古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆ3期、大満開の章まで1ヶ月切りましたね。1分足らずのPVであんなに盛り上がれる作品もそうないのでは...また詐欺PVになってないことを祈る。

というわけで、ふつゆも久々の更新です。お待たせしました。お楽しみ頂ければ。


短編 白鳥歌野は■■■■■

「良いところだぞ。諏訪は」

 

父さんが運転席でそんなことを言っているが、俺はそれを無視していた。窓の外に見える景色はここ30分変わることなく、森林だけを見せてくる。

 

(いきなり、長野だなんて...)

 

親の仕事の都合で、東京に住んでいた俺は長野へ引っ越すことになった。だが、俺は未だに納得いってない。

 

友達と別れ話をする暇もなく、突然こうして車に揺られる。おまけに、行き先は都心とかけ離れた田舎。

 

携帯も持ってない小学生の俺は、あの場所にいた友達とは連絡手段が無くなってしまった。家の電話番号はつかないと分からないと言うし。

 

(友達はゼロ。ゲームも簡単に買えない)

 

ついた肘は重く、俺の顎の重圧に耐えられなかったのか、痛みをあげていた。自分で得られた変化がそれだけで、楽しむためにもう少しわざと力をかける。

 

(はぁ...)

 

『空気がおいしい』とか、『星が綺麗』とか、それがなんだと言うのだ。

 

「ほら、見えたぞ」

 

父さんの声で、景色が変わった。といっても建物は見えず、林から畑やらになっただけ。

 

(やっぱり田舎だ...)

 

 

 

 

 

だから、俺はその時はじめて見たのは気のせいだと思い込んだ。

 

汗をかきながら、それでも笑みを浮かべながら畑で作業している少女がいたことを。

 

 

 

 

 

結論から言うと、俺が見たのは冗談でも気のせいでもなかった。たどり着いた引っ越し先で、彼女を見たのだ。

 

「ハロー!貴方が引っ越してきた人?あの家掃除してる人がいたから気になってはいたけど、今日だとは思わなかったわ!」

 

明るく、そんな風に笑っている彼女は、やってきたばかりの俺に土のついた手を伸ばす。

 

「私、白鳥歌野。よろしく!!」

「あっ...うん。よろしく」

 

俺は、流されるままに彼女の手を握る。握った手は、乾燥気味の土と、彼女の汗が感じられた。

 

 

 

 

 

『折角年が近いんだ。仲良くしなさい』

 

そう言われ、まぁ言われるまでもなく年の近い相手は彼女しかいなかったため、自然と俺は彼女の近くにいることが多くなった。

 

村のことを教えてもらったりもしたし、そもそも学校以外暇でやることがない。ゲームは通信環境が悪く、ハマっていた対戦ゲームの通信落ちが増えて萎えた。

 

彼女は大体、暇な時は畑を弄っていた。自分より一つ下なのに個人用の畑を持ってることについては、しばらくしてからその異常さに気づいて、初めの頃は田舎の人は皆そんなもんなのだと思っていた。

 

「なぁ、楽しいか?畑仕事」

「楽しいわよ!!私が一生懸命育てれば、それだけ野菜が美味しくなってくれるもの!!」

「ふーん...」

 

言いたいことは分からなくもないが、そこまで興味のあることでもない。自分から聞いといてあれだが。

 

「椿も一緒にやりましょうよ。私の畑なら使っても良いわよ?」

「...遠慮しとく」

「そう?やりたくなったらいつでも言って頂戴ね」

 

差し出された鍬を戻して、俺は木陰に入る。彼女もそう強く推してくることはなく、畑仕事に戻る。正直、それはありがたかった。強制的に引っ越した俺に、無理矢理この場所へ適応させようとしてこないように感じたから。

 

「あ、はいこれ」

「?きゅうり...?」

「取り立てフレッシュな物よ。そのまま食べてみて」

「......!!」

 

かじって、俺は驚いた。きゅうりはほとんどが水だと聞いたことがあったし、畑一つ、作り手一つでそんな変わるものでもないと思っていたが、そんな予想を越えるものだったから。

 

(なんだこれ...旨味っていうのか?何だ?ただのきゅうりがこんなに美味しくなるなんて)

 

「ふふっ、美味しいでしょう?顔に出てる」

「!」

「これが、いずれ農業王になる私の野菜よ!!」

 

Vサインと一緒に笑顔を見せる彼女。そんな顔を見て、俺は一言。

 

「...確かに、美味しいな」

 

彼女から目をそらしながら、小さな声で呟いた。彼女から隠れるように、でも、彼女の努力を讃えるように。

 

 

 

 

 

