古雪椿は勇者である   作:メレク

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皆さん明けましておめでとうございます。今年で四年目になったふつゆを引き続きよろしくお願いいたします。

この作品が出始めた頃と比べると、ゆゆゆ作品自体が凄く増えて嬉しいですね。


ゆゆゆい編 73話

「椿!そっち行ったわよ!!」

「言われなくても!」

 

放った銃弾は寸分違わず星屑の群れを撃ち抜いていく。こちらに体当たりしてきた生き残りはすれ違い様の短刀で切りつけ、追撃の弾で確実に倒した。

 

この世界での主目的だし、土地を手にいれるための奪還戦、既に手にいれた土地を守るための防衛戦もあって、樹海で戦うことはそれなりにあった。

 

今日も今日とて突然警報が鳴り、今はこうして戦っている。

 

『古雪先輩、右側は全て戦闘が終了しました』

「了解。てことは、後はあっちにいる大型か...」

 

どう戦うにせよ、勇者が20人以上もいれば楽勝かに思えた最初の頃の予想は、結果的には甘い考えだったと言えるだろう。

 

確かに楽勝な時期はあったが、敵領土がなくなってくると、一度の戦闘が重くなることが増えたのだ。散発的なまだ楽なのもあるが、重いのを引くと、全員それなりに疲れるレベルには戦いが激化する。

 

現状も、終わった右側にはサジタリウスとピスケスがいたし、今尚戦っている左側にはスコーピオンが尻尾を振り回していた。

 

(...ッ)

 

無意識に腹の辺りを抑えていた左手を払い、俺は樹海を蹴る。

 

(昔は昔、今は今っ!)

 

土手っ腹に穴が開く感覚なんて、これ以上味わう必要はない。まして、皆に体験させることも。

 

「オラァ!!こっち見ろサソリィ!!!」

「椿先輩!?」

 

声と共に浴びせた銃弾がお気に召さなかったのか、スコーピオンは尻尾をこちらに向ける。

 

(上等!!!!)

 

瞬間飛んできた鋭い針を、樹海を踏みしめ右手に握る短刀で逸らした。靴と樹海、短刀と尻尾がそれぞれ煙と火花を上げる。

 

「こ、の、や、ろぉぉぉっ!!!」

 

気合一閃。弾いた尻尾は遠心力に従って奴の元へ戻って行き、もう一度俺の方へ__________

 

(!!!!)

 

その時_____当然、そんなことあるはずないのだが_____どこか奴が、笑ったように思えた。

 

尻尾は俺への挙動を突如変え、別の方へ。そこには__________

 

「危ないッ!!!!」

 

 

 

 

 

「いや、ホントにごめん...」

「だから良いと言ってるでしょ。いつまで気にしてるの」

 

夕焼けが俺達を照らす中、俺は目の前の彼女に謝っていた。彼女_____千景は、呆れたような表情で自分の頭をつついた。

 

「だが」

「大体、これは偶然。この包帯も大袈裟過ぎるせいで高嶋さんや皆をあんな顔にさせてしまって...」

 

そう言って、彼女は俺が巻いた包帯を取る。

 

結局、スコーピオンの攻撃は虚をつくように千景へ向いたが、千景は完璧に対処してみせた。問題はその後、飛び込んだ俺が急停止出来ず、千景とぶつかってしまったことだ。

 

ぶつかった彼女はなんと頭から血を流し、そこからは俺も皆も動揺。

 

それからは、そのまま保健室へ直行。俺が責任とある程度の応急手当てのスキルがあるということで問答無用で処置をしたのだが、その姿は部室に戻った瞬間に動揺を増やすだけだった。

 

その時、ついに耐えられなくなった千景が俺をはたき、保健室に戻って今に至る。

 

「さっき言ったでしょう?今日戦う前にたまたま紙で切ってしまって、ぶつかった衝撃でほんのちょっとだけ血がもう一回出ただけって。普通だったらただぶつかっただけで何ともなかったわ」

