事前にゆゆゆい編 57話を見ておくとスムーズだと思います。壁ドンシリーズと同じくらいの数になってきてますね。
「ふむ...」
私は今、腕を組み、目の前の本を凝視していた。
今日本屋を訪れた目的は、月終わりに販売されている模型雑誌の購入。最近話題の商品や、オススメの新商品を特集している物だ。ただ、今私が見ている物は違う。
「コスプレ、メイド服...」
隣に置いてあった現実でそう見ることのない格好の本に、私の注意は向けられていた。手にとって見ても、勿論見た目が変わるわけじゃない。
当然、何の理由もなしに見ているわけではない。あれはそう、前のこと__________
『あー、あれはね芽吹。誤解なんだよ。止むに止まれぬ事情というか』
夏凜に借りたトレーニング器具を返しに行った時。部屋にいたのは椿さんと、ナース服姿の夏凜だった。
『どんな理由があったら、夏凜があんな服を?』
『えーっと、それは...あはは』
『雪花?』
『...実は色々あって』
結局雪花にはぐらかされた私は、気にはなってたいたものの、数日間気まずそうにしていた二人に直接聞くのを躊躇ってしまい、そのうち忘れてしまった。
そんな記憶が今、この雑誌を見て蘇ったのだ。
(結局、あの二人は何故...)
あの時、夏凜だけがコスプレをしていて、椿さんは何もしていなかった。二人とも顔が赤くなってから青くなったのは、突然現れた私に動揺したからだとして__________
(...もしかして、椿さんってコスプレが好きなのかしら?)
普段あがる話題でもないし、基本的にバレる趣味でもない。とはいえ、想像すると何とも言えない気持ちになった。
椿さんが、この本を買って、部屋のベッドに寝ながらページをめくって笑顔になっているのを想像して________
(......何。このなんとも言えない感じは)
「あれ?芽吹さん」
「!あ、杏」
突然声をかけられて振り向けば、そこには本を手に持った杏がいた。
「偶然ですね」
「そうね。杏はその本を?」
「はい!これでこのシリーズが完結するんです。二人の純愛がどうなるのか楽しみで楽しみで...!」
「そう...」
「そういう芽吹さんは、何を買いに来たんですか?」
「あぁ私は、模型誌を」
「...コスプレ?」
呟かれた瞬間、私は硬直する。今私が上に見せているのは、ずっと手にとっていたコスプレ本だった。
「め、芽吹さんってそんな趣味が....!?」
「ご、誤解よ杏。私は違うの」
「じゃあなんで持ってるんですか!?それ絶対模型雑誌なんかじゃないですよね!?」
「それは、その...」
たじたじになる私と、詰め寄ってくる杏。
「えっと...実は」
結局折れたのは私で、事の始まりを口にし始めるのだった。
「つ、椿さんにそんな趣味が...!」
「多分、違うとは思うけど...」
他人に説明すると自分の理解度が深まるとはよく言うもので、所々誤魔化しながら杏に説明した私はどこか一人で納得していた。
(そうね。大方、また椿さんが変なことに巻き込まれたとか、そんなのじゃないのかしら)
あの夏凜が自分から率先して着るタイプじゃないのはずっと前から分かってるし、椿さんも服を着るよう頼むタイプでも、ましてや命令するタイプでもない。万一頼むとしても相手として夏凜という選択はないと思う。
それこそ、二人が秘密でそういう関係を楽しんでる。なんてこともないだろう。あの二人が付き合ってたとしても、全員に隠し通せるだけの力量は全くないと自信を持って言える。
「まぁ、もうそれなりに前のことだし、聞きそびれちゃったことを思い出しただけで」
「確かめてみてはどうでしょう」
「え?」
遮ってきた杏の言葉を聞き返してみたら、更に帰ってきたのは、どこか輝かせている彼女の目と、
「椿さんが本当にメイド服フェチなのか、確かめてみるのはどうでしょう!?」
ハキハキと発される、そんな言葉だった。
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「じゃあ、これで今日は終わり。はい」
