「すまなかった」
翌日。以前園子に紹介されたお洒落な雰囲気が漂うカフェの個室で、俺は頭を下げた。
「全くですわね。私(わたくし)でも気づいてましたのに」
「弥勒さんは微妙だったような...」
「雀さん?」
「ピエッ」
「...気をつけて」
「過ぎたことですし、昨日連絡も頂いてますから、私から何か言う必要もないと思います」
「...そんなに俺変だった?」
『はい』
「あ、そう......」
四つの返事が突然一致したのを聞いて、俺は一度小さくため息をついた。
(いつも通りで、逆になんか安心するわ...)
「んで、それだけおかしいと思いながらこのメンバーを推薦したってのは...対赤嶺のメンバーは勇者部の総意で決まってるって解釈でいいのか?」
「はい。あそこで話す前に決めていました。銃剣で支援できる私達が一番やりやすいだろうと」
(そりゃ、あれだけ予定調和のように思うわけだ)
「東郷とかじゃなかった理由は、最悪俺を戦闘から除外するため?」
「後はチームで攻める場合、前衛後衛はっきりさせるよりは混ぜた方が赤嶺友奈を誤魔化せるかなと」
「成る程」
「では、本当の赤嶺友奈の総評を聞かせてくださいな。先日お話されたことが嘘だとは言いませんが、全部でもないでしょう?」
「......」
言うべきか少し悩んで、俺は口を開く。どっちみち伝えなければならないことだ。
「大体の話は言った通り。ただ本当に俺は一度瞬殺されてるし、銀も優勢とは言えなかった。俺一人で相手したら長く持たないとかじゃない。大体即負けだ」
「そんなに強かったんですか?」
「目で追うのを頑張らなきゃいけないレベル」
「......ねぇ、やっぱり私このメンバーから抜けたいんだけど」
「加賀城、ダメ」
「嫌だよ!?そんな本気出されたら死んじゃうよ!?」
「そこなんだよな」
加賀城さんの言葉に反応したら、しずくが手をあげた。
「どういう意味?」
「前回のが御披露目だってなら、全員にその力を見せつけた方が恐怖心を煽りやすいだろ?なのに、実際に戦ったのは俺と銀だけ。他に直接その戦いぶりを見たやつはいない」
「確かに...」
「これからの戦闘でもそうだが、赤嶺と俺達の戦いが成立する時点で変っちゃ変なんだよ。今のあいつなら銀の相手をしながら全員の相手も出来なくもないだろうから」
赤嶺からすれば、前回が慣らし運転だとして、 例えば次の戦いの時にも俺とまともに戦うなら、その時点で手を抜いていると言わざるを得ない。
「もし次、赤嶺がわざわざ俺達の相手をするのなら、あいつ自身が俺達を皆から遠ざけるための囮でしかない。とすら感じる」
「...造反神という本命を出すから?」
「かもしれないし、新しい勇者の召喚に成功してるとかかもしれない。シーナが突然現れたりしたわけだし...」
ただ、わざわざ赤嶺にそんな行動をとらせるには、新たな勇者による奇襲という理由は弱い気もする。
「かといって造反神が本命なら、俺以外に若葉とか園子とか、もっと赤嶺が行きそうなのはいるんだよな。いっそ銀に行けばこっちの最大戦力を潰しにかかってるってのが分かるが...まぁ、あいつにはバーテックスを倒して欲しいから、俺らが赤嶺を引き付けなきゃいけない」
「相手の狙いがなんであれ、私達のやることは変わらない。ということですわね」
「そういうこと」
「お待たせいたしました」
話に一区切りついたところを見計らったかのように、店員さんが飲み物を運んでくる。しずくの前に置かれたみかんジュースを受け取り、甘口ジンジャーエールを渡した。
「というわけで、赤嶺対策班だが...実は幾つかアイデアはある」
「え、ボロ負けしたのに?」
「痛いところをつくな...まぁ上手くいくとも限らんし、赤嶺次第な所も多いから可能性は高くないが......」
「ん、話して」
「しずくの言う通りです。私達も意見します」
「良いですわね。作戦会議らしくて」
「というか作戦会議そのものだろ...じゃ、色々話してくか」
色々作戦を話した後。第一声は、
「...趣味、悪い?」
しずくのそんな言葉だった。
「ただいま...っと、そういえば今日いないんだっけ......」
芽吹達と話し込んでしまい、もう夕方。無人の家で独り言を言いかけて、動きが止まった。
玄関には見覚えのある靴と、明らかに小さい子供用の靴があったのだ。
「あいつら......」
「あ、おかえり椿。部屋借りてるよ」
「おかえりお姉ちゃん!!」
「...一応、家主がいないのに入れてる理由を聞こうか?」
「アタシの指は鍵に変えられるのだ」
「のだ~!」
「...はぁ」
「お前のお母さんと入れ違いだったんだよ」
「最初からそういう納得いく理由を頼む...で、何の用だ?」
「そんなことより、ほら」
「おっと...」
我が物顔で俺のコントローラーを投げられ、一度手から離れて拾い直す。
「早く。参加できるようにしといたから」
「......はーっ」
隣に胡座をかき、ゲームに参加する。あっという間に対戦画面がつくと、こうなることを予期してたのか、二対二の表示がされた。
「ルールはどうした?」
「三ポイント先取」
「分かった」
ゲーム音声が試合開始を告げると、俺達は忙しく手を動かした。
多分、幼なじみとしての勘に近いものを率直に話すなら。銀は俺のプレイングを見ていつも通りか判断するつもりなんだろう。口では誤魔化されるかもしれないが、もしされたとして、否定したくないから。
(なんか、全部見透かされてる気分だ...)
