「流石にこれはやり過ぎじゃないかな?自分の体なのにもて余すよ」
「赤嶺ェェぇェっ!!!!」
赤嶺に斧を降り下ろすも、拳で応戦してくる。とはいえかち合ったのは一瞬で、続けざまに放たれた回し蹴りに斧を弾かれた。
「ふっ!」
「くそっ!!」
続けられそうな攻撃を一度下がって回避。赤嶺は追ってくることなく、アタシはアタシで弾かれた斧を手元に出した。
「いやー。前は苦戦したあの人をあそこまで出来るなんて思ってもなかったよ。凄いね。神花解放(この力)」
椿はアタシから赤嶺を挟んで反対側、奥の方に吹っ飛ばされた。
なんとか目が捉えたのは、腹にぶちこんでた三発のジャブに回し蹴り。あっちからは爆音と煙が上がっている。
「よくも椿を...っ!!」
「さぁ、どうする?まだ戦う?」
「当たり前だ!!」
アタシは好きな人を傷つけられて、傷つけた奴を優しく相手するお人好しじゃない。
「アタシは椿程優しくねぇぞ!!」
「上等だよ」
「...ッ!!!」
一瞬だけ溜めを作り、突撃。ぶつかる拳は、この世界で戦ってきたどんなバーテックスより堅く、反発してくる。
「うぉぉぉぉ!!!」
間髪入れずに繰り出す斧もすぐに反応してきて、捌かれた。
(これも防ぐッ!?)
「じゃあ、こっちもいくよ」
その言葉通り飛ばされる足蹴りをギリギリ避ける。巻き起こった突風が顔に当たって、それすらかき消す勢いで反撃する。
少しでも油断すれば倒されるのは言うまでもない。色々やってくる椿より人と戦うことに慣れているんだから、何をしてきてもおかしくない。
(だったら、アタシはぁ!!)
難しいことを考えるなんて嫌いだ。単純明快に、相手を純粋な力でぶっ飛ばす。
「ぶっ、飛べ!!!」
「!!」
足をより踏み込ませ、赤嶺の拳を体ごと吹き飛ばす。力に耐えられなかった樹海の足場は音を立てて崩壊した。
「こんな力、どこから...」
「そらそら行くぞぉ!!!」
逃げる赤嶺をひたすら追う。最高の速度で、最大の力で、その斧を届かせる。
「そこっ!!」
「チッ」
跳んだタイミングに合わせて斧を投げつけた。回転しながら向かったそれは蹴り飛ばされるけど、お陰で彼女は空中でバランスを崩す。
「ッ!!!」
「ハァァァ!!!」
その真上を取って、手元に戻した二本の斧を降り下ろす。鈍い音を響かせて、赤嶺は樹海に叩きつけられた。煙が一段と舞う。
(間違いなく一本取った!!)
確信的な一撃。でも決して油断はせず、煙の中へ降りていく。
(不意討ちはあっちの方が有利だろうし、一度離れて...!)
背後からの何かを回転しながら切り飛ばす。罠だと気づいた時には横っ腹を殴られていた。
視界が頼りにならない状態で樹海の壊れた部分、石みたいに小さくなった破片を投げて注意をそらし、横まで回り込んで攻撃されたのだ。と理解する頃には、二回三回転がって斧を突き立ててからになる。
(さっきの貰っといてすぐこれかっ!)
「...来い」
(絶対追撃が来る!!)
アタシならそうする。と思ってた矢先、やっぱり右の拳が飛んできた。分かってるけどまだ体勢も整えられてないアタシは、口だけ威勢の良いことを言いつつ、斧を離して胸の前で防御姿勢をとり、後ろに軽く飛んで衝撃を減らそうと________
「ッ!」
「...あれ?」
予想していた衝撃は来なかった。代わりに甲高い金属音。
目の前には、幼なじみがいた。
「このっ!」
「椿っ...ッ!!!!」
次の瞬間の光景を、アタシは信じられなかった。
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幼い頃。銀と何度目かの喧嘩をした時。原因なんて覚えてないけど、やったことは覚えてる。
女の子に向けて、初めての暴力を振るったのだ。その時は両親から散々怒られた。印象的なのはその後の言葉。
『いい?傷つけられた場所は心でも体でも治らないの。言い合いというか喧嘩は必要なことだとママは思うけど、だからって暴力はダメ。特に女の子の顔はね。いい?』
『そうだぞ。パパもママとやった時はそれはもう口でボッコボコにされて...』
『そういうこと言わないの』
当時は何言ってるんだといった感じだったが、今なら分かるし、極力俺はそれを実行してきたつもりだ。あの時も結局銀とは話し合いで解決してる。
だったら。今の俺は________赤嶺の拳を短刀で止め、間髪いれずに彼女の髪の毛を掴んで顔面に膝を入れた俺は、俺でないのかもしれない。
「椿っ...ッ!!!!」
「守らなきゃ...」
この世界での勇者に張られているバリアは、俺が初めて勇者として活動し始めた時とほぼ同じものになってる。致命傷になる攻撃に対して体を守る安心設計。
それでも尚勇者部が攻撃を受けないように立ち回るのは、気絶しないためだ。全員が気絶した場合、バーテックスが神樹へと向かい負けになる。所謂タワーディフェンスもののゲームと同じだ。守り手がいなくなればいずれ城が陥落する。
バリアは衝撃まで守ってくれない。なら、それで飛ばされないようにする必要がある。
だから、人間である勇者に対して脳を揺らす頭への攻撃は、行動不能にするためには最大の有効打。それを実行しただけ。
「っ...いいのくれるねっ!?」
頭を振って言ってくる彼女に対し、間髪いれず銃を撃つ。狙うのは当然頭、時折油断してそうな腹。星屑くらいしか倒せない物だが、衝撃は与えられる。両手で防いでる彼女に、俺は引き金を引き続けた。
「守らなきゃ...」
(逃げろ...)
