「戦衣とのシステム連携完了。姿勢制御良し。各部異常なし。そっちはどうですか?」
「問題ないよ。続けて」
「了解です...待たせたな芽吹」
「大丈夫ですよ...本気でいきますから」
芽吹が防人用の銃剣を二刀流として構えるのを見て、俺も背中に手を伸ばす。
(赤嶺相手にさえちゃんと本気は出せないんだがなぁ)
バリアがあるとはいえ、仲間に本気で手はあげられない。芽吹はそれを知ってる上で言ってきてる。
(でも、今回は本気じゃなきゃ意味ないし)
殺気が混ざるかもしれないのを覚悟で、芽吹を見据えた。
「いいぜ。負けて泣くなよ」
二本の斧を握りしめ、ゆっくり構える。準備は全て整った。
「私に勝てる前提な話をしたこと、後悔させてみせます...いきます!!」
「こい!!返り討ちだ!!」
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「んっんっ...ぷはぁ。サンキュー」
「先に終わってたしね。それより二人ともお疲れ様」
「ありがとう。銀...今回は勝ちましたよ」
「いやーズルいよなあれ」
「元はお前がやった技じゃんか...」
慣れない手つきでポニーテールを結び直したところで、銀から缶コーヒーを受け取り、大赦職員の休憩スペースであろう場所の椅子に座る。円形のテーブルに缶を置くと、カタンと思ったより大きな音が響いた。
「大口叩かなきゃよかった...でも、次は負けないからな」
「...また是非、お願いします」
以前赤嶺相手にも使った『手放した斧に注意を向かせて短刀で取る』テクニック。芽吹は一度やられたそれをものにして、今回背面に装備していた銃剣に、勇者として出し入れして使っている銃剣、計三本を使われた。
俺としても、この体に慣れてないというハンデはあったわけだが______腕の長さや足幅が変わってしまうため、なかなか距離感を間違えやすいのだ______それを抜いても、出し抜かれた感は否めない。
「にしても、よかったのかね」
「何が?」
「テストってもうちょっと指示通りやるもんだと思ってたから。前足動かしてくださーいみたいなさ」
「その辺は大丈夫だよ。欲しかったのは実践形式のテストデータだけだったから」
話に割り込んできた声の方を向けば、珍しく大赦の制服をしっかり着こんだ春信さんがいた。きちんとした見た目であればこの人が重役というのは一目で分かることなので芽吹と銀は若干緊張しているが、俺は春信さん自身を見慣れているのでどうということはない。
『新型のレイルクスが完成したから、テストをして欲しいんだ。君を含めて三人』
この前聞いたのはそれだけだったのを俺が疑問に思っていたが、その思いを知ってか知らずか、春信さんは続ける。
「本気で動かした場合どこに負荷が多くかかるかを測定し、最終調整を終わらせて完成という形になるだろう」
「間に合いそうですか?」
「次の戦いには微妙な所だね...」
新たな神託で、近々過去最大規模の戦闘が予想されている。無事間に合ってくれることを祈るしかない。
「でも、驚きました。あれ、俺と銀の満開にそっくりじゃないですか」
「満開?」
「あぁ、芽吹は知らないか...えーと、時限強化形態?みたいな?」
『レイルクス』の完成品。以前設計図で見せられた時はピンとこなかったが、展開する大きめの翼は俺と銀が満開した時の姿と酷似していたのだ。違うのは背中についた両翼の間に武器を懸架するパーツがあることだろう。
俺のは二本の斧が収まるように、芽吹のには三本目となる銃剣が収まるようになっていた。
「元々満開を再現する物だし、君達二人にとっては使いやすかっただろう?」
「確かに...」
「楠さんはどうだったかな?使用感は」
「邪魔になるかと思っていましたが、そもそもの機動力が上がっていましたし、空を飛べるのも魅力的です。個人的には好みでした」
「それはよかった」
「アタシも文句なしっす!あぁでも、ずっとあると斧振るときに邪魔かなーなんて」
大型の斧を縦横無尽に、端から見ればがむしゃらに振り回すには、確かに広げた翼と干渉してしまうかもしれない。
「分かった。大型の武器を使って前線に出る人には、少し小さめに設計し直せるか考えよう」
