以前の物と被りすぎないよう気をつけながら書いてると、壁ドンシリーズを書いてる時を思い出しますね。一人壁ドンは出来ても一人チョコ渡しは出来ませんが。
「そらぁ!!」
気合いの入った声と共に放たれたそれは、声量に比例するように勢い良くこっちへ来た。狙いは自分________ではなく、隣の男子。
「うげっ」
運動神経が悪いと自分で言っていた彼は、その球を避けることも受け止めることも出来なかった。それなりに痛そうな音を出しながら、球は彼から跳ねて地面へ転がる。
「!」
僕はその機会を見逃さず_____遠慮なく遠くへ蹴り飛ばした。
「そっちいったよー!!!」
「ちょっと、飛ばしすぎだってばー!」
皆が取りに行く中、外野にボールを渡せた僕は満足げに笑みを浮かべる。
「それで誰か戻ってきてよー!もう内野一人になっちゃったから!」
「それで、負けちゃったんだ?」
「うん...」
縁側でアイスを食べても、今日のことを隣の幼馴染みに話し終わる頃には気分が落ち込んでいた。
休み時間にやったドッジボール。結局僕のいたチームは全滅して負けた。
「あー、アタシがいたら敵討ちしたのになー」
「ボール投げるの上手いもんね...」
「椿ももっと強く投げなきゃ!!アタシみたいに!」
「難しいかな...」
球技全体を通して、僕より銀の方が上手い。まだやったことがないバスケとか卓球とか、そうしたものだったらもしかしたら勝てるかもしれないけど。
縁側に寝そべると、夕暮れ時の空が見えた。みかんのようなオレンジ色の空。
「僕も、銀みたいに男っぽかったらな」
「うぐっ」
「銀?」
「な、なんでもない。なんでも」
その時僕が聞いたのは、ボールを受けた友達みたいな声だった。
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「はぁ...」
アタシは一人、頭を抱えて机に突っ伏していた。別にテストの点が悪かったとか、隣の家の幼馴染みと喧嘩したとかじゃない。
(バレンタインかぁ...)
もうすぐあるバレンタインデー。カタカナばっかでよく分からない日は、『女の子が好きな男の子にチョコをあげる日』らしい。
ニュースでやっていた可愛い手作りチョコの作り方を見たアタシは、どういうチョコにしようか迷って__________
『僕も、銀みたいに男っぽかったらな』
その言葉で、撃沈した。
(そうだよ。アタシは女の子っぽくないから...)
アタシは、自分でも男の子っぽいとは思ってた。おままごととかお人形遊びとかは嫌いじゃないけど、ドッジボールやサッカーの方が楽しく思えるし、学校の友達が知らないようなゲームを椿と一緒にやるのが好きだった。
別に男の子っぽいことは嫌じゃないし、椿と同じだから嬉しい。だから女の子っぽくなりたいとはあまり思わない。でも。
(渡しても、喜んで貰えるのかな...?)
女の子が男の子にチョコを渡す日に、男の子みたいな女の子のアタシが混ざっていいのか。
『え、チョコ?銀男子っぽいのに渡してくるんだー?』
(そんな風に言われたら...どうしようっ!?)
驚いた顔をする椿を想像したら、ちょっとショックだった。かといって、今から女の子らしく思わせるなんて出来ない。したくもないけど、出来っこない。
「ただいまー」
「!おかえりなさい!」
「ただいま。銀...どうかしたの?」
「...実は」
お母さんが帰って来て、アタシの顔を覗く。アタシは不安を吐き出すように、すぐ話し出した。
「そっか。それで...」
「うん...お母さん、どうしたらいいかな。アタシはチョコ、渡さない方が...」
「銀は、椿君にチョコあげたいの?」
「!うん!!」
迷うことなんてなかった。他の誰にあげなかったとしても、椿にはあげたい。
「その気持ちがあるなら、大丈夫よ。思いきってあげなさい」
「で、でも...アタシ、チョコ手作りしたこともないし、ちゃんと受け取ってくれるか」
「あの椿君が受け取らないとは思わないし、手作りに自信がないなら、買った物を渡せば良いわ」
「それでいいの?」
「大事なのはここよ」
そう言って、アタシの胸をつついてくるお母さん。
「気持ちがあれば、手作りじゃなくたって大丈夫。自信を持って。悔しかったら来年、練習してから渡しましょう?今年は急だから無理だけど、その時はお母さんも手伝うから。ね?」
「お母さん...うん!!」
さっきまでの不安は嘘みたいに消えて、アタシはどんなチョコが良いか考え出した。
バレンタイン当日。アタシは数日前抱えていた不安を何倍にもなって感じていた。
(うぅ...なんでこんなに緊張してるんだ......)
後ろに隠しているチョコ_____お母さんとお店で買った小さくて可愛いチョコが何個も入ってる物に、せめてもとピンクのリボンをつけたもの____を握る手がちょっと強くなって、潰さないよう力を抜く。
(大丈夫。渡す練習はしたし...)
