「動画投稿か...まぁいいけど」
最近、勇者部では一つ問題が起きていた。正確には起きそうになっている。が正しいか。
どんな問題かと言えば、簡単に言えば予算だ。
元々大赦からは各メンバーへお小遣いとしてお金が渡され、勇者部にも活動資金が与えられている。しかし、最近出費がかさみ、資金を少しオーバーしていたのだ。
別に各メンバーが自重して運営費に回す、もしくは大赦に増額を頼めば良いのかもしれないが、今後似たような機会が来た時の為に、今回は自分達で何か稼げないかという話が挙がり。そうして出てきたのが、勇者部で動画を作り、お金を得る方法だった。
『意外と視聴回数稼げればお金を得ること自体は出来るっぽいぞ。沢山稼ぐとなると難しいが...』
裕翔から話を聞いたり、千景をはじめとしたメンバーで相談した所、動画投稿は手段として『アリ』と判断。となればすぐ行動に移るのが勇者部だ。
その時席を外していた俺は、園子ズが何人かメンバーを連れて撮影し始めたという話を聞いたものの、自分がどうするかはまるで決めていなかった。
「俺が出来ることって何かあるかな?出来そうなのはゲームやプラモだけど、どっちも俺より上手いのがいるし」
「そうですね...でしたら、とりあえず一通り動画にしてみて、私達がそれを見るのはどうでしょう?」
「あー、それでチェックして貰えばいいか」
東郷のアドバイスの元、自分が貢献できそうな配信内容を考える。
「...よし。じゃあこの週末でビデオカメラ回して色々撮ってみるわ」
「分かりました。楽しみにしてますね」
「そんな面白いものを撮れる気はしないが...なるべく頑張るよ」
「もしもし」
『ん?どうした?』
「突然で悪いんだが、お前が持ってるゲーム幾つか貸してくれないか?なるべく沢山、というか俺が持ってないジャンルのゲーム」
『え、いいけどどうした?』
「実は、勇者部で動画撮影することになってさ_____
----------------
「んじゃ、後頼む」
「はい。お任せください」
部室を早歩きで出ていく古雪先輩を見送り、私は録画機の中の映像をパソコンへ移していく。
「東郷さん、何してるの?」
「古雪先輩がこの土日に撮った動画を確認するのよ。友奈ちゃんも見る?」
「見たい見たい!」
「タマも見たいぞ!椿何してきたんだろうな?」
「ゲームはしてるんじゃない?」
球子さんや夏凜ちゃんを始め、興味のある人が徐々に集まってきた。
「ぐすっ...イケメン6計画が...」
「そのっち。いつまで言ってるの」
「園子。ごにょごにょ...」
「!!つっきーの動画!?これは見るしかねぇ!!」
「うーん、キャラ変わりすぎでは??」
「おだてた銀が言うんじゃないわよ」
そのっちが考えていた『イケメン6による恋愛ドラマ計画』は演者の反対により頓挫。部室の端で悲しみにくれていた彼女も、銀が話しかけたせいですぐに復帰し、いつもの記録道具を持っていた。
「ていうか、肝心の本人は?」
「別件の依頼でもう行ったわ...よし。これで見れますよ」
かなり録画数が多く、ちょっと意外な印象を受けたものの、私は構わず最初の物を押した。
『これで音もよし...映像も問題なし。じゃあ始めるぞ』
何度か見たことのある古雪先輩の自室かと思えば、すぐに映像が切り替わった。
『色々調べてゲーム画面をメインに出来るよう画面関係を弄った。右下に俺が映ってる筈だ。とりあえずこれで幾つかゲームをしていくぞ』
「やはりゲーム実況だったわね」