そこから大体一年。やがて、俺自身見てるだけなのが申し訳なく思ってきて、彼女が休む時に飲めるよう、飲み物を準備するようになった。逆に、畑は俺が入っちゃいけない感じがして、彼女が体調を崩した日だけしか手伝ってない。

 

暇な時は彼女の畑へ行き、彼女は畑作業、俺はそれを見る。終われば彼女はお茶だったりスポーツドリンクだったりを飲み、俺はついでにレモンの蜂蜜漬けやらの季節に合わせた物を食べさせる。

 

「私、アスリートになった気分だわ」

「こんな暑い日に畑仕事なんてしてたら、もうスポーツみたいなもんだろ」

「確かに暑いわね...椿がちゃんと私の体調を見てくれてるから安心して作業出来るけど」

「っ...どうせお前はやめないんだから、倒れないよう見張るしかないだろうが。全く」

「一緒に作業してくれても良いのよ?」

「それはいいって言ってるだろ」

「はーい」

 

田舎なのは変わらず、それでも、色々と変わってきた生活。

 

「お前はいつも元気だな」

「元気が取り柄ですから!」

 

そんな『日常』があんな風に突然崩れるなんて、この時の俺達は少しも疑っていなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

2015年。私達は突然、命の危機に晒された。

 

突然現れた白い化け物。人の口みたいな部分が大人を丸飲みする様子を見れば、皆叫ぶのは当たり前だった。

 

私も腰を抜かすくらい怖くて、でも、そんな中、何故か動かなきゃという使命感染みたものを受けて、私は走り出した。

 

行き着いた先は、諏訪湖の近く。ついてきた皆と一緒に見たのは、化け物を通さない結界と、あの化け物と戦う人の姿だった。

(それが、私とうたのんの出会い)

 

その姿はかっこよく見えて、凄く見えて。後になって四国の大社という場所から通信で教えられた、彼女の肩書き『勇者』と私の肩書き『巫女』が同じように話されているのが、信じられなかった。

 

神様に導かれるようにこの場にたどり着いた私だけど、とても彼女と同じようには思えない。

 

そして、私達はまだ子供で、最初は皆も信じてくれなかった。いずれは敵に殺されるのだと、生きる気力を失くしかけていた。

 

『今は苦しい状況ですが、きっと活路が見つかります!!』

 

そして、周りを遮るように言ったのは、他でもない勇者様だった。

 

『人間は何度でも立ち上がることができるはずです!!!今はその時に備えて、皆で力を合わせて暮らしていきましょう!!!』

 

そう言って、弱音を吐かず、いつも笑顔で、皆を守り続け、畑を耕して_____そんな彼女にずっと、付き従うような男子が一人。

 

(それが、私と彼の出会い)

 

『あいつはあぁ言ってる。あんた達から否定されても、この場所を守るために一人で戦って、好きなことを楽しみながらやって、生き抜くことを諦めていない』

 

うたのんがどんな立場なのか、この中で何をしてるのかをちゃんと言って。

 

『それでもあんた達があいつを否定するなら、結界内にたどり着くのに助けてもらった人も、俺よりあいつを知ってる人も、俺達より長く生きている人も、あいつのことを拒むなら、そんな奴はさっさとくたばってろ。あいつの邪魔だ』

 

そんな風に続けた。あの時のことは今も覚えてる。怒気の強い声に、きつく睨んだ目。

 

それから、住んでいた人も、避難してきた人も、少しずつ変わり始めた。ある人は頑張り続けているうたのんに協力するため、ある人は彼への言葉に反感を抱いて。

 

それから大体三年。今では諏訪湖に魚を取りに行く人がいる程活発になり、皆も笑顔が増えた。

 

そんな中で、私が気になっているのは__________

 

(やっぱり、あれは考えていったのかな)

 

私の隣で、うたのんの農作業を眺めている彼の、あの時の言葉を思い返していた。

 

この三年で、私も彼の人となりを知れた。それで、あの時の言葉も、皆を煽るようにわざと言ったんじゃないかと考えてる。

 

ただ、そうなると_____あの時の時点で、希望をなくしていた大人に、発破をかけるためにわざと煽ったことになる。私とうたのんと一つしか違わない、当時中学一年生だったこの人が。

 

(そしたら、どれだけのことを考えて...)

