皆さんも楽しんでますか?自分は満喫してます。一話のバンドシーンの作画から凄いんじゃ。
さて、ふつゆの方は、今月も一本目になってしまい、以前から言っている新章もまだお見せできない状況。申し訳ないです。本当はリクエストにしたかったんですが、そっちも難航してまして...
ただ、新章はほとんど作り終わりましたので、なるべく早く、次とかその後辺りにお届けできればと思います。待っててくだされば。
長々失礼しました。三期と一緒にお楽しみ頂ければ!
「椿さんって、色んな武器を使いますよね?」
「ん?」
ノルマ分の缶を撃ち終えたタイミングで、その様子を見ていたひなたがそんなことを言ってきた。俺は腰につけたホルスターにBB弾が装填されている銃を腰にしまいながら答える。
「そうだな。斧から始まり、刀、銃...西暦じゃ他の勇者の武器を使ったりしたし」
「皆さんの中で一番色んな武器を使っているのでは?」
「だろうな。レイルクスも、元々防人のための武器テストを兼ねた擬似満開装備だったし」
「その中で今も使い続けているのが、刀と銃だと...」
「いや、あれば斧とか持ちたいけどな?あの刀程の強度を持った武器は、今の大赦じゃ作れないからな」
この世界に来てから大赦に作って貰った銃はあくまで星屑に通用するレベルの、いわば牽制用である。近接武器に関しては、神の加護が最大限あった時に作られた短刀より強いものが、現状ない。
(この世界にも精霊バリアはある訳で、もしかしたら作れたりするのか...?でも、大赦が何も言わないんじゃないのか)
「まぁ、毎度戦う度に使い捨てみたく武器を使われたら、大赦が根をあげちゃうだろうしな」
「それはそうでしょうけど...もう少し武器があっても良いと思うんですよね」
「そうか?」
「はい」
ひなたは頷いて、おもむろにスマホを取り出した。手招きされたので寄っていくと、自分の隣をポンポンと叩く。
「...?」
従って隣に座ると、スマホを横持ちに変えた。
「これは...樹海での戦闘?」
「実は最近、余裕がある時に皆さんの戦闘を撮って頂くよう、雀さんに頼んでいまして」
「......あー」
確かに最近、雀が『歴としたお役目なので!!』と言いながら下がっていて、芽吹と言い合っていたのを見た時のことを思い出す。いつものことかとスルーしていたのだが、そんな事情があるとは思わなかった。
「ここからです」
映像は東郷の狙撃の様子から、前線へ移動する。映った俺は、銃で星屑に対応しながらジェミニに対して刀を振るっていた。ジェミニは俺の行動を読んで避けたが、その先で待っていた友奈に殴られ、ユウにとどめを刺される。
「元々近接戦だけの友奈さん達は分かりますが、椿さんは様々なリーチで戦っています」
また別の動画では、襲ってきていたピスケスの帯_____イカの足みたいな帯の部分を短刀で弾いて時間を稼いでいるように見えた。若葉がその隙をついて本体に刀を振るい、歌野が鞭で追撃をいれる。
「また、戦術も周りの仲間に合わせて変えています。他の方は武器が基本的に一つですし、役割が変わらないのは仕方のないことですが...逆に、臨機応変に足りない箇所を補える椿さんは、そのカバー範囲を広くしてもいいんじゃないかなと思いまして」
「うーん...良いのが作れるとして、大赦が今作るならこの銃みたいに出し入れ自由じゃない、懸架前提の武装だろうからな。あまり積みすぎても重たくなりかねないな」
「でしたら、こういうのは如何でしょう?」
何故か声を少し小さくしながら提案してきた彼女に、俺は耳を傾ける。
「いいかもな、それ。大赦の技術レベル次第だが、折角なら試してみたいかも...!」
「では、今度暇な時間でやってみましょうか。連絡しておきますね」
「ありがと...!じゃ、じゃあ俺、先に片付けてくる」
「そうですか?」
「使ったもの掃除してからじゃないと、ゆっくりひなたの弁当食べれないからな」
こんな休日にわざわざお弁当を持ってきてくれた彼女のために、やることはさっさと終わらせて美味しく食べたい。そう思った俺は、転がしたままの缶を拾うため立ち上がった。
(......大丈夫だよな?)
