「危なかった。なんとか間に合ったね」
「......」
同じ古雪椿でありながら、何故か女の姿になっていた奴。この世界に来てから観察して、初めは周りの奴らにこいつと思わせて、混乱させた隙をついて攻撃するのが効果的だと考えたし、赤嶺が破れた今は、倒れたこいつを他の奴の前にもっていけば士気は確実に落ちると思った。
だからこそ、多少時間をかけてでも一対一の状況を作ったし、一度遊びに付き合って油断させてから首を絞めた。
しかし。
(俺も、冷静ではなかったかもしれないな...しくじった)
こいつが間抜け面を晒しているのが、心のどこかで憎かったのかもしれない。よけいな問答で時間をかけてしまった。
その結果が、これである。
「うん...凄い目だね」
俺のメイスを片手で止める幼い少女が、俺の目の前で金に似た髪を揺らす。
その面影は、赤嶺や、さっきの赤髪の女に似ているような________
「ごめんね。私には貴方を救える力が全くなかったとは言えない。でも見捨てた。それじゃあ私の願いは叶えられないから。そして今は...」
「御託はいい。さっさと失せろ」
「うん。消えるよ。やっと記憶の調整が終わったから名残惜しいけど、元々君の前じゃ『私個人は』歯が立たないからね」
「!」
その言葉の真意に気づけたのは良いが、一歩遅かった。
「ま、これだけが私の役目だから。許しは乞わないよ」
少女が彼女に触れた瞬間、少女が桜となって舞う。
俺は目を見開いて、舌打ちをした。
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さて。ここらで状況を整理しようか。
この世界は神樹が作りし世界。造反神の反乱を抑えるため、別の世界線、別の時間を生きる勇者が呼ばれた。その勇者の一人が、三ノ輪銀と一時期、文字通り共に過ごした古雪椿だ。
■■■■■■■するとノイズがかかるし、多分今もそうだろ。この辺あっちの干渉力が曖昧で分からないんだが、まぁいい。多分赤嶺なんかから聞けってことなんだろう。神の用意した正規のルートを辿らないと答えは得られないということだ。
ともかく、この古雪椿には、他とは違う点が大きく二つあった。一つはさっきも言った銀との関係。もう一つは、それがあった故に、過去に行って歴史を変えたことだ。
その時それを実現させたのは、神の一部と言える少女。忠実ではない神の部下というか、一部の権利を持ってる奴というか。
彼女は、偶然生まれた俺も含めて、あれが終わってからも古雪椿の側にいた。そして、一緒にこの世界の神樹の元へ召喚された。自分から行くことは出来なかったし、勝手に抜け出すことも出来ない結界内。
さて。ここで俺と彼女が取る行動は単純だった。昔彼女が誰かさんを過去を送るためにやってたことと同じ、神樹のエネルギーを少しずつ吸収すること。大木から漏れる蜜を舐めるカブトムシみたいなもんだ。
何の役に立つかは分からないが、少なくとも色々振り回してくる神々よりは、俺達が仲間だと思い、手助けしたいと思ってる奴等に使える。たまに、たまーに私利私欲の為に使わせてもらったけど。ケーキ旨かった。
そんな中、造反神が赤嶺を召喚し、今回は更に別世界から、新たな古雪椿を召喚した。察してる通り、彼女と再び運命を交わらせることなく三年間を過ごし、勇者になれなかった奴を、今回正式な勇者として認められる形で専用装備を与えられた姿だ。
■■した■■だからって、それに値しない神の力に干渉する力まで与えられてるとは思わなかったが、まぁそこは置いとくとして。
その力に、気迫に圧倒されて、古雪椿は追い込まれ、やられかけた。それを助けたのが彼女、シーナ_________高嶋友奈だ。
容姿が違ったり記憶がなかったりしたのは、現界する時に色々しくじったから。神の力を封じる力を奴は持ってるみたいだから、逆に不意をつけてラッキーだったかもしれないが。
最初はガチで自分のことをシーナだと思いこんでた。この前新しいあだ名決め決定戦でやってただけなんだが。一応複数人いる扱いだし、ユウってあだ名以外に欲しかったのかな。
____________さてと。このくらい長々話せば、そろそろ起きただろ?古雪椿。
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「んっ...」
『目覚め遅いぞ』
「...いや、お前、誰だよ」
かつて、あの高嶋友奈と会う時に訪れた真っ暗な世界。俺は目の前にいる俺の姿をした奴を睨んだ。
(もう、頭痛いぞ...最近自分の顔見なかったと思ったら今度は鏡じゃなくても見るし......)