「藤森、どうした?」

「ひゃう!?」

「あ、悪い。驚かせたか」

「いっ、いや、大丈夫だけど...」

「そうか?こっち見て固まってるからさ」

「...あ、あの、古雪君」

 

気づけばうたのんではなく、私のことを見ている彼。動揺した私は、思っていたことがポロポロ出てしまった。時々言動がきついところはあるけど、普段のうたのんとのやり取りを聞いたり、うたのんから意味を聞けば、そう怖くもない。

 

「ん?」

「あの、私達が勇者と巫女って分かってからすぐ、信じてない村の人達にくたばれーなんて言ってたよね?あれ、皆が怒りを原動力に動くと思っていったの?それともうたのんを信じさせるために言ったの?」

「はぁ?いつの話だよ」

 

求められるまま、私は思い返していたことを全部話した。古雪君は「あー」なんて考えるような仕草をする。

 

「あの時はなんも考えてなかったよ。純粋に守って貰ったのに、あんな態度を取る人達に腹が立ったから言った」

「えぇ、そうだったの...?」

「それ以外あるか。大体、必要ないだろ?」

 

そこで区切った古雪君は、うたのんの方を見た。思い出していたきつい目じゃなく、優しい、思いやるような瞳。

 

「あいつの言動は皆を立ち上がらせるのに十分だ。俺が何をする必要があるって話」

「そっか...でも、古雪君も戦ってくれてるもんね。今も」

「そりゃ、今若さで運動力が日々上がるの、この村に俺しかいないからな。それに、俺はあいつの負担を減らしたくてやってるだけだし」

「それでも凄いと思うけど...どうやってうたのんとそんなに仲良くなったの?」

「......ここには嫌々来た。だから、あいつのことも始めはあまりよく思ってなかった」

 

「でも」と、古雪君が続ける。

 

「なんだろうな。魅力があったんだよ。あいつ」

「魅力?」

「あいつの農作業を見てたら、引き込まれた。って言うべきか。あいつが一生懸命なの、凄く良いと思うんだ。だからあいつが大切にしてる畑を守りたいし、あいつの『日常』を守りたいと思ってる」

「古雪君...」

「......今言ったの、絶対あいつに言うなよ?」

 

珍しく頬を赤くして、遠くの雲を眺めだす古雪君。その姿がちょっと可愛くて、思わず私は微笑んだ。

 

「そうだね。敵との戦いはうたのんに頼りっぱなしだけど、古雪君みたいにそれ以外のことは支えてあげたいな」

「ま、俺は最近戦いのサポートだけだがな...っと、おい!!そろそろ休憩しろ!!何時間ぶっ通しで動くつもりだ!!!」

「あら?もうそんなに経ってるの?」

 

(......今も支えてるじゃん。ねぇうたのん?)

 

「ていうか貴方いい加減私のことちゃんと名前で呼んでよ!みーちゃんは呼んでるのに!!」

「藤森だって名字だけじゃん。お前はお前で通じるし」

「むー!」

「ほら、バカ言ってないでさっさとこれ飲め」

「全く、仕方ないわね...みーちゃんどうしたの?そんなに笑顔で」

「ん?面白い雲でも見つけたか?」

 

言い合ってたのに、私に聞く時は息を揃えて言ってくる二人。

 

「...うん、とっても楽しいよ」

 

そんな二人の姿が楽しいと言えば片方が怒りそうだから、私は笑うだけだった。

 

 

 

 

 

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『田舎は、無い物はとことん無いが、無さそうな物は有る』

 

椿がそんなことを言ったのは、珍しく私の畑に来なかった時だった。ちょっとだけそわそわしたのは絶対に言わない。

 

『神楽殿にお前の武器があったから、神社とかそれっぽいところを藤森に聞いて、巡ってみたんだよ。まぁ出るわ出るわ』

 

そう言って大きな袋から取り出したのは、少し汚い刀だったり、錆び付いた槍。

 

『お前が使って、サブウェポンになればよし。お前が触った後俺達も敵に攻撃できるようになる武器になるならもっとよし。とにかく、余裕が出来たらでいいから前のとセットで敵に効くか調べてほしいへぶっ』

 

小刀を弄る椿に対して、私は容赦なくビンタした。

 

『何で私に言わず結界の外に出ちゃうのよ!?!?』

『いやほら、農作業中に邪魔できないし、藤森に危険がないか連絡しながら行ったし』

『それでも...あーもう!!』

 

その時はあまりにもバカな彼と、知ってて行かせたみーちゃんを揃って怒った。

 

でも、それから少しして、実際に使ってみて、その行動を否定しきれなくなった私がいた。

 

一度敵のせいで武器を落とした時に、持っていた刀で戦い続けることが出来たのだ。もしあれがなければ、武器を取り返すために無理をしていたかもしれない。下手をすれば、もう私がいないなんてことも。

 

『使えたのか。ならよかった』

 

でも、当の本人はあっけらかんとしていた。

 

