古雪椿は勇者である   作:メレク

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本来書くつもりはなかったんですが、いつも衝動的に動かすのは彼女。気合いと根性で間に合わせた誕生日記念短編です。

ifになりますが、時空はどこでも大丈夫です。なんなら西暦2020でもいい。二人がいる時代ということで。

それでは。


誕生日記念短編 同じ時を共に

11月10日。この日が何を意味するのかというのは、物心ついた頃から知っていた。

 

(朝は寒いな...やっぱり)

 

巻いていたマフラーをずらして上げる。顎下までぴったりくっつければ風も通しにくく、より暖かく感じた。

 

「はーっ...」

 

息を吐けば、白い煙が口から上がる。ただそれは寒さを自覚するだけの無駄な行為。

 

(分かってても、やっちゃうよな...子供っぽいか)

 

理想の大人っぽい姿を目指すなら、あいつにかっこよく見せるなら、そろそろやめなければ。そんなことを思いながら、俺は足を止めた。

 

「よし。じゃあ行くぞ」

「ありがと...あと、頼む。父さん」

 

車の窓から声をかけてきた父に、俺は頭を下げた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ねぇーちゃん!!」

「ねぇさん!!」

『お誕生日おめでとう!!!』

 

弟二人の音頭を合図にクラッカーがパンパン鳴って!ちょっとした煙と火薬の匂いが目と鼻にきた。

 

でも、そんなの全く気にならない。

 

「皆...ありがとっ!!!!」

 

11月10日。学校なんかじゃ話題は明日に備えてどの味のポッ○ーにするかなんて話がメインだったけど、アタシには別の意味があった。

 

そう。自分自身の誕生日である。いや別に皆からも誕生日祝って貰ったし、プレゼントとかも貰ったけど。

 

「ほら、持ってきたわよ~」

 

弟二人と話してる間に、お母さんがケーキをテーブルに並べる。毎年ショートケーキが多いけど、今年はチーズケーキだ。

 

『ショートケーキのショートは、本来サクサクしたって意味なんだと。今俺達が食べてるのは日本に来てから広まったらしいぞ』

 

この前そんなことを言っていたあいつのことを思い出しながら、アタシは席につく。我が家では誕生日の人が一番始めに切り分けられたケーキの選択権を得れるのだ。

 

「じゃあアタシこれ」

 

迷わず比較的大きめに切られたのを手前に持ってきて__________

 

(あ、そっか。今日五等分だから大きく見えるんだ)

 

当たり前の事実に、ちょっと驚いた。

 

 

 

 

 

アタシと椿は、お互い誕生日になると隣の家に転がり込み、一緒に祝うようになった。何時からかは知らない。両親に聞いたこともないから、勝手に三歳くらいからだと思ってる。

 

でも、もうそれも十年以上前。今年は節目とも言える15で、来年は高校受験して高校生になってるだろう年齢に。

 

『たまには家族だけでやってみたらどうだ?』

 

ただ、そんな日に椿はいなかった。

 

その言葉に戸惑った自分がいたことに気づいたのは、椿と別れてからだ。

 

(椿がいなかったら皆集まってないじゃん)

 

落ち着いて考えたら、椿が家族として隣にいることが当たり前で、何を言っているんだと思ってしまった自分がいたことに頬を赤くした。あいつが帰ってからで本当によかったと思う。

 

とはいえ。それに気づいてからのアタシはちょっとぎこちなかった。

 

勿論皆からお祝いされるのは嬉しいし、何なら椿のお母さんからもプレゼントを貰った。お菓子セットに隠して『これで親御さんにバレずに好きなの買ってね』というメモとお金が入っていたのにはびっくりしたけど。

 

でも、やっぱり気まずかった。なんというのだろう。良いんだが最高ではないというか。

 

「はぁ...こんなにヤキモキしてるの、アタシだけなんだろうなぁ」

 

部屋の中で独り言を言っても、何も変わらない。

 

(もしかして、飽きちゃったのかなー...なんてね)

 

アタシの誕生日を祝うのが嫌になったわけではないと思う。でも、用事があって来れないならそう言う筈だし、自惚れ覚悟で言うなら大抵の予定はどけてくれる。

 

