私は、つっきーが好きだ。先輩としてではなく、一人の男の人として。
今更好きになった経緯とかを話すことはしない。ただ、私は愛してやまない人を見つけてしまった。
それは、例えズッ友であるミノさんやわっしーに対しても負けない。
でも、はっきりと『付き合ってください』とは言えなかった。フラれるのが怖い。関係が崩れるのが怖い。同じように彼を好きな皆とこじれてしまうのが怖い。好きとは言えても、アピールは出来ても、恋人になりたいとは言えなかった。
でも、そうして迷ってる間に、つっきーは一人過去の世界に行って、今度は皆纏めてこの世界に訪れて。
同じつっきーを好きなライバルは一気に増えた。嬉しさもある。でも、自分の中に燻る黒い感情が増えてしまったことも否定出来ない。
そんな私が、残るか戻るかの選択を迫られた時、咄嗟に出てきた理由はこうだった。
(戻れば、ライバルも減るかな)
これが理由の全てとは言わない。でも、少しでも思ってしまったのも確か。
(でも私、ずっと前からつっきーのこと好きだもんね?)
部室で見たつっきーとひなタンの様子を見て、察してしまった。昨日かどこかのタイミングで、恐らくひなタンはつっきーに何かしている。
恋は戦争。なんて聞くけれど、誰かが始めたならもう止められない。ならば、私は勝ちにいく。負けるつもりはない。
私の恋心以外を考えたら、皆と別れるのは辛いけど、神様のいる世界にこれ以上長居しなくないから。恋心だけを考えるなら、ライバルを減らしたいから。その為に、私は今ここで槍を振るっていた。
『だったら、ここは勇者部(うち)らしくなく、大喧嘩といかないか?』
そう、これは大喧嘩。お互いの駄々をこねあう機会。もし私の思いを否定するなら、私の黒い感情を、間違っていると言うならば__________
「私に勝ってみせて!!!」
「偉そうに言ってんじゃないわよ!!園子ぉ!!!」
大声とそれぞれの武器がぶつかる音が響くのは、同時だった。
「そのちゃん!」
「よそ見してる場合!?」
ゆーゆがアッキーと戦っている横で、私はひたすらにぼっしーの刀をいなし、槍を刺す。少し離れれば何本もの刀が投げられて、盾にすれば視界が塞がるから槍の持ち手部分も使って弾いた。
「園子っっ!!!」
今日のにぼっしーは本気で来ている。気迫や態度がそれをバシバシ伝えて来ていて、だからこそ私は笑顔でいれた。
今更その理由を聞くこともない。アッキーと一緒にいたことが一番の答えだし、正直そこまで興味はない。
これは、勝つか負けるかだけなのだから。
(...そう。勝つため)
地面に手をつきつつ、あえて緩ませていた力を一瞬だけ全力で込める。当然相手は__________
(だから、悪いけど)
「貰っていくよ」
ゆーゆに気をとられていたアッキーに槍を突き立てながら、私はそう言った。
「!?アンタッ!!!」
「でぇぇぇやっ!!」
「!?」
「あっ」
間髪入れずにぼっしーに突撃したゆーゆは、咄嗟に突き出された刀を避けきれないながらも拳をしっかり当てた。両方とも、暖色のバリアが光っている。
「ゆーゆ!」
「あはは...ごめん、確実にいけたと思ったんだけどなぁ......夏凜ちゃんやっぱり強いや」
「...はーっ。ちょいちょい結城っち。私は大したことなかったってこと?」
「そ、そんなことはっ!?」
「いや何普通に会話初めてんのよ!?」
「だってもう私達負けだし。上手く二人にやられちゃったわけよ。園子はまだ予測出来たけど、避けられなかったわアレ」
「えっへっへ~」
「それに、結城っちがその作戦に乗るのもね」
「お恥ずかしながら...」
「え、え?何が!?」
このまま井戸端会議が始まりそうだったのを、私は背を向ける。ここで話をする暇はあっても、有益な情報は出ない。
「じゃあ園ちゃん、行ってらっしゃい!」
「うん。行ってくるね~」
「ちょ、園子!...雪花、何について言ってるのよ~っ!!」
あのメンバーで私が秀でている自信があったのは、集団戦闘の訓練を受けてることだと思った。相手のにぼっしーは勇者になる一枠を争っていたし、アッキーは北の大陸で一人で戦っていた。その点私はわっしー、ミノさんとちゃんとチームプレーを訓練として受けている。