「銀ー!」
ハッと顔をあげると、こっちに向かってくる幼馴染み。
「...よし!」
誰にも聞こえないような声で、自分に気合いをいれた。
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外で遊ぶにせよ、普段はどっちかの家で合流してから遊びに行く。だけど、その日は公園で会うことになっていた。
(何でだろう...?)
理由は分からないまま、学校で貰った幾つかのチョコを部屋に置いて、公園まで向かう。僕がついた時には、もう銀がいた。
「銀ー!」
駆け寄る僕に、銀は「や、やっほー。椿」と返してきた。
「すぐ見つけられてよかったよ。でも今日はどうして?」
「あー...いや、ほら。いつもと違う感じを出したかったって言うか、何て言うか...」
「?」
「ぅー...は、はい!!」
バッと両手で出されたのは、リボンがついてるチョコレートの箱。
「ほらこれ!バレンタインのチョコレート!」
「!!いいの?」
「こっちが渡してるのに悪いわけないだろ!!ほら、早く!」
「う、うん...ありがとう。でも銀、知ってたんだね。僕今日学校でチョコ貰って初めて知ったよ」
昨日まで、バレンタインデーが何の日かも知らなかった。
「っ、学校で、貰ったのか?」
「うん。皆にあげてる子からと、もう一人の子から一個」
「!!そ、そっか...アタシのはいらなかったかー。あはは」
「?何で?」
純粋な疑問に、銀がどこかつまったみたいな声を出す。
「え、だって、アタシみたいな男の子っぽいのに貰っても、嬉しくないだろ?」
「?嬉しいよ?銀から貰えたのが一番嬉しい」
「!!!」
「だからありがとう。銀。お返しはちゃんとするね?」
「あ、ぅ...」
バレンタインデーには、お返しをするホワイトデーも決められてるらしい。料理なんて全然しないから買ったものになっちゃうだろうけど、美味しくないのを渡すよりはきっといいだろう。
「銀?」
「ッー...」
「大丈夫?」
「!?」
なんだか顔が赤くなってるように見えて、おでこをくっつけて熱を確認する。
「にゃ、何を!?」
「この前お母さんが熱が出てないかこうやって確認してきたから...うん。僕より冷たいし、大丈夫かな?」
「なっ、つ、冷たいかー!そっかそっか!!」
「でも、ちょっとずつ暖かくなってるね。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!!アタシは丈夫だから!!さ、椿!遊ぼう!!!」
「あ!ちょっと、引っ張らないで!!」
僕はいつもよりちょっと強めに手を掴まれながら、握っているチョコを潰さないように気を付けて引っ張られていた。
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「くらえー!!」
「おっと...良いボールだ。危なかったよ」
「くっそー!つえー!!」
「ふはは。高校生だからな」
そう言いつつ、椿は隣にいた女の子にボールを渡した。
「え...?」
「投げてみ。折角だから」
「で、でも私、上手く投げれないから、皆にやってもらった方が...怒られちゃうし...」
「でも、ずっと立ってるだけじゃつまらないよ?それに、取られても俺がまた取るから。皆に怒られないように頑張るからさ。やってみ?」
「......うん。ありがとう。お兄さん」
女の子は意を決したのか、椿からボールを受けとって構える。
「えーい!!」
「楽しそうだなぁ...」
依頼で来ていた小学校のレクのお手伝いは、今のところ順調そのものだろう。アタシと椿がそれぞれ一回ずつ入るドッジボールも、子供達からの不満はなさそうだ。
「いや、本当に助かります。ちょっと子供達を見れる人数が足りなくて...」
「あぁいえ、気にしないでください。それを受けて答えるのがうち(勇者部)ですから」
依頼主の先生に答えながら、アタシはドッジボールの続きを見る。椿はまだ内野で粘ってるみたいだが、バランスを考えてそのうち外野へ行くだろう。
さっきボールを投げた女の子は残念ながら外野へ行ってしまったが、楽しそうだ。
(なんか、懐かしいな...)
実際に見た訳じゃないけど、バレンタインデーが近かった時にそんな話をした気がする。確か小二とかの話だったと思うけど、もう何年前になるのだろうか。
(全く。椿は今も隣にいるからなー)
何が全くなのか自分でも分からない。でも、何となくそんな風に思う。自分でも言語化しにくい、チョコみたいに甘くてフワフワした気持ち。
(でも、あの頃から好きって気持ちは変わらない...いや、もっと大きくなってるもんね。ちゃんと今年もぶつけなきゃ)
皆と争うことになってでも本当の意味をぶつけるのはいつになるのか、まだ分からないけど__________
「ふーっ。そこそこ運動になるな。これ...銀?どうした?」
「え、何が?」
「いや、なんかにやけてたから」
「にやけてるって...」
言われ方を不服に感じながらも、アタシは返事した。
「なんでもないよ!」
バッグにしまってある今年の手作りチョコを、いつ渡そうか悩みつつ。