古雪椿は勇者である   作:メレク

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花結いの章 10話

初撃を受けきった俺は、続く連撃をなんとか凌ぐ。目はなんとか追えても、体を動かすのが間に合わない。防戦だけならなんとか、といったぐらいだ。

 

「相変わらず速いな!?」

「そう言う割には凌ぐね!」

「こんな所で詰まる訳にはいかないんだよ!!!」

 

口は条件反射で会話しつつ、頭は別のことに回していた。

 

(斧は、大丈夫そうだな)

 

銀の双斧とそっくりなこれは、大赦に作って貰ったレイルクスの武器。特徴とも言える翼は赤嶺が空を飛ばない以上邪魔でしかないため展開せず、代わりにそれ以外、背中のウェポントラックと、前腕部や膝につけている各部の装甲だけつけている。

 

今回は各部装甲に余計な重さを加え、赤嶺の攻撃で吹っ飛ばされないようにもしているが_____彼女の拳を止めるための斧が即座に破壊されるということがなくて、ほっとした。

 

(替えはないし、大事に...出来る状況でもねぇか!!)

 

戦況を考える思考回路と、赤嶺の攻撃を見極める思考回路を混ざらないようにさせながら、彼女の顔を見た。

 

(......)

 

「どうしたの?守ってるだけ?」

「バカやろう。今戦ってるのは俺だけじゃないだろ!」

 

決して笑えない状況でも、口だけは笑みを作った時。それを見計らったかのような銃声が鳴り響いた。

 

「っ」

 

俺と赤嶺の間を通る弾丸。真上から飛んできたそれは、赤嶺の拳を引かせ、体勢をほんの少しだけ崩させた。それを利用して今日初めて斧を大振りする。

 

一度だけの攻勢は、それでも赤嶺にとってのチャンスでしかなかったようだ。

 

「はぁっ!!」

「くっ!」

 

ちゃんと見ているが、彼女の動きが等速だとすれば、自分の動きがコマ送りのようにしか見えなくなる速さで繰り出してきた回し蹴りを、咄嗟に後ろへ転がって回避する。

 

当然、起き上がる前に拳が__________

 

「なんてな」

「チッ!」

「助かったわ」

「やっと、目が慣れてきたから」

「事前情報以上ですわね...反則ですわよ」

「分かる」

「こっち来るなこっち来るなこっち来るな......」

「...ちょっと厄介だね」

 

追撃を阻止したのは、弥勒としずくの銃剣と、加賀城さんの俺が普段使ってる銃による攻撃。リーダーである芽吹はレイルクスで空を飛び、上空から二つの銃剣を構えている。

 

メインの盾は俺、他のメンバーが三次元方向から銃を撃ち、赤嶺の動きを制限する。俺達の主な作戦は、ここまで順調と言えるだろう。

 

バリアに守られている以上銃弾の威力は大したことないが、当たりどころが悪ければ衝撃で気絶までもっていける。赤嶺もそれが分かってるからこそ、強引に無視したりは出来ない。

 

(そのうち慣れて、ガードとかはするだろうが...それより前に間に合えば)

 

祈るような思いと共に、俺は斧を構え直した。

 

「こっちの利点、最大限生かさせて貰うぞ」

 

 

 

 

 

それから五分程度。防戦ではあるものの、なんとか赤嶺の攻撃を抑えている。

 

時間の感覚が持てるくらいには平気だが、樹海の中は暑くもなく寒くもない環境にも関わらず、汗が体から吹き出てくるくらい激しい動きをしていた。

 

赤嶺の猛攻にバランスを崩した所を、三人のうち誰かがフォローする。赤嶺の順応も素早く、何度かは銃弾を弾いたり避けてくるが、そこは芽吹の二発目が絶妙な位置へ飛んでくる。時には俺に当てて攻撃の当たる軸をずらしたり。

 

「来るな来るな来るな!」

 

加賀城さんは出鱈目な連射をして、赤嶺の予想を絞らせないようにしてくれる。

 