(......でも、きっと、違うのよね)

 

『んー...俺達が使っても意味ないんじゃ、俺が出来るのは撹乱、時間稼ぎだけだな。もっと主人公みたいな動きがしたかった』

 

あれから敵が襲ってきた時に、椿が色々と動くようになった。見つけてきた武器は持たずに、前々から私に試させていた敵が反応する物を自作で用意して。

 

『奴らに煙での視覚遮断は効かない、熱も臭いもあまり効果がない。恐らく人や結界特有のものに誘われてるんだろう...だから人がいないと与えられない衝撃、自然で出ない音に反応する。それを起こした人が近くにいると考えるからだろうな。つまり奴等は色々考えながら動いてくる敵ってことだ』

 

そう呟きながらいつもの木陰でノートを取っていた椿は、次の日から工作を始めた。竹で吹き矢を作り、熊避けの鈴の音がより鳴るようにして。

 

『私もやめなよって言ったんだけど...あくまであいつらが結界に行く前の寄り道場所を増やすだけだって言って...』

 

確かに結界にたどり着くまでの時間が長ければ、私が結界や皆を守るのに余裕が出来る。

 

だからって、普通やらない。生身の人間が安全な場所から抜け出してまで、何も効かない敵に立ち向かうなんて。

 

それでもやるのは_________

 

(私が少しでも落ち着いて戦えるだけの、時間を稼ぐために。私の助けになるために、やってるのよね...)

 

それが分かっているから、私は色んな感情がごちゃごちゃになって何も言えなかった。

 

 

 

 

 

「よし、できた」

「いっぱい作るね」

「吹き矢は基本使い捨てだからな...まぁ、男子は試作品とか新兵器とかって言葉に憧れがあるんだよ。おまけに、楽しく作って生きるのに役立つんだから無駄がない」

 

畑を耕してる私の隣で、二人がそんな会話をしている。始めは椿を怖がっていたみーちゃんも、気づけばかなり仲良くなっていた。

 

『私、あの人がちょっと怖くて...』

『別に、嫌われてるならそれでいい』

 

二人だけだと全く進展しなさそうだったから、私が仲を取り持ったんだけど。

 

「四国の大社だっけ?そこに行けばここより安全なのかもしれないが...あっちから支援がないと動けないだろうからな」

「そうだよね...」

「あいつが藤森を抱えて向かうだけなら行けそうだが」

「!そしたら皆は!?」

「見捨てそうにないから動けないって言ってるんだよ。あっちには勇者様とやらが沢山いるらしいし、どうにかなりそうだがな...っと、流石に眠いから寝る」

「細かい作業だったもんね。お疲れ様」

「ん」

 

会話が終わって、私が動く音しか聞こえなくなる。やがて、そこに小さな寝息が加わった。

 

「これでラスト...うん、終わりね」

「うたのん、お疲れ様」

「ありがとうみーちゃん」

「こっちであってたよね?」

「えぇ。そっちの黒い水筒は椿のよ」

 

椿を起こさないように、少しだけ離れて話をする。

 

「でも、椿も随分アグレッシブね...もう少し結界内で大人しくしてて欲しいんだけど」

「うたのんが心配なんだよ」

「それは分かるけど...みーちゃんも子供を助けるために結界の外に行ったりしたことあるし、私の周りは勇気のある人ばかりなのかしら」

「...うたのんは嫌?」

「そんなわけないわ。寧ろ大好き」

 

勇者として力を使う私と、戦うための力を持たない二人。同じように敵の前に行くことそのものが、物凄い勇気のある行動だと思う。

 

まして椿は、ここ最近敵が来たら必ず動いている。

 

「...四国の勇者の準備が出来たら、私達の所へ来てくれるだろうから、それまでの辛抱ね」

「四国かぁ...行ったことないや」

「みかんとか育ててみたいわね。きっと二人とも気に入るわ」

「それは楽しみだね。美味しそう」

「任せなさい」

 

また畑をいじれるなら、それはここでなくても構わない。私と、椿と、みーちゃんと。またこうして農作業を見てもらって、また何か食べながら話をしたい。

 

「...本当に楽しみ」

 

そのためなら、どんな相手とも戦えそうだと、私は本気で思った。

 

 

 

 

 

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(......また数が多かったな)

 

先日、結界を支える一柱が敵の猛攻によって壊されてから、一度に襲ってくるやつらの数が増えてきた。

 

ここの拠点を重要視しているのか、もう他に襲う場所がないのか。

 

(四国が襲われたという報告はない...これだけの差が出てるのは、まぁ、そういうことなんだろうな)

 

