「うーん...いいビューねぇ」
見渡す限りの青い海。さんさんと輝く太陽。深呼吸して美味しい空気。
「気を抜きすぎないでくださいよ?」
「分かってるわ。雪花さん」
みーちゃん達巫女が神託で言っていた、バーテックスとの大規模戦。その防衛ラインの一角に、私達はいた。
敵の数は沢山で、色んな所から襲ってくるらしい。勇者部として立てた作戦は、チーム分けして各個に応戦するスタイル。
(人数も多いし、ベターな戦法よね)
「すまない。遅れた」
「大丈夫ですか棗さん?体調悪いなら...」
「いや、海に夢中になっていてな」
「こんな時でも海ですかい!?」
「私も畑の整地をしてから来ればよかったわね...」
メンバーは、私、雪花さん、棗さん。それに_______
「では、全員揃ったことですし作戦を改めて...私と雪花さんが後方支援、それ以外の皆さんが交代しながら前衛......こんないい加減な作戦で大丈夫ですか?」
「須美、このメンバーならガッチガチに固められた方がやりにくいよ」
「私もいざとなったら言うから~」
「...分かったわ。そのっち、銀」
須美ちゃん達小学生組。組分け理由も流れで適当に決まっただけだ。前の須美ちゃんだったらここで何か追加で言ってきたかもしれないけど、今はそんなこともない。
負けそうだからって諦めたわけでもない。寧ろ勝つため。皆と戦うため。そんなことは、須美ちゃんの顔を見ればすぐ分かった。
「じゃあ皆!造反神なんかに負けず、さっさと倒しちゃいましょう!!」
『おー!』
「...おー」
「棗さんもっと大きな声で!」
「...おー!」
樹海化警報が響いて、海の向こうから色が変わる。ご近所にいたおじさんが話してくれた、おとぎ話のような世界へ_______
(待っていてくれているみーちゃんの為にも、一匹も通さないわよ!!)
「来ました!第一波です!!」
「さぁ!行くわよ!!」
「待ってました!!火の玉ガールの見せどころ!!」
「今まで通りだ。花により散れ」
あまり後ろから離れすぎないよう意識しつつ、私達は飛び出した。
「これで、ラスト!!」
星屑を鞭で叩きつけ、辺りを見渡す。見える範囲に敵はいない。
「ひとまず終わりか」
「ハーフタイムねぇ...」
「お疲れ様~、二人とも」
「雪花さんも、さっきはナイスアシスト!」
的確な槍投げにかなり楽をさせてもらった。
「こっちが狙われないから仕事が捗りますよ」
「三人は?」
「あっちには須美ちゃんが」
「そうか」
「さてさて、敵さん次はどっから来ますかね?」
「どこから来たって返り討ちにしてあげるわ!私達なら楽勝よ!」
力を合わせて戦うことにも慣れたが、仲間の力は足し算でも掛け算でもなく、もっともっと大きな力を引き出せる。
そう思っていた時に、雪花さんが口を開いた。
「んー......大真面目な話、ソロで戦ってきた皆さんはそろそろ考えたりしませんか?これからについて」
「これから?」
「えぇ。この世界から戻った時のです。こんだけ襲ってくるのも終盤に近いってことですし...私は援軍のない籠城戦を一人で戦うどーしようもない現実に戻るなんて今更耐えられないわけで。戻るにしても何かしらの打開策が欲しいんですよ」
雪花さんの声が、少しだけ低くなる。何か不味いものを食べたときに出てきそうな声。
「それは造反神を沈めてから皆で探していく筈だろう?」
「神様は適当ですからにゃあ。こっちに飛ばされたのも突然だったわけですし、終わってはいさよなら~なんてことも考えられますから。少なくとも私は全部終わった後色々話し合いが出来るって確約が欲しい」
確かに。とは思う。だって薄々勘づいてはいるから。
私は________いや、私だけならいい。だけど、私にはみーちゃんもいる。
「これでも勇者ですからやることはやりますよ?そこに駄々はこねません。でも、同時に人間ですから...こんなミラクル味わって、そのままさよならーってのもしにくいんですよ」
「それは...そうかもしれないな」
「ありゃ、ホントに感心されちゃった......何言ってんのって反発されるかもと思ったんですけど」
「そんなことはしないさ」
「私も賛成よ。寧ろ気持ちを打ち明けてくれてありがとう」
「二人とも...じゃ、私達ソロ組はがんばって声あげていきましょ」
「皆さん!第二陣が来ました!!!」
雪花さんの話が須美ちゃんの大声でかき消される。何はともあれ、新たな敵が最優先だ。
「タイミング悪いなぁ。全く」
「全て倒せば関係ない。バリアがあるとはいえ、怪我をしないように気をつけていこう」
「棗さんの言う通り!!さぁ!まずは続きをやってくわよ!!」
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「久々かもしれないな。丸亀組...西暦の四国勇者だけというのは」
樹海になるだろう場所の一角。それぞれ準備をしている仲間を見返すと、そんな言葉がポロっと出てきた。