『あ、なんだかんだ初めましてだっけ。俺は精霊ツバキ。お前が西暦でやったことで生まれた信仰心によって産み出された精霊だ』
「......は?」
『つまり、同一人物だな。今は消える瞬間までユウと二人、楽しくやってる。ここにはあいつが頑張って送ってくれたんだよ』
「い、いやいや」
『詳しいことは気にすんなって。気に出来る時間もないんだから』
「!!」
言われて思い出した。もう一人の俺、進行を続けるバーテックス。こんな問答をしてる場合じゃない。
「そうだよ!おい、ここから出る方法は」
『出て、どうするんだ?』
「止めるんだよ!あいつを止めないと皆が」
『止められるのか?今のお前に』
「んなこと言ってる場合じゃ」
『この戦いに勝てば、三ノ輪銀を生き返らせてくれる。あいつともう一度やり直せる』
「っ!」
『なぁ?いいだろ?お前にはいるんだからさ...ここは俺に譲れよ』
その言葉は、さっき言われた__________
『こう言われてから、お前、あいつを倒すの戸惑ってるだろ』
「っ......」
『■■■■■■■■■■■』
「は?なんだよ?」
『え、あぁ、これもダメなのか...そりゃそうか』
とても人間の言葉に思えない言葉を喋ったのに、本人はまるで気にせず話を続ける。
『じゃあ言い方を変えるぞ。難しく考えるな。お前にとっての目的を間違えるな』
「...」
『あいつにとっての銀は死んだ。だが、それに同情してお前がここで放置したら、全員叩き潰されるぞ』
「!!」
『お前がされたのと同じように、抵抗されなくなるまでメイスで貫かれる。首を絞められる。そんなこと許せる』
「許せるわけがないっ!!!」
条件反射で声を荒げて叫ぶ。少し、奴の口角があがった。
『だろ?それだけじゃない。銀が倒されるのを見ただろ。もう一度そうなる可能性がある。あいつは優しいから皆が倒れたら絶対自分が立ち上がるし、かといって一方的に痛めつけられかねない』
「ッ...!」
『それを、お前はまた気絶してたで済ませるのか?初めて満開した時のように』
「......済ませたく、ない」
『この世界が造反神の勝ちで終わって、お前らが無事に帰れなくなった時、お前は自分の行動を』
「悔やむに決まってるだろうがっ...!!」
『そうだ。それでこそ俺だ』
手を伸ばせる範囲なんてたった一人では僅かなものだ。選んで、他のものは捨てるしかない。
天の神を退き世界を救う。過去に行って歴史を変える。これまでだって『そんなこと』は副産物に過ぎなかった。
『だったら、大切な人を守るために何をする?』
(そうだ。俺はいつだって________)
『覚悟は決まったみたいだな。ちょくちょく忘れるから、思い出してくれて何よりだ』
「......」
『そんな顔しないでくれ。俺はその選択をよくしてた西暦にいた時期をベースに生まれたお前なんだから、そういう思いが色濃く残ってるってだけさ。あれだけ日溜まりにいたわけだから忘れるのも無理ないし』
「...そうか」
『そうだ。じゃ、行ってこい。また二人で見てるからな』
肩を押され、互いに距離が開いていく。
その肩が異様に熱くなって、目を見開く。
『俺達が蓄えといた力だ。お前が今の姿になったのが神樹による勇者適性値の上昇なら、それは俺達が与える勇者の証。ま、俺にとってはそれ以上の意味があるだろ?しっかり届けたからな』
「...ありがとう」
『おう。じゃな』
その返事を皮切りに、黒い世界はすぐに白く染まり__________
