古雪椿は勇者である   作:メレク

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注意事項

この章は、古雪椿は勇者である 神世紀の章(結城友奈の章+勇者の章)、西暦の章(乃木若葉の章)のネタバレが含まれるため、読了後をオススメします。その他、ゆゆゆい編での内容も含まれるため、最低でも1話の閲覧をオススメします。

また、原作となるアプリ、花結いのきらめき(通称ゆゆゆい)の花結いの章のネタバレにも繋がるため、ご注意ください。

ほとんど完結までの40話以上を完成させているため、更新頑張ります。お楽しみ頂ければ。

それでは下から本文です。


花結いの章 1話

大切な人を救いたいと祈った。

 

離した手をもう一度掴みたかった。

 

決められた運命を変えたかった。

 

きっと、きっと、きっと。

 

いつか、いつか、いつか。

 

そうやって願い続けたからか。今この時、チャンスが与えられた。

 

全てを凪ぎ払う力。

 

蹂躙、殲滅する力。

 

やり直すための力。

 

(なんてな)

 

否。頭の中では、利用されているに過ぎないということくらい分かってる。たまたま適した人間。神の気まぐれによって選ばれた者。

 

だが、それで構わない。利用されているとしても、利害が一致しているのなら、いくらでも道化になる。神の奴隷になる。

 

だから。だから。

 

やり直させてくれ。そして消してくれ。この魂に刻まれた傷を。

 

「一体どうしちゃったのよ!?椿!!!」

「うるせぇなぁ!!!!」

 

だから。

 

目の前から邪魔な存在を消すため、俺は自分の身長くらい大きなメイスを振るい、金髪の女の腹に叩き上げた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ん...」

 

携帯の目覚ましにより、俺は薄く目を開ける。布団から腕だけ出して機能を停止させた後、そのまま何事もなかったかのように戻し__________

 

(やっぱ二度寝は気分が...ん?)

 

二割ほど覚醒した頭が、現状を確認し。うつ伏せになった状態がちょっと苦しくて__________

 

「なんじゃこりゃぁぁぁあ!?!?」

 

俺の朝は、そんな絶叫から始まった。

 

 

 

 

 

「遅いですよ春信さん」

 

どうにも一人中で待ってるのが落ち着かなくて、珍しくファミレスの外で春信さんを待つこと30分。予定では10分待ったら来る時間と言われた筈なのに、遅れてきた春信さんは悪びれた顔をしていなかった。

 

というか、困惑した顔をしている。

 

「...えっと、どちら様かな?はじめましてだと思うんだけど」

「何言ってるんですか?シスコン過ぎてバカになりましたか...って、あー。そりゃ気づかないか」

「え?何で知らない子にシスコン呼ばわりされてるの?」

「何度もしてますよ...俺です。古雪椿」

「......いやいやいや」

 

春信さんが珍しく手を頭に当てて困惑するも、そう反応したくなるのも分かる。分かるがこっちもまだ混乱してるので早く話を進めたい。

 

「どうなって...なんで女の子が。というか、え?女の子になったの?」

「そんなの俺が聞きたいですよ。全く」

 

古雪椿。高校生。人生ずっと男として生きてきた。

 

現在、女の子です。

 

 

 

 

 

「えぇと、朝起きたらその状態だったと?」

「はい...」

 

目線も低く、何故か真下を見れないと思ったら、縮んでいて、膨らんだ胸が視界を遮っていた。声変わりする前より高い可愛いげのある声も出る。髪は少し鬱陶しいくらい長く、極めつけに男についてなきゃいけない所もない。

 

誰かと入れ替わってる線もあったが、鏡に立った瞬間その疑問は氷解した。見たことある顔だったのだ。

 

その顔は、以前異世界から来た、女の俺(椿)にそっくりな状態で鏡に映っていた。

 

かといって戦衣は男の俺用に改造されていた赤いものだったし、春信さんの反応からしてこの世界の俺は男としている。俺も男として生きてきた記憶がある。

 

「また神のいたずらかとも思ったんですが、どっちみち大赦に連絡しとかないとって思って。解決策があるならやって欲しいですし」

「...分からないかな。神託があったかもしれないけど、僕の所には報告されてない。まずうちはここ数日ずっと徹夜作業で......」

「お、お疲れ様です...」

 

後半につれて春信さんの声が暗くなっていき、目が死んでいく。女になったからって対応を変えないこの人に心の中で感謝して、口は労いの言葉をかけた。

 

(俺も、動揺しなさすぎかなぁ...)