最悪のケースは考えたくないし、かといって最悪を考えるのは俺の役目だとも思う。あいつはそれを考えていても前を向くし、藤森はそれを考えすぎて潰れてしまう。

 

ただ、考えられる地獄は_____この先に待つ未来が、真っ暗もいいところという。

 

「椿」

「!悪い、寝てた」

 

気づけば目の前に彼女がいた。持ってる鍬はいつかの彼女を思い出させる。

 

「いや、別に起きてる必要ないわよ...というか寝なさい。寝てないんでしょ?」

「別に睡眠時間は」

「隈、凄いわよ?寝てないし、毎日動いてるし、私の隣にいる時も何かしてる。これ以上話する?」

「......うるせぇ」

「あーもう」

 

そっぽを向いたら、彼女が隣に座った気配だけ感じた。と、気づいた時には、俺の肩に手を置かれた。

 

「うおっ!?」

「はい、寝なさい。強制よ」

 

そのまま倒された俺の頭は、彼女の膝に収まっていた。目線の先には見たことない状態の彼女がいる。

 

「ちょっ、離せおい!う、っ...これでうとうと寝れるわけ」

「寝れるわよ」

「!」

 

頭を撫でられた俺は、完全に思考が止まってしまった。

 

「ほら、寝れる。大丈夫」

「」

「うん、大人しくなった。みーちゃんみたいに女の子っぽい、柔らかい太ももじゃなくて悪いけど、そこは...気持ちでカバーで」

「...っ、俺、は」

「おやすみ、椿」

 

 

 

 

 

気づけば、夕日が見えていた。

 

「あ、え...?」

「おはよう。もう夕方だけど」

「ぇ、寝てたの。俺」

「それはもうぐっすり。ふふっ、寝顔ごちそうさまでした」

「......」

「どうかした?」

「...」

 

決して口に出せるような環境じゃないのは分かってるから、何も言わないけど。今この瞬間だけは、恥ずかしさで死にたくなった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...」

 

静かにしていれば、木々が風に靡く音がする。昨日結界が壊された場所とは思えないほど静かで、平和に感じる世界。

 

膝には幸せを感じる重みがある。最近全く見れなかった、何も考えてなさそうな顔。

 

(みーちゃんにも見せたいような、見せたくないような)

 

「はぁー...」

 

私達が戦って、守り抜いている日常。その結果得られた今。

 

「ねぇ、椿」

 

寝てるのを分かってて、声をかける。

 

「私、今凄い幸せよ。畑を耕せて、みーちゃんと楽しく話せて、貴方をこうして膝枕できて」

 

別に面と向かっても言える。いや、言えた。最近はあまり言えない。言おうとすると、ふと口にできなくなる。

 

「...正直、突然勇者になって、不安もあった」

 

きっと一人だったら弱音なんて吐かなかった。みーちゃんと二人でも、例えそう思っても、励ますために何も言わなかった。

 

ただ_____今の私には、支えになってくれる、寄りかかっても受け止めてくれる人がいる。

 

怖くても、何もできないのはもっと嫌だ。

 

「それでも私が前を向けたのは、私自身の力があったとしても...貴方のお陰だと思う」

黒髪を撫でる。少し硬めでツンツンした髪の毛は、椿が異性であることを思わせる。

 

「だから...だから、もう少し、このまま」

 

私はただひたすら、こんな日を過ごしていきたいと、こんな日を守れるようにと、青空に向けて願うのだった。

 

「好きよ。椿」

 

 

 

 

 

その願いが、すぐに壊れるのを知らずに。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ...!」

「古雪君!大丈夫!?」

「大丈夫に見えるなら随分ボケてるな、藤森...!」

 

夕日が沈みかけているような時間帯、俺は藤森の元へ戻り、息を整えながら武器の補充をしていた。

 

(...もう吹き矢の残弾はなしか。さて、どうする)

 

ここ数日、毎日のように敵襲があり、彼女が無視できない傷を負っている。その中で、結界を保つ柱も一本破壊されている。

 

そして、今朝から今までずっと続いてきている敵の攻撃に、俺達は限界へ追い込まれていた。

 

(あるのはもう、あいつの反対側からくる敵に向けて鈴を鳴らしながら走って、化け物達と追いかけっこすることくらいか...)

 

無理無茶無謀、分かっていながら、俺は吹き矢に使っていた竹を捨てた。こうなればデッドウェイトはいらない。

 

(なに、あいつの苦労に比べれば...)