「何のゲームをするんでしょう?」
『まずやってくのは対戦ゲームだ。オンラインで何戦かする』
「おぉ、会話してるみたいだな。今の」
古雪先輩は淡々と、自分の操作する人物の強み、弱みといった説明、対戦時に気にしている点などを話ながら戦っていく。
『普段戦ってるのが千景だから、やっぱ相手は弱く感じやすいな。だからって勝てる訳じゃないけど』
「と言いつつさらっとコンボ決めてるわね...それなりに難しいと思ったけど。今の」
「やっていない私でも分かりやすいと思う解説ですが...そもそも面白いかと聞かれると、どうなんでしょう?」
私達からすれば、古雪先輩の動画ということもあり楽しめているが、彼を全く知らない人達から見てどう感じるのかは分からない。解説動画としての優秀さは、そもそも需要があるのかすら私には分からないわけで。
「とりあえずどんどん見てこうぜ。椿、結構撮ってるみたいじゃん」
球子さんに促されるまま、私は次の物を表示した。
『次は簡単なRTA動画をやる。やるのはこのゲームな』
「あーる...?」
「リアルタイムアタック。とにかく早くゲームクリアするのを目指す楽しみ方よ」
『練習は大体二時間くらいした。始めるぞ』
そう言って椿さんが操作を始めると、いきなり画面が黒くなった。
『!?』
『まぁ今回こんな感じってのを見てもらえればいいからバクが有名で滅茶苦茶早いのを選んだわけだが...初動特殊コマンドを出すとこうして画面が暗転。20秒してからポーズして再開すると最終面から始まる』
草原のような背景が紫の禍々しい姿に変わり、私達は絶句した。
『後はこの面をなるべく早くクリアするだけだ。動かし方は練習したしコースも頭に叩き込んだ。最速動画がこっから10分だったから、12分代を狙うぞ』
「...た、確かにこれなら皆驚くかもしれませんね......」
それから。オススメの本について語る動画(ライトノベルと言われる種類だった)、模型製作動画、短剣を扱う際に気を付けている点を話す動画、料理を作る動画もあったが__________
「た、確かによく動画としてあげられてる物もあるけど...」
「少なくとも、私達がやらされたドラマよりはまともだが...」
「...私達が見る分には面白いですが、これが動画として皆から再生されるかと言われると、微妙かもしれませんね」
「短剣の使い方とか、一般人はそもそも振り回さないわよ」
良く言えば王道、悪く言うなら無難、埋もれやすいものであったり、理解されにくいものと言えばいいのか。数を出せばいずれ人気になるかもしれない、というものだった。
「こ、ここから昨日になります」
まだ動画があることに驚きつつ、土曜日に収録したものから日曜日へ移る。
(古雪先輩は、これ以上何を...)
「これは、外ね?」
「あ、猫!」
『出掛けるついでにいたんで動画を撮り出したぞ。折角だから、野良猫の触れ方をな』
『勇者部で慣れたんだが、この場合は...』と言って始まった動画は、画面のほとんどが猫の拡大図だったものの、顔を崩す猫は可愛さがあった。
「ペット動画...こういったものもあるのか」
「これは人気出そうだね~...メモメモ」
「里親探しで関わった子達に協力をお願いすれば幾つか撮れるかしら?」
「弥勒家と猫の戯れ...イケますわ!!」
皆で会話が進んでいると、いつの間にか動画が切れて次に変わる。
(これは...他と比べて圧倒的に長いわね。何かしら?)