教師の目線で委員長が号令し、学校のスケジュールが終わった。ここからは放課後、俺は普段なら部活動の時間になる。
「あんた達ー、部活行くわよー」
「悪い風、俺今日パス」
「え?あぁごめん、昼言ってたわね」
「そうそう。もう樹の許可は取ってるから」
何故か俺は、これから杏の部屋に招待されていた。大きな依頼も来てないし問題はさしてないと思うが、全員が遊ぶ場所としても部室が居場所になることが多いため、ちょっと疑問ではある。
それに、杏だけなら恋愛小説の話というのが分かりやすいが、芽吹も一緒となると少しその線が薄い。
「了解。じゃあ気を付けてね」
「私(わたくし)達は参りますか」
「...行く前に、そこにいる奴をちゃんと連れてけよ?」
そう言って俺達が目を向けた先には、机にうつ伏せで丸まっている棗だった。理由は分かりきっている。
「......寒い。動きたくない」
「今日は寒波が来てるみたいですからね」
「ちゃんと連れてくわ」
「ん。じゃあまたな」
風と弥勒に別れを告げた後は扉の近くにいた裕翔と郡に一言声をかけ、俺は駐輪場の方まで歩いていった。
(にしても、ホントなんなんだろ...?)
バイクを動かせばすぐに寮へ着く。
(文明の力はすげぇよな。これに慣れちゃうと歩くのがちょっと面倒に思うんだから...昔は月にも人が行ってたんだっけ)
以前杏が話していたことを思い出しつつも、俺はバイクを停めた。キー代わりのスマホを抜いて、彼女の部屋まで歩くのも慣れたもの。
「杏ー、来たぞー」
『あ、椿さん。鍵は空いてるのでそのまま入ってきてください!』
インターホン越しにそう言われ、俺はドアノブに手をかけた。
「ホントに空いてる...杏、流石に来客があるの分かってるからって、あまりこういうのは...」
注意しつつ扉を開けて、部屋の方を覗けば_____
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「...お、お帰りなさいませ」
メイド服姿の杏と芽吹が、綺麗にお辞儀をしていた。
「????」
「お待たせしました。こちら手作りいちごジュースです!」
「いや」
「ではこれからこのジュースに、魔法をかけていきますね!」
「あの」
「いきますよ...お、美味しくな~れ。萌え萌えキュン!」
「杏さん?」
「一緒にやってくださいよぉ!!」
「えぇ...」
いつの間にか席に着かされた俺は、メイド服姿の杏に接客され、よく分からないまま怒られていた。本当にどうしたのかと聞きたいが、彼女の有無を言わさぬ勢いの瞳が邪魔をする。
緊張からか声は少し震えているのに、俺は言い返せない。
「もう一度いきますよ。一緒にやってくださいね?美味しくな~れ。萌え萌えキュン!!」
「お、おいしくなーれ、もえもえキュン...」
「はい!これでとっても美味しくなりました!!飲んで見てください!」
「あ、ありがとう...」
困惑したままこの場にいるもう一人のメイドに目で助けを求めるも、そっちの彼女は共感性羞恥からか、顔を赤くして震えていた。かく言う俺も顔が赤いだろう。
(なんだこれ...なんだこれ)
「椿さん?ぁ、ご主人様?」
「あ、うん。頂きます」
とりあえずいちごジュースを飲んで落ち着こうと、ストローを口につける。味自体は結構美味しかった。
「美味しいな」
「ちゃんと買ってきたいちごをミキサーにかけたんですよ...じゃなくて、私のあ、愛のエネルギーですね!」
「いやお前、恥ずかしくて噛むくらいなら無理に言わなくてもいいからな...?」
「噛んでなんかいません!」
「......」
「実は、理由がありまして」
本人が否定してそっぽを向くため、俺はもう一度、もう一人の方を向いた。何でこんな事態になったのか聞きたいというアイコンタクトが伝わったようで、芽吹が口を開いてくれる。
「椿さんが、その、こういった服が好みなのかと...」
「何でそんな話に」
「芽吹さんがナース服姿の夏凜さんと一緒にいたのを見たって話を聞いたんです」