「でも、結局それは俺の責任で」

「本当に大したことないレベルだし、絆創膏で足りる範囲だけなんだから、これ以上大事にしないで。いい?」

「......せめて大赦の病院には」

「いい?」

「...はい」

「全く...自分の状態くらい自分で分かるわ」

 

丸椅子に座った千景は、疲れたように息を吐いた。

 

「心配されるのは嬉しいけど、そこまでされると申し訳ないもの」

「...すまん。千景」

「だから謝らなくて」

「じゃなくて...これ」

 

俺は、さっきから振動がうるさかったスマホを千景に見せる。内容は至ってシンプルで、煩くならないよう部室で待たせてる皆からのものだ。

 

要約すると、内容は『ぐんちゃんのケガが心配だから大赦の人と救急車を呼びました。早く行ってきてね』というもの。

 

「......貴方ね」

「いや、俺が指示したわけじゃ...すいません」

 

千景に睨まれた俺は、ただ謝ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

昔、ハサミで髪を切られたことがある。その時耳も一緒に傷つけられ、今でも見れば分かる程度の痕になった。

 

もしかしたら、髪を長くするようになったのは無意識にこの傷を隠そうとしていたのかもしれない。少しでも自分を他の人と違わないようにするために。

 

現実逃避のためのゲームや音楽も、やめろと言われたり、キモいと言われたり。言われてきた中では、これでも優しい方なのだ。

 

それに対して、あの時の私はただ閉じ籠るだけだった。周りには敵しかいなくて、勇者の力を使って殺しかけるくらいの気持ちになるまでずっと蓄積して。

 

『痛くないわけ、ないじゃない...』

 

閉じ籠って、自分を守っていれば痛くないと思いつつ、そんなわけないと否定する自分。そんな反抗さが表に出たのは、良くも悪くも勇者になってからだ。

 

私一人じゃ、絶対上手い方向には行かなかった。私一人じゃ、誰かを殺していた。

 

私一人じゃ、過去を思い出したら__________

 

「ん...」

「起きたか?」

「古雪君...!」

 

寝ていたらしい私は、自分の状況を確認して彼の肩から頭を離した。

 

「...見たの?」

「何が?」

「っ、ね、寝顔よ」

「そりゃ、ずっと目を閉じてる訳にもいかないしな。寝息もたててぐっすりだったから枕の代わりになってたが」

「ッ!!忘れなさいっ!」

「ちょ、いた、忘れろって言われても...」

 

二の腕辺りを叩きまくっている間、彼は戸惑ったような顔をしてるだけ。そのうちそれが呆れたように代わり、「わ、忘れた忘れた」なんて棒読みで言った。

 

「何で私は寝ちゃったのよ...!!」

「緊張の糸が解けたんじゃないか?気の抜けない戦いの後、あれだけ騒がれて病院まで行って」

 

言われて少し思い返す。彼が付き添いで(というか腹いせに巻き込んで)訪れた病院では、やはりこれといった問題はなく、寧ろ待ち時間で皆に報告してる時が一番騒がしかった。

 

こうして大赦の車で寮に運ばれてからは、皆にまた詰め寄られるんだろう。全然嫌ではないけれど。

 

でも、寝顔に寝息まで聞かれてたとなれば恥ずかしいに決まってる。

 

「ほら、落ち着けって。どうどう」

「私は獣じゃないわよ!......はぁ」

 

諦めた私は、話を逸らすために別の話題を探した。

 

「そういえば貴方、随分慣れた手つきだったわね」

「何が?」

「あの過剰な応急処置」

「まだ言うか。悪かったって...まぁ、あれは慣れだよ慣れ」

「そんなに怪我してたの?」

「俺じゃなくて銀がな。勇者だって知らなかった俺からすると、あいついつ傷つくか分からなかったから。小さい傷ならどうにかなるって分かってからは本を漁ったりしてた」

「戦闘の傷ってそんなものかしら」

「戦いが大きくなきゃな。勇者部に入ってからも、風や友奈はアグレッシブに動くから、何だかんだ重宝したし」

「成る程ね...」

 

