古雪椿は勇者である   作:メレク

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この作品、ついに60万UAを越えました!このタイミングで迎えられたの嬉しい...

見てくださっている皆さんありがとうございます!!高評価、感想も常時待ってます!!(欲張り)

では6話です。どうぞ。


花結いの章 6話

「じゃあ見せてよ。さっき秒殺されてた人がどれだけ出来るのかさ!」

 

左手で銃弾を防ぎながら走りだし、右手の拳を突き出してくる。なんら特殊な動作はしていない。『さっきまでの俺なら目で追えない程に』ひたすら速いだけ。

 

彼女もさっきの反応を振り返り、これでいけると判断したからこそだろう。

 

対して、俺は。

 

「ハアァァァァァァ!!!!」

 

ただひたすらに、咆哮した。己を鼓舞する。勝てないと自覚した脳を否定する。

 

不安で不安で仕方のない心から目を背けるように。

 

そして、攻撃を短刀で止めた。

 

「っ!」

 

彼女がどのくらいの速さなのか知っていれば、ギリギリ目で追える。来る攻撃が分かっていれば重心を前のめりにしていれば抑えられる。

 

研ぎ澄まされた感覚が実現させる、唯一無二の抵抗。

 

たったそれだけの行動に尋常じゃない集中力を持ってかれるが、それでも思考スピードを止めない。

 

(一度きりのチャンス...!)

 

次は対策される。ここで決めるしかない。

 

その為に______一瞬止めた短刀を消し、彼女の右腕を左手で掴み、勢いそのままに右膝を、今度は腹にぶちこんだ。

 

脳のどこかが、スパークしたように熱い。

 

「くはっ!」

 

文字通りくの字に曲がった彼女。俺は右手の銃を捨て、短刀を持つ。

 

「アァァァァァァァ!!!!」

 

そして、彼女の頭に叩きつけた。

 

 

 

 

 

ブズリと音がして、それ以上は押せないよと手が反発される。

 

「...ぁ?」

 

吹き出した赤は、鮮血は、俺の身体中にかかった。目にも入ってくるが、俺は目を閉じられない。

 

目の前の光景を、見てしまったから。

 

「あ、か、み...ね?」

 

声にならない問いかけに、返事はない。自分の発した音さえ耳が聞き取ることはない。

 

ただそこには、純然たる血だけがあった。

 

(......う、そだ)

 

「はぁ、はぁっ、はっ、はっ!あ、あぁ!?」

 

脳が理解し出して、呼吸が浅くなる。口から声が漏れる。

 

「ち、ちがっ」

 

持っていた刀から手を離し、二歩後退り、倒れ込んだ。彼女は支えを失い、目の前に倒れる。

 

「ひっ!」

 

この出血は即死だ。『俺が赤嶺友奈を殺した』

 

「ちがっ...俺は、こんなんじゃ...」

 

バリアがちゃんと機能すると思ってた。大丈夫だと思ってた。

 

別に彼女を殺すつもりはなかった。

 

「俺は、殺したかったわけじゃ!!」

 

信じられない行為をした自分の両手を見て________ぬるりとした、彼女の血で真っ赤に染め上げられた両手を見て。

 

(俺は、そんなんじゃ...こんなことをしたかったわけじゃ!?!?)

 

それが、体に染み込んで赤黒くなっていくのを見て。

 

敵を、殺した。それだけの事実を目の当たりにして。

 

「ーーーーーーー!!!!」

 

言葉にならない悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(暗い、暗い)

 

光の一切ない真っ暗闇。まるで重力がない場所の様に、体がたゆたう。

 

(何も見えない)

 

かといって、もがくこともせず、抗う訳でもなく。

 

(どうして、俺は......)

 

ゆっくり、ゆっくり目を閉じた。

 

(俺は、敵を殺しただけなのに...)

 

『思い出せ。お前が何をしたかったのか』

 

(何が...したかった?)