「最近はもっと人数多いからな~。タマも突撃仲間が少なくて寂しいぞ」
「そうかしら?伊予島さん以外皆前線だし...」
「むっ......確かに」
球子に千景が自分の武器を整えていれば、友奈や杏は準備体操をしている。
「どちらにせよ、ここを守りきりましょう」
「大丈夫だよアンちゃん!丸亀城を守った時みたいにやれば!!」
「......あの時と比べたら、一人足りないけどね」
別行動をしている筈の彼を思いながら、それでも刀を抜く。
「椿がいなくてもやることは変わらない。勇者の力、見せつけてやろう!」
『おぉー!!!』
「これで、終わりよっ!」
千景の鎌が大型進化体を切り飛ばす。二つに切れた敵は、そのまま地面へ倒れ、消えた。
「ふーっ。ひとまず終わりか?」
「警戒は私がしときますから、ゆっくりしていてください」
「そういう訳にもいかない。後ろにいたからといって何もしてないわけじゃないんだ」
「でも乃木さん、貴女も気合い入りすぎよ。一番動き回ってたじゃない」
千景に肩を掴まれ、軽く引っ張られた。
「私がやるわ」
「千景...」
「前に比べて突出しないから、合わせやすいしこっちの体力も余るのよ」
「...ありがとう」
「べ、別に、お礼を言われることなんて」
「おーい、二人して仲良くやってるところ悪いが、団体様がもう来てるぞー」
「「!」」
球子が指差す先には、既に大群の姿が見えていた。
(いかんいかん。喋るのに夢中になっていた...)
気を引き締め、それでもこうして彼女と会話に夢中になったことに少しの嬉しさを感じながら、私は再び抜刀する。
『頼むぜ指揮官』
「ではさっきの様に」
「おう!任せタマえ!」
「私もやっちゃうよー!ぐんちゃん、頑張ろ!」
「えぇ、そうね」
「気合いは十分だな...では丸亀組、防衛行動を再開する!!」
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「私(わたくし)の聖地、高知の防衛とは...良いですわね。たぎってきましたわ!!」
「ん、頑張る」
「頑張ってね。私も応援してるから」
「何を言っているの雀。貴女も戦うのよ。ほら来なさい」
「やぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!!!」
雀の首根っこを掴むものの、彼女は暴れるのをやめない。
「私も巫女組と一緒に部室でお留守番するんだぁぁぁ!!!」
「文句ばかり言ってると、あの二人の所へ送るわよ?」
「......」
私が告げた途端、雀は微動だにしなくなった。「よろしい」と一言添えて、掴んでいた首根っこを離す。
「...メブ、やっぱりダメ?」
「ダメ」
「しずく~」
「盾がいなければ私達が怪我をするかもしれない。そうしたら誰が加賀城を守るのか?」
「はっ...そ、そっか。ようし!私を守って貰う為に、私が守らなきゃ!」
凄まじい矛盾に頭を抱えたくなったものの、そんな場合でもなかった。気持ちを切り替えてリーダーとしての責務を果たす。
「樹海化が始まったわ。全員、戦闘準備!」
「了解ですわ。弥勒家の功績の礎になりなさい!!」
「粗方片付いたってところか」
シズクの言う通り、最初の戦闘は完勝した。
「すぐに別動隊が来るわ。警戒は続けて」
「了解」
「うわー...もう終わりで良いよ~」
「とか言いつつ防御能力は強すぎるんだよな、コイツ......」
雀の凄さは理解していたつもりだったけど、さっきのバーテックス三体相手の攻撃を盾で防ぎ避けていったのは目を疑うくらい凄かった。
「活躍した時こそ神樹様にアピール!弥勒夕海子!!弥勒夕海子をよろしくお願い致しますわ!!!」
「私達の世界じゃもういないけどね。神樹様...」
「そんなの関係ありません!大切なのは心意気ですわ!!」
「...増援です。弥勒さん、程々に」
声に釣られて来たようにしか見えない敵の数を大体頭に入れて、両手に握った二本の銃剣を構えた。
「皆、行くわよ!」
「おうよ!さっさと殲滅してやるぜ!!!」
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「今回の出撃も大変だけど、終わった後のことばかり考えちゃうわね」
夏凜の一言はその通りで、あたしも頷く。
「こういう状況、何回も切り抜けてきたもんね。正直慣れてきたわ。かといって油断もしないけど」
「楽に終わって皆が余裕そうなら、そのまま話し合うのも良いかもねー。これからのこと」
「戻った後ねぇ...」
「もう会えなくなる友達とかが、いるんですよね」
「せっちゃんとかあまり帰りたそうにしてないし......話し合いはしたいよね。ちゃんと」
皆が少しだけ黙る。普段であればこんな少し暗い空気、『俺達が気にしても仕方ない。今出来ることをやろう』なんて言い出して誤魔化しそうな奴がいるけど、今回は別行動。
(ここはあたしが...)