わざわざ二対二で出会って、少し離れた場所で一対一をしあうのは、相手の二人は得意な舞台であり、私は必要性を感じないながら、隙を作りやすい舞台だった。
一対一になったら、ゆーゆが戦っている方の隙を見計らって横槍を入れる。事前に決めていたのはこれだけだった。アッキーはチラチラこっちを見て警戒してるのが分かったから、全力でにぼっしーの相手をしてるように見せつつ最大速度は抑え、ゆーゆに意識を割かざる得ない状況で行動した。
野球でいうチェンジアップがストレートと混ぜることで有効なように、人は急な速度変化には対応しにくい。それをついた作戦。二人はまんまと騙されてくれた。
(二人が騙されたのは、それがメインじゃないだろうけど)
にぼっしーも、場合によっては気づいたと思う。アッキーにも対応されてた筈。それが二人とも出来なかったのは、きっとゆーゆのお陰。
『正々堂々と戦いそうなゆーゆが、私のちょっと小狡い作戦に乗るとは思えない』という思い込みの故だった。私自身二つ返事でオッケーが返ってくるとは思わなかったから。
『私も、決めたから。園ちゃんと一緒だよ』
返事に続けられたのは、そんな言葉。あれはきっと、いや間違いなく__________
(...今は置いとこう。行かなきゃ)
私はかぶりを振って、木を伝いながら次の相手を探し出した。
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私にとって彼は、ヒーローだった。
拒絶して、殻に閉じ籠っていた私を引っ張りあげた人。暖かい皆が周りにいることを教えてくれた人。
「へっ、しゃらくせぇ!!」
たまに、バカみたいに熱くて。
「ハアッ!!」
たまに、物静かになって。
普段は皆の兄みたいなのに、何かと振り回されてることも多くて。
それでも、握る手は私の固まった心を溶かしていくようで。ゲームしている時は息を合わせるのが楽しくて。
『昔』蔑まれたり、虐められたりしたことを『昔』のことにしてくれた人。過去に来て戦うなんて、ゲームのストーリーなら主人公でしかない人。
今の私は、彼を敵としている。思いが違うのだから仕方ない。
「......強いな、千景」
「はっ、はっ...」
それは仕方ない。理由がなんであれ自分の意思で決めたことなんだから。
だから、私も私を貫く。
「ぐんちゃん...」
「任せて。高嶋さん」
さっきやられてしまった、大切な彼女の為にも__________
「悪いけど、今日の私は諦め悪いわよ」
小さく告げて、鎌の切っ先を二人へ向けた。
再び始まった戦いの初動は、リーチの長いものから。山伏さんの銃剣から放たれる弾丸を走って避けながら、古波蔵さんの元へ行く。
迎え撃つように構えた彼女が射線に入るよう考えながら、振り上げた鎌を一気に落とした。重い金属音が鳴り響く。
「古波蔵ぁ!!」
「ッ!」
(大丈夫。ゲームの様にはいかないけど...!!)
バックステップをしたのを追わず、私は鎌を振り上げた。
これはゲームじゃない。細い鎌で銃弾を弾くなんて曲芸は、少なくとも私には無理だ。
でも、人で射角が限定されてて、もう少し大きな盾があれば。
だから私は、近くを浮いていた審判用のドローンに鎌を突き刺し、吹き飛ばした。銃弾はキレイに当たって小さな爆発を起こす。
「うっそだろ!?」
「はっ!!」
そのまま、誰かのように鎌を投げる。
「シズク!」
「嘗めんなっ!!」
山伏さんは苦し紛れに銃弾を構え、鎌を上へ弾き飛ばす。
(...やるしかない!!)
チャンスを活かすにはここしかない。跳躍しつつ、弾き飛ばされた鎌を手元に戻す。目標は、尻餅をつきかけている山伏さん__________
「これで、終わりよっ!!!」
「ハッ!!」
しかし、古波蔵さんが割り込んできた。自分の目線より高い位置にヌンチャクを張り、私を受け止めようとする。二人は一緒のチームなわけだし、当然のことだ。
一秒にも満たない戦い。それでも私は自然に出来た。
「!?」
「シッ!!!」
ついさっきあげた金属音はせず、私は地面に着地する。当たる直前に消した鎌を再顕現。西暦時代には出来なかったものの、この世界で誰かのせいで何度か見たことのあるテクニック。
(これで、終わり!!!!)
切り上げるようにした鎌は、何も防ぐものはないまま古波蔵さんに刺さり。
そして、一陣の風が吹いた。
(......)
