古雪椿は勇者である   作:メレク

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花結いの章 8話

「明日。か」

 

赤嶺に言われたのが正しければ、最後の戦いとなる次の戦闘。その日時が神託として受け取った巫女によって伝えられた。

 

『はい。明日早朝。高知の未解放地域です』

「樹海化してから移動するのか?結構距離あるが。移動手段のカガミブネは基本帰る用のだし...」

『既に大赦がバスを手配しました。今夜現地入りを予定してします』

「早いことで...分かった。夕方までに荷物纏めとく」

『お願いしますね』

 

通話を切り、バッグの中にスマホをしまった。以前使えるようになったカガミブネは、特定の場所を狙っては行けないため、こういう予期しない場所に行くには弱い。

 

「ひなたから、夕方までに一泊泊まる用意をしといてくれだってさ」

「えー!?お泊まり!?合宿!?」

「目的は樹海での戦闘待機だからな...」

「なんだ、残念...でも、ということは?」

「あぁ。明日戦いにある」

「おぉ!じゃあ今日中にもっと練習しないとね!」

「......体に響かない程度に頼むぞ。ユウ」

 

目の前で構えを取る彼女は、そんなことあまり気にしていなさそうだった。

 

 

 

 

 

(装備は万全、春信さんからのもセット完了)

 

バスに揺られながら、窓の外を眺める。内陸側を走っているせいか、見渡す限りが田んぼだ。

 

(後は現地行って遊ぶくらいか...)

 

バスに乗る前、友奈をはじめ何人かがはしゃいでたが、確かにここまできたら後はリフレッシュするくらいしかないだろう。俺も風呂に入ったらストレッチをしなければ。

 

自分の変わった体を知る上で、普段の訓練にストレッチを加えることで、触ることで理解が増えた。未だに少し抵抗感というか、やっていいのかという思いはあるが。

 

「先輩」

 

(で、朝飯軽く取っといて、戦闘開始と...赤嶺がどう出るか。造反神は動くのか。その他大量のバーテックスの対処をどうするか)

 

杏や樹、東郷といったメンバーで大雑把な陣形、作戦の分け方はした。後は臨機応変に。といったところだろう。

 

まぁ、俺のやることは変わらない。

 

「先輩、椿先輩。寝ちゃってます?」

 

(赤嶺を行動不能まで持っていく。こっちも出方次第で考えはしたが...)

 

事前に打ち合わせも済ませたし、必要な道具は全て揃えた。後は作戦勝ち出来ることと、イレギュラーが起きないことを願うだけ。

 

「そう上手くはいかないんだろうなぁ」

「起きてるじゃないですか!」

「うぉっ!?な、何だ、友奈っ!」

 

気がついたら隣に座ってた友奈が目と鼻の先にいて、思わず下がる。とはいえバスの窓側席のため、すぐに頭を窓にぶつけた。

 

「っつつ...」

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫大丈夫......それで、どうした?」

「椿先輩は、今日お風呂どうするんですか?」

「え?入るけど」

「いえ、その...あの」

「?......あー」

 

友奈に言われ、その視線を追って気づく。今の俺は男であって男でないのだ。

 

「この体で男子風呂ってわけにはいかないよな...」

 

とはいえ女子風呂に入るのも不味すぎる。

 

「でも今日の旅館予約したの大赦だろ?俺の事情も知ってるし、その辺上手く調整してるだろ」

「いえ、ヒナちゃんがそんなこと言われてないって...」

「大赦ぁ!?」

 

立ち上がりかけ、もう一度座り直す。その上でかなり勢いよく後ろを振り向いた。

 

「というかひなた!分かってただろ!一言教えとけば」

「さきほど気づいたものですから♪ですが仕方ないですね。折角なので一緒にお風呂へ」

「入らんぞ!?」

 

席の隙間から覗ける彼女の顔は、謝る気がさらさらない。

 

(こいつ...)

 

「す、すみません!」

「申し訳ありません椿さん。私が確認しておけば...」

「......あぁ、大丈夫。なんとかするさ...」

 

水都と亜耶ちゃんに言われれば、何も言い返せる筈もなく。俺は黙るしかなかった。

 

「一緒に入りませんか?」

「入りません!!」

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、風呂問題は解決した。俺が一人で泊まる部屋に備え付けのシャワーがあったのだ。

 

(大赦様。怒ってすみませんでした)

 

心の中で謝罪して、シャワーの出を止める。

 

「大浴場は温泉なのに入れないのは残念だが...この体じゃなければなぁ」

 

タオルで体を拭いて、上と下の下着をつける。さらに服を着てから髪を乾かし、髪留めでポニーテールに。

 

(一週間もしてれば、慣れてくるか...)

