古雪椿は勇者である   作:メレク

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花結いの章 12話

「邪魔なんだよ...古雪椿」

「......芽吹、皆を連れて下がれ」

「ですが、椿さん...椿さんが二人?」

「いいから。こいつも赤嶺と同じ、あくまでバーテックスを相手させないための囮だ。俺がやる」

「え、あの」

「早く」

「つ、椿...」

「銀。後は任せろ」

「...うん」

 

そりゃ知り合いが二人もいれば(俺は女になってるし)戸惑うのも無理はないが、そんなことにどうこう言ってる暇はない。奴は今すぐ向かってきてもおかしくないんだから。

 

「逃がすと思ってんのか?」

「思ってなんか...ねぇよっ!!!」

 

斧二本を突き出すのに対し、相手はメイスをぶつけてくる。正面からの真っ向勝負。

 

負けたのは俺だった。

 

(パワーが違いすぎるか!くそっ!!)

 

一歩も動いてない相手に対し、速度を足しただけ俺の方が有利。それでも弾かれたのは俺。腕力だけで跳ね返された。

 

「椿さん!」

「早く!」

「!」

 

レイルクスの翼を広げて空中で体勢を整える。芽吹もようやく決心がついたのか、銀を抱えだした。

 

(こいつも神花解放かよ)

 

おおよそ人からは感じられないオーラ、常識離れした、人間離れした力。それはパワーだけでなく、スピードも_________

 

「こんなやつに負けたのか、赤嶺は手を抜いていたのか?」

「!?!?」

 

懐に飛び込まれ、メイスと突き出された。ギリギリ体との間に滑り込ませた斧は赤嶺との戦いで限界だったのか、二本纏めて真ん中から砕けた。

 

(なっ!?)

 

そのまま一回転されての攻撃は、前腕部についていた装甲を粉々にしただけでなく、腕がひしゃげそうな程の衝撃を与えてくる。

 

「うあぁぁぁぁ!!!」

 

当然、すぐさま吹っ飛ばされた。樹海に叩きつけられたが、最近よくやられてるせいか気はしっかり保てている。

 

このくらいで無理だって諦めるならとうの昔にやめている。叫んでいた口を閉じて、走り出した。

 

「やらせるかっ!!」

 

芽吹の元へ向かう男の俺を、引き抜いた銃を乱射して近寄らせないようにする。

 

「止まれ、止まれよ!!」

 

でも、弾丸は痺れてる腕じゃ狙いは定まらず、当たった弾も奴の直前でバリアに弾かれるだけで、止めることにはならなかった。衝撃で倒れることもない。

 

(くそっ!何かないのか!?何かっ!!)

 

芽吹は友奈もつれてレイルクスで飛ぼうとしている。さっきの赤嶺が対応しなかったわけだし、そこまで空中に追撃出来るわけじゃない筈。せめて、何か時間稼ぎをしないと________

 

「!」

 

視界の端にそれを見つけた時、俺は無意識に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

(二人が限界ね...)

 

銀と、近くにいた友奈を抱える。空を飛べば相手はジャンプして来るしかないわけで、こっちの逃げやすさはぐっと上がるだろう。

 

だけど、そうするには二人くらいが限度で、遠くに倒れている犬吠埼さんや園子、球子を連れていくことは出来ない。走って逃げたら間違いなく良い的だし、なにより私がそんなに多くの人を抱えられない。

 

(すぐ戻ってくるから、待ってて...)

 

「うあぁぁぁぁ!!!」

「!」

 

考えていた時間はそう長くない。椿さんに言われてからすぐに行動した。でも、今女性の姿をした椿さんは、男の椿さんに弾き飛ばされていた。

 

そのままメイスを肩に担いだ椿さんは、こっちを見る。目があっただけで背筋が冷えた。

 

(まともに戦って、勝てる相手じゃない)

 

認めたくなくても本能がそう告げていて、一歩後退りをした。

 

「誰だか知らないが...個人的な恨みはないが、寝てて貰うぞ」

「くっ...」

 

翼を展開して、私は固まる。少しでも動いたら、恐らくこれを壊されるだろう。

 

(ここで二人を置いて戦う?それとも無理やり逃げる?どうすればここから樹ちゃんの元まで行ける?)

 

逃げなきゃならない。でも逃げれない。自分に出来ることは何かを考えてるうちに、彼が一歩近づいて_____横から銃弾が飛んできた。

 

その方向を見れば、椿さんが走ってこっちに来ていた。向けられた銃は同じ自分へ撃っている。

 

「しつこいな...」

 

でも、彼は気にする様子もなく、こっちへ突撃出来そうな形を構えた。

 

(こうなったら...!!)