うわごとのように呟き、必死に祈る。赤嶺がここで逃げてくれれば、これ以上何もしないで済む。
だが、向かってくるならば。
(逃げてくれ...)
天の神が相手でも、こんな思いはしなかった。実際の強さはこいつ以上だっただろうに。
俺は________怖いのだ。家の中でくつろがせるくらいの相手に、殺意を向けるのが。突然手に負えない強さになってしまったことが。
(こいつは敵じゃない...)
だが、脳は目の前の相手を敵と認識している。だから、叩かなきゃならない。
「守らなきゃ...!」
頭は落ち着けと言ってる一方で、既に冷静に倒す算段を、時間を稼ぐ算段をしている俺がいる。それが怖い。やってるのことと考えてることがちぐはぐで、胸が痛い。
(頼む...っ!!)
それでも、思考し、行動し続けるのは________
「もう、何も失わせはしない...!!!」
何よりも、何よりも。もう一度、もう二度と、後ろにいる幼なじみを失いたくないから。
分かってる。バリアがあるから死ぬことはない。そのくらい理解している。
分かってる。今の銀は俺よりずっと強い。そのくらい理解している。
それでも、銀が、皆が負けるかもしれない相手を、放置することも静観することも出来ない。俺に出来ることがあって、何もしないなんてあり得ない。
だから_______
「俺が、『敵』を倒す!!!!」
一際増した頭痛を無視して、それでも短刀を構えた。
本当は、赤嶺を本当の意味で敵としたくない。でも、そうしないと守りたい人すら守れない。二度と失いたくない人が。
どちらかを取るのなら、俺は________
「へぇ...あはは、面白いこと言うね」
彼女は、笑った。
「じゃあ見せてよ。さっき秒殺されてた人がどれだけ出来るのかさ!」
左手で銃弾を防ぎながら走りだし、右手の拳を突き出してくる。なんら特殊な動作はしていない。『さっきまでの俺なら目で追えない程に』ひたすら速いだけ。
彼女もさっきの反応を振り返り、これでいけると判断したからこそだろう。
対して、俺は。
「ハアァァァァァァ!!!!」
ただひたすらに、咆哮した。己を鼓舞する。勝てないと自覚した脳を否定する。
そして、攻撃を短刀で止めた。
「「っ!」」
最初から彼女がどのくらいの速さなのか知っていれば、ギリギリ目で追える。来る攻撃が分かっていれば重心をその方向に前のめりにしていれば抑えられる。
無理矢理研ぎ澄まさせた感覚が実現させる、唯一無二の抵抗。
(一度きりのチャンス...!!)
搦め手を使われる次からは対策のしようがない。今回で最大の攻撃をぶつける。
その為に______一瞬止めた短刀を消し、彼女の右腕を左手で掴み、勢いそのままに右膝を、今度は腹にぶちこんだ。
「くはっ!」
文字通りくの字に曲がった彼女。俺は右手の銃を捨て、短刀を持つ。
「アァァァァァァァ!!!!」
そして、彼女の頭に叩きつけた。
「......なんだよ」
「なんだよじゃないだろ!!何やってんだ!?」
降り下ろした右手に握られた刀は、赤嶺の頭まで届かなかった。後ろから伸ばされた手に止められたから。
「椿!!しっかりしろ!!」
「しっかりしてる...俺は!俺はッ!!!」
「お前らしくないだろ!!!どうみたって!!!」
叱咤されている内容は、自覚していることだ。
「ちょっと落ち着けってうわわわ!?」
「くっ」
「私を抑えたまま会話しないで欲しいな......」
赤嶺によって纏めて吹き飛ばされた俺達は、樹海に叩きつけられて止まる。今の彼女を相手に、素の力では勝てる要素がまるでない。
「驚いたな...さっきなす術もなく蹴られたのと同じ人とは思えない。刀もやられてたら、ちょっと危なかったかな」
まるで俺を誉めてるかのような言い方をする彼女は、そのまま喋った。
「でも......私も、前の貴方の方が好きだな。今のは獣みたい」
「う、る、せぇ...!!」
「椿がこうなったのはお前のせいでもあるんだけど!赤嶺!!」
「そうだねぇ...本気で戦ってくれるくらいには強いってことかな?今度は二人纏めて...と思ったけど、今日はやめとくよ」
そう言うと、彼女はバックステップを取った。さっきまでいた位置には、代わりと言わんばかりに何かが降ってくる。
「どっせぇぇぇい!!二人とも大丈夫!?」
「銀!椿!怪我はない!?」
「風先輩!夏凜!」
「なぁ、あれ滅茶苦茶パワーアップしてないか?」
「あぁ...まるで暴風だな」
集まってきたのは、神世紀と西暦の四国勇者。
「流石に人数差が大きすぎるなぁ...今日は最後の戦いの前の調整だし。このくらいにしとこうかな」
「最後の戦い...?」
「そっちもしっかり準備しておいてね」
「あっ、待てっ!!」
あっという間に消えていく彼女を追う奴はいなかった。
俺は、それを気にしてられない。
(たった数秒...)
稼いだ時間は、たった数秒。己の心情をねじ曲げ、たった一度の不意討ちを使い、今も尚ショートしかけているくらい脳を酷使して、相手に使わせた時間がたったの数秒。
一緒に倒れている銀にすら聞こえないであろう掠れた声が、口から漏れた。
「...なっさけな」