古雪椿は勇者である   作:メレク

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花結いの章 5話

「......」

 

鳥のさえずりが聞こえる朝。俺はもう着替えていて、自宅で朝食を作っていた。三ノ輪家にこの(女子)姿で行っても違和感を覚えられることはないが、気は滅入るからしない。

 

(課題は山積み、だな)

 

あれから、半日くらいが経過している。

 

 

 

 

 

樹海化が終わった直後、俺は銀に学校の空き教室まで連れていかれた。

 

『なぁ、椿...お前、大丈夫なのか?』

『...大丈夫だ。ちょっとあいつにビックリしただけ』

 

あの行動を見ていない皆からわざわざ離してから聞いてくれたことに感謝しながらも、頭が働いてなかった俺はでたらめに答えることしか出来なかった。

 

『...嘘つき。待ってる』

『......ごめん』

 

銀も当然のように見抜いていて、でもそれ以上何か言うことはなかった。多分俺が現状でいっぱいいっぱいなことに気づいてるんだろう。

 

『全く...どうせ________』

 

その後何か言ってたような気もしたが、聞こえなかった。

 

「......」

 

俺と赤嶺が戦ったのは数秒。それでも、限界以上の集中力と精神力を使った。一挙動に気を使い、己の抑えを無理やり外した。

 

その代償は、未だ頭に響く鈍痛。

 

(きっと、次あいつと戦う時、恐怖しても驚きはしないからこうはならない。でも)

 

例えパニックに陥っていない普段通りの俺で戦い、勝ち目はあるのか。せめて他の皆がバーテックスを蹴散らすまでの時間を稼げるのか。なにより、あの赤嶺ともう一度仲良くなれるのか__________

 

(...まずは戦闘のことだけ考えろ)

 

俺の武器はリーチも短く、バーテックスと戦うのに適してるとは言えない。俺が一番戦えるのは対人なのだ。だったら俺が彼女を相手した方が効率的な面でも良い。

 

(後は...)

 

戦闘が終わってから部室に戻った俺達を待っていたのは、困惑している巫女と、シーナ。

 

『どうした?』

『お姉ちゃん!!』

『あの、実は...この子、動いてたんです』

『?』

『樹海化警報が鳴ってからも、ずっと』

『!!!』

 

それが意味するのは、この少女が巫女、勇者と同じ素質を持っていたり、神に近い立場だったり、少なくとも普通の子ではないということだ。

 

(そりゃ、大赦が探しても見つからないわ...)

 

何故この世界に来たのかは分からないが、大きい懸念事項が一つ増えた形になる。勇者として呼ばれた所に手違いが起きたのか、赤嶺と同じように造反神側として呼ばれ、これまた手違いが起きたのか。女の俺の知り合いの可能性が高いから、そっち関連か。

 

(あの年齢で勇者ってことはないだろうし...若返ったとかありえんのか?)

 

考えることが増えると、そのぶん負担が増える。今はひなたが面倒を見ているだろうから寮だろうか_______

 

(はぁ......っー、まず赤嶺にあんなことしちゃったわけだしなぁ、あぁ...)

 

「椿ー?」

「!!」

 

はっと我に返ると、真っ黒に焦げたスクランブルエッグが俺の目の前に映る。

 

「やばっ!?ごめん!!急いで作り直すから!!」

 

父さんの出勤時間に間に合うよう、俺は急いで卵を割った。

 

 

 

 

 

「ヤベェ...焦げたスクランブルエッグは食べるもんじゃないな......」

「何で食べたのよそんなの」

「勿体無い精神が働いてさ...」

 

高校の授業終わり、腹を抑える俺に風は的確な質問をしてきた。返す声は凄く小さい。

 

「ここは、弥勒家に伝わる漢方薬を」

「え、弥勒家ってそんなこともやってんの?」

「そんなん無くたって椿なら平気だろ!どうせ勇者部で休むだけだし」

「依頼あるだろ」

「いやいや。依頼なんて周りがやらせないじゃん」

 