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考えうる限り『そこそこの悪手』で立ち直らせてしまったが、後は信じるしかない。これは代替え案を咄嗟に出せなかった俺の責任だ。言えない言葉があるっていうのは難しい。
ただ、種は残した。後は本人が気づくか。周りと話してどうするか。どう願うかにある。
力を直接与え、俺とあいつのパスを繋いでくれたユウもまた、再度現界するには時間がかかりそうだし、それまでに間に合うかはなんとも言えない__________この世界が本当に■■ならもう一人の俺のことは待つだろうが、俺とユウはそこの枠外だ。待ってはくれない。
そして、もし想像以上のことをするのなら。
俺としては、また出番が訪れないことを祈るばかりだ。
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「一つ確認させてくれ」
紅蓮に燃え盛りながら、優しい温もりを感じる火柱の中。そこから、外にいるもう一人の俺に聞く。
「お前の目的は、銀のためなんだな?」
「......あいつを生き返らせる。隣にいたいと願う俺のためでもある。でも、銀が笑顔になるなら、それでいい」
「そうか...よかった」
それを聞いて、俺は少しだけ笑った。心の底からよかったと思ったから。
自分の為ではなく、誰かの為に戦う。古雪椿という人間は、客観的に見てその方が力を発揮するから。大切な幼なじみのために、命を張れるから。
だから俺は『双斧』を握る。
(これで、条件は対等だ)
過去は違う。奴が長い間思い詰めていたであろう、失った悲しみと憎悪は、俺の方が薄いのかもしれない。
だが今は。奴は俺を倒さなければ銀を生き返らせられず、俺は奴を倒さなければ皆が苦しむ。
そんなことはさせない。互いに思う気持ちは変わらない。だから対等。
「それなら...」
そんな、自分自身が相手なら_________迷いなんてない。
「本気で、殺しあえる」
炎を霧散させ、赤い勇者服を纏った俺は、斧を構えて飛び出した。
あいつが遺してくれたのは、銀のものである勇者の力。確かに神の力があるのなら、銀のとは別に用意するのも可能だろう。
当然バリアがあって文字通りの殺人は出来ないが、手段はいくらでもある。
(なんてったって、目の前のこいつがやってくれたからな)
『敵』を倒す。それが自分自身でも。
誰かの為なら戦える。
「偉そうに言って、お前に俺の何が分かる」
「分からないさ!!所詮、あいつと一緒にいれた俺にはな!!」
確かに神花解放の力は強い。でも、この力ならまだ対抗出来る。
精神を研ぎ澄ませながら、ひたすらに鈍器がぶつかる甲高い音を響かせた。
「だが、今、お前は邪魔だ!!!!」
「...偉そうに、お前が言うなぁ!!!」
両手で握って初めて満足に動かせそうな大きさのメイスを片手で振り回す奴に対し、両手に握った斧をクロスさせて防ぎきる。足蹴りをバックステップで避けて、斧を投げつけた。
二本の斧は別々の軌道を描きながら飛んで行くも、一つはメイスで打ち上げられ、一つは蹴り飛ばされる。追加で両膝につけっぱなしになっていたレイルクスのパーツも蹴り飛ばせば、流石に最後の一つで少しだけバランスを崩した。
呼び戻した斧を最大速度で突き出せば、俺ごと叩き潰す勢いでメイスを高々と構え迎え撃たれる。
そうして振り下ろされたメイスは、『斧とぶつかることなく』地面だけを叩いた。
「!?」
斧を手元から消した俺は、右手で首を掴んだ。少し出ている喉仏を潰す勢いで掌を押しつけ、締め上げる。
「ッ、がぁぁっ!!」
「マジかよこいつ!?」
即座に掴まれた右腕は、骨の軋む音が聞こえそうな激痛を訴えた。間違いなくこれまでのより強い。
(だけどっ!!!)