赤嶺が俺以外の誰かに向かえば、空にいた芽吹、シズクが突っ込むし、俺は全員との間に入り込んでいく。

 

「お前の相手は俺だ!!赤嶺!!」

「全員で来ててそれ言うの?」

「そうだよ!!俺を見ろ!!!」

 

樹海を砕かん勢いで叩きつけた斧は、すらりと避けられ樹海に刺さった。力任せに横へ払い、軽く抉った物を纏めて吹き飛ばす。

 

(やっぱ、手を抜かれてるな。強引な攻めだっていくらでも出来るだろうに)

 

それは、前回やられたからこそ。彼女がここまで慎重になる必要は、まるで遊ぶように戦う必要は無い筈だと分かるのだ。

 

そして、理由もなくそんなことをしてくる奴じゃない。

 

(全く!!こっちは今全力だってのにさ!!)

 

「砕けろっ!!!」

「シッ!」

 

斧と拳が再び重なり、激しい音を散らす。

 

「楽しいけど、そろそろ終わりにしようか」

「上から言ってんじゃねぇ!!」

 

素早く腹へ飛んでくる膝を上腕部の装甲で防ぎきるも、予測されていたのか思いっきり払われた。左手に握られた斧が宙を舞う。

 

「くっ!」

「これなら読みきれる」

 

フォローに入ってきた左右からの銃弾は異次元の動きで避けきり、真上からの二発の銃弾は腕で防がれる。

 

「これでまず一人」

 

そのまま、右腕が構えを取った。バックステップは間に合わない。思考速度を脳がスパークするまで上げるも、止めるために動かした右腕の斧も間に合わない。

 

「もらったよ」

 

そうして俺は、すぐに立ち上がれないくらいの衝撃をぶつけられる__________

 

 

 

 

 

筈だった。

 

「?」

「っ!!吹き飛べっ!!!」

 

『間に合わない筈の斧を滑り込ませた』俺は、一瞬だけ困惑した表情を浮かべる赤嶺に、今日初めてになる綺麗なカウンターを決めた。

 

「はっ、はっ、はぁ...!どうした赤嶺!!慣れない力に疲れたか!?」

「......うるさいよ」

 

手を握り、開き、何かを確めていそうな彼女を煽れば、彼女が弾丸のように飛んでくる。

 

『さっきに比べれば明らかに目で追えるようになった速度』で。

 

「「!」」

 

互いの息を飲む音が聞こえる中で、二発の銃弾が通り、減速して『普通の動き』でよける彼女。間髪入れず上から放たれた弾を防いでる隙を見逃さず、俺は両手で握った斧をぶつけた。

 

「っ、何が...?」

「よく分からんが、倒させて貰うぞ!!」

 

彼女に起きた突然の不調の正体を知っている俺は、とぼけたふりをしながら心の中で感謝した。

 

(絶対やられると思った!!加賀城さんマジありがとうっ!!)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(バレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんように......!!!)

 

必死に祈りながら、古雪さんから借りた銃を撃ちまくる。銃剣の練習もしたことはあるけど、他の三人みたいに狙って撃てるわけないから古雪さんに当てないことだけ意識してひたすら弾を飛ばす。

 

『なんとか間に合わせたよ』

『ホントに間に合ったんですね...貴方やっぱりおかしいですよ』

『まぁまぁ...楠さん以外は初めましてになるかな?すれ違ったことはあるかもしれないけど』

 

私がこんな思いをしてるのは、数日前あの人にあったからだった。三好春信さんと紹介された、大赦の人。最初は『イケメン、高役職、守ってもらえそう』なんて思ってたけど、あの頃の私が目の前にいたら今すぐ逃げろと殴りたい。痛いから殴らないかもしれないけど。

 

『それで、私達を連れてきた理由は...?』

『しずくさんの言う通りですわ』

『色々装備が揃ったって言われたからな...最強兵器も含めてな』

『最強兵器?』

『あぁ。赤嶺から勝ちを取るための、な』

『!!』

 