確かに、勇者部の活動は手に小さな傷をつけたりしまうこともあるし、今より人数が少ない分一人辺りの活動量が多かったら、必要なスキルだったのかもしれない。

 

「......なぁ」

「何?」

「いや、言いたくないならそれでいいんだけど...ちょっと聞いてもいいか?」

「だから何よ?」

「...さっき病院で言われてた耳の傷って、どうしたんだ?」

 

聞かれて、私は耳を触った。見た目で少し分かるくらいで、触り心地に違いはない。

 

『全体的に問題はありません。あぁそう、一つだけお訪ねしたいのですが、耳の傷跡はどうされたのでしょう?』

『昔つけた傷です』

 

(...さっきのお医者さんとの話、聞いてたのね)

 

「言ってなかったかしら?昔ハサミで髪と一緒に傷をつけられたのよ」

「!!」

「言いたいことはなんとなく分かるけど、黙りなさい」

 

そう言って、私は彼の口を塞いだ。

 

「私のために怒ってくれてるのは嬉しいし、煩くなるのも分かる。でも、少なくとも今何か出来るわけじゃないし、今の私は『そんなこと』気にしてないの」

 

病院でも今でも、こんなにすらすら語れるのは、今の私が何一つ気にしてないからだ。それは高嶋さんを初めとした彼女達のお陰であり、この世界で知り合えた皆のお陰であり、目の前にいる彼のお陰でもある。

 

「分かった?分かったら何も言わないようにね」

「......まぁ、お前がそれで良いなら、俺がとやかく言うことないだろうが...そんな強く言うこともないだろうに」

「っ...騒がしいと眠気が覚めるでしょ」

口から手を離した私は、雑に彼の肩へ頭を乗せた。少し頭のぶつけた部分と首が痛い。

 

でも、こうすれば私の顔は見られない筈だ。

 

「もう少し寝るから、着いたら起こしなさい」

「お前」

「いいわね?おやすみ」

「......おやすみ」

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(絶対フリだと思ってたんだが...)

 

病院帰りの車内。先程まで割と元気に喋っていた千景は、再び眠りについていた。

 

(まさか、ホントに寝るとは...)

 

俺自身も二回肩を貸すとは思っていなかったが、現実として起きているんだから仕方ない。後やることと言えば、彼女を起こさないようなるべく動かないことだけだ。

 

(......)

 

『分かった?分かったら何も言わないようにね』

 

つい先程の言葉を思い出す。彼女は昔つけられた耳の傷を気にしてないと言った。

 

(とはいえ、な)

 

更に思い返されるのは、いつかの彼女。

 

『もう戻れないわ!!私にはもう...居場所がない!!!』

 

あの時、彼女の故郷で文字通り刃を交えた時に発されていた殺気は本気だった。自分を虐めてきた人間を許さないという、純然たる悪意。

 

それを彼女に蓄積させたのは他ならぬあの町の住民だ。かといって、彼女がしようとしたことが正しいとは思わないが。

 

(...だとしても)

 

窓の外を見て、俺は小さく息を吐いた。もう俺が気にすることはないのだろう。

 

だって________さっきの彼女の顔も、本気で言ってるように感じたから。

 

完全に清算された思い出なら、蒸し返すこともない。

 

(よかったな。千景)

 

彼女がそう思えるようになって、心からよかったと思う。

 

「ん...」

 

彼女は返事をするかのように、もう少し寄りかかってきた。触れている箇所が少し暖かい。

 

(......全く。しょうがないな)

 

「すいません運転手さん。少し遠回りで帰って貰えますか?」

 

俺は起こさないくらいの声量で頼む。

 

帰ればきっとユウ達が駆け寄って来るだろうから、その分今はもう少し休ませてあげよう。なんて思いながら。

 

 

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