パワーはこっちだって上がってる。左手に握ったままの斧をがら空きだった頭にぶちこんだ。お返しとばかりに横腹へメイスが叩き込まれたが、互いに手を離して吹き飛んでいたため、衝撃は腹から空気が出るくらいですんでいる。
「そんなもんか!」
「うるせぇっ!!!」
ぶつかり合いながらも、鍔迫り合いのような硬直は長く続かない。互いに相手の急所を狙い、すんでのところで避ける。後ろで纏めた髪の毛が巻き込まれて何本か焼ける。
それでも、一歩も退きはしない。互いに理由が分かっているから。
「「ハァァァァァッッ!!!!」」
世界を置き去りにするかの如く、神経を極限まで加速させて__________
----------------
「終わりだな」
「......」
隙をついて脇腹を砕く勢いで叩き落とした。地面に倒れる俺自身というのは、見ていて複雑な感情になる。
「......何か、言うことあるか」
そう言ったのは、同情と捉えられても仕方ない。でも、勝ちと分かっている以上、聞かずにはいれなかった。
『体が白く光つつある』俺は、俺を見上げ、涙を流す。
「...あいつの、銀の、笑った顔を、もう一度見たかった」
その光は見たことがある。かつて世界を移動する時、俺自身が発していた光。
体感的に力を使える時間が少なくなっていると分かったのか、奴が焦った瞬間を逃さず叩いただけ。
倒れる俺は、くすりと笑う。
「あぁ、そうだな。もう一度くらい...見た、かった...」
ぐちゃぐちゃの表情で、涙を流して、それでも笑って。
「...そうか」
その姿を見ていたくない俺は、目をそらした。
見たいわけがないんだから当然だ。自分の悲痛なところなんて嫌だ。鈍る筈のない決心が鈍る。
そして、奴がその隙を逃す筈がない。
(あぁ。そうだろう)
無言のまま、右手を伸ばしてきた。持ち手の折れたメイスの先部分だけを持って、俺に歯向かおうとする。
(それが俺だ)
残り時間が少なくても、希望がなくても。そこに何かを見出だせられるなら。万が一の奇跡が起きるなら。例え自分自身で気づいてない感情だったとしても。
(それがきっと、古雪椿だ)
メイスの先端が、俺の服に触れて__________
(だから、全部分かっていた)
体にぶつかる前に、右手を斧で叩き落とした。千切れることはないが、斧越しに肉の感触が伝わり、音が鳴る。
(分かっているなら、対策する)
目をそらした隙を狙うから、注意は常に張っておく。メイスの打撃力が怖いから、先に叩き落とす。全部今までと同じ。分かっていたから対策したまでのこと。
仮に、こいつが俺を倒し、残り少ない時間で他の勇者を倒し、こいつにとっての幼馴染みを生き返らせる奇跡を信じ、それを起こすために取った行動だと言うならば。
今俺がしていることは、その奇跡を完膚なきまでに踏み潰す行為だ。
「...やっぱ、バレてるか...ははっ、そうだよな」
俺達は違っていて、同じだった。
「何でお前が、そんな顔してるんだよ...勝ったんだから、笑えよ」
「......」
黙ったままの俺は、もう一方の斧を叩きつける。
「がっ...ぁぁ......ごめん。銀」
その言葉を最後に、白い光は強くなった。瞬きした時にはもう、目の前にいた奴はいない。
「...うるせぇ」
絞り出た返答は、奴に聞こえることはなかっただろう。
----------------
「ん、んんっ...んー?」
目を閉じていた彼女が突然そんな事を言い出して、顔を向ける。彼女_____銀は、目をぱちくりさせていた。