その古雪さんの自信満々な言い方で、私達は固まった。今までこの人は強くなった赤嶺友奈相手に『勝つ』というのは言ってこなかったから。

 

『そんな凄いのが...?』

『まぁ普通に凄いと思うぞ。未だに凄すぎて、いまいち分かってないから』

『持ち上げるのもそこまでにして...じゃあ僕から説明させて貰おうかな』

 

三好さんは、まるで今日の天気を話し出すように軽い口調で話し出す。

 

『今回僕は、君達防人の使う戦衣と勇者が使う勇者服について調べた。勇者服については神樹様が大元を作っているからブラックボックスになってる部分が大半なんだけど、そこと、大赦が主体となって作った戦衣服には差がある』

『差...ですの?』

『勇者と防人の力の差を発生させている部分、と考えてくれればいいよ。詳しいことは僕も説明しにくいし、完璧には理解できなかった』

『それが、何に...』

 

しずくの疑問に重ねるように、この人はバッグから何か取り出す。小さい球体は真っ赤で、メカメカしい。

 

『これは、その勇者服と戦衣の差分へ侵入し、近くにいる勇者の力だけを阻害する物だ』

『......はい?』

『椿君も戦衣だし、データ上では君達に影響はない。分かりやすく言うなら...勇者の力だけを弱くする機械だね。あくまで多少、だろうけど』

 

 

 

 

 

赤嶺友奈と戦うのは私達防人と古雪さんだけ。つまり遠くに離れてからこれを使えば、皆にはこの効果はなく、私達は有利になる。

 

これで私の出番なんてないくらい楽に_____なんて思ってたのに、その後の言葉で死を見ることになったのだ。

 

『ただこれ、まだチューニングを何もしてなくて...ぶっつけ本番で使って貰うには、その場で赤嶺友奈の解析をして貰う必要があるんだ。ただ持ってるだけで時間が経てば発動するけど...逆に言えば、最初からこれは使えない』

『だから加賀城さん。俺達が赤嶺と戦ってる間、これ持っててくれよな』

『嫌です』

『つっても、俺は無理だし、芽吹、しずく、弥勒は銃剣構えてるし。何より加賀城さんは普段から持ってる盾にはっつけて隠せるじゃん。前に出ないのもいつものことだから違和感ないし』

 

そこまで正論を言われてしまえば、私は何も言えなかった。これ以上駄々をこねたらメブに睨まれる。とはいえ、使わない選択肢なんて流石にないのは私にも分かる。

 

『まぁ、バレたら真っ先に狙われるだろうしな。頑張れ』

 

 

 

 

 

(バレたくないよぉぉぉ!!!)

 

あの赤嶺友奈から逃げられる気がしない。寧ろ死ぬ。絶対死ぬ。だから私は必死にやるしかない。

 

「はっ!!」

「食らえよっ!!」

 

私にはそんな違って見えないけど、これの効果は一応あるらしい。古雪さんが煽るようなこと言ってたし、バイザーをつけているメブやしずく、弥勒さんの射撃もより当たるようになった。何より赤嶺友奈が舌打ちしてる。いい勝負になってきてると言っても、多分大丈夫なんだろう。

 

(後はもう祈るだけ。フレッフレッ皆!頑張れ頑張れ皆!!)

 

事前に言われてたことが実行されれば、役目はまだあるけど_________思い返して気分が落ちた瞬間、聞き慣れた音がした。

 

「?」

 

スマホにかかってきたのは電話。相手は犬吠埼部長。

 

「もしもし」

『雀さんっ!!椿さんは!?』

「へ?」

『椿さんは、そっちにいますよね!?』

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

限界ギリギリの死闘。大きな斧を振り続けているせいか、腕の感覚が少しなくなってきていた。

 

(でも、まだ戦える)

 

腕より酷使している脳が、ずきずきと痛んだ。だがそれでも、彼女の一挙動を見逃さないよう、常に目に焼きつける。攻撃を受け止め防ぐためだけじゃなく、この後俺達がどうすればいいのかを見つけるため。

 

彼女の動きは、ある時から明らかに悪くなった________いや、さっきが良すぎたというだけだろう。今だって体を動かす速度はあちらの方が上だ。

 

それでも、戦いやすくはなっている。

 

(本当、ヤバすぎるだろあの人...)