かなりこそばゆかった耳と、いい香りを感じてしまった鼻に意識しないようにしながら。
「どうしてこう、女の子ってのは......」
「椿さん...近かったんですけどね」
「というわけで集まって貰ったんだが、皆わざわざありがとう」
「ノープログレムですよ!」
歌野の言葉に皆が頷いてくれて、俺はもう一度感謝した。
ひなたの呼び掛けの元、西暦のメンバーを中心に集まってもらった。
友奈達最初期の勇者部の武器や、若葉みたいに使ったことがある武器のメンバーは基本的にいない。来ると言っていた人もいたが、長くなるし、そもそもこの施設に対して結構多くなってしまうことを考えた結果だ。
事前に大赦と確認し、どのみち主武装になりうる程の武器の製作はもう難しいと言われたが、今後の俺の参考になるかもしれない。そう考えて、結局やることにした。後日体感の情報を纏め、春信さん辺りに渡しとけば上手いこと利用してくれるだろう。
「椿さんの武器探しかぁ...早速やりますか?」
「そうだな。頼む」
杏のクロスボウ『金弓箭(きんきゅうせん)』を受け取って、今日のフィールド_____大赦が所有する練習場で構える。
「思ったより重いな。片手で持つのは安定しない」
「そうですね。私は普段両手で使ってます」
「重心は安定しそうだが...」
何発か撃ってみて、壁に矢が突き刺さる。確かに狙ってる感じは良いが_____
「両手持ちの武器で、狙い方も今使い慣れてきた銃とは異なるし、噛み合うには時間がかかりそうだな」
「そうですか...お揃い、してみたかった」
「杏?何か言ったか?」
「い、いえ。何も。そしたら、次の人の武器を使ってみますか?」
「そうだな。全員のを試すには時間も長くはないし、とりあえず全部試す勢いでいこう」
「だったら、次は私ね!」
飛び出てきたのは歌野。その武器は鞭の『藤蔓(ふじつる)』だ。
「椿さんが使えば、私にとってもトリッキーな使い方してくれそう!」
「...期待に答えられるよう、頑張るよ」
握った感じは軽くて振りやすいといった印象。ただ、特有のしなった軌道は上手いこと当てにくい。
(......これ、ムズいな)
使いこなすのはさることながら、ちゃんと扱えてるのかを判別する方法も難しい。
「...芽吹!」
「分かりました」
だから俺は、ここにいる例外に声をかけた。
芽吹の武器は銃剣。複合武器であることを除けば俺の使ったことのある武器だが、夏凛、若葉とじゃんけんした結果手にいれていた、今日の戦闘相手だ。
普段持ち主がどういう使い方をしてるか思い出しながら、うまく使えるか実戦形式で試す。事前に話していた芽吹は俺の表情から察していたのか、すぐに構えをとった。
「よし...やるか!」
「お相手します!」
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「はぁ、これで全部か」
椿さんはそう言って、持っていたヌンチャクを棗さんに返した。
「ありがとう。棗」
「どういたしまして。だが、向いてはなさそうだな」
「言わんでくれよ...」
「仲間入りですね!」
「やめてくれぇ......!」
ここまで、私、歌野さん、須美ちゃん、千景さん、棗さん、そして芽吹さん。ここにいる全員の武器を試した。他の皆の武器はある程度触ったことがあることに驚いて、私の武器はあまり合わなそうだったことを残念に思って_____そんな風だった私は、その後の戦いを見てびっくりした。
『いってぇ!?』
歌野さんの鞭を使って芽吹さんと戦い始めた時、自分の振った鞭に当たったのだ。最初は何が起こったのか、全く理解できなかった。
あの椿さんが、そんなミスをするなんて思わなかったから。
その後も何度か仕切り直し_____使えないことが悔しかったのか、かなりの時間を費やしていた_____結果、諦めていた。
最後に取っていた戦い方は、鞭を地面に叩きつけて土煙を起こし、横凪ぎに払う。なんてやり方だったけど、芽吹さんが後ろに下がっていたせいで何も起きなかった。
そして、最後の棗さんのヌンチャクも、同じような結果で。
「剣とかは自分の手の延長だし、直線的な射撃武器も分かりやすい。ただ、どこかで曲がったり折れたりするのはどうにも難しい...」
「慣れたらできるようになるかもしれませんよ?」
「まぁ、な...」
そういう椿さんの顔は、かなり辛そうというか、悔しそうな表情をしていた。こんな表情はやはり珍しい。
「で、でも他の武器は上手かったですよね?」