しれっと言う裕翔に、頷く風、棗、弥勒。

 

「...普段ならそうかもしれんがな」

「あれ?」

「ちょっと用がな」

 

赤嶺とか含め、色々話を進めないといけないなんて言うわけにもいかず、言葉を濁して伝えておく。

 

ちなみに裕翔は、俺が女になっても普段と変わりなく接しているし、男物の制服を着てることも何も言わない。

 

違和感に気づかないよう設定されている世界だからとはいえ、正直ありがたい。

 

(スカートはスースーするんだよなぁ...)

 

一瞬園子ズの着せ替え人形にされた時の感覚を思い出して、急いで首を横に振った。

 

「てか、そろそろ行くか。じゃあな裕翔」

「おう、また明日」

 

バッグを担いで外へ出ていく。バイクは初めから持ってきてない。

 

(逆に、良かったかもな...)

 

体調が悪い明確な理由があれば、そうなる原因を作った本当の理由も、頭がズキズキ痛んでることもバレにくい。

 

(......あんま、バレたくないなぁ)

 

心配かけたくない。というのもある。だがそれだけなら今の俺は相談してる。

 

今一番怖いのは_______前線から遠ざけられること。赤嶺やバーテックスと戦えないこと。何も出来ないなんて絶対に嫌だが、善意で言ってくる皆に対して反論なんて出来ない。だから何も言わず、もう俺に戦わせて欲しい。

 

(だから何も言わないで欲しい...ってのは、エゴか)

 

「椿?」

「ん、どうした棗?」

「いや、どこか上の空だったから...」

「あ、あぁ。ちょっと夜は卵再チャレンジしようかなと献立をな」

 

(平常心平常心...)

 

少しの罪悪感を感じながら、俺達は部室までたどり着いた。

 

「お疲れ」

「あ、お疲れ様です!」

「おう...あの子は?」

「今、水都さんと銀ちゃんが遊びに連れてっています。他の皆さんは全員ここに」

「了解」

 

話を進めながら、荷物を端に置いて窓側に寄りかかる。椅子は全員座ってるし、ただでさえぎゅうぎゅうの部室だ。どこにいても大して変わらない。

 

「じゃあ全員揃ったので...昨日の戦闘も含め、色々話し合いたいと思います」

 

部長の凛とした声に、この場にいる全員が頷いた。

 

(なんというか、成長したな...)

 

二つ年下の女の子なのに、入部当初から本当に大きくなった。

 

「赤嶺さんが言うことを含めれば、次が...取り返していない高知の一部をかけた戦いが、この世界での最後の戦いになりそうです」

「赤峰の言うことが正しいかは分からないけどね」

 

樹の説明に副部長であり書記としてチョークを持つ夏凜が補足する。

 

「造反神は、これまで領土を取られるにつれ強さが増してきたように感じてきたけど...全て取られてしまえばその力も残ってない。ということかしら」

「分からないよー?切り札は取ってあるものだしね」

「これまでより強いバーテックスもいるかもしれませんが...まず、赤嶺さんがいます」

「あいつを倒さないといけないけど、あいつもなぁ...」

 

球子がそれだけ言って、俺と銀を見る。当然他のメンバーもこっちを見ていた。

 

「...赤嶺さんと戦っていたお二人ですが、どうでしたか?」

「椿、よろしく」

「なんで俺なんだよ」

「アタシ説明下手だから」

「......分かった」

 

渋々、といった形にはなってるが、目が訴えてきていた。

 

(説明くらいすらすら出来るようじゃなきゃ、無理やり俺を止めるだろうな...)

