎて渋いなんて思わないし、お湯の感じがする程薄いわけじゃないし。その辺芽吹の淹れ方が上手いんだろ?」

「確かに淹れ方や時間で変わりますが、まだまだだと思います」

「じゃあこれ以上美味しくなる可能性大か。楽しみだな」

「ッ...それならよかったです」

 

暗に『また飲みたい』と言われたようで、ちょっとだけ狼狽えた脳を正気に戻した私は、自分でもハーブティーを口にする。

 

(昨日淹れた方が美味しかったかもしれないわね)

 

単に味の好みなのか、分量や淹れ方を間違えたのか分からないけど__________

 

(...緊張でミスをした、ってことはないわよね?)

 

拭いきれない想いを隠したまま、椿さんとゆったり話を続けた。

 

 

 

 

 

「すー、すー...」

 

(結果的には、成功かしら)

 

計画なんて全くなかったが、目の前で眠る椿さんを見て短く息を吐き出す。

 

私が紅茶ではなくハーブティーを始めたのは、自分で色々な組み合わせを選べることが多いことの他に、他の人が紅茶を淹れることがあることと、リラックス効果が期待出来るからだった。

 

部室の掃除を含めて色んな場所を綺麗にするため一生懸命動く亜耶ちゃんに、部長として大勢の部員を纏める樹ちゃんに、どことなくため息をつきがちな雪花に。皆が休めればいいなと思いながら人前に出せるようやっていた。

 

そしてこの二日間。いや、この依頼を受けてから。私は椿さんの努力を知っている。

 

そもそも私が個人的に受けていながら、手伝いを頼めばその場で受けてくれた。それからは模型雑誌を部室で読んで付箋を貼っていた。

 

『パーツの切り出しは俺やるよ』

『芽吹は色塗りに集中しててくれ。色は俺が用意しとく』

 

メインを私に任せ、サポートするための箇所ばかりを。

 

「...やっぱり」

 

持ってきていたバッグから出した模型誌は、私の想像を確信に変えるもので。

 

(真剣過ぎますよ...)

 

この二日も一生懸命手伝ってくれた。だからこそ私は無条件で椿さんの物を受けいれられたのだ。

 

そして、その分疲れていたのも分かっていたし。

 

『スゲー体温まるな。というか胃の辺りが熱い...』

『体が疲れてるんですよ』

『そうなのか?』

『えぇ。目もとろんとし始めましたよ。そんな状態で運転して行ったら危ないですから、少し休んでいってください』

『でも、もう夜だし...』

『だからって私の目が黒いうちはダメです』

『わ、分かった。休ませてもらうからそんな寄るなって...じゃあちょっと』

『そんな体勢で寝させません。さ、ベッドに』

『いやベッドはさ、芽吹?芽吹さん?』

 

机にうつ伏せで寝ようとしていた椿さんが躊躇うのを無視して私のベッドに連れていけば、眠気に耐えられなかったのかすぐに寝はじめてしまった。

 

「...まぁ、あれですから」

 

この人はどれだけ言っても自分ばかり見ることはない。なら、その分皆が見ていればいいから。

 

「この世界なら、私も近いですから」

 

同じ勇者部として。

 

「......さて」

 

寝顔を見終えた私は、書き置き等のやることをやってから部屋を出る。

 

「あ、芽吹先輩。いらっしゃいませ」

「ごめんね亜耶ちゃん。突然泊めてなんて言って」

「いえ。全然大丈夫ですよ。どうぞ入ってください。今夜は冷え込むらしいですから」

「...ありがとう。お邪魔します」

 

 

 

 

 

翌日。いつの間にか自宅に戻り、朝になってまた寮に来た椿さんと一緒に届けたプラモデルは、無事店頭で飾られることになった。

 

「あぁ。依頼終わったんで一応報告だけ。うん。でもわざわざ電話しなくてもよかったんだぞ?...まぁ分からんがまぁいいや。じゃ、また明日な......報告終わったよ」

「よかったです...あ、椿さん」

「ん?」

「昨日私の部屋で寝たことは誰にも言わないでください」

「...了解。そりゃ一人暮らしの女子の部屋で男子が寝たなんて話嫌だよな。部屋に俺しかいなかったとはいえ...誰でも疲れてたら泊める奴なんて噂になったらホントに一大事だし」

 

(いえ。他の勇者部メンバーが怖いからです)

 

バレたら説明して誤解が解けるまで、椿さんは簀巻きにされて尋問、私も捕らえられるだろう。いっそ証拠として出せるよう椿さんが一人で寝てる姿を動画で録り続ければよかったかもしれない。

 

「芽吹くらい可愛かったら凄い数寄ってきそうだしな」

「...はぁ」

 

どこか勘違いしたままの椿さんに、私はポツリと呟いた。

 

「私だって、普通は泊めたりしませんよ。男の人」

「だよな」

「......はぁぁ」

「何故更にため息」

「何でもありません。さ、行きましょう?美味しいみかんジュース屋さん、教えてくれるんでしょう?」

「あ、ちょっ、そっちの道反対!」

 

 

 

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