 

「バカが。遅い」

「!!!」

 

二人を置いて武器を構えようとした瞬間、彼の姿が消えて_________私の二メートルくらい手前で、止まる。

 

その間には、薄く光る一本の棒が通っていた。

 

「止まれって、いってんだろ!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

以前、春信さんにこんなことを言われた。

 

『やっぱり使い込んでるだけあるね』

『そうですか?』

 

レイルクスの調整なんかも含めて大赦を訪れ、用意していた試作武器をテストしていた時。

 

『二刀流は当然夏凜に勝てないけどそれなりだし、斧みたいに長物の方が得意そうだ...刀、伸ばしとこうか?』

『今追加でつけたらすぐ折れますよ。あれは性能的に見て勇者システムが全盛期だったから作れた物でしょ?』

『まぁ、それはね...あれ、でも今も...』

『あー......ほら、俺、あれはあれで気に入ってるので』

『でも、それを抜きにしても槍は作っといてもいいかもね?練習を重ねれば、斧より...いや、園子様に匹敵する槍使いになれるかもしれない』

 

西暦時代に何回か使った時も、他の武器よりは扱いやすいかもと少し思った。でもその程度だし、春信さんに言われた時も冗談みたいな形に流した。園子と同じくらいというのは、最大級の賛辞だと分かっているからこそ。

 

だから、今更それを痛感するなんて思いもしなかった。

 

「ハァァァァッ!!!!」

「黙って、やられろ!」

 

恐らく俺に最も適した武器と言うのは、目の前の男が使う両手で使う大型メイスなのだろう。長物、槍のような使い方のできる、斧のようなパワー型。確かに俺が使ってきた物、感じてきたものと似ている。あのマイクはついさっき初めて使ったわけで、例外として外すが。

 

きっと_________目の前にいる男が、『古雪椿が正式に神に認められ、専用の勇者装備になった、勇者の姿』なのだ。俺のような偶然の産物ではなく、あの白い装束を纏い、大きな武器を振り回す様が。

 

おまけに神花解放。勝てる見込みなんてないに等しい。

 

 

 

 

 

まぁ、だから、なんだと言うのだという話ではある。

 

『絶対、守るから』

 

「そう簡単にっ!!やられるかよっ!!!」

 

拾った園子の槍で、メイスの先端を逸らす。展開したままだったレイルクスの翼に突き刺さり、躊躇いなくパージした。どうせ壊れた翼じゃ空は飛べない。

 

状況は劣勢。元の力が違いすぎる。

 

(と言っても、そんなのさっきもだしな!)

 

勝機はある。それは俺が唯一勝っているだろう、戦闘を繰り返してきた経験。怒っている古雪椿の動きを経験上熟知していて、盾になる園子の槍でしっかり防いでいるからこそ今の状況を完敗にせずに済んでいるし、そこをつけば_________

 

「いい加減に」

「あいつらに散々なことやっといて、許されると思ってんのか!!」

「許される?許すも許さないもないだろ。俺はお前達の敵だぞ?敵の言葉を聞く必要なんてない...そして」

 

真上から振り下ろされるメイスを槍の持ち手部分で受け止めるも、勢いで膝をつかされた。

 

「だからこそ、俺がそんなことを気にする必要もない」

「くっ...!!」

「俺の目的はただ一つなんだから...なっ!!!」

 

体全体が過重のせいで震えてくる。

 

「なんの、ために...!」

「お前には分からないだろう。同じ古雪椿だろうと、紛い物にせよあいつがいるんだから」

「!」

「そうだ。この戦いに勝てば、三ノ輪銀を生き返らせてくれるという条件なんだよ。あいつともう一度やり直せる」

「それはっ!」

「なぁ?いいだろ?お前にはいるんだからさ...ここは俺に譲れよ」

「...だからって、俺は俺の知るあいつを痛めつけたお前を、許すわけにはいかないんだよっ!!」

「そうかい......なら、大人しく倒れろ!!!」

 

その言葉を皮切りに、上から叩きつけられていたメイスが下からの攻撃に変わる。ギリギリで槍を滑り込ませるも、そこから放たれる連撃に耐えきれず、手元から弾かれた。

 

「しまっ!?」

「もらったぞ!!」

 

その隙を逃す筈がない。メイスはまっすぐ俺の顔へ_________

 

 

 

 

 

(なんて、なっ!!)

 

「!?」

 

後ろへ倒れ込むように強引に体勢を変え、メイスを下から蹴り上げる。上体を晒した相手の目は見開いた。

 

(遅い!!)

 

右手から取り出したるは短刀。男の体より背が低いため下に潜りやすく、この角度なら顎に一撃入れられる。

 

一瞬のうちの攻防を制した俺は、逆転のための一撃をいれた。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ちっ!切っても切ってもきりがない!!」

「そうだな...だが、通すわけにもいかない」

「あぁ...死守するぞ」

「夏凜さん!棗さん!若葉さん!」

 

二人が戦っている場所に、私達は集まる。

 

「樹!?それに皆も!なんでここに!?」

「今からこの辺を通って、全部のバーテックスが来るので!」

「「「!!」」」

 

今まで大きく二つに別れて進行してきたバーテックスは、片方を椿さんの姿をした人で囮にし、もう片方の道に勢力が集まってきていた。速度は遅いけど、これまでと比べてもかなり多い数。

 

「赤嶺さんは倒しましたし、もう片方は椿さん達が向かってますから大丈夫です!私達はここで食い止めます!!」

「そうそう。勇者の底力、見せてやりましょ」

 