 

勇者服と戦衣の差を見つけ、そこを利用して勇者の力を阻害する機械を作った。春信さんに平然と言われた時は、俺自身開いた口が塞がらなかった。

 

チート(神花解放)にはチート(春信さん)で迎え撃とうと最初に思ったのは確かに俺だが。

 

まぁそのお陰で、やっと五分に近い戦いが出来ている。とはいえ五人相手に戦い抜いている赤嶺は、さっきより弱くなったとはいえまだまだ化け物だ。

 

(余裕は、なくなったみたいだが...)

 

「お前も、おかしいだろっ...!!」

 

素早いジャブを紙一重で避け、強引に斧を振るう。宙を切りはしたが追撃時間を作ることには成功したようで、銃弾が赤嶺の行動を制限した。大まかな位置が分かって速度も速いだけなら、斧で防ぐことくらいはする。そんな時だった。

 

「ふ、古雪さん!!」

「ん?何だよ!」

 

今作戦の要とも言える加賀城さんが呼んできて、俺は赤嶺を睨んだまま返事をする。

 

「なんかよく分からないんですけど、あっち、大変なことになってるみたいです!!ピンチだって!!」

「!!!」

 

伝達された情報が悪いのか、漠然とした報告。嫌な予感がしたが、それはすぐ確信に変わった。

 

「......」

 

赤嶺がごく僅かに口角を上げたのを、俺は見逃さない。

 

(仕掛けられたっ!!)

 

加賀城さんの電話の相手が誰であれ、単に物量で不味い状況ならそう言える筈だ。要領を得ない言い方は、その判別が出来ない異常事態が起きている証拠。赤嶺が笑ってるから、これはあちらからしたら計画的な異常。

 

「何をした、赤嶺」

「さぁ。分からないな...でも、そろそろこっちも終わりにしようか。君の顔も、すぐに向いたいって書いてあるし」

「そうかよっ!!」

 

何度目か分からない、斧と拳の激突。ナックルガードとでも言うべき赤嶺の武器からも、俺の斧からも、つんざくような音と火花が散る。

 

(顔つき、変わったな)

 

それは、『予想していた』。ここからが勝負だ。

 

 

 

 

 

『でも、倒せますの?』

 

それは、春信さんが作った装置の話をした後。大赦の自販機で飲み物を買った時、弥勒が呟いた言葉だ。

 

『弥勒さん?』

『先程の物は確かに凄いですわ。でも、それだけで倒せる自信はおありで?』

『ダメだろうな』

『えーっ!?倒せないんですか!?』

『あれはあくまで動きの阻害。無力化だったら即勝ちだろうが...春信さんが少ししか効果がないと言った以上、間違いない』

『では、別で倒すための手段があった方が良いですよね?』

『あぁ。手はまだある。というか最初はこの案しか頭になかったし』

『聞かせて』

『勿論』

 

さっき受け取った物を取り出しながら、俺は軽い説明から入る。

 

『阻害する度合いにもよるが、俺達があいつに大きな一撃を与えるには、あいつの意識を防御に回させちゃダメだ。少しでも反撃の警戒をされてたら、恐らく致命傷にはならない。しかも同じ手は喰わないだろう』

『うわーきっつ...』

『...それで、その打開策がそれだと?』

『あっちの考える作戦が上手くいくほど余裕は生まれる。それで攻撃に夢中になってくれればくれるほど、俺に釘付けになればなるほど、これが上手くいく。後は絶対反撃出来ないよう体勢を崩して、ダメージを与える...今考えてるのは__________』

 

軽い補足も入れて、三分ほどぶっ通しで喋り続ける。

 

『_______まぁ、上手くいけばこんなかなと』

『...趣味、悪い?』

『酷いなおい』

『...古雪さんのそういう戦法ってどこで学んでくるんですか?』

『杏から本借りたり、アクションゲーとか戦術ゲーしたり』

『な、成る程...』

『そういうの、悪役が考えてそうなイメージです』

『俺は皆を守れるなら、勇者なんて肩書きいらないからな』

『...その発言はかっこいいのに』

『ありがと』

 

 

 

 

 

(だから、勝負といこう)

 

後手に回らざるを得なかったとはいえ、ここからは俺の努力次第で巻き返せる。限界を越えさせる。自分には出来るんだと思い込ませる。

 

(もっと、今以上に全力でっ!!)