 

「なぁ、藤森。あいつは?」

「...ずっと、戦ってるよ」

「......そりゃ、そうだよな。敵を減らせるの、あいつしかいないもんな」

 

今も鞭を振るい続けている彼女に比べれば、俺がやってることは微々たるものだ。ちまちま吹き矢で注意を引き付け、進行を遅らせてきただけ。

 

(これでも、結構危険な綱渡りをしてきたとは思ったんだがな...一歩間違えば挟まれて死ぬから、位置取りは頭使ってたんだが)

 

「ぁ......ッ!?」

「藤森?どうした!?」

 

急に驚いた顔をした藤森はすぐに苦しそうにして、俺は辺りを見回すも敵の影がないことを確認する。

 

「どうした藤森、苦しいか?どこか痛むのか?」

「ぁ、あっ、あの...神託が、来たの」

「しんたく?って、あれか。お告げか。何だって?」

 

良い話な訳がない。そう思いつつ、聞かなければ話を進められない。俺は苦しそうな藤森をあえてそのまま進ませる。

 

「......よく三年も諏訪を守り続けたって。私達が敵を引き付けてたお陰で、四国は迎撃の基盤ができたって...」

「......」

 

嫌な予感は的中するものだと他人事のように感じた。

 

(でも、そうか...囮の役目は果たしたのか)

 

「こんなの、こんなのってないよ。神様...」

「藤森」

「...何?」

「囮の役目を果たしたなら、ここは放棄して問題ないってことだ。迎撃準備ができてる四国へ行けるよう、脱出の準備だけしとけ」

「脱出って、そんなの無理」

「無理じゃない」

 

そう、無理ではない。

 

「勇者の力と巫女の力があれば行ける。だからあいつを信じて待ってろ。いいな?」

「あっ、古雪君はどうするの!」

「決まってる!!あいつの手伝いだ!!!すぐ戻る!!」

 

俺は立て掛けられてた槍だけ握って飛び出した。

 

決して手の震えを悟られないようにしながら。

 

 

 

 

 

「...嘘つき」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ、ハァ...!!」

 

敵が来ては倒し、倒しては敵が来て。私は休む暇はほとんどないまま、その足を動かしていた。

 

既に夕日が沈んでいき、夜になると敵の姿が見にくくなるし、動いている彼のことも分かりにくくなる。現に今どこで囮をしてくれているのか分からなくなり、私は走り続けていた。

 

(どこなの、椿...!)

 

そこへ足を運んだのは何となくで、でも、私は見つけることができた。

 

槍を敵の大きな口につっかえさせている椿を。

 

見た瞬間、体があげてる悲鳴全てを無視して私は突っ込んだ。何千回と振るってきた鞭を寸分違わぬ位置へ叩き込み、相手を念入りに叩き潰す。

 

「椿!!大丈夫!?大丈夫なの!?」

「うるせぇな...頭に響くだろ」

「!!!」

「酷い顔して...って、それはお互い様か」

 

木を背もたれに倒れた椿の頭からは、片目を覆うように血が流れて続けていた。

 

「椿!!!」

「かすり傷だ...問題ない」

「なんでそんなになってまで!?」

「言わなきゃ、分からんか?」

 

絶対良くないのに、何故か笑う椿。こういう時、彼はなんだかんだはぐらかしてくる。

 

「っ、もう!!!早く手当てしないと」

「俺のことはいい。俺が誘導しきれなかった奴等が結界を壊そうとしてるから、そっちの対処に行ってくれ」

「それじゃあ椿はどうなるの!?」

「流石に動けないから、ここで待つかな」

「じゃあ私が皆の所まで運ぶから」

「...あのな。そんな暇があったら行けって言ってるんだよ」

 

暗く、冷たい声。

 

「『勇者』がするべきことは結界の守護、敵の位置が分かる『巫女』の守護で、間違っても一般人の手当てじゃない」

「そんなの!!!」

「そうしなきゃお前も死ぬ!!!俺達の希望が!!!」

「っ!!それでも私はっ!!『私』は『貴方』を助けたいのっ!!!!」

 

勇者の力を使って戦う理由は、この日々を守るため。そこに貴方がいなければ、何のために戦ってきたのか。

 

_____好きな人を守れないで、何が勇者か。

 

「私は貴方と一緒の日常を過ごしたいの!!!」

「...それは、告白か?」

「ッ!そうよっ!!!!」

「それは...なんとまぁ、光栄なことで」

 

頭がうまく回らない。助けたいのに助けるなと言うし、側にいたいのに行けと言う。椿がこんなにもボロボロで、私は何もできないなんて_____

 

「私は!」

「歌野」

「ッ!!!!」

「俺はここにいる。お前を待ってる。だから、蹴散らしてこい」

 

ハッとして顔をあげると、頬に手が触れた。温かくて、生きている証。

 