 

人間きついと思ったことも、習慣としなければならないなら慣れるのだ。あまり慣れたくはなかったが。

 

鏡の前で身だしなみを整えてから、俺は洗面所を跡にした。

 

「さてと...朝飯は買い込んだし、何をするか......ん、電話?」

 

春信さんからの電話が鳴り、スマホの画面をスライド。

 

「はい、もしもし」

『もしもし。お姉ちゃん?』

「あぁ、シーナか。どうした?」

 

シーナは今、安芸さんの元で大赦にいる。気になることは多いが、あの子は幼く戦えるわけじゃない。

 

(赤嶺が何か知ってると良いんだが...捕まえて全部吐かせれば良いし)

 

樹海の中動けるかもしれないことを考慮して、明日の朝は外に出にくい部屋で寝かせる手筈になってるはずだ。

 

『寂しかったので、電話しました!』

「まだ別れてから数時間しか経ってないぞー」

『ご、ごめんなさい...』

「いや、いいっていいって」

『......じゃあ、後でもう一回お電話しても良い?ご飯だって言うから...』

「あー...今日は早寝するつもりだから、出られなかったらごめんな。なるべく起きとくから」

『じゃ、じゃあ大丈夫!!また今度で』

 

小さい子なのに、気を使わせてしまってることに申し訳なくなる。

 

『じゃあお姉ちゃん。頑張ってね!おやすみなさい!!』

「あ、おう。おやすみ...って」

 

言い切る前に通話が切れた。

 

(本当に声が聞きたかっただけなんだな...ん?)

 

それは、些細な違和感。食べ物が歯と歯の隙間に挟まって取りにくく感じるような。

 

(俺、泊まりに行くとしか言ってないよな?)

 

『頑張ってね』

 

だとしたら、どうして__________

 

『椿さん、います?』

「ん?いるぞー。誰だ?」

『私です私』

「大昔流行った詐欺じゃないんだから...」

 

浮かんだ疑問を消し、そうぼやきつつも扉を開ける。いたのは雪花だった。

 

「どうした?」

「いえね。ちょっと話がありまして...」

「...まぁ入れよ」

 

雪花はすぐ入り、ソファーにもたれる。

 

「何か飲み物いる?」

「そんなに買い込んでるんですか?」

「持ってきてたみかんジュースに、そこのコンビニで補充したみかんジュース。この旅館限定のみかんジュースと、あとお茶」

「実質二択じゃないですか。お茶でお願いします」

「了解」

 

飲みかけだったみかんジュースを片手に、備え付けられてたコップに注いだお茶を持っていく。

 

なんとなく、長い話になりそうだから。

 

「で、何かあるのか?」

「えーと...ま、取り繕う必要もないですし、単刀直入に聞きたいんですけど」

「うん」

「椿さんは、このまま造反神を倒して、終わりでいいですか?」

「...どういう意味だ?」

「このまま皆と、この世界とお別れしてもいいですかってことですよ」

 

雪花が一口お茶を飲む。戻されたコップは小さな音を立てて置かれる。

 

「......この世界で会えた勇者部の皆が、私は好きです。元の世界よりずっと温かいこの場所が。皆がいるこの場所が」

「雪花...」

「でも、造反神を倒した方が良いのも分かってるし、この世界にずっといられないのもなんとなく分かります。でも、ただ記憶を失って元の場所に戻るなんて、『今の私はしたくない』」

 

数年近くで過ごしてきて、見たこともない顔をする彼女。どうやって表現するのが適しているのか分からないその顔は、どんどん語っていく。

 

「だから、せめて私は、できればもっと、少なくとも記憶を残したり出来る手段が見つかったりするまでは、この世界に残りたい...造反神を、倒したくないです」

「......」

「勿論、赤嶺は捕まえますよ。良い情報を吐いてくれそうですしね」

「......」

「ただ、もし次の戦いで造反神が出てくれば...」

 

彼女の声を、思いを聞いて、俺はただ黙るしかない。

 

「この話、皆とはしました。大体、赤嶺から情報を得てからってことで纏まったんですけど...その時、椿さんいなかったので」

「...わざわざ二人きりになるタイミングにしたのは?バスで話せただろ」

「良くも悪くも、椿さんの発言は影響力大ですからね。当然、私と反対の意見だってならなるべく取り込みたいですし」

「...そんな大した発言力はねぇよ」

 

考えを一通り纏めるため、みかんジュースを一度飲んだ。糖分が舌を刺激して、その分思考回路を早めていく。

 

そして、下を向いてペットボトルを見ながら、口にした。

 

「......俺の答えは、まだ決められない」

「...ちょっと意外です。どっちにしろ答えを出してると思ってました」

「客観的に考えるなら答えはすぐ帰る、だ。いや、すぐ帰らされる。神が必要以上のことをさせるはずがない」

 

人間の感情を理解する神など少ない上に、そこに配慮してくる奴なんてほとんどいない。造反神を倒したご褒美として用意してる確信なんて俺に分かる筈もない以上、役目が終われば即終了の可能性が高い。

 

「でも、個人的な話なら...まだ、俺は、ちゃんと答えを出せていない」

 