 

小学生の俺に、お前はいずれ神同士の争いに巻き込まれ、大切な人を守るために戦い、時空を越えたり女の子になったりすると言って、信じるだろうか。

 

(いや絶対信じないだろ)

 

「おまけに、朝にまた一つ厄介ごとが来てね...」

「厄介ごと?」

「うん。実は...っと、ごめんね」

 

電話に出るため席を立つ春信さんの姿を眺めながら、みかんジュースに舌鼓をうつ。

 

(...ちょっと子供っぽいかな?)

 

もう高校生。西暦やこの世界での年齢も足せば恐らく18かそこら。それが喜んでみかんジュースを飲むのはいかがなものか。

 

(別に他のが飲めないわけじゃないし、いいか...にしても、味の好みというか、味覚の変化はなし、か?)

 

「お待たせ。ごめんね」

「いえ。大赦からですか?」

「うん...丁度良い機会かな。依頼をしてもいいかい?」

「え、また変な薬飲ませるとかですか?」

「いや、今回は勇者部が普段してることに近いんじゃないかな?」

「?」

 

春信さんの意図が読めずにいると、入り口の開閉を告げるベルが鳴る。そして__________

 

「あ!おねえちゃん!!おねえちゃーん!!」

「へ?」

 

入ってきた女の子がまっすぐこっちに来て、俺に抱きついてきた。

 

「...知り合いかい?」

「いやいやいや」

「まぁ、そうだよね」

 

知り合いである筈がない。というか、この世界に俺(女の椿)に面識があるのは、春信さんを除いて勇者部しかいない。俺のことを姉と呼ぶ知り合いとして、こんな幼い子がいるのはあり得ないのだ。

 

単に女だからお姉ちゃんと言われただけかもしれないが、だとすればこんなニコニコしながら寄ってくるだろうか。

 

(女の俺を知っている?知り合いなのか...?)

 

色々考えるものの、本能が何か厄介な事態が起きたのだと感じざるを得ない。

 

「...本当に、女の子になってるのね」

「安芸さん?」

「おはよう。古雪君...で、いいのかしら?」

「はい、一応。おはようございます...えーと、この子は?娘さんですか?」

「私に子供はいません」

「...はい」

「とりあえず追加のドリンクバーを頼もう。話はそれから...色々纏めないといけないだろうしね」

 

安芸さんの隣に謎の女の子が座り、俺の隣に春信さんが来る。笑顔でケーキを食べ始めた女の子以外はどこか緊張した面持ちだ。

 

「拾った?」

「...今朝、大赦本部の入口で座っていたの。迷子かなとも思ったんだけど...あんな朝からいて、身分を表す物はなし。住所も不明。名前も分からない」

「分からないって...」

 

少女の見た目は小学校低学年くらいだろうか。髪の毛は基本金色に見えるのだが、光に当たると白にも見える不思議な髪を靡かせているため、どこか視線が釣られてしまう。

 

「ねぇねぇ」

「なーに?おねえちゃん」

「自分のお名前、上手に言えるかな?」

「私?」

「うん」

「私しーな!」

「「!」」

「そっかー、シーナちゃんか...フルネーム言える?」

「?しーなはしーなだよ?」

「...そうだね。シーナちゃんだよね。ごめん。お名前ちゃんと言えて偉いね」

「えへへ~」

 

テーブル越しに頭を撫でつつ、二人に顔を向ける。動揺しているのがすぐ分かるくらい驚いていた。

 