「それで、お前は四国へ行くんだ。立派な農業王になるんだ...誰かを守る、勇者になるんだ」

「......大丈夫なのね?」

「こうしてる間に、俺の血は流れてくぞ」

 

椿の声に導かれるように、彼の手に触れる。まだ温もりがある。

 

「...待ってて。行ってくる」

「......いってらっしゃい。歌野」

 

その名前を呼ぶのは、優しさと柔らかさに溢れた声だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ぁー...行ったか」

 

俺はボヤけた視界をどうにか戻しながら、スマホへ文を入力していく。

 

「嘘は、言ってないよな」

 

俺は待ってると言った。そして、四国へ行くように言った。農業王になれと言った。勇者になれと言った。

 

ただ、そこに俺がいるとは言ってない。

 

きっとこれは、『言葉』というより『呪い』だ。好きな相手が、好きな人に言うんだから。

 

(でも...生きていて欲しいんだ)

 

恨まれても、見捨てられても構わない。でも、何度でも立ち上がれると言った彼女に、俺のことで止まって欲しくない。

 

そう思うのは、我が儘だろうか。

 

(まぁ...もう、生きられないだろうしな)

 

文字入力の弾みに体が動き、うまく受け身を取れないまま地面に横倒れになった。視界の半分から全部が赤く染まっていく。

 

(死んだのはお前のせいじゃないってのと、生きてほしいってのは書けた...バレなくてよかった)

 

もたれ掛かっていた木には、ベッタリと血がついている。囮をしていた時に背中を噛まれ、そのまま戦い、彼女にバレないように木へ寄りかかったのだ。

 

あの時点で、止血をちょっとやそっとした所でどうしようもないことは分かっていた。歌野が辺りに飛び散る血の量で分からなかったのは、ラッキーだっただろう。

 

「歌野...」

 

もっと呼べばよかったか。それとも、一度も呼ばずに期待させないべきだったか。

 

(...しょうがないだろ。好きな人の名前も呼べずに、死ねるか)

 

死ぬ覚悟はしていた。時間稼ぎをやると決めたあの時から。

 

それでも、好きな女のために何かしたかった。

 

(あぁ、でもなぁ...)

 

彼女のために、俺は死にたい。足手まといはいらないから。

 

でも。

 

「死にたく...ねぇなぁ」

 

俺は彼女を悲しませたくないから、泣かせたくないから、死にたくない。

 

「...へっ、どんな、わがままだって」

 

赤い視界が、少しずつ暗くなる。手に力が入らず、スマホはもう何処にあるか分からない。

 

「人は、諦めなければ、立ち上がれる」

 

顔を動かして、彼女が手掛ける畑を目にいれた。ここも結界内ではあるが、壊れかけで敵が入って来れたのだろう。

 

「...ま、ここを見れて、よかっ、た」

 

彼女は、四国へ行ってくれるだろうか。生きてくれるだろうか。

 

「歌野」

 

万感の思いを込めて、彼女の名を呼ぶ。

 

(あぁ、やっぱり、もっと呼べばよかった)

 

「好きだったよ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

長野、諏訪。突如人類を襲う敵が現れてから、その地が陥落するまで凡そ三年かかった。

 

神の加護を受けた勇者と巫女が、命を尽くして戦い、多少の犠牲を払いながらも、四国の神樹様が外敵と戦うための時間を見事に稼いでみせた。このお陰で、現在四国の平和は保たれている。

 

私達は、そんな諏訪へ足を踏み入れていた。四国から全国へ生き残りの人を探す旅路の途中、『彼女』に言われて寄ったのだ。

 

そして、その日の夜_____いつもならキャンプの知識を自慢気に語る球子も、他の皆同様に静かに火を起こしていた。私も、口が上手く開けない。

 

「......」

「......」

「乃木さん、いいの?夕飯できたけど」

「あ、あぁ...しかし、いいのか?本当に一人分作らなくて」

「大丈夫ですよ」

 

そう答えるのは、初めて会ったときより茶色の髪の毛が伸びてきた彼女。

 

「どうせ、今のうたのんは何も食べないから」

「......水都、お前はいいのか?」

「私はいいです。さっき言いたいことは言いましたし」

 

戦い抜き、四国まで生き長らえた諏訪の勇者と巫女。その二人は、敵の猛攻を耐え抜いたことで生きる伝説のように扱われていた。

 

特に勇者である彼女は、数多の実践経験からくる鬼神の如き動きで、私達の視線を釘付けにした。鞭を振るい、刀を払うその姿は、まさに歴戦の勇者。

 

そして、たまに見る目は、たまに聞く声は、いつかの通信で聞いたものと同一だとは思えない程に。

 

「...水都さん」

「何かな?」

「.......その、あの方は、どういうお方だったのでしょう?彼女があそこまでなるのは...」

 

恐る恐る、といった様子でひなたが聞く。

 

そう。大社は勇者と巫女を取り上げるが、二人は、もう一人いたことをよく言っていた。曰く、一般人の身でありながら敵を引き付ける囮役をしていたとか。

 

(何故そんな無駄なことを...)