つまり、アタシは椿に疑いの目を向けていた。

 

「あー、嫌になるなぁ...」

 

こんなことを考えてしまう自分が恥ずかしい一方で、実は椿に彼女でも出来てたりするのかもしれない。なんて想像が膨らむ。

 

(いやいや、それは...ないと、思うけど)

 

最近急に仲良くなった女の子はいなかったと思うけど、学校も違うし、アタシが知らないだけかも__________

 

(...やめよう。無限ループだこれ)

 

本人がいないとこで考えてても、正解なんて出ない。分かりきってた結論を出したアタシは、もう一度ため息をついた。

 

「はぁ...」

 

見上げるように窓の外を見れば、すぐに見える隣の家。その一室は夜になった今も暗い。

 

「どこ行ってるのやら......」

 

家は隣同士だけど、よくマンガとかで見る『ベランダづたいに隣の家へ乗り込む』なんてことは出来ない。アタシの家は一階建てで、椿の家は二階建てなのだ。椿の部屋も十年以上変わらず二階の壁際にある。

 

(...ないない)

 

一瞬思った考えを捨てるため首を振る。

 

あそこから飛び降りて来たら白馬の王子様っぽくてかっこいいだろうな。なんて__________

 

 

 

 

 

いつまで、そうしてたんだろう。ふと見た時計は、もう日付が変わろうとしていた。確か部屋に戻ったのが十時過ぎくらいだった筈。

 

「...メールくらい送れ。バカ」

 

多分、初めて祝って貰えなかった日。明日からかえるネタが出来たと思えるのは少しだけで、マイナスな思いが強かった。寂しさと、苦しさと、切なさ。心が締め付けられるられるようなキューっとした感覚。

 

「いいんだいいんだ。明日は帰ってから喉元まで棒突きつけてやるんだから」

 

去年は結局アタシが恥ずかしくなって失敗に終わったから、今年こそやってやろう。普段のあいつみたいにプランを立てるのはこれからやっても十分間に合うし_____

 

 

 

 

 

 

「何がいいんだよ?」

 

やけにハッキリ聞こえた声は、さも当然のように扉からやって来た。

 

「......なんでいんの?」

「何でって、目的は一つに決まってるだろうが。後30秒。ホントにギリギリだったぜ...」

 

普段なら『乙女の部屋に断りもなく入るなんてー』とか一悶着やるのに、呆けたアタシは何も言えず。代わりに椿が距離をつめて。

 

「誕生日、おめでとう。銀」

 

アタシが一番欲しかった言葉をくれた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(どうしよう...)

 

銀が動き出したのは、日付が変わってからだった。短かった距離を更に詰められ、結構キツめに抱きしめられる。

 

「ちょ、な、なんだよ。もしかして祝われないかもなんて思ったか?寂しかったんか~?うりうり」

 

目の前の暖かさと柔らかさを極力意識しないようにしながら、肩に乗せられて見えない彼女の頬っぺた辺りをつつく。

 

だが、彼女は動かない。

 

「......」

「...えーっと」

「バカ」

「え」

「アホ。マヌケ。鈍感、朴念仁」

「何で罵倒されてんの俺」

「白馬の王...」

「待ってマジで何それ。俺馬になるの?」

 

よく分からない罵倒から、語彙のストックが切れたのか『バカ』を連呼されて、しばらく。やっと体を離した銀は、そっぽを向いてこう言った。

 

「でも、ありがと」

 

ならば俺は、当然返事を言う。

 

「どういたしまして」

「......ふーっ。スッキリした!!それじゃあお前、なんでこんな時間まで来なかったんだよー!!」

「いや、それは悪かったって。俺としても焦った」

 

銀の部屋を訪れるためは当然御両親に声をかけて家に通してもらわなきゃならなかったが、申し訳なかった。

 

実際は歓迎されてホントに行くのが日付変更ギリギリになったが。弟二人が寝てなければアウトだったかもしれない。

 

「まぁでも、そのぶん手に入ったし」

「え?」

「...ほら、離れた離れた」

 