 

「ハァァァッ!!!」

 

右上から全力で振り下ろす斧は赤嶺に僅かに逸らされ、地面に突き刺さる。すぐ抜けないのが明白だから手放し、短刀を呼び出した。

 

「とった...!」

 

(読め、読め...)

 

しゃがめば俺の真後ろにいた弥勒の銃弾が当たり、赤嶺の動きを止める。斧を振り上げたが、僅かに距離を離され空を切る。

 

(読みきれ。こいつの動きを...っ!!)

 

「いい加減、しつこいよっ!!」

「褒め言葉だっ!!」

 

赤嶺だって一つ年下の中学生。これまでのことを全て無かったことに出来るメンタルなんてない。声を荒げる彼女の拳に力が入り、もう一本の斧を払われた。

 

「「っ!!」」

 

赤嶺の笑みを含めた顔を見てしまう。やられたと思った時には、腹に拳がめり込んでいた。最低限体を守るバリアが、軋んだ音を上げる。

 

(勇者は......)

 

力が弱まった直後から、一瞬で出せる速度を隠されていた。数が減れば赤嶺の有利は、勝ちは、ほぼ確定する。

 

だからここは、なんとしてでも耐えなければならない。

 

瞑ってしまった目を開ける。

 

(勇者は!!)

 

「根性っ!!!」

「そんな気合いだけで!!」

 

反対の握り拳を作る間に、俺の左手は腰の後ろにある物を掴んだ。同時に右手の短刀を『自ら』手放す。

 

俺の顔を真っ直ぐ見ている赤嶺は、その目を見開き、顔面を殴った。まるで自分の勝利の瞬間を焼きつけているかのように。

 

だから俺は_________吹き飛ばされながらも、左手のそれを放った。

 

 

 

 

 

瞬間、辺りは白くなる。蛍光灯以上の光を間近で見てしまったかのような光。

 

「!?」

 

当然、それを予期していた俺は目を瞑っていてさしたる効果はなく、予期していなかった彼女はもろにその閃光を見てしまった。彼女の苦悶の声が耳にこびりつく。

 

春信さんに用意して貰った閃光弾は、歴史に残っていた文献を参考に作っているらしく、個人差はあれど最高で約40秒間目が機能しなくなる。

 

少しでも防御を意識していたり離れていれば、俺の手の動きが読まれて目を瞑られてしまう。タイミングとしてはかなり良い。

 

(ここまでくれば、あとは...!)

 

「かはっ」

 

未だ目を瞑りながら、俺は樹海に叩きつけられた。それでもまだ閃光は閉じた瞳越しに感じる。そんな状況下で、一つ目の音がした。次いで二つ。どちらも金属同士がぶつかり合うような________

 

俺は戦慄した。

 

(この状況で、対応してんのかよっ!?)

 

今のは恐らく、作戦通り弥勒としずくが赤嶺に銃剣を当てようとし、ナックルガードで弾かれた音だろう。

 

今回三人がつけていたバイザーは元々防人用装備だが、効果は目に入る光を抑える_____言い換えれば強力なサングラスの機能に変更している。赤嶺には狙撃強化用のセンサーと思わせるためにも、そして役割としても噛み合っていたため、今まで射撃で支援をメインにしてもらった。

 

そんな二人の、唐突の近接攻撃。それを赤嶺は恐らく目を使わずに捌いている。文字通りの化け物だ。

 

しかし、バイザーをつけていたのは三人。そう、空からもう一人いる。二人は一人のために彼女の体勢を崩すのが目的で__________

 

(って、思うよなぁ!!!)

