古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回はブラウン・ブラウンさんからのリクエストです。ありがとうございます!
た。

頂いたのが丁度8ヶ月前...8ヶ月?嘘でしょ?となってました。お待たせして申し訳ない。今投げてくださってる方も、これから投げたい考えてる方も、気長に待って頂けると幸いです。


ゆゆゆい編 75話

「よーしよしよし」

 

膝に乗ってきた奴はなかなか図太い性格らしく、こちらに顔を一度だけ向けた後は、完全に丸まってしまった。人で言うならふてくされて隅っこにいるような感じがする。

 

「......」

「ほれほれ、ここがいいんですか~?」

 

一方で、彼女は笑顔に普段より高めな声をあげながら、自分の上に座る猫に猫じゃらしをぷらぷらさせていた。運動会のパン食い競争を思い出させるような動きで、猫が跳ねる。

 

「......」

「ニャー、ニャー」

「も~、そんなじゃれないで...可愛いにゃーもう!」

「......」

「にゃ~、にゃにゃにゃー!」

 

(...なんだろう。猫が二匹いる)

 

猫語で会話し始めた雪花を見ながら、俺は自分の膝に陣取っている奴の頭を撫でた。

 

「ナーゴ」

 

猫は動かず、独特な声を一度だけ上げた。

 

俺と(どうしても猫耳を幻視してしまう)雪花は、俗に言う猫カフェに来ていた。カフェと言っても正直大したものではなく、あくまで猫と戯れるのがメインになっている。

 

俺が彼女に同伴しているのは、行こうとしていたこの店が駅からもバス停からも遠かったからだった。こういう時バイクは役に立つ。

 

(趣味や娯楽のことを大赦に頼むのは気が引けるからな...)

 

雪花の目的として俺の同伴はオッケーだったらしく、今に至る。恐らく大丈夫だと思ったのだ。何故なら、彼女が言っていたのは__________

 

『一人で猫カフェ行って癒されたぁぁぁいい!!』

 

だったのだから。

 

当然、彼女がこう言ったのにも経緯がある。というか、滅茶苦茶自分から喋ってくれた。

 

『いや難しいテストが重なったり勇者部の依頼が色々あったのはいいんですよ!先輩方や園子に教えてもらったり、部活動は皆で和気藹々とやれるから!!』

 

『でも毎朝寒いからってこたつから出てこない棗さんを起こすために早起きしたり、夏凜が風邪でダウンしたからクラスで園子と結城っちの破天荒天然コンビを東郷と抑えたり、流石にヤバイんです!!!疲れたもぉ~!!』

 

『お、おう...』

 

普段何かとしっかりものの彼女がこう言うのだから、ここ最近は相当だったのだろう。何より貴重なツッコミ要因が壊れているのは勇者部全体的に不味い。

 

同伴が許されたのも、新たな疲労の種にならないと判断したからだと思う。

 

(ま、なぁ)

 

目の前で顔が緩んできた彼女を見ながら、俺は思考を巡らせる。

 

棗の寒がりはもう何回も経験してのことだし、放置すればいい。だが、彼女はそうしない。

 

園子の破天荒さはいつものことだから、疲れてるなら無視しとけばいい。だが、彼女はそうしない。

 

それが何故かは言われなくても分かる。彼女は疲れながらも、嫌だとは思ってないのだ。周りと一緒に色々やることが。それはこれまでの彼女のことからもちゃんと分かる。

 

「ニャー」

「ニャーニャー」

「お、君も来るかにゃ?いいよいいよ。来るもの追わず、去るもの拒まず!!」

 

(逆だしそれ...)

 

一方で、どこかで発散したい疲れが蓄積するということも分かる。だから俺は深く聞かず、今こうして普段以上に黙っていた。

 

(...お互い動かず、静かにしてような)

 

意図を汲み取ってくれたのか分からないが、膝の猫は微動だにしなかった。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「雪花?」

「...」

「どうした。暗くなる前に帰るぞ?まだまだ夜は冷えるんだからな」

 

厚手の白いコートに身を包んでいる椿さんが、ヘルメットを被る。一方私はそれを被らず、顔の前に置くだけだった。

 

「......」

「雪花?雪花さーん」

「何で」

「?」

「何で止めてくれなかったんですか!?」

「え、だって楽しそうだったし」

「がっつり見てるのにぃ!!」

 

つい先程までいた猫カフェで、私は完全に暴走していた。

 

はっきり言って、最近私は凄く疲れていた。朝は棗さんの世話。昼や夕方は暴走するメンバーのツッコミ。夜はテスト勉強。一つ一つは普段こなせることだけど、一気に来るとキャパオーバーになる。

 

それを癒すため猫カフェへと赴いた。椿さんも私を気遣ってくれて、送迎を買って出てくれたし、私が遊んでいる時も静かにしてくれていた__________いや、あまりにも静かにしていすぎていた。

 

私が猫の可愛さに周りを見失うまで癒されていたのを、黙って全部見ていたのだ。気遣いは彼の良い所だが、あんな後になって恥ずかしくなる姿、見られたくはなかった。

 

「なんだよ。俺のこと気にしないよう静かにしてただろ?」

「そうですけどねぇ!私完全に放ってたじゃないですか!?」

「別に、今日の俺はただの送迎係で、雪花が癒されるのが目的だし...居心地良さそうな顔してたじゃん」

「それは忘れてくださいっ!!!」

恥ずかしさが取れるのは、それから更に数分かかった。寒くなってきているとは思えないくらい体が熱い。

 