「でも、先のことばかり気にしてても仕方ありません。今は目の前のバーテックスを倒しましょう!!!」
「...うん、そうだね!!」
「よく言ったわ樹!流石部長!!」
「樹ちゃんもすっかり部長らしくなったわね」
「うん!頼りになります!」
樹の言葉にあたしは涙が溢れてくる。
「え、お姉ちゃん!?」
「樹が...樹がおっぎぐなっでぇ...」
「もーやめてよぉ......」
「風、早く泣き止みなさい。樹海化始まってるわよ」
結構強めに夏凜から背中を叩かれて、涙は戻ってしまった。痛みの涙が出そうになったけど。
「...よし。樹!!」
「うん。勇者部、ファイトです!!」
『オォー!!!』
「せいやーっと!!」
「どっせぇーいっ!!!」
もの凄く伸びた槍と、これまた凄く伸ばした大剣で相手を消し飛ばす。巻き込みそびれた敵には、銃弾や刀が撃ち込まれた。
「ナイスアシスト!」
「勇者パンチ!!」
「支援するわ!友奈ちゃん!!」
「東郷さんありがとうー!」
「あたしは無視かーい」
「ふーみん先輩、後ろがお留守ですぜ」
「え、あ、ごめん園子」
まぁ仕方ないと割り切って、辺りを見渡す。敵はほとんど全滅しただろうか。
「案外少なかったわねぇ」
「前で暴れすぎてるからね~。こっちに来るのは少ないのかも」
「...確かにね」
とんでもない活躍をしているであろうあの子の姿を想像して、やめた。
「樹、合流する?」
「うん。こっちにはもう出ないみたいだし...連絡は来てませんが、一応皆で行きましょう」
「はーい!」
元気良く返事をする友奈をはじめとして、皆で最前線へ移動を始める。
きっと、助けは要らないだろうけど__________
----------------
「いぃぃやっほぉぉぉ!!!」
それは、蹂躙だった。
ふと思い立ってやったことがある、ゲームのストーリーを進めてレベルをかなり上げてから、始まりの村の近くにいる雑魚に最大攻撃をぶちこみにいったりする時。序盤苦労していた敵を圧倒するキャラを見て、成長を実感するのだ。
あの時に見るアホみたいなダメージ量が、現実に可視化されているみたいだった。
二つの斧が舞えば、比例して敵がふっ飛び。
彼女が通れば、そこに彼女以外の存在が消え。
俺は一言。呟かざるをえなかった。
「チートじゃん......っと」
「お、椿!援護サンキュー!!」
「はいよー」
そう、彼女こと乃木銀は、まさに獅子奮迅の活躍を見せていた。
ただでさえ武器は大きな斧二本。性格もだが、火の玉ガールと自称する程の突撃娘。バーテックスとの戦いにおいて、与えられる攻撃の強さは他の勇者と比べてもトップクラスの彼女。
そこに加わるのは乃木銀となる過程で手に入った人間離れした力。この時点で火力に関しては勇者部でトップ確定にも関わらず。今回の強化装備、完成した『レイルクス』によって更なる強化に加え空も飛べるようになって。
その結果は、かつてない程の大部隊をほぼ一人で殲滅しきるものだった。
(いや、春信さん達有能過ぎでは...?)