 

直後、三つ目の音が響いた。さっきよりも重く、複数音。

突っ込んだのは芽吹ではなく、加賀城さんだった。取った行動は単純で、盾を使った体当たり。バイザーをつけていない彼女に頼んでおいたのは、『大体でいいから光る前に赤嶺がいた場所と、弥勒としずくの攻撃した時に出る音を頼りにタックルして』とだけ。

 

普段から前に出ず、戦闘を怖がる彼女が一人バイザーをつけてないのにも関わらず突っ込む。赤嶺の予測を壊すなら彼女以外にいない。ここまで上手くいってるのは、防人の連携が精練されているから。

 

ともかくこれでその場にいた全員倒れ込むようになっている筈だ。そうすれば、状況が見えている彼女が_______

 

(頼む、芽吹っ...!!)

 

閃光弾の効果がなくなったと感じ、目を開ける。見える光景は大体理想通りで_________俺は、悲鳴をあげそうになった。

 

(嘘、だろ)

 

赤嶺は目を瞑っていた。あの閃光を直に見てしまったら、光そのものが消えても目の回復には時間がかかる。

 

にも関わらず_______三人の攻撃を受けて、尚体勢を保っていた。加賀城さんは押し返されたのか、弾き飛ばされたように後ろにいる。

 

(対応されたのか、全部、音で!?)

 

五感のうち、この状況で使えるとしたら聴覚、触覚程度しかない。足音からでも、横合いがくると判断したというのか。

 

そんな赤嶺は、案の定上に警戒を払っている。芽吹はそのまま急降下。そのまま見れば芽吹の有利は明らか。

 

(だが、それでも...くそっ!)

 

ここまで読んできた赤嶺の警戒を避けて一発決めるのは、かなりかつい。

 

だからと言って、諦めるわけにもいかなかった。

 

(何か手はないのか!ないのかよっ!?)

 

俺は吹き飛ばされてて遠い。武器を投げるにも間に合わない。もっと速い物で、注意を俺に向かせる物があれば。

 

(せめてあいつの聴覚を崩せば芽吹が裏をかいて叩ける!!俺に、俺に出来ることはあるだろっ!!!!)

 

ここまできて、諦めるわけにはいかない。強敵である赤嶺を騙してここまで繋げたバトンは絶対に無駄に出来ない。

 

 

 

 

 

だから『私』は、自然な動きで『マイク』を握った左手を口元にもっていく。

 

そして、ただひたすら叫んだ。

 

『あかみねぇぇえぇぇぇ!!!!』

「っ!?」

「!!!!」

 

俺すら予想してなかった爆音に彼女がこっちに顔を向けて。芽吹はその隙を逃さず二つの銃剣を振り下ろした。鳴り響いた音は、確かにバリアの起動音だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(そろそろ、か)

 

戦いが行われている遥か上空。彼女から渡された各勇者のデータと、本人の戦闘を見比べ続けてきた。

 

『君の仕事は以上だよ。私は時間を稼ぐから、頑張って』

 

(今の状況で隙をつくなら...こっち側だな)

 

「行ってこい」

 

小さく呟いて、俺を乗せていた白い奴を蹴り飛ばした。図体と比較して大きな口は意外に愛嬌を感じる。

 

(その口で、あいつを食ったのかもしれなくても...今は関係ない)

 

漏れてしまう殺意は、今味方である奴等に向けるべきではない。今も俺なんかの命令に従って、後方で待機してくれている。

 

自由落下をしながら、徐々に近づいてくる勇者達を見る。あの赤い勇者が見えてくる。

 

(......)

 

感情がごちゃ混ぜになって、一度深呼吸をした。

 

(今の俺の目的は、勝つこと。一人でも多くの勇者を気絶させること)

 

他ならぬ彼女のためならば、何だってしてみせよう。それが、相手が彼女でも。

 

(行くぞ)

 

決意を固めて、俺は習った式句を唱えた。

 

 

 

 

 

「神花、解放」

 

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