 

『そうだ。お前は何のために戦ってる?誰のために戦う?』

 

(俺は、皆のために)

 

目を開けたくても、もう開かない。

 

それでも__________皆の姿が、一人一人の顔が、脳裏を過った。

 

『俺は、大切な人を守りたい。ずっとそう思ってる。そうだろ?』

 

俺の声に、誰かが反応する。

 

『だったらよく考えろ。彼女は、赤嶺友奈はお前にとっての何だ?』

『......』

『分かるだろ?俺ならもう。そんなところで沈んでる場合でもないことも』

 

目は開かない。が、それでも声のする方へ左手を伸ばす。伸ばせた手は、誰かと繋がる。強い力で引っ張られる。

 

『行ってこい。不甲斐なかったら全部奪ってやる』

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

「目、覚めました?」

 

いつか見たことのある______というか、何回か見たことのある光景。

 

「ひなた...?」

「はい。じゃんけんで決まった代表、上里ひなたです」

「何でいんの?何で膝枕?」

「椿さんが心配だったからですよ」

「......?」

「その顔、分かってませんね?全く...いいですか椿さん!」

 

その言い方は、いつかの俺にそっくりだった。

 

「私達皆、椿さんの様子がおかしいこと位分かってたんですからね!!」

「......っ」

 

一度、震えてしまう。

 

「...そういうこと、かよ」

 

でも、それだけで理解が追いついて、泣きそうな声を抑えて呟くことが出来ず、目元を腕で隠した。

 

(全部、お見通しだったわけか...)

 

銀以外にもバレていた。皆分かっていながら、俺の意思を尊重して止めずにいてくれた。

 

申し訳なさと嬉しさが心から込み上げてきて、涙が流れる。

 

「ほんと、こっちのが情けないじゃん...」

「本当です。私達も舐められたものですね。椿さんがそんなに見られてないと思ってましたか?私はずっと見てましたよ」

「...ごめん」

「許します!」

「はえぇよ...」

 

頭を撫でてくるひなたの手をどけ、立ち上がった。目元はまだ隠したままだ。

 

「顔洗ってくる」

「お手洗いはあちらです」

「了解」

 

早歩きで向かい、自動で出る洗面台の水で顔を洗う。

 

(やべ、タオル忘れた)

 

「まぁいいか」

 

何度か繰り返して、一度息を吐く。それから、頬を思いっきり叩いた。 鏡に見える俺の顔は、まだまだ本調子ではなさそうに見える。

 

でも。

 

「っ、はー...よしっ!!」

 

また見失いかけていた。勇者部六箇条も、自分の信念も。

 

(俺は守るために戦う。自分が守りたいものを)

 

それは、例え敵対していようと関係ない。赤嶺も『守りたい者』だ。

 

(自分も幸せである上で!)

 

『無理せず自分も幸せであること』

 

その上で、実現してみせる。

 

「はい、どうぞ」

「俺の行動読まれ過ぎでしょ...ありがと」

 

トイレを出た目の前でタオルを渡してくれたひなたに、苦笑するしかない。ふわっと心地よい香りが俺の鼻をくすぐった。

 

「...ひなた」

「はい。なんでしょう?」

「俺は平気そうか?」

「......はい。いつも通りの椿さんです」

 

じっとひなたの目を見つめる。というよりは、俺の目を見つめてもらう。

 

自分だけだと、自覚してないだけでまだダメかもしれない。ひなたはその不安を潰してくれた。

 

「そか。ありがとな」

「いえ...あと、そんなに見つめられると、少し恥ずかしいです......」

「あ、悪い」

「全く。ずっと僕のことを無視するのは流石に頂けないんだけど?」

「腹パンしてきた人相手にする必要あります?」

「頼まれたんだから仕方ないだろう?」

 

そう言われて放られたスマホを見ると、一通のメール画面が表示されていた。

 

『椿の様子変だから、無理してそうだったら休ませてあげて。多少手荒でも良いわ』

 

「右に動かしてごらん」

 