 

「...あいつは、確か『神花解放』とか言っていた。その瞬間、アホみたく強くなって...元から高い対人能力に上乗せされた力。正直言って、誰が相手しても、一人ならそう長く持たないだろう。本人も似たようなことを言ってたが、神から与えられた限界を突破させる能力みたいだ」

「まるでチートツールでも使ったみたいね...」

「私達も言ったら強くなれるかしら?」

「神花解放!!!...うーん。やっぱりだめかぁ」

「目下の課題は赤嶺の対策かしら」

「まぁ、それもだが...前にあいつは言ってた。あいつ自身に神樹は倒せない」

「え、そうなんですか?」

「勇者はバーテックスに対して特効性があるが、力を貰ってる身である存在が、その大元に攻撃できるのはおかしいだろ?赤嶺も造反神側にいるとはいえ、元の時代では俺達と同じ立場の筈だ」

 

昔の東郷も、一度バーテックスを誘導して世界を終わらせようとした。それと同じだ。

 

「だから、あいつの目的は陽動、勇者の数を減らすことになる。それに、少なくとも赤嶺より強い奴が一体いるし」

「...造反神か」

「あぁ」

 

敵の首謀者が出てこないなんて保証はどこにもない。寧ろ天の神と戦ったことのあるメンバーは、その可能性を高く見るだろう。

 

そして、ここからだ。

 

「だから、皆はバーテックスと戦うのをメインで、赤嶺とは俺が戦いたいと思ってる」

「椿先輩が?」

「勿論俺一人は厳しいだろうが...俺は武装的に大型のバーテックスと戦いにくいし、戦闘スタイルも赤嶺から遠くない」

 

同じ『友奈』である以上、まっすぐ堂々とした部分もあるんだろうが________だからこそ、もう一度戦いたい。『古雪椿』として。

 

「まぁ、俺は対バーテックス組より対赤嶺組に役に立つだろうから入りたいって感じだよ。それでバーテックスに多くの人が割けるならって」

「椿...」

「......部長」

「あ、はい!芽吹さん!」

「椿さんの提案に賛同する形なんですが、赤嶺さんと戦うのは私達防人と、椿さんの五人で行いたいと思います」

「芽吹...?」

「椿さんの言うように、武装面を考慮した結果です。銃剣なら遠距離からサポートが効きますし」

「まぁ、私みたいなのが近くにいても、赤嶺と戦うのは一人になっちゃうもんね」

 

作戦立案時間だからか、樹に敬語で話す芽吹に夏凜が乗り________

 

俺は、どこか違和感を感じてた。言葉では表せない微妙に変な部分というか、もどかしいというか。

 

「待ってメブ。私もあの赤嶺さんと戦うの?」

「当然でしょ」

「い、嫌だというのは...」

「いいのよ。造反神自身が相手になるかもしれないけど」

「そっち行きます!」

 

(何だろ、これ...)

 

「...皆さん、意見ありますか?」

「特になーし!」

「あぁ」

「私もグッドな作戦だと思うわ!」

「では...椿さん、芽吹さん。赤嶺さんの相手をお願いします」

「...予定通り行くかどうかなんて分からないけどな」

 

トントン拍子で進んだことは疑問に思うものの「任せろ」と言う他はない。俺としても望むところだ。

 

(てっきり止められるかと思ったが...)

 

「色々聞くのにも、一先ず赤嶺友奈を捕まえて、洗いざらい吐いて貰った方が良いわね」

「そうですね...色々情報貰えるだろうし」

「杏の言うこともなんだけどさ、赤嶺に色々吐かせる前にも、大事な話があるな。私」

「雪花さん?」

 

全員が雪花に注目した瞬間、俺のポケットが震える。何かと思えば、スマホに通知が来ていた。

 

「悪い...はい」

『椿君?今から大赦に来れるかい?昨日の話も含めて色々と話したいことがあってね』

「えぇと、今勇者部で珍しく会議らしい会議してるんですが...」

「珍しくとは何よ」

「お前が部長の時と比較した結果だよ」

「椿さん、大丈夫ですよ。こっちは大体終わりましたから」

「......現部長の許可が降りたんで、向かいます」

 

通話を切り、バッグだけ手に取る。

 

「じゃあ先帰るな」

「はい。お疲れ様でした~」

 

沢山の挨拶を背に部室に背を向ける。

 

(......?)