「知ってる天井だ...」
「近くの病院よ」
「芽吹?なんでアタシ病院に...そうだよ!戦いは!?あの椿は!?」
「落ち着いて...ひとまず、痛いところはない?」
「んー......全然。強いて言うなら腕の振りすぎでちょっと筋肉痛っぽくなってるだけ。それで?」
「...あの椿さんは倒したわ。椿さん自身が」
気になって自分のことをまともに確認してないと分かっていつつも、本当に大したことなさそうなのと、話を進めないと検査も受けてくれないだろうと思い、私は今回の戦闘結果を口にする。
「...そっか。倒したのか」
「えぇ。貴女みたいに気絶しちゃった人は他にもいるけど、全員命に関わるような大きな問題はなし。バーテックスは撃退。赤嶺友奈は捕獲。今他の人は私と同じように目が覚めるのを待つ人と、あの椿さんに関して知ってる人が知らなかった人に説明してるって状況よ」
「......椿は?」
それは、幼馴染みとしての勘なのか。どこかしっかりした表情で聞いてきたことに驚いたのもあって、私は一瞬黙り込んでしまった。
「何かあったの?」
「...椿さんは、家に帰ってるわ」
『頼む。今日は一人にさせてくれ』
戦いに勝ったのに、あの人の表情はまるで負けた時のようで_________いや、もしかしたらそれより酷い表情で、初めて見る顔を前に私は声をかけることが出来なかった。
他の人は何か言っていたけれど、それに反応することもなくて。
「......」
「銀?」
「あぁ、アタシはどうしたら良いかなって」
「とりあえず安静にしてなさい。今お医者さんを連れてくるから」
「問題ないんじゃないの?」
「念のためよ」
「心配性だなぁ...」
本人が元気そうなので緊急を示すナースコールではなく、自分の足で呼んでいこうと病室の扉に手をかける。
「でも、長いこと寝てたならしょうがないか」
「長いこと?」
「だってここ、うちの近くの病院じゃん?高知から香川まで運んできたんでしょ?」
「戦いが終わってからカガミブネですぐ運んだのよ」
「......じゃあ、巫女の皆は?」
「あ」
ずっと見てなかったスマホには、一件。
『芽吹先輩、ご無事でしょうか...?』
亜耶ちゃんからの通知が来ていた。
----------------
どのくらいそうしていただろうか。東側にあった太陽は、橙色に輝き西日を放っている。
腕を頭の上に乗せて、ひたすらシミのない天井を見る。焦点は合わずぼやけているため、シミがあっても分からないだろうが。
(...俺は)
後悔はしていない。皆を守りたいことに、銀達を攻撃したあいつを許さないという思いに嘘はない。
条件は対等だった。やらなきゃやられる。あいつは神からの直接的な強化がある代わりに恐らく時間制限があり、俺は精霊_____に近いあいつ、もしくは彼女の力を借りてなんとか耐えきり勝利した。記憶が曖昧なのは、それだけその時集中力を使っていて、思い出せるキャパシティじゃないということ。
(そう、後悔なんて、ない...だけど)
最後に見た、悲しそうな顔。俺自身のあの顔が、頭にこびりついて離れない。忘れようとしてもダメで、かといってまだ寝れない。ボーッと過ごしていても、その記憶だけは薄れることがない。
そうすると、もう少し出来ることはなかったのか、もっと最善なことはなかったのか、余計なことばかり考えてしまう。脳にかかっている負荷を今すぐやめさせたいが、それも出来ない。
(もう、終わったことだろ...)