本当は、雪花さんが連れてきた気絶している東郷さんを休ませているし、杏さんに見てもらってる。あっちの状況は分からない。

 

でも今、『椿さんの姿をした人に何人もやられて、気絶した状態です』とは言えない。迷ってどうにかなる数じゃない。

 

(あっちには椿さんもお姉ちゃんも、銀さんだっている。大丈夫)

 

『俺が行くから、樹は戦況を見て動いてくれ。それと...これ、この体だからか使えるようになったから渡しとく』

『椿さん、これって...』

『樹がぴったりだろ?』

 

あぁ言われれば、信じるだけだ。椿さんの姿をした敵なんて見てしまったら混乱するし、話すにもややこしい上士気に関わるからこっちにいた人には何も言わないでおく。

 

「樹さん!配置つきました!」

「援護は私達に任せてください」

「うん、ありがとう...私も戦う」

「樹、あんたそれ...」

 

右手の花飾りからワイヤーを出しながら、私は左手のマイクを口元に持っていく。

 

『ここが山場です!!皆さんっ!頑張りましょう!!!』

「!体が...!?」

「アメイジング!!疲れがなくなったみたい!!」

「!来たわよ!!」

「三ノ輪銀!行きます!!」

「あぁちょっと!もう!三好夏凜、続くわよ!!!」

「ぐんちゃん!」

「えぇ」

「...全員!!行くぞ!!!」

 

先頭を突っ切る二人の赤色の勇者を、周りを導く青色の勇者を、大切な仲間を鼓舞するように、私は歌い出した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

本来なら戦闘中に聞こえる筈がないのだが、俺の________女の俺が武器として使っていたらしいマイクの効果は、ただの拡声器ではなく、周囲の力を高めるものだと聞いたことがある。

 

赤嶺との戦闘で何故か出せたそれを、俺は樹に渡していた。かなり離れた距離だが、歌い始めたのだろう________流石にここまで効果がないのは残念だが。

 

まぁ、効果があったとして、この状況にならなかったかと言われれば、微妙だが。

 

「腑抜けているな」

「ガ...ァッ!!」

「なぁ。何故お前は俺のことを簡単に追えたと思う?何故数的不利の俺がお前とわざわざ一人ずつで戦っていると思う?」

 

短刀を取りこぼして、両手を首もとに持ってくる。それでも、どれだけ力を入れても、俺の首を締め上げる腕を外すことは出来ない。

 

突き上げた短刀は奴の体を一歩も動かさず、ぐらついた俺はこの有り様になっていた。

 

「今ここで、確実にお前を潰すためだ。お前らの士気を下げるにはお前を潰すのが手っ取り早いと判断した」

「ッ!!!」

「読めてると思ったんだろう?怒ってる俺の動きは自分のことだしよく分かってるって。だから言ったんだ。腑抜けていると」

 

体が持ち上げられて、足が地面につかない。勢いをつけて蹴りを出しても崩れることはない。

 

「ずっと、ずっとあいつがいなかった俺のことを、お前が分かるわけないだろ」

 

どす黒い気迫。爪をたてられる首からの熱。体が動かなくなる恐怖。

 

「何とか言ってみろよ?アァ?」

「ぐ、ぅ、ぁぁ...!?」

 

バリアがなければ爪が食い込んで血が流れているだろうが、代わりに苦しみが続く。

 

「殺せなくても、呼吸が出来なきゃ意識は保てないだろ?」

「は、な...っ!」

「まだ喋るか」

「!けっ、は......」

 

更に力を入れられ、喉の擦れる音だけが口から漏れる。

 

(ヤバッ、意識が...)

 

「お前らがどうなろうと関係ない。例え俺に負けて全てを失おうと構わない。俺はあいつを取り戻す。それだけだ...だから」

 

世界が反転したように動いて、背中に激痛が走った。首を掴まれたまま地面に叩きつけられたと理解するには、冷静な思考力が足りない。

 

「さっさと消えろ」

「っ、っ!」

 

『絶対、守るから』

 

(約束、したのに...っ!!!!)

 

『銀。後は任せろ』

 

(あぁ言ったのに!!)

 

なのに、皆が痛めつけられるのを見てるだけなんて、出来るのか。倒れていたあいつを見て、その原因を作ったこいつをみすみす逃していいのか。

 

(...そんなこと、出来るわけねぇだろうがっっ!!!!)

 

「ぁ、ぁぁぁっ!!」

 

か細い叫びと共に、それでも短刀を伸ばす。せめて、せめて____

 

「しつこいぞ」

「ぐぶっ」

 

腹を殴られ、残っていた空気も吐き出された。

 

「あぁ。しつこい。お前らが負けたらどうなるのか知らない。全員元の世界に帰るだけなのか、もう帰れないのか、死ぬのかなんて知らない。興味もない。俺が言えるのは、『それでもあいつの為に全員潰す』ことだけだ」

 

暗くなる視界の中、暗闇よりも真っ黒な瞳を見た。

 

「じゃあな」

 

(...ごめん)

 

そして、あっけなく放り投げられた俺は、意識が薄れる最後に、上段に構えられたメイスを見た。

 

 

 

 

 

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