「ありがとうございます!」
「俺はそこまで気になりませんでした」
「男用で作ったサイズを調整し直したから、その時に小さくしてね」
「あ、成る程...でも、よく揃えられましたね。三機も」
唯一試作品を経験した俺、元々防人用の装備のため、勇者でも使えるのか確認する代表の銀、この世界に勇者として呼ばれた可能性があるため、ちゃんと使えるか確認したかった防人代表の芽吹。
時間がかかりそうと言っていた割に、一気に複数完成してしまった。
「完全に新規で作ったのは二つだけだから」
「?どういう意味です?」
「椿君の使った新型レイルクスは、旧型...試作品の予備パーツを魔改造したものなんだよ」
「え、あれ予備機あったんですか?」
「外装だけね。システム関係の基部は一番重要な部分だけに固くしてあって、君がここを壊すことはなかったから...そこと合わせて完成だった」
(俺がいつも壊していたのは外装ばかりだったということか)
結構深いところまでやられてた覚えがあっただけに、少し意外に思えた。
「ずっと試行錯誤の実験台になってくれてた物が、ようやく...いや、再び表舞台に立ったというべきかな?」
「へー...」
そう言われると、今日初めて使った物でも少し愛着が持てる。
「後、もう一つ面白いデータが取れたんだよ」
「面白いデータ?」
「君の勇者適性値。元の君は勇者部で最下位を争う位だったのが、今はトップを争う位になった。もし今勇者の選考があれば、君はきっと選ばれるよ」
「...あんま嬉しくないかもしれませんね。それ」
適性値が上がった理由なんて察しがつく。俺の体が女のそれになったから_______この世界において本来勇者になるための前提条件である『勇者になるための素養』が高まったからだ。
「...でも、そう考えると、俺がこの姿になったのも納得できるかもしれないな」
「どういうこと?」
「神樹様はこれまでも領土を取り戻すにつれ新たな勇者を連れてきた。今回の大規模戦を警戒して人員補充をしたかったけど、それだけの力がなくて...妥協案として今いる勇者のパワーアップをしようとした」
「それで、椿さんを勇者としてパワーアップさせるために、女性の姿にしたと?」
「そうそう。仮定の話だが辻褄は合うだろ?」
もし本当にそうだとしたら、下手するとこの世界から戻る時までこのままの可能性もあるから是非やめてほしいところだが。
「君の方もよく分からないままだからね」
「『も』ってことは、シーナの方も?」
「うん。まだ捜索中。椎名さんはいたんだけど...65歳の女性がお茶でもてなしてくれたよ。血縁関係にも幼い女の子はいなかった」
「そうですか...あ、すいません」
一言断ってマナーモードで震えているスマホを取る。画面には『風』と書いてあった。
「もしもし」
『あ、椿?そろそろ終わった?』
「一応終わってるが...何の用だ?」
『いやね、シーナちゃんが会いたがってるのよ。イネス来れる?』
「んー...了解。フードコートにいてくれ。ついでに昼飯にしよう」
『分かったわ』
「遅いようなら先食ってていいからな」
通話を切って三人のいる場所に戻る。
「春信さん、俺ら今日はもう良いですよね?」
「構わないよ。あとはこっちの仕事だから」
「よし椿、イネス行こう!」
「言われなくても呼び出し貰って行く予定だよ。芽吹はどうする?」
「では私も。新しいプラモデルを買いたいので」
バイクは持ってきてないので三人で歩いてイネスへ。距離があっても話していればあっという間で、体感五分程度でついた。
「フードコートで待ってるってさ。えーと...」
「おねえちゃーん!!」
「あそこみたいですね」
「......あ、お姉ちゃんって俺か」
ブンブンと手を振るシーナからの呼称は俺のことを指すのだが、男がお姉ちゃん呼びに数日で慣れる筈もない。
「にしても違和感あるなー。高い声でそんな椿っぽいと」
「俺っぽいというか、俺そのものなんだがな。残念ながら」
「こんなワガママボディのくせに」
「うひゃあ!?」
後ろから銀に胸をつかまれ、自分から出たとは思えない変な声が漏れた。
「神は不平等だ...」