「はーっ...」

「わ、悪かった。少なくとも暴走したことはここだけの秘密にしとくから」

「それは別に...いえ、それも秘密にしといてください。芋づる式に出てきかねないので」

「あぁ。じゃあ、もういいか?出発して」

「...はい。ちょっと待ってくださいね」

 

気持ちを切り替えれば、椿さんの顔を見ても恥ずかしくはならない。と思うことにしつつ、私はヘルメットを被る。

 

「あ、そうだ」

「どした?」

「折角ここまで来たので、ちょっと寄ってみたいスポットがあったんですよ。帰り暗くなっちゃうと思いますが、良いですか?」

「別に平気だぞ。案内できるか?」

「任せてください」

 

それは、ちょっとした高台だった。猫カフェを探す過程で癒しスポットを幾つか見ていた時に見つけた場所。

 

別段、何かがあるわけじゃない。ただちょっと見晴らしの良い場所ってだけ。

 

「到着したのはいいが...ここか?」

「はい。あってます」

「何も無いみたいだが...」

「古そうなベンチだけですもんね」

「...ホントにここ?」

「えぇ。私が来たかったのはここです。ちょっと行きましょう」

 

椿さんを誘って、高台の崖際、転落防止の柵だけが配置されている場所まで歩く。椿さんもバイクを止めてついてきてくれた。

 

「別に何もないんですよ。ここを調べたときもそう書いてありましたから」

「でも、来たかったのか?」

「ついで感覚というか、あのカフェから近かったからって感じですけど」

「......一体何が目的で」

「...日が沈みますね」

 

ちょうど太陽が沈みきったらしく、空がオレンジ色から紺色へと変わっていく。

 

「気づきませんか?」

「何に?」

「何かに」

「......静かだな」

「正解。私もここまでとは思いませんでした」

 

椿さんはすぐに正解を当ててみせた。ここは近くに家もない。電車も通らない。道は狭く、バイクが通れる程度。

 

聞こえてくるのは、お互いの動く音や、呼吸音だけ。

 

「故郷が恋しい訳じゃないですけど、寒い日に外へ出たくなるんですよ。私。最近は静かな場所もなかなかないですし...良いことだとは思ってますけど、たまにはいいかなって」

「確かに、ここまで静かなのはなかなかないか...寮のすぐ近くも住宅街だしな」

「そうですね。北海道でもそうありませんでした」

 

記憶としては数年前になるあの場所も、ここまで、一人でいたら耳が痛くなりそうなくらい静かな場所はなかった。私の家の近くにも人はいたし、冬は雪の音が入る。

 

「確か東京だよな?昔の首都って」

「え?はい。そうですけど」

「いや、そこならこんな静かな場所は一ヶ所もないのかなって」

「私も詳しくは知らないんですけど、東京も他県との県境付近は整地してない山々が沢山あったらしいですよ?」

「へー。そうなのか。勉強になるな」

「普段受けてる授業を考えると、テストには出ないでしょうけどね」

「誰も300年前の正確な情報なんて知らないさ...採点する側も困るんじゃないか?」

 

先生が言いよどむ光景でも想像したのか、椿さんがくすりと笑った。この場所だと、その音もよく聞こえる。

 

「...いいよな。こうしてゆったりするのも」

「なーんにも無いですからね」

 

手を上にかざして、月を隠す。自分を照らす光がほとんどなくなる。

 

(...たまにはいっか)

 

「はぁーっ。今日ははしゃぎすぎて疲れました」

「うおっ...お前なぁ」

「いいじゃないですか。誰も見てませんよ」

 

ここには誰もいないから、椿さんの肩に寄りかかっても視線を感じることもない。たまには私もやってみてもいいだろう。

 

(恋愛感情が皆無でも、いつもならこんなことした時点で視線を感じちゃうからね...)

 

「どうせ断ったってやってくるんだろ?好きにしろ」

「はーい」

 

普段の皆で対応が慣れてるのであろう椿さんは、特別気にしてる様子もなかった。

 

「...」

「...」

 

ただひたすらに、ゆっくりと。自分のゆったりとした鼓動が相手の耳に届いてそうなくらい静かな場所。

 

「......」

「...これ、いつまでやる?」

「椿さんはもう帰りたいんですかー?」

「いや、あんまり遅くなるわけにもいかんだろ」

「私はご飯食べる時間そんなに気にしませんし、帰りは椿さんが送ってくれるでしょう?遅くても大丈夫です」

「...分かった。じゃあ適当にな」

 

それから、時たまポツポツと中身のない会話をしながら、ただ静かな時間を過ごして__________

 

 

 

 

「じゃあな」

「はい。ありがとうございました」

 

バイクが動きだし、曲がって見えなくなるまで見送る。

 

寮の前で降ろされた私は、一度空を見上げた。

 

さっきより周りが明るいため、月も、その周りの星も、少し輝きが弱く見える。

 

「やっぱ、たまにはいいもんね」

 

そう呟きながら、私は自分の部屋まで歩いていった。

 

その呟きの意味が『静かな場所にいたこと』に対してなのか、『ほとんど一人の時間を過ごせた』ことに対してなのか。

 

はたまた『椿さんと二人でいれたこと』に対してなのかというのは、思った以上に自分でも分からなかった。

 

(ま、最後はないでしょ。......ないない)

 

 

 

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