あの古雪椿が幼馴染みと笑い合うことは、もうない。俺がその希望を潰したから。
誰よりその辛さを知っている『古雪椿』俺自身が。
「......くそっ」
小さな呟きは、やけに大きく部屋に響いた。
「お邪魔します」
「おう、いらっしゃ...ん?」
どのくらいボーッとしてたか分からないタイミングで、尋常じゃない程自然に入ってきたのは、長い髪を揺らした少女だった。
「ひなた!?何でここに!?」
「椿さんの御両親に入れて頂きました。それより、ダメですよ。こんなに暗いんですから電気をつけなきゃ」
窓の外を見れば、夕日もほとんど落ちかけていた。後15分もすればいつも通りの夜空に変わるだろう。
「高知で待ってたのに、皆さんは香川に帰ってるんですから」
「...あぁそっか、悪かった」
「いいんですよ。他の方から聞きましたが、急いで病院に行く必要があったのですから...お疲れ様でした」
「...ありがとう。でもいいのか?若葉の方行かなくて」
「これから行きますから問題ありません♪」
「ははっ、成る程な」
「ですが、まずは先に帰られたという椿さんの元へと思いまして...お疲れ様の膝枕はいかがですか?」
「いや、それは...親に見られたら恥ずかしいから、また今度で......」
いつも通りのひなたに、どこか安心感が生まれた。どこか濁っていた心が洗われていくような。
(悩んだら相談、忘れかけてたかね)
決着のついたことだし、悩んでないと思っていたが__________
「私は見られても構いませんよ?」
「今日は若葉にしてやれ」
「...むー」
「なんで膨れっ面なんだよ...」
どことなく気まずくて、目線をそらして別に話題へ変えられないか記憶を巡る。巡って________全然出てこない。
(やべぇ、どうしよ...ぁ)
「それより、ちゃんとやりたいこと決めとけよ。この世界にいられるのも後少しだろうからな」
「_______________」
それが最悪な話題変換であることに、俺は気づけなかった。
疲れていたからか、別の理由があったのか。俺の言葉に彼女の顔色が変わったのに、俺は違和感を覚えない。
「......椿さん、それは、どういう意味ですか?」
「え、あぁ。今回造反神は出なかったけど、赤嶺に勝って、相手の...あっちの秘密兵器も倒した。きっと後少しで全部終わる。そしたら俺達は、元の時代へ帰れるだろ?」
彼女の手が小刻みに震えだした理由を悟れない。
(記憶を残す方法を探したりはするだろうけど...でも)
「神様に振り回されるのはもうごめんだろ?だから...っ?」
気づけば、俺はベッドに押し倒されていた。
ひなたの顔に目線を戻され、彼女の顔に吸い寄せられる。
「貴方は!!!それで良いんですかっ!?」
「ひなた...?」
彼女の瞳から溢れた大粒の涙が、俺の頬に落ちる。
「このまま元の世界に戻っていいんですか!!!!」
「いや、俺は...」
「私はっ!!私は嫌ですっっ!!造反神に勝てなくてもいい!!!」
「_________」
(な、ん...で)
言葉にならない衝撃は、意図も容易く思考を殴り付ける。彼女はそのまま、俺の胸に頭を当てる。
まるで、何かにすがるかのように。
「私は...貴方と一緒にいたくて...ッ!!!!」
「あっ......」
掠れた声と涙、そして彼女自身の熱を残しながら、彼女は部屋から出ていく。俺はその手を掴むことも、追いかけることも、動くことさえ出来なかった。
(なんで......)
『貴方はっ!それで良いんですかっ!?』
仲間を守るため戦い、奴の希望を潰した。
(なんで...っ)
『私はっ!!私は嫌ですっっ!!造反神に勝てなくてもいい!!!』
結果、大切な彼女を泣かせてしまった。
その、理由は__________
『私は...貴方と一緒に、ずっといたくて...ッ!!!!』
(まさか、そんな筈...ひなた...?)
「...なんでなんだよ。ひなた......」
答えなんて、誰もいない部屋じゃ返ってはこない。
----------------
(私は...止められなかった)
ただ側にいるだけで良いと思ってた。せめてこの世界から帰るまで楽しめれば、もういいと。
でも、私自身の気持ちはそんなものではすまなくなっていて。
(だって...仕方ないじゃないですか)
たった半年ほどの出会いを通し、もう二度と会えないと思ってた。なのに、今度は数年に渡る付き合い。もっと、もっとと願ってしまうのを止められる程、私は出来た人間じゃない。
だから私は言い訳して、頑張って戦っているあの人を、皆を裏切るような言葉まで言ってしまった。隠していた思いを。
願ってしまったのはいい。でも、その思いを伝えてしまった。頑張って戦ってきたあの人に向けて。
(......最低です。私は)
さっき見た、椿さんの驚いた顔が私の記憶から離れなかった。
「私は...!」