 

やっぱりどこか引っかかる所があったが、その正体を探すのは出来なかった。

 

『じゃんけん!!ぽん!!!』

「...?」

 

(...さっきの流れからじゃんけんとかしねぇよなぁ...?じゃあこれ幻聴?やっぱまいってんのかね...あー、やだやだ)

 

 

 

 

 

「到着...と」

 

約30分後。一度家に帰ってバイクで訪れた大赦にて、慣れた作業で手続きを済ませる。一応勇者ではあるが、職員以外には全員やらせてるんだとかなんとか。

 

『アタシは何も言ってないからな』

 

それから、メールで銀からそんな文が届いたが、他に誰かからメールが来たわけでも無いし、何の話かさっぱり分からなかった。

 

「春信さん。お疲れ様です」

「わざわざ御足労頂きありがとうございます。椿様」

「そんなん普段やらないでしょう」

「普段相手してる人に見えないからさ...その姿は」

 

まるで普段からやってるような言い方でお辞儀をしてくる春信さんを適当にあしらうと、本人が横に長いベンチを勧めた。座ると少し軋む音が鳴る。

 

「何か飲みたいのはあるかい?」

「じゃあ、ジンジャエールで」

「分かった...はい」

「ありがとうございます」

 

貰ったそれを一気に飲む。半分くらい飲んだところで口を離し、拭った。しょうがで口と喉がひりひりと焼けたような感覚になる。

 

「はーっ...」

「女の子らしくない」

「身も心も女子になった訳じゃないですから、寧ろ...んんっ。これ、とても美味しいですね。春信さん、ありがとうございます」

「ごめん。僕が悪かった。声は綺麗なのに変な感覚になる」

「分かればいいんです」

 

消費したエネルギーを補充するように、俺はもう一口ジンジャエールを飲んだ。

 

「でも、てっきりみかんを注文してくるのかと思ったけど」

「別に、普段から他のも頼んでますよ。貴方と一緒の時は特に」

「あれでも少ない方なんだ...」

「それで。詳しい用件は?」

「あぁ、ごめん」

 

春信さんは、一度咳払いをする。

 

「謎の女の子の進捗は特になし...というのは分かってると思うから、昨日頼まれた物の結果をね。手配はしたから今度渡す。レイルクスも間に合わせるよ」

「ありがとうございます」

「でも、あんなもの頼むなんて...やっぱり赤嶺友奈対策かい?」

「まずあれバーテックスに効くのか知らないですし。うどんは効かなかったですけど」

「寧ろうどんは挑戦してるんだね...」

「300年前にね...てか、それだけですか?それならわざわざ」

「それだけじゃないよ。でも...そうだな、随分やられたみたいだけど、赤嶺友奈と一人で戦うのかい?」

「......いえ、芽吹達と」

 

見えない話の先に警戒しながら、さっき決まったことを答える。

 

「成る程ね...狙ったのか、それとも」

「はい?」

「いや、僕としても都合が良いんだ。詳しい話は省くとして、君達の為になるものを追加で準備できるから」

「じゃあ、楽しみにしてます」

「あぁ。そうしていてくれ。後...ちょっといいかい?」

「?......!!!」

 

ジェスチャー通り立って近づく。そこからは対応が遅れた。

 

「女の子の見た目にやるのは、心苦しいけど」

 

頭ではなく、腹が痛む。ついこの昨日受けたものと似てる痛覚。

 

「気が散ってるのかい?普段の君なら避けれたかもね」

「な...ん、で......」

 

腹を殴られた。そう思う頃には、俺の意識は飛ばされた。

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