「あっ、杏」
「......あー」
確かにそんな事件はあった。雪花が上手いこと芽吹に話していてくれたお陰で深く追及されることはなかったが、自分で話してない弊害がこんなところで返ってくるとは思ってもいない。
「そ、それで...椿さん、どうですか?」
その場でくるりと回る杏。スカートの裾がふわりと浮き、綺麗な円が描かれた。顔は色白の彼女にとってよく目立つ赤色になっている。
何の感想を求められてるかは、言うまでもなかった。
「うん、似合ってるとは思うぞ...」
「本当ですか!?」
「ただまぁ、俺別にメイド服が好きというわけではないというか...」
「え?」
「やっぱり...」
「元から、杏そのものが可愛いからな。普段着ない服だからギャップは凄いけど」
どこで買ったのかは知らないが、二人が着てる服は腕や足といった肌の露出もそれなりにある。俺にとって目に入れるのは明らかに毒なのだが、目を離しにくいのもまた事実だった。
「そっ、そうですか...?」
「あぁ。しかもこんな風にお店っぽくしてくれて...ジュースもだが、わざわざありがとな」
一応俺の好みだと思ってた服を用意してくれたわけで、素直に嬉しかった。
(最近そんな癒しを求めてるように見えたんかな?)
「芽吹もありがとう。ただ、夏凜との一件は」
「分かっています。私も何となく理解しているつもりでしてたし。大丈夫ですから...ていうか、そしたらこの格好ちょっと恥ずかしい...」
「?何だって?」
「何でもないです!!...ちょっと待っててください!」
そのままその場を離れた芽吹は、少しして戻ってきた。手にはさっきまでなかったポットとカップが握られている。
「どうぞ。入れたてのハーブティーです」
「お、なんか本当のメイドっぽいな」
いつの間にか飲みきっていたジュースの隣に置かれるハーブティー。こういうのが弥勒が憧れている御付きのメイドの動きなんだろう。
「じゃあ頂きます...うん。やっぱり美味しいな。月並みな表現かもしれないが、安らぎを感じる」
「嬉しいですよ。そう言って頂けるだけで。ありがとうございます」
「どういたしまして...こっちこそありがとな」
「杏もどう?飲むかしら...何してるの?」
芽吹と一緒に杏を見ると、彼女の手にもいつの間にか何か握られていた。
「いえ、椿さんがメイド服フェチじゃないのは分かりましたが、折角メイド喫茶っぽい感じになったので...最後はこれなんてどうかなって」
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「...ふふ」
「ん?何笑ってるんだ杏?」
「何でもないよ」
タマっち先輩がうどんを食べながら聞いてきたのに答えて、既に食べ終えていた私は見ていた物をお財布の中にしまった。
持っていたのは、私と椿さんのツーショット写真。さっき芽吹さんに撮って貰った、私がメイド服姿のもの。
(結局、椿さんはメイド服フェチではなかったけど...)
あの後、私達はそれぞれチェキで写真を撮った。芽吹さんは微妙な反応だったものの、写真を渡したら受け取ってくれたから戸惑っていただけみたいだ。
『貰っていいのか...?』
『いいんですよ』
『...折角なので』
『......じゃあ』
椿さんは遠慮気味に受け取っていた。
(でも、いっか)
ちょっと恥ずかしかったけど、また椿さんの照れてる様子が見れた。最近は耐性がついてきたのかなかなか見れる機会が少なくなってる気がして、それをこうして写真に残せたのはレア度が高い。
(プリクラの時も、二人して顔赤かったな...)
それは、西暦でのデートで撮った物。よく見ていたから今でも思い出せる。
(...また今度誘ったら、行ってくれるかな?)
きっと断られることはない。そう思いながらも、ドキドキとワクワクと一抹の不安を抑えられない心を静めるように、私は胸を抑えた。
「...杏。胸はおっきくなってないと思うぞ」
「タマっち先輩最低!!!」