「嘘...何回聞いても言ってくれなかったのに」

「朝から駆り出されて色々調べさせられたのに、こんな簡単に...」

「...なんか、申し訳ないです」

 

シーナ。恐らく『椎名』とかその辺だろう。春信さんが高速で携帯を弄って一息ついた。

 

恐らく大赦の仲間に情報を流している。この世界の大赦であれば、名前を頼りに住民の名簿を漁るくらいは余裕で出来る筈だ。

 

「シーナちゃんはいくつかな?」

「んーと...分かんない!」

「そっか。ちゃんとお返事してくれてありがとう」

「どういたしまして!」

「いい子だ...それで、勇者部への依頼っていうのはこの子の面倒を見てくれってことで良いんですか?」

 

後半は大人組に言うと、同時に頷いた。

 

「正解だよ。こちらがこの子の親御さんを見つけるまで面倒を見てほしい。僕達が相手だとなかなか上手くいかなかったからなんだけど...丁度君になついてるみたいだし」

「...まぁ、勇者部としては構いません。多分」

 

もし本当に女の俺の知り合いなら、この世界にシーナちゃんの親御さんがいるとは限らないが_______俺が気にしてもしょうがないし、もっと気にしなきゃいけないこともある。

 

(この体になったことと、この子に関係はあるのか...?)

 

「成果が出るかは難しいところですけどね...」

「貴方の体についても調べてみるわ。神樹様の起こしたことなのか、他に原因があるのか、治せるのか、色々」

「...お願いします」

 

十中八九神の仕業だろうが、まぁそこも早く事態が終息することを願うしかない。

 

(悪いことだらけじゃないことを祈るしかないってな......)

 

「じゃ、とりあえず俺は皆の所に行きます。俺の現状と依頼のこと話さないといけませんから」

 

既に全体に簡単な連絡はした。部室で待ってくれている筈だ。

 

(大丈夫。俺は一人じゃないから)

 

「なるべく早く連絡出来るよう頑張るから」

「はい。じゃあこれで」

「あ、ごめん椿君。もう一つ言っとくことが」

「?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「で、それで...その子がシーナちゃんで、あんたが椿なの?」

「あぁ。男のな...」

 

勇者部部室。特に意識しなくても勝手に足が運ぶ場所で待ってくれていた皆は、ざわざわと騒ぎだす。まぁ無理もない。前に女の俺が来たことはあったが、普段男の俺が女になっているのだから_______

 

「つっきー女の子になった感想は!?どんな感じ!?」

「え」

「シーナちゃん、しばらくよろしくね」

「メブがいつもより優しい!?」

「それはどういう意味かしら。雀?」

「何でもないです!!はい!!!」

 

次々に喋り出す皆は普段と変わらなくて、どこかに溜まっていた息が出る。

 

(全くこいつらは...はぁ)

 

ただ、全く悪い気はしなくて。寧ろどこかほっとしていて。今更自分が無意識に不安がっていたことに気づいた。

 

普段と何一つ変わらない彼女達を見て、唐突に変わった俺も、見た目以外はなにも変わってないんだと安心できた。

 

だから、俺の口角は嬉しそうに上がっているんだろう。

 

「園子はちょっと待て...とりあえずなんか迷惑かけるかもしれんが、俺のことと依頼、頼む」

「あぁ。任せろ!」

「かしこまらないでください。古雪先輩」

「そうそう。椿が安心しとけって。アタシも手伝うしさ!」

「...ありがとう」

 

俺はそう言って、シーナちゃんを連れて椅子にでも座ろうと_________

 

「椿さん」

「?どうしたひなた?」

「今の椿さんは女の子なんですよね?」

「まぁそうだな。肉体的には」

「......ということは、女の子らしい服装をするのが普通ですよね?女装じゃないですもんね?ワンピースとか着ましょう今すぐに!!!」

「ここまでいつも通りじゃなくて良いんだけどなぁ!!!」

 

俺は追っ手を振り払うため、逃走ルートを考える暇すら惜しんで走り出した。完璧なスタートダッシュを決めた結果は__________語らなくていいだろう。

 

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