ここに色々書こうとしたんですが、ネタバレになりかねないのでやめました。今回ここを一番書き直してる。
「ん?」
目を空けると、青空が広がっていた。雲はなく、そよ風が気持ちいい。
起き上がると、昔絵本で読んだことがあるような草原の上だった。見渡す限りの緑色と水色が目に飛び込んでくる。
「...夢か」
当然こんなのは現実っぽくない。少なくとも家の近くにこんな景色が見える場所はないし、昨日は夜自室のベッドに潜り込んだのを覚えている。であれば、夢でしかないだろう。
「その通りよ」
「だよな」
同意も得られたわけで、とりあえず目を閉じ二度寝を__________
「...は?」
振り向くと、そこには弥勒が用意しそうなアフタヌーンティーセットが置いてあり、片方の椅子に誰かが座っていた。
「ここは貴方の夢よ。ようこそ」
「...誰だ」
いたのは、ややウェーブがかった黒髪を降ろし、ぱっちりとした目をこちらに見せる女。年は俺と同じくらいだろうか。
「知らないわ。この体は縁のある者を依り代として使っているだけだから」
「......なんだって?」
つかの間に理解を越えてる言葉を羅列され、思わず聞き返す。
「この体はただ貴方に見やすく、分かりやすくするために、過去の人間を真似ただけよ。口調や性格も多少反映されているけど」
しかし、帰ってきたのはそんな答えだった。
「......で、誰なんだ。あんたじゃないなら、あんたの本体は」
「察しがついてるのではなくて?」
「...神」
「正解」
彼女は長い黒髪をかきあげ、カップに入った飲み物を口にする。どことなく優雅なその姿は、何故か弥勒を連想させた。髪色も違ければ纏っている雰囲気すら違って思えるのに。
「座ったら?」
「......」
促されるまま座るも、目の前のお菓子や紅茶に見える飲み物には手を出さない。
「食べないの?」
「そんな気分にはなれない」
「そう」
「...はぁー。で、一体なんの用なんだ。神様が夢で俺なんか呼び出して...いや、この場合は俺の夢に来たってのが正しいのか」
「状況の飲み込みが早いのね」
「俺の力を越えてる自体が起きたときは、とにかく先を知れるよう促すのが早いって知ったんだよ」
何故と聞いたところで、望んだ答えなど返ってこない。ならば、貰える情報をどんどん出してもらい、こっちで繋げた方が効率的なのだ。
致命的な何かを受ける前に。
「それで、何で」
「過去の改変」
「は?」
「貴方は一度、過去の改変をした。正確には一度というより、大小問わず過去の流れをねじ曲げ、別の歴史へと変えた。死ぬはずだった人間が生き、生きるはずの人間が亡くなった。後者は貴方に直接会ったことのない人、副産物の影響ではあるけれど」
彼女が言っているのは、確実に西暦でのことだろう。指を一本立てた彼女は、そのうち両手を広げ、重ねる。
「だから?」
「その行為はどんなに小さなものでも、決して人が行って良いものじゃないわ。許されざる行い」
「だから?」
「だから私は...いえ、これは根幹に関わる。いくら貴方がこの夢を忘れるとしても、言えないわ」
「随分身勝手だな」
「そうね。私だから」
そうキメた顔で言う彼女は、恐らく元の彼女も得意な顔だったのではないか。そう感じるくらいには似合っていた。
「■■■■■。前代未聞の人間がどういう存在なのか、事前にその根幹を探りに来たの」
「...おい、何だって?」
「貴方が聞き取れないものは、まだ明かせない事実。聞こうとしても、私がはっきり伝えても無駄よ。必要な手順を持って得られることで、私からは伝えられない」
「なんだよそれ、好き勝手言いやがる」
夢の中にも関わらず警戒度がどんどん上がる。
「ッ!!!」
だから、初撃を避けることが出来た。
「やはり避けてみせる。か」
いつの間にか、普通の服装_____何処かの学校の制服のような格好から、友奈達が纏う勇者服の様な格好になった彼女は、さも知っていたかの様に握っていた剣を手元に戻す。