俺は、お前らのことで分からないことも多いのに_________
「あぁ椿」
「んー?どうした?」
「今日アタシ達泊まるからよろしく」
「...んん?」
俺が首を傾げるのと、俺の操作するキャラがぶっ飛ばされるのは同時だった。
「いやなんでだよ!?」
「この子が聞かなくてさ『一緒にいたいって』」
「寝るのー!」
「ちゃんと帰らせろ!」
「いいじゃんかー。今の椿は女の子なんだし」
「俺は男だ!というか、少なくともお前はダメ!」
「......はぁっ。全く。強情なんだから」
「俺が悪いのか?これ...」
「じゃあ勝負しよう。アタシがこれで勝ったら大人しく一緒に寝る。負けたら帰るから」
「...二言はないな?」
「ないよ」
「......絶対倒す」
状況は劣勢、とはいえ始まったばかりだ。巻き返しは十分狙える。
別に、昔みたいに銀と寝るのが嫌な訳じゃない。とはいえもうそんな小さくはないわけで。
(千景に鍛えられたプレイング、見せてやる)
小さく息を吸って、最大まで集中力を高めた。
(で、意気込んで?負けるとか?ダサすぎでは......)
一応結果を言うと、辛勝ギリギリからの逆転負けだった。銀を追い詰めた場面でシーナに邪魔され、押しきられてしまったのだ。
『でも約束は約束なので』
いい笑顔で言っていた銀も、もう寝ている。飯も風呂も済ませ、シングルベッドに三人が川の字で寝ていた。
『...家族みたいだな』
『鉄男と一緒に寝た頃と変わらないだろ』
何がそんなに嬉しいのか分からないが、俺がそれを言うと頬を膨らましていた。
(というか、よく寝れるよ...)
部屋は月明かりくらいしか入らず、豆電球も消していて真っ暗。とはいえ俺は寝れる気が全くしない。
『温かいよ...』
(......)
シーナも利用して俺の家にけしかけてきたようにしか思えないが、その成果はあったのか。俺は、彼女の思ういつも通りの俺だっただろうか。
(......)
俺は、静かに部屋を出た。音を立てないよう気をつけながら、玄関を開けて外まで歩む。
「...はぁ」
どことなくつまっていた息を吐き出して、夜の空気を吸い込んだ。見上げればどこまでも続く空と、細々と町を照らす月や星がある。
(...そういや、ここが神樹の内包する世界なら)
宇宙という遥か遠い場所にある月や星は、神がそれっぽく見えるように再現しているだけなのか、はたまた大昔、西暦の時代でやったとされるように、足で降り立つことは出来るのか。
そういう面では技術が退化しているため、確認する方法なんてない。
(別に、どっちでもいいけどさ)
手を掲げ、月を隠す。なんとなく考えたことは、なんとなく頭から消えた。
「んぐっ」
「だーれだっ?」
突然自分の手が見えなくなって、後ろから声もする。答えなんて分かりきっていた。俺が今までで一番聞いてきた声なんだから。
「...なにしてんだよ」
「なんか部屋出るからさ。寝れないの?」
「......そうだな。寝れない」
主にお前のせいで。とは言い難くて、喋ろうとした口の開きが迷子になる。銀は少し迷ったような声を出してから、すっと寄り添ってきた。後ろから回されてる手はまだ俺の目を隠して離れない。
「おい」
「椿はさ。どう思う?」
「は?」
「今度赤嶺と戦って、それで終わると思う?」
「...少なくとも、造反神が黙っちゃいないだろ」
「アタシもそう思う。神樹様の一部である神。そんな敵が相手。天の神よりは怖くないかもしれないけど...」
揺らいだ声は、それでもはっきりと。
「勝てるかな?アタシ達。この世界、守ってあげられるかな?」
「......」
元々、造反神を沈め、この世界の神樹の力を取り戻すのが目的。
その問いに、俺の言葉は迷わない。
「正直、まだ分からないことだってある。造反神のこととか、赤嶺の目的とか。でも、はっきり言えるのは......」
俺は銀の手を掴んだ。過去には、掴むことすら出来なかったその手を。
「一つ。お前は勝てないからって諦める奴じゃないこと」
目元からどけ、振り返る。
「二つ。俺は絶対お前の味方でいること」
そして、その目をしっかり見た。
「最後に、この世界には、俺だけじゃない。沢山の仲間がいること。こんだけ揃ってて、まだ戦う前から何か言うか?」
「椿...かっこつけすぎ」
「うるさい。大体この前ボロ負けして精神までやらかしてた俺の言うことだしな」
「今度はかっこ悪すぎ」
「うるさい」
「んで、椿は何悩んでたの?月に手をかざしちゃったりしてさ。遅めの中二病?」
「男子はいつだって心にそういうのを宿して...じゃねぇんだ。別に俺は痛い奴じゃないんだが」
「またまた~」
「またまたじゃないぞおい__________」
俺達の会話は、どこまでも、くだらなくても進み。
「...絶対、守るから」
「っ...ふふっ、言われたらくすぐったいな......うん。じゃあ、守られるね。アタシも守るから」
銀の微笑みを見て、こんな日常を得るために戦うんだと、密かに思った。
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「...これで、よし。色々あったけど後は力を完全に戻せればオーケー。これだけのトラブルがあった分遅れてるけど、なんとか取り返せるかな」
後は、誰にもバレないようにすれば良いだけ。逆に対処されにくいかもしれないから、なるべく勘づかれるのは避けたい。敵を騙すにはまず味方から。
その分、話すのは遅くなってしまうけど。
窓の外を見て、私は一人呟いた。
「あと少し、待ってて」