『ちょっとつっきーの体調悪そうだから、必要であればゆっくりさせてあげてくださ~い。つっきー、無理な時はちゃんと言うんよ?』

 

「...休ませる(物理攻撃)じゃん。多少どころじゃない手荒さでしたよ」

「夏凜を心配させるバカに手段を選ぶ必要なんてないだろ」

「このシスコン...いえ、すみません。ありがとうございます」

「感謝を言う相手を間違わないようにね」

「はい」

「じゃあ、今日は帰りなよ。ひなた様も御足労頂きありがとうございました」

「私にもそこまで畏まらなくても良いのですが...こちらこそありがとうございます。引き続きお願いします」

「はい。勇者部の皆様が出来ないことはなんなりと。彼を殴れと言われれば次は顔面に入れます」

「ちょっ!?」

 

冗談とも本気とも取れる声音で言われて、ちょっとだけビビった。

 

(そう言えば...銀のあれは、そう言う意味か)

 

銀は本当に何も言ってない。恐らく俺以上に態度にも出してない。それでもバレた_________

 

(...はぁ)

 

「椿さん?」

「ん、何でもない。乗ってくか?」

「是非!」

 

 

 

 

 

バイクの音だけを響かせて、俺達は寮まで向かう。

 

俺はさっきのことで気恥ずかしく、後ろの感触もあって喋れず、ひなたも何故か黙ったままだった。普段であれば何かしら話してきてもおかしくないのだが。

 

「......」

「......」

「...ひなた」

「はい?」

「いや...その、俺が謝るとして、折角寮に行くわけだし直接謝った方が良いよな?普段この時間皆の迷惑にならないかなって」

「そうですねぇ...後で全体に連絡するなら、その必要ないとは思いますよ?」

「え?」

「もう皆さん、分かってると思いますから」

「...さてはお前」

「先に連絡を通しています♪」

「後手に回りすぎだろ、俺...」

 

後ろからくすくすと笑い声が聞こえ、腹に回された腕がよりきつくなった気がした。

 

「それに、皆さんが見たいのは今の椿さんではなく、落ち着いた時の椿さんだと思いますから。その方がダメかどうか分かりやすいですからね」

「...分かった。今日はひなたを送るだけにしよう......ありがとう」

「...私こそ、です」

 

微かに聞き取れた声を聞いて、むず痒くなる。

 

「よし、着いたぞ...ひなた?」

「......」

 

寮の前で停車する。それでも彼女は俺から離れない。

 

「あの...?」

「......」

「っ」

 

寧ろ強く抱きしめられ、変な声が出そうになるのをなんとかこらえた。

 

(良い匂いするからやめてくれませんかねぇ!)

 

唐突な理性との葛藤は、彼女の声で止められる。

 

「もう少しだけ、こうさせてください」

「あ、あぁ...」

 

それから、多分20秒くらい。西日が照りつけてくる中で、俺達は動かない。

 

「...はい。大丈夫です!ありがとうございます!」

「おう...どうした?」

「いえ、ちょっと酔ってしまったものですから」

「マジか、ごめん」

「いえいえ!椿さんはお気になさらず!また乗せてくださいね?それでは!」

 

たたたーっと俺から離れる彼女は、突然止まって振り返る。

 

「また明日!」

「...あぁ、また明日な」

 

見送られながら、俺はバイクを動かす。

 

(にしても、普段バイク乗って酔わないんだがなぁ...それだけ心配させちゃったのかな)

 

『私達皆、椿さんの様子がおかしいこと位分かってたんですからね!!』

 

(俺も、皆のことちゃんと見ないとな...)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

夕焼けに照らされながら、椿さんが曲がり角を曲がっていく。ちゃんと見送ってから、胸元で振っていた手を止めた。

 

「よかった...椿さん......ごめんなさい」

 

溢れてくる涙を止めることなく、私は振り向く。

 

私の影は夕日によって、長く、細く、伸びていた。

 

「私は......」

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