光り輝く刀身、人をバターの様に切り裂きそうな外見の片手剣は、普段であればアニメの様でカッコいいなんて思うかもしれないが、自分に向けられれば畏怖の対象でしかない。
「でも、それでこそよ。それでこそ例外に相応しい。見せてみなさい。その力を」
どことなく笑みを浮かべたかに見えた彼女は、そのまま剣を突き出してきた。
神に対して俺が持つ印象は、大きく三つの時期で分かれている。
一つは、小さい頃。まだ物心がついたばかりの頃は、神樹様が外の恐怖から守ってくれていると教わったし、それを疑うこともなかった。疑わなかったことに理由なんてない。それが当たり前だったから。
銀が勇者に選ばれてからも、そんなに思いは変わらなかった。変わったのは、あいつが死んでからだ。これが二つ目。
あいつを守ってくれなかった神を許せなかったし、満開の後遺症、友奈の神婚。秘匿していた大赦に対しての怒りも含めて、色々とありすぎた。少し間を開けて西暦にも行って、バタバタとあり。
そして三つ目。西暦から戻ってきてから今までの印象は、信じられないが信じられる。なんて矛盾した表現がしっくりきた。
恩もある。だが憎しみもある。故によく分からない。理解出来ない。
いや、元々理解出来ない相手なのだろう。種族そのものが違うのだ。象が蟻の存在を踏み潰すことで気づいても、その思いなんかに気づくことなど出来ない。
俺の知る『アイツ』を除いて、分かり合える神はきっといない。この異世界で皆と出会えたことには感謝するし力を貸すが、また理不尽を押しつけられたら抵抗してやる。そんな印象。
(これは理不尽だろ...っ!!)
確かにそんな思いではあったが、実際にこんな理不尽を味わうとは思わなかった。
突然夢に出てきて、言葉(のドッジボールに近い何か)を交わし、今は剣で切りかかられている。
夢だからかハンデなのか、戦衣がなくても勇者服であろう装備を身に付けてる彼女の攻撃を避けることは出来た。この恩恵は大きい。
だが、スマホが出せない、戦衣がない、つまり武器もない。これが理不尽と言わずして何と言う。
「くそがっ!!何かないのかよっ!?」
切りかかってくる光剣を弾き飛ばし自分の武器にする。地面から草を掴んで目にぶつけ殴りかかる。アイデアは出るものの装備の差がそれを不可能にしていた。
「随分苦しそうな顔をするわね」
「そりゃ一方的な防戦だからな!!武器の一つでも寄越せ!!」
「...あぁ、そうか。武器がないから厳しかったのね。はい」
転がって避けながら言った悪態に納得いったかのような返事をした彼女は、剣の勢いを止めて反対の手から光を出した。光は丸い形から変わっていき、やがて光らなくなって地面に落ちる。
「取るまで待つわ」
「...」
(......あぁ、やっぱ神だな)
ふと、そんなことを思った。武器の有無で有利不利を考えないのは、人だったら有り得ない。目の前の相手の感性は、やはり人とは決定的にどこか『ズレている』。
「なぁ、だったら戦衣もくれよ」
「戦衣?」
「俺の服!」
「あれのこと?アレは貴方の力ではないでしょう?それ相応の力は既に与えている。さぁ、まだやれるでしょう?」
「...ッ!!!!」
駆け出し、突き刺さった武器を持って振り上げた。土ごとめくり上げるのは、『槍のような形をしたメイス』。
(...なんだ、これ)
握った途端、とてつもない違和感に襲われる。まるでこれまでこいつと一緒に戦ってきたかのような、そんな信頼感染みたもの。この武器を持つのは、当然初めてなのに。
一瞬感じた目眩と耳鳴りは一瞬で失せ、寧ろ頭が冴え渡る。
「古雪椿」
彼女が少し、だが確実に口角をあげたのにどこか不気味さを感じつつ、恐怖を拭いさって構えた。
例えそれが、彼女の狙い通りだとしても。
「...やってやるよ!!!」
俺は吠えて、地面を踏んだ。
地面にメイスを突き刺し衝撃に備えた瞬間、真正面から弾丸のように剣が突いてきた。光剣の見た目に反して質量はしっかりしてるのか、かなりの衝撃に両足とメイスが草を抉る。
(だがなっ!!)