須美ちゃんの言う通り、他の武器はそれなりに扱えていたし、椿さんが触る時間も比較的少なめだった。
特に千景さんが使う鎌は上手く扱って、芽吹さんの銃剣を奪いとり、その切っ先を喉元まで届かせていた。
やっぱり、普段から使い慣れてる物に近いからだろうか。
「まぁ、元々俺は大きめの武器を使ってたわけでさ。今は取り回しが良い感じのだけど......」
「皆さん、終わりましたか」
「ひなたさん」
話をしているうちに、ここの大赦の人と話をしに行っていたひなたさんが歩いてきた。巫女のする話は私自身あまりよくわかってないこともあるけど、ひなたさんは結構話をしていることが多い印象だ。
「お、ひなた。お疲れ」
「お疲れ様です」
「ひなたさんお疲れ様です!」
「杏さん、どうですか?」
「ちゃんと撮れてますよ。後で渡しますね...今回は、珍しいものが撮れてますから」
勇者の動きを見るためか、はたまた別の目的があってか_____恐らく、違う方だけど_____頼まれていた録画を止めた。ひなたさんにも渡すけど、私自身後で見返せる。
最後の方を本人にだけ伝えるように囁くと、ひなたさんは「それは楽しみです」と微笑んだ。
「ひなたさんも戻ってきたなら、私達はゴーホームしましょうか」
「そうだな。キリも良い」
「そっか、皆ありがとう。わざわざ集まってくれて」
「いえ!椿さんが満足できたなら良かったです!」
「私はただ、戦っただけですから」
「もしまた使いたくなったら言いなさい」
「了解...俺だけバイクで来ちゃったから、ちょっと持ってくるわ」
駐車場の方へ歩いていく椿さん、そして、私達は雑談しながら施設の出口に歩いていく。
椿さんと二人なら、バイクの後ろに乗せてと頼めたけど、今日は大人数な上に皆同じ寮。しかも大赦が送ってくれる準備をしてくれているとなれば、何も起きない。
「椿さんもバイクで来なければ、一緒に帰れたんですけどね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、明日も会えるんだから気にするな...じゃあ、買い物もしたいし俺はこれで。またな」
「はい。また明日」
乗り込んだバスで手を振って、バイクを動かす椿さんを見送る。
「それにしても少し驚いたわ。椿さんもあんなことあるのね」
「得手不得手はあるものだ。私も海は得意だが、プールは得意ではない」
「それはそれで、また驚くべきというか...」
「千景さん、車の中でゲームは駄目ですよ?目が悪くなってしまいますから」
「分かってるわ。少なくとも、須美ちゃんの前ではやらないわよ」
「私がいなくてもやらないでください!」
「冗談よ...ありがとう」
皆が話始め、バスが動く。私はさっきの須美ちゃんの言葉に謝りながら、スマホを動かした。
(タマっち先輩、もうすぐ帰るからね...っと)
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「え」
「おっ」
人間ばったり会った時は、適当な音が出る。そんなどうでもいいことの再認識をした場所は、イネスのみかんジュース屋であった。
「球子じゃん。どうしたんだ?」
「そういう椿こそ」
「ここは俺のホームだぞ。ってのは置いといて、普通に買い物だ」
片手に持っていた袋を見せて、ついでに今さっき買ったみかんジュースを見せる。
「そっちは?」
「タマは愛媛の民だぞ。みかんを買って何が悪い...というのは置いといて、勇者部の依頼がこの近くだったから寄ったんだ」
「そっか。ご苦労さん」
咄嗟に手を伸ばそうとしたが、袋とみかんジュースが阻止する。
(そろそろ咄嗟に手を伸ばさなくなっても...癖かなぁ)
小さい頃から銀にしまくっていた。というわけでもないのに、何故なのか。妹的な可愛さにやられているのか、単に皆可愛くてやりたくなるのか。
(いや、どのみちヤバイやつだろそれ)
「椿?」
「何でもない」
「そ、そっか...」
「折角だしバイク乗ってくか?」
「!乗る乗る!!」
ちょこちょこ動く球子に笑みを浮かべ、「じゃあ行くか」と歩きだした。
「悪かったな。今日は」
「?」
駐車場、バイクに寄りかかっている俺と、その近くの壁に背中を預けている球子は、手元のみかんジュースを飲みきるまで話をしていた。
そんな時だ。球子が口にした言葉の意味を、俺は理解できなかった。
「何の話だ?」
「ほら。今日お前、皆の武器を試してたんだろ?あんまり使ってこなかった武器をさ」