「ちょ、銀やめっ...!あぁ!」
あまり女子の体として考えたくなかったので、風呂もトイレもなるべく目を瞑ってやっていた。が、これはまずい。
「ていうかこの感触...まだ下着買ってないな!?」
「買えるか!一人でそんな店行く勇気ないわ!」
「じゃああれね。お昼食べたら椿の服とか買いに行きましょ」
「風!?」
「賛成です!」
「樹!?」
逃げ場がどんどん無くなって、咄嗟に芽吹の後ろに隠れる。
「芽吹...」
「......一応、皆椿さんのことを考えてのことなので」
「芽吹...!?」
「さぁ、椿さん♪」
いつの間にか背後にいた存在に肩を掴まれる。錆びたロボットのような動きで首を回すと、ひなたが良い笑顔を向けていた。
前回は見事逃げおおせたが、今回は無理。詰みである。
「諦めてください♪」
園子ズがいないだけマシと考えること以外、俺に出来ることはなかった。
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「随分はしゃいだわねー」
シーナの髪の毛は綺麗で、こうして洗うのは小さい頃樹にやってたのを思い出す。
「楽しかった!」
「そっか。よかったよかった」
両親の所在も不明、どこから来たのかも不明、何故か知ってるのは女になっちゃった椿だけ________正直厄介なものだと思ったけど、こうして頭を洗ってる分にはただの可愛い子だ。
(椿は色々言ってたけど、どうなのかしらねー...)
『お姉ちゃーん。パジャマ置いといたからねー』
「ありがとう樹」
『あと、ご飯も大体作ったから、出たら食べよう』
「ご飯!! 」
「はーい。じゃあシーナ、早く出よっか」
「うん!」
手早く二人分の泡を流したら、お風呂場から手だけを伸ばしてタオルを掴み、温かい場所でシーナの体を拭いていく。
(そもそも椿も女の子になっちゃったわけだし。また変なこと起きそうだけど...)
「あんたも早く思い出せるといいわね」
「思い出す?」
「そーよ。どこから来たとか、そういうの...」
言い進めて、あたしは口を閉ざした。
「思い、出す...」
想像よりもずっと難しそうに、シーナが悩んでしまったから。もしかしたら思い出したくない記憶があったりして_____
「わぷっ」
「ごめんね。今はそんなことよりご飯よね!!ほら、拭き終わったから早くパジャマ着なさい!!樹が美味しいご飯と一緒に待ってるわよ?」
「!はーい!!」
洗面所に出ていくシーナを見て、あたしも体を拭き始めた。
(椿も今頃...あいつ、どうしてるのかしら)
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「くそっ...」
シャワーで濡らした髪をタオルで拭いてから、ついさっきタグを切った下着をつける。下にも上にも。
「違和感半端ねぇ...」
日が暮れるギリギリまで、俺は女物の服を試着し、下着を含め買った。おかげで今俺の部屋には男子が住んでいるのか女子が住んでいるのか分からない状態だ。
パジャマまで、所々モコモコした感じの服。
「......」
『ちゃんと着てくださいね!!いずれ戻るとしても椿さんの体は無造作に扱っていいものじゃないです!!』
(着せ替え人形にもされてたが、あんな言い方されればなぁ...)
「...はぁ」
あそこまで言われて、嫌だと否定できないのは前から変わらない。
「全く......」
声もため息も酷く疲れた感じなのに、鏡に映る俺の口角は上がっていた。
(...全くだな)
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月を見上げるとセンチメンタルな気持ちになる。なんて話をどこかで聞いたことがあった気がする。
「......」
手をかざすと、指の隙間から月明かりが漏れて見えた。
「ふーん」
やがて、月は黒い雲に隠れて見えなくなり、光も届かなくなる。
「どうなっても、私はそこまで関係ないかもね...まぁ、どうせなら、笑えるようになればいいな」
誰にも見られてない口元は笑みを浮かべて、私は地面を蹴った。
四国を取り合う神の作りし世界の中で、いよいよ歯車が回りだす。