 

理由については、二人とも話してはくれない。ただ、この地でもっと全体的なことを聞いた。

 

「そうだね...」

 

悩むように少し唸った水都は、やがてこう言った。

 

「強いて言うなら、私達のために戦ってくれた、大嘘つきだよ。大嫌い」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

久しぶりね。案外早くここに戻ってこれたけど。

 

畑は荒れてるけど、木の色は戻ったわね。よかったわ。あれだけ赤いときっと嫌だもんね。

 

四国でもね、似たような畑は作ったわ。大社が『勇者様のお望みなら』って用意してくれたのよ。私は自分の村の人を見捨てた、みーちゃんだけ抱えて逃げ出した勇者で、とても様呼びされるような存在じゃないのにね。笑っちゃうわ。

 

...皆を見捨ててここを捨てたお陰で、私達は助かったわ。一番守りたかった貴方を守れないような人間が、他の人を守りたいからって村で戦い続けるの、なんだかバカらしく思えて。

 

だから、みーちゃんだけ連れて逃げ出したわ。それ以外は全て捨てた。

 

そうね。貴方のスマホに書かれてたように、ちゃんと生きてるわ。満足?

 

 

 

 

 

......ねぇ、よかった?それともまだ足りない?私はちゃんと生きてる?まだ立ち上がれる?

 

答えてよ。

 

ちゃんと答えて。

 

あの時みたいに、歌野、こうしろって、言って。

 

また、名前で呼んで。歌野って、歌野好きだよって。言って。何百回でも何千回でも、何万回だって聞くから。嬉しくて、照れるから。

 

だから、また呼んでよ...こんな、たまたま取れたみたいな録音データじゃなくてさ。ちゃんと呼んで。私の目を見て、私のことを考えて、私のっ、私の...

 

ねぇ、椿、お願い_____また歌野って、言ってよぉ...!!!

 

 




白鳥歌野は呼ばれない

白鳥歌野(しらとり うたの)
今作の主人公であり勇者。

勇者になる前に椿と出会う。最初は都会から来た人という興味と同世代の人だということで話しかけたが、自分のことを気にかけ、野菜も美味しそうに食べてくれた。

バーテックスとの戦闘が始まってからは自分のために戦ってくれることが分かってしまったため、嬉しさと感じると共に心配していた。

結界が全て破壊される前に諏訪を放棄、多くの人を残し水都だけを連れて四国へ生き延びた。自分の物とは別のスマホを大切に持っている。

戦闘時は鞭を主軸に、近距離戦では刀を用いる。使っている期間は鍛練を積んでいた若葉に遠く及ばないが、刀を握った歌野はまるで別人のようで、長年の実践経験もあったことから、模擬戦で若葉を圧倒した。

藤森水都(ふじもり みと)
勇者と共に神に選ばれた巫女。

バーテックスに襲われた時に巫女として目覚め、諏訪に避難した。その後、歌野と意気投合し、椿とも仲良くなる。単身活動するようになった彼に怒鳴るくらいには仲良し。

二人がお互いに向けている感情に気づいていたが、その大きさ故にそう時間をかけずにくっつくだろうと考えて何もしなかった。

諏訪で脱出準備を終えた後、歌野に無理やり抱えられ四国まで辿り着く。椿のことは察しがついていたものの、歌野が持っていたスマホから確信。自分と、なにより歌野の願いを裏切ったとして、嫌いだとハッキリ言うようになった。

歌野には言っていないが、自分ではなく椿を四国へ連れて行って欲しかったと思っている。

古雪椿(ふるゆき つばき)
死亡した一般人。

都心から田舎へ引っ越して、歌野に出会う。一生懸命畑作業をしている彼女に見惚れ、あれこれサポートするように。

バーテックス襲来からは彼女の負担を少しでも減らせるよう、囮をするようになった。この時点では自身の命をかなり軽視している。

そこから水都も交えて生活し、彼女たちの為にも一緒に生き残ろうとしていたが、諏訪の脆さと自身の傷から、歌野と水都の生存を最優先とし死亡した。

歌野を名前で呼ばなかったのは、慣れと恥ずかしさから。
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