「そうだな」
「タマ、それ行かなかったから」
確かに球子の武器、旋刃盤『神屋盾比売(かむやたてひめ)』は、使ったことのないタイプの物だ。実際使わせてくれるかなと思っていた。
盾としての意味だけなら使ったこともあるし、そういった意味で来なかったのかと思っていたが_____
「別に強制でもないし、気にしなくていいのに」
「......今、こうして使ってるけどな」
誰もいないのを確認して、球子が旋刃盤を出す。刃の部分は隠されてるが、その盾は今まで何体もの敵を倒してきた勇者の武器だ。
「元の時代...西暦で、タマの、この旋刃盤は壊された」
「っ」
「杏も、椿も、守れなかった。そんな武器を椿に使わせても、な......と思っちゃったんだ」
悔しそうな、悲しそうな声が耳に響く。確かにあの戦いで球子の武器は破壊され、それ以降は相手の攻撃を防ぐ札を使っていた。
「役に立たないって」
だが。
「そんなことないだろ」
「え?」
「大きな盾は使ったことがあるが、取り回しが悪いからな。他の武器を使いながら守れる武器は俺もほしい...大体、その防ぎがなければ、あの時俺が球子と杏を庇うことはできなかった」
杏の盾になり、何度もバーテックスの猛攻を耐えた盾。そして、動けなかったとても、杏のために一歩も引くことなく耐えしのいだ球子。
今この世界での戦いも、数多くの仲間を守り、敵を倒してきた。
「誰かの為に盾になろうとする、お前にとっての立派な武器だろ。もっと自信もっていいと思うぞ」
「椿...ありがとな」
「気にするなよ。当然のことを言っただけだから」
「...へへっ」
頬をかく球子は、さっきまでと違って、こっちまで釣られそうな笑みを浮かべてる。
「じゃあ椿、使ってみるか?」
「......」
渡されるのは、ただ盾の役割だけをこなす物ではない。刃を展開し敵を切るだけでなく、ワイヤーを使ってヨーヨーのように飛ばすことができる。『その軌道は曲線で、使用者の匙加減で通る軌道が変わる』
それを、最大限生かす方法を考える。
「...すまん、今日は勘弁してくれ」
さっきの失態がフラッシュバックした俺は、そう言うことしかできなかった。
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タマの武器は、本来もう存在しない武器だ。
鋭い針を持った尻尾に何度も何度も突き立てられて、限界がきて壊れた。あの時のことは今でも思い出せる。
タマも動けなくて、杏の攻撃は通らなくて、それでも二人なら越えられると信じて。
痺れてた腕に、明らかな違和感を覚えた時には、盾に入っていた亀裂が端まで入って、バラバラに砕けて。
タマの腕を貫こうとする針をスローで見た次の瞬間には、よく分からないまま転がっていた。
椿がタマ達を押し飛ばして、代わりに腹を刺されたと気づくのは、少ししてからだ。深々と刺さっていた針は、椿の背中から生えてるみたいで、吹き出た血が、人の中に入っていたとは思えないくらい多くて。
(...今にして思えば、何で椿は生きてるんだろうな)
あんなの、どう考えても死んでいた。勿論生きててくれて嬉しかったけど、その原因は聞きそびれたままだ。
タマはそれを聞こうと口を開いて__________その先にやったことまで思い出して、塞いだ。
(よ、よく考えたらタマ。椿に胸を...)
顔が赤くなる。あの時はそんなことを考える余裕がなかった。目の前の惨状に意識の全てを奪われていたから。
(......~ッ!)
「球子?」
「なんだっ!?」
「いや、急に力強めるから...どうかしたか?」
「なんでもない!!なんでもないぞ!!こっち向かず運転に集中しろっ!!!」
「お、おう...」
信号が変わって、椿が力をいれるのが感じる。すぐにバイクは速くなり、風を感じるようになった。
それでも、タマの顔には椿の背中のせいで届かないし、顔の熱も引かない。
(......今も、こうして...)
恥ずかしさを押し込めるように、タマは椿にはりついた。回していた腕も強く、顔は背中にくっつくように。
服越しでも、熱が伝わってきた。
『誰かの為に盾になろうとする、お前のにとっての立派な武器だろ』
(...椿、ありがとう)
この熱を感じられることに感謝して、タマは目を閉じる。
「タマも、椿みたいな盾になりたいな」
「なんてー?」
「なんでもないっ!!」
寮に戻り、杏と会う頃には、熱が引いてることを願いながら。