この戦いで間に合ったのは、銀用のレイルクスただ一つ。だが、これを始めに完成させたのは英断であろう。
「いやー楽しいなぁ!!」
俺と銀だけで最前線に出ることを提案された時は不安もあったが、全く杞憂だった。俺はたまにあいつの死角から来る敵と、自分に向けて襲ってくる星屑を銃で倒すだけ。
俺もこの慣れない体で短剣を今まで通り振れると思ってないため、ありがたい話ではあるのだが。
(空振りしそうで怖いよなぁ)
もう何日か調整は欲しいところである。
「大体終ーわり!お疲れ!」
「はいお疲れさん。体調は?」
「バッチリ!まだまだいけるよ!」
「なら良い。どうせあいつがまだ残ってるだろうし、元気は残しといて」
「あいつって言うのは、私のことかな?」
現れた相手を俺達は黙って見る。案の定現れた赤嶺友奈は、不適な笑みを浮かべていた。
「いやぁ凄いねぇ。他の皆もだけど、総攻撃に対してこれだけ...しかも、貴女は格が違うって感じ」
「柔な鍛え方してないからな」
「鍛えてるだけじゃないでしょ?その人間の常識から外れた力はさ?」
「......アタシは人間だよ。生まれがなんであれ」
銀は、俺を見る。
「椿や皆がそう思ってくれている限り、アタシが本当にそうじゃないとしても、人間だ」
「銀...」
「ふーん...で、やっぱりそっちの女の子が古雪椿君なんだ...面白いことになってるね」
「俺は全く、こんなこと望んでないんだけどな」
短剣と銃を握り、赤嶺に向けて構えた。いくら彼女でも、この銀を相手にするのは手厳しいだろう。そうすれば、数を減らしたい場合俺が最初に狙われる。
「ていうか、アタシのこと意味深に聞いといて無視すんなー。倒すよ?」
「...あはははっ!!倒せるの前提で話してるんだね!!」
(なんか、こういう時のバチバチしてる女子って怖いよなー...今は俺も女子だった)
「勝ち目作れるの?」
「今の私は造反神の勇者だからね。貴方達と同じで、勇者は最後まで諦めない。というわけで...」
赤嶺が一瞬溜めを作って、一言口にした。
「神花解放」
「________」
瞬間、背筋が凍った。体の筋肉が言うことを聞かなくなり、恐ろしいまでの気配と、耳に届いた轟音に目だけが見開く。
音が聞こえた方を慌てて見れば、赤嶺が蹴りを繰り出した形で止まっていて、銀が吹っ飛ばされていた。斧を樹海に刺すことで速度が減衰して止まったが、相当後ろに飛ばされている。
(......全く、見えなかった...!!!)
今までの俺との戦いは遊びだった。そう言われても否定出来ないくらいの圧倒的オーラ。
だけど、それ以上に__________
(なんなんだよ...!!)
「安心しなよ。今までも私は本気だった。最後の決戦に備えて上限を突破させて貰っただけだから」
まるで俺の思考を読み取ったかの様に、赤嶺がクスクス笑いながら言う。俺は焦りが募るばかり。
__________というか、何かをまともに考えられる程正常な思考力は、恐怖と困惑によって潰されていた。
(こいつ、こいつを...このまま残しておけば、皆が危ない)
それでも、一歩前へ進む。
(動かないのは一番悪いことだ。俺はまだ何もしてないだろうが...!!)
バリアがある以上死ぬことはない。けど、そんなことは関係なくて。
見知った彼女が彼女に思えなくて、足が震える。
今まで接してきた赤嶺友奈と、今ここにいる赤嶺友奈が繋がらない。同時に、あの銀にすら一撃を与えるとんでもない敵として存在している。そのことが一番怖くて、銃を落としそうになる。
(覚悟を決めろよ...そうだろ!俺!!!)
回転し出した頭は、彼女の強さを理解出来ていないまま走り出させた。
「う、う...お、おぉぉぉぉぉ!!!!」
どれだけ相手が変わってしまっても、それは赤嶺で________
「ごめん」
「ヴッ」
腹に三度、衝撃が入り。
「邪魔」
一際強い、抉られたような痛みを知覚した時には、俺の意識は薄れていた。
最後に見たのは、蹴りの体勢のままどんどん離れていく赤嶺の姿だった。