別れが言えないのは間違いなく嫌だ。だが、それ以上のことは__________

 

(皆と長くいれれば嬉しい。けど、世界はそんなことないだろうし、俺は)

 

一度、曲がりにも二つの時代を天秤にかけ、元の時代に戻ることを決め実行した者が、都合が良いからと別の世界にいすわるのは、違う気もする。

 

「......分かりました。じゃあ仕方ないですね」

 

雪花は案外あっさり立ち上がった。

 

「じゃあ、おやすみなさい。明日頑張りましょうね!」

「え、あ、あぁ。おやすみ...」

 

すぐ開き、すぐ閉まる扉。

 

「...あれ?」

 

俺からは、拍子抜けしたような声が漏れた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅー......」

 

閉めた扉にもたれて、細く長い息を吐く。今この扉の向こうにいた先輩の言葉は、本心なのだろう。嘘をつく理由もないし。

 

(何が起きるかなんて、分からないもんねぇ)

 

直接聞いた訳じゃないけど、結城っち達神世紀四国勇者、芽吹達防人、若葉達西暦四国勇者は、私より知識が多い気がする。漠然と言うなら神関係について。

 

その中でも一番こうしたことに考えが深いのが、椿さんだ。

 

(それが経験談なのか、はたまた別のなのかは分からないとして...)

 

その人が、決断をせずにいる。

 

悩んだら相談。勇者部の合言葉みたいな六箇条の一つ。ただ、今回はまだ、その時が来ていない。もしくは、相談して変えられる意見じゃないくらい、皆の意志が硬い。

 

「...どうなんだろうなぁ」

 

思わず呟いたそれに答えてくれる人は、いなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「入ってもいいか?」

「古雪先輩、どうぞ。皆着替えも終わってますから」

 

一部屋辺り九人入れる部屋だが、今の勇者部を泊まらせるには圧倒的に足りない。俺の個室含めて四部屋のメンバーは、一緒に朝食を取るため一部屋に集まった。ベッドと和室に布団を敷くタイプの両方あるようで、辛うじてスペースのある畳に座る。

 

「やっぱり料理くらい、作ればよかったかもしれません」

「これからがっつり戦うってのに、わざわざ別のことに集中しなくてもいいだろ」

「そうそう。たまには朝からコンビニご飯もねー」

「銀。ちゃんと栄養は考えた?」

「...考えてません」

「私の野菜を少しあげるわ」

「ありがとうございます。須美様...」

 

早朝としか時間が分かっておらず、朝から旅館の人を起こして朝御飯を作らせるわけにもいかなかったため、皆で合掌した後、事前に買ったコンビニおにぎりを口に運んでいく。

 

「でも、いつもと違う感じがして、これはこれで緊張します...」

「杏は昨日遅くまで本読んでたからだろー?」

「そういう球子はどこか遠足気分だな...気を引き締めろ」

「乃木さん、リラックスも大事よ」

「うっ...」

「うふふ...」

「あの、椿さん」

 

皆が思い思いの食事をする中で、隣にいた芽吹が声をかけてくる。

 

「どうした?」

「戦術は変わらず?」

「あぁ。昨日考え直したけど、あれ以上は詰められなかった」

「分かりました...頑張りましょうね」

「おう。赤嶺を叩きのめしてやろうぜ」

「物騒...」

「いいじゃありませんのしずくさん。意気込みは大切ですわ」

「私の出番無くすくらい頑張ってくださいね!!古雪さん!!」

「それは無理だな」

「そんなぁ!?」

 

加賀城さんの雀のような声に、皆が微笑む。

 

「椿先輩昨日あんまり寝てないんですか?マッサージします?」

「私もするよ?疲れてたら大変だもん」

「それは是非遠慮させてください。また今度な?」

「じゃあつっきー。ちょっとこの台本を」

「お前は何やっとるんじゃ!!」

 

それから他愛ない談笑をして、しばらく。

 

『!』

 

七時ぴったりに、警報がなる。

 

「きたか」

「やっとか~」

「サプリも決めたし完璧よ!」

「期待してるわよ?完成型勇者様?」

「風、あんたそれバカにしてるでしょ!」

「はいはい纏まらないから!樹部長!号令!」

「雪花さん、ありがとうございます...皆さん!気合い入れていきましょう!」

『はい!!』

 

一人、どこか恐怖の混じった「はいぃ!」というのが聞こえた気がしたが、置いといて。スマホをタップして戦衣に着替えた俺は、彼女と目が合う。

 

「椿さん、頑張ってくださいね」

「ありがと。適当に寛いで待っててくれよな」

「はい♪」

 

そうやって笑った彼女の顔は、樹海へ変わる際に舞い散る華々に遮られ、消えた。

 

 

 

 

 

 

「よう赤嶺。前回はやられたが、今回は覚悟しろよ」

「随分と強気だね」

「あぁ。そりゃな...前回は醜態を晒したが、リベンジマッチといこうぜ」

 

 

 

 

 

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