即座にメイスを蹴り上げ、反動を利用して突き出し。彼女は剣の刃を寝かせて先を逸らし、最小限の回避で距離を詰めた。
お互いの顔が目の前に来そうな距離に詰め寄られるも、手首を曲げてメイスの持ち手を彼女の腹に当たるよう動かす。彼女自身が腕で防いで有効打撃とはならなかったが、同時に下がって距離を開けた。
「ッ!!」
槍の形状をしながらも、穂先部分だけがメイスのように膨らんだ武器は、決してバランスの良い武器とは言えない。その上、戦い方が分からない。どうすればより良く扱えるのか、勝つために動かせるのか。
(気味が、悪いッ!!)
だが、何故か俺はこの武器を扱えていた。今も懐に剣を差し込んでくる敵に対して、体に這わせるように動かすことで弾いている。
戦い方が分からないのに、体は最善に近い動きしか行わない。まるで、自分が操り人形になったかのような__________
(これは、だって)
「いいわね。その調子よ」
「俺は...」
次々突きを繰り出す彼女。正確に弾き返す俺。ぶつかり合う音はより激しさと勢いを増し、少しずつ目がついていかなくなる。
目で追えなければ、その分直感だけで対応することになる。しかし、根拠もなく、より正確無比な動きを実現させていた。
(でも、これは...こんなの!!)
「こんなの、俺じゃない!!」
批判と拒絶。両方の意識表示と体の動きが一致した結果、力任せに吹き飛ばした相手にメイスを投げつけた。バカでかい銃弾の様に飛び出したメイスを見つつ、俺は前へ_____ではなく、上へ飛ぶ。これも理由のない確信。
「いえ、それは紛れもなく貴方の力よ」
かろうじて彼女が弾き飛ばしたメイス。その先に俺がいた。こう対処されることを理解しきった動き。
握り直し、一緒に重力に従って落下。体勢を崩していた彼女に再度メイスを叩きつける。
(浅い...!!)
地面を壊したことで煙が立ち込める中、ギリギリ回避されたのか手応えは薄かった。
『だが、この後は前へ出れば勝てる』
(!!!)
まるで、相手の動きも自分の動きも知っているかのような思考が浮かんできて、俺は一瞬震えた。それは決して隙にはならない。寧ろ勝つための道筋。だが。
(......やっぱり、俺は!)
決められた未来の為に動くことなどない。未来は自分達で動かすものの筈だから。
俺は結局、前へ出ようとする足を後ろへ向けた。一度距離を取ると、煙が晴れた先で彼女が驚いたような顔をする。
「そう。それよ。何故貴方は今退いたの?」
「...答える義理はない!!!」
素直に答えるのが癪に感じ、再度突進する。リーチを考え、こちらのメイスだけが当たる距離から攻撃を__________
「そう」
「!?ガッ!!」
相手の姿が消えたと思ったら、鈍い音が俺の体から響いた。
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「これが、人間の体の使い方...やっと慣れてきたわ」
彼女はそう呟いて、遠くへ転がった相手を見た。彼はうつ伏せで地面に倒れたまま動かない。
「私は貴方達人類を知りたい。貴方がその武器の、理想の動きに従わない理由を知りたい。それなのに教えてくれなければ、この行為そのものに意味がないわ」
黒髪をかきあげながら、彼女は続ける。彼女が知りたいのは人の意思。彼がそれを聞かせてくれないというので、メイスを避け、顎と腹を順番に蹴り上げた。
それは目で分からないくらい速かったことを除けば、ある程度の人間が出来る行為ではある。とはいえ、彼女の動きはあまりにも人間から逸脱していた。
「...流石に強くやり過ぎたかしら。加減が分からないわね」
用件が済ませられないと判断した彼女は、そのまま後ろを振り返り_________
「待てよ」
「...あら、起きていたの」
「あぁ。ずっと起きてたが、今やっと起きた」
「?」
要領の得ないことを喋りながら、彼は何事もなかったかの様に立ち上がった。
「ならば続けましょうか」
「そうだな。こんな茶番は終わらせよう」
そう言った彼は、手に持ち直したメイスを上へ投げ__________
「!!」