「これは、また家でしょうか?」
『裕翔...友達から俺が持ってないジャンルのゲームを借りてきたから、追加でやろうと思う。といっても一本だけだったが...折角ならちょっと気合い入れてやるか』
「椿が持ってないジャンルのゲームなんて珍しいな。あいつ結構持ってるのに」
『んじゃやるぞー。タイトルは...』
「......終わったわね。彼」
----------------
『これは俗に言うギャルゲー...何でギャル出てないのにギャルゲーって言うんだろ。あ、恋愛シミュレーションゲームか。まぁとにかく、女の子とデートしたりして仲良くなって、恋人だったり結婚だったりを目指すゲームだな』
『乙女ゲーっていうこれの男版もあるが...あいつ持ってなかったし、俺もやりたいかと言われればノーだし。で、今回は投稿を見越してただプレイするだけなのも変だから、主人公の声をやろうと思うぞ。ヒロインはフルボイスらしいしな』
『さて、この辺から攻略するヒロインを決めていくわけだが...誰がいいかな。んー...見た目で言えばこの子結構いいんだけど、声はこっちの方が...折角だから僕っ娘いくか』
「僕はいいんだよ。元々男の子っぽいから、女の子らしい仕草なんてしなくていいし、私なんて使いたくない」
『ん、ここで選択肢か...難しいけどこっちかな「好きにすればいいさ。変なこと言ってくる奴なんて気にしなければいい。お前のことをちゃんと見てくれる人はきっといる」』
「...君はそう言ってくれるんだ。ありがとう」
「誘ってくれてありがとう。お陰でこんなに綺麗な花火が見れた」
『それなら良かった』
「...あの、それで。君に伝えたいことがあるんだけど」
『どうかした?』
「......ぼ、僕はっ、僕は君のこと_____」
『おー、綺麗な花火だな...ごめん、聞き取れなかったんだけど、何て?』
「ッ!!何でもない!!」
『いやこれ絶対告白したじゃん。主人公のこと好きじゃん。お前それはダメだろ』
「前に話してくれたよね。女の子らしくすることなんかない。そんなお前のことをちゃんと見てくれる人はきっといるって」
『言ったな。確かに』
「うん...それでね。一つお願いがあるんだ」
『ん?』
「君に、僕のことをちゃんと見ていてほしい。ずっと。僕の側で...ダメかな?」
『じゃあ、こっちからも一つ。好きです。付き合ってください』
「!!うんっ!!」
『......これで、エンディングか...いや、スタッフロール流れてるけど、まだ恋人になってからの話があるのか。いや、取り敢えずよかったな...花火大会の時に決めろよとは思ったけど、文化祭でこんなに盛り上がるとは...って、もうこんな時間か。一旦やめて、風呂やらご飯やら食べるか。続きはこれの反応を皆に聞いてからにして__________』
----------------
「おはよう」
「お、おはよう...どうした?そんなにやつれて」
「そう見えるか...」
「死んだ目をしてる」と言われたが、疲れが取れてない俺はため息を溢すだけだった。
「取り敢えず、これ返す」
「ん?あぁ...もしかして、原因これ?」
「それ自体にはないよ。普通に楽しめたし。強いて言うなら全員分のルートをやりたかったが...」
「じゃあ貸しとくけど?俺は攻略済みだし」
「......いや、いい」
魅力的な提案ではあったが、昨日のことを思い出してグッとこらえた。
「...勇者部に何か言われた?」
「...続きをしてくれとか、他の人の攻略をしてくれとか、逆にもうやらんでくれとか。揉みくちゃにされた」
依頼から帰ってくれば、動画を見た彼女達から何故か詰め寄られ口々に別のことを言われ、その場で話し始めてしまい。宥めたつもりだったが、逆に皆が俺に要望してきたのだ。
「やっぱり...だから俺は渡す前に大丈夫かって聞いたのに」
「まさかお前、こうなるって予想してたのか?どうやって」
出来れば教えて貰いたい所だが、当の本人はため息をつくだけ。
「いっそ、勇者部の誰かを攻略する動画撮れば?」
「それ何処に需要あるんだ?あいつらも演じるの大変なだけだし、その動画ネットに流してどうする」
「......ソウダナー」
「おい、こっちは真面目に聞いてるんだ。おい逃げんな!!」
「俺を攻略するために来なくていいから!!」
「攻略する気は更々ないわボケ!!!」
疲れで頭の回らない俺は、結局風から新たな一撃を入れられるまで裕翔を追い回すのだった。
「んで、提案だが」
「なんだよ」
「今度うちで遊ぶ時、やらせてやるよ...」
「お前...」
「少なくともお前はもう少し乙女心を学んだ方がいい」
「お前にそう言われるのマジでよく分からないが...やらせてくれるなら嬉しい。ありがとう」
「いいってことよ。ほら、うちなら勇者部の人にバレることもないだろ」
「そうだな」
「「はっはっは」」
_______後日。何故かゲームの続きをやっていたことが勇者部メンバーにバレたが、それはまた別の話である。