そこそこ距離を離してから一度部屋を出る。すぐ隣に置いといた白い紙袋はライトの光を反射していた。

 

(怒られるかもと思って置いといて正解だったな)

 

「椿?」

「...銀、改めて誕生日おめでとう。ホントはメールいれようかと思ったんだけど、間に合うなら直接口で言いたくて。それと、これ」

 

渡すのは紙袋から出した、これまた白い箱。中身は__________

 

「誕生日プレゼント」

「えっ、これ...」

 

見せるように開けた中には、シンプルながらも可愛らしいパール色基調な時計。

 

「受験で時間見るのに正確なのが欲しいって言ってただろ?電波時計でソーラー式電池付きだ」

 

『うちの高校目指す?』

『うん。ほら近いし...それに、小中と違う学校だったけど、高校くらい、同じ学校行きたいじゃん』

 

そう。銀が俺と同じ高校に行くため、勉強を遅くまで頑張ってるのを知っていた。隣の家から部屋の明かりが丸分かりなんだから。だから、それを応援したかった。

 

「まぁ、お陰で時間はかかったが...」

 

普段見ないから着けないという彼女からさりげなく好みを聞き出し、ネットを漁る。

 

見つけたは良いもののそれが香川から遠く離れた徳島の端の店、配達は間に合わないというので、父さんの出勤前に車で移動し、電車に揺られ、父さんの帰りに合わせて電車で戻ってきた。

 

(帰るのが予想より遅れるから焦ったけど...って)

 

思い出してた間も一切動かない銀を見て、不安になる。

 

「......もしかして、気に入らなかったか?」

「!!そんなわけない!!凄く良いっ!!で、でも...絶対高かったんじゃ」

「ぁー...」

「それに、こんな時間まで」

「...確かに安くはなかったな」

 

後半は勘違いしてそうだが、確かに資金は高校から出来るようになった短期バイトをバレないようにして稼いだものだ。値段も時間もある程度察しがついてるだろうし、否定はしない。でも__________

 

「でも、これを手に入れるためなら...いや、お前の喜んでる顔を見るためなら、このくらい何てことないさ」

「!」

 

(...すっげぇ恥ずかしいこと言ったかも)

 

「ご、ごめん銀。今のは忘れてくれ」

「...忘れられるわけ、ないでしょ」

「いや頼むわっ!?」

 

胸元にぶつかってきた衝撃で時計を落とさないよう必死に体勢を保つ。その間に銀は腕を回してきて、完全に捕まった。

 

「...」

「...」

「......から」

「へ?」

「やっぱりあげないって言われても貰うから!返さないから!!」

「...へっ」

 

丁度良い位置よりちょっと高い頭を撫でて、涙目の銀に対し。

 

「誕生日おめでとう。銀」

 

三回目になるお祝いの言葉を口にした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『今年の香川は桜の開花が遅れたため、今日が特に見ごたえのある日になりました』

 

「ヤバい遅れる遅れる!!!」

 

テレビの声を右から左に流しつつ、パンを齧り着替える。

 

「姉さん何そんな慌ててるの?昨日の話だとまだ時間あるんじゃ」

「んぐっ。玄関前で待ち合わせなの!!!あぁこれ前より着にくい!!」

「はぁ...兄さんなら全然待ってくれそうだけど」

「行ってきます!!!」

 

(良し!!時間ピッタリ!!)

時計の秒針を見て確信したアタシは、勢いよく玄関から飛び出した。

 

「お待たせ!!」

「...いや、もう聞こえてるくらいだったし、もうちょっとゆっくりしてよかったのに」

「初日からそれはダメでしょ?」

「入学式の日に寝坊したお前には言われたくないなぁそれ...」

 

待っていてくれたのは、男女の違いはあるけど『同じ制服』を着た、一つ年上の幼馴染み。

 

「まぁいいや。行くぞ?銀」

「分かってる!行こう椿!!」

 

鞄を担ぐように持って歩きだしたあいつに並ぶよう、アタシは一歩を踏み出した。

 

 

 

 




腕時計をプレゼントに贈る意味
『同じ時間を共有したい』
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