『二本の斧』で、持ち手を叩き折った。
「何も驚くことじゃない。ここは俺の夢の中だ。だったら、勇者システムがなかろうが自分の武器を呼び出しても何ら不思議なことじゃない。最も、俺は気づかなかったみたいだがな」
彼は、いつの間にか赤い装束を纏っていた。それは嘗て、彼自身が勇者と呼ばれるのに相応かった姿。
「だろ?」
「...一理あるわね。まぁ良いわ。その武器でも、『その貴方』でも、私の知りたいことは知れるもの」
「......はぁ。茶番は終わろうと言っただろうが」
「何が茶番なのかしら?」
「その態度だよ」
彼がキッと睨み付けるも、彼女は全く動じない。だが、彼はそのまま話続けた。
「お前が世界を変えた俺に興味があるのは確かだろう。だが、人に興味があるわけじゃない。お前が興味がある人間なんて御姿(みすかた)と勇者、精々勇者の候補を含めた程度だ。その癖人類を知りたいだぁ?適当ほざくんじゃねぇぞ」
「...少々こじつけが過ぎるのではなくて?」
「だったら、お前さぁ」
彼は彼女に指をさす。
「なんで自分が使ってる人間のことも分からないんだよ?おかしいよなぁ?本人のことも分からない、分かろうとしない、そんな奴に人間の何が分かる」
「......そう、そうね!確かにそう!これは一本取られたわ!!」
堪えられなくなって笑い出す彼女に反比例するかのように、彼の表情には皺が入った。
「そいつの姿でこれ以上好きにさせねぇ」
「あら、知り合い?」
「答える義理はない...いや、最後に一言言ってやろう」
呟いた途端、彼女はさっきの様に笑うでもなく、かといって冷めた様子もなく、獰猛な笑みだけを浮かべた。
彼女が最も見たかった力を見れるという興奮した顔にも、嘗てのライバルと戦える瞬間を楽しんでいるような顔にも見てとれる笑みの先では、赤い光が払われた。
撒き散らす炎は辺りの草木を業火に変え、機械染みた翼をより輝かせる。更に一回り大きくなった斧を振るえば、風圧に従って火花が散る。
それは、彼が持ちうる最大の力。開いた瞳に赤き炎を灯した彼は、はっきりと告げた。
「あまり人類を嘗めるなよ。神が」
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「椿先輩」
「どうしたー...ふぁぁ」
「寝不足ですか?」
「んにゃ...睡眠時間は確保した筈なんだがなぁ」
あくびを噛み殺しきれず、友奈に指摘されてしまう。とはいえ眠さが消えるわけでもなく、俺はとりあえず目を擦った。
「なんか疲れる夢見たんだよ。起きたばっかなのに樹海で戦った後みたいな疲労感があってさ...」
「戦っている夢でも見たんですか?」
「んー...どうだろ。そんなことないと思うが、思い出せないから分からん」
起きた時点でどんな夢か思い出せなかったのに、未だに記憶のどこかにひっかかるような違和感があり、自分自身で驚いていた。
「ふぅ...眠気覚ましにコーヒーでも買うか。早めに来ちゃったからまだ時間かかるだろうし」
「市役所の人達、皆忙しそうですもんね...そ、それより椿先輩」
「ん?」
「呼ばれたら私が起こしますから、無理に起きず寝ちゃって大丈夫ですよ?」
「いや、それは悪いだろ...正直、寄りかかったら背中痛いし」
後半は小さな声で喋る。今俺達二人が座っているのは来客用の横に長い椅子であって、当然仮眠を取るスペースなんかじゃない。背中を預けるのは無骨なコンクリートなわけで、残念な感じになるのは否めないのだ。
「で、ですから」
「?」
「えっと...ここを使うというのは、どうでしょう?」
友奈が軽く叩いたのは、自分のスカート。
「ここなら、背中も痛くなりませんし...」
「......」
「あの、その...」
「......」
「......」
「...缶コーヒー買ってくる」
「あっ!椿先輩!?」
(良く耐えた。俺)
大分考え込んだ末の結論ではあったものの、席を立つ俺は自分を誉める。
決して、決して発言を撤回したいとか後悔してるとか、そんなことはなかった。
(にしてもホントに、今朝のは何だったんだ_____)
「もう少し強引じゃないとダメかなぁ...」