「大丈夫か?千景」
「......」
その姿は、まるでヒーローだったと言えるだろう。
嘗て私が忌避していた色。憎んですらいた人。
「これで、シズクも失格だな」
「...ダーッ!!ここで不意討ちは分からねぇよ!!」
「悪いな」
「......私もやられたか。千景に見事やられたな」
刀を鞘に納める毅然とした仕草は、まさに勇者の名にふさわしい。
とはいえ。
「...千景?」
彼女がこっちを向いて、首を傾げる。私は一度息を吐いて__________
「...遅いわよ」
銃弾に撃たれた肩を擦りながら、いつものように言うだけだった。
「そろそろ人数も少なくなってきたでしょ?......頑張って。乃木さん」
これで一歩間に合わない辺りは、ヒーローらしくないけど、どこか彼女らしい。そんな風に思いながら。
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ここまで、概ね作戦通りと言えるだろう。
『...分かりました。若葉さんの意見に反対することはないです......頑張りましょうね!』
囮ともいえるような作戦に乗ってくれた。
『そろそろ人数も少なくなってきたでしょ?......頑張って』
激励も飛ばされた。
『護衛?それは...まぁいいよ。折角参加する以上、乗ってあげる』
意外な協力者も得た。
私の中で彼は土壇場の思考、行動力と、搦め手を使った作戦立案能力が高いと思っている。誰かを守るために自ら壁になることをすんなり行ったり、本人曰く『勇者らしくない』なんていう作戦をとったり。
そう言う意味で、頭の硬い私は不利と考えて良いだろう。とはいえこれは私の性格、変えるつもりもない。
その上で彼に勝つなら、彼の作戦を上回る策を用意するなら、凄く難しい。
でも、それは私が一人だった時ならのこと。私には、かけがえのない仲間がいる。
(今、半数程度が敵としてだが...)
彼も、今は敵である。とはいえ。いや、だからこそ。
(私も、勝ちたいからな)
私は、ようやく姿を現した。
「......若葉」
「椿、こうしてしっかり戦うのは初めてか?」
「...まぁ、普段こういう状況にはならないしな」
「その通りだな」
少し息があがりながらも斧を構える椿と、その後ろで隠れるようにしている樹。
(...まぁ、いい)
本音が漏れてきそうになるのを抑える。私自身の目的の為にもそれが必要だから。
「だが、悪くない」
静かに刀を鞘から引き抜く。幾つものバーテックスを屠り、仲間を、人類を守るために振るっていた生大刀。
天高く掲げれば、銀色の刀身が輝いて見えた。
普段はあまり取らない行動に、椿も樹もこちらを見つめる。
(私が望むのは、個人的勝ちではなく)
「四国勇者、乃木若葉」
静かに、ゆっくりと、切っ先を二人へ向ける。
(チームの勝利なのだから)
「椿さんっ!!!!」
「ッ!?」
「参る!!!!」
刀を降ろしきり一歩目を踏み出す時には、一つの弾丸が私の隣で髪を揺らした。
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「参る!!!!」
「椿さんっ!!!!」
若葉が抜刀し、演出のようなことをして、叫んだ瞬間。訳の分からないことが幾つも起きた。
何故か樹に突き飛ばされ、大きなの音がして。
突き飛ばしてきた彼女は、何かに当たったように後ろに吹き飛び、更に若葉に切られ。
俺がなんとか取れた行動は、俺に向けられた若葉の二擊目をなんとか止めるだけだった。
(!?!?)
「さぁ、終わりだ!!」
苦しそうな、それでいて嬉しそうな表情を見せる若葉の声に、ついていけてない頭を回す。
(はや!?何が起きてっ!)
「はぁぁぁぁ!!!!」
次いで起こったのは、さっきと同じ大きな音と、大声。音に従って首を動かすと、後ろ側に突然園子が現れた。
まるで地面に着弾したかのような園子が何かを弾く。弾かれたモノが宙を舞う様を、何故かスローモーションのように見れて__________
(...銃、弾)
きっと、俺を狙い、樹を倒した原因。恐らく若葉はこれを想定して俺に背を向けさせるような攻撃をし、園子は守ってくれた。
「園子かっ!!」
「つっきー大丈夫!?」
「園子っ!」
俺の斧への圧をやめた若葉は、さっきも見せた凄まじい速度で園子へ突っ込んでいく。心配で声を荒げるも、園子へ見事にその速度へついていった。
「お前の相手は私だ!!!」
「御先祖様...負けないよ!!」
互いの武器の先がぶれて見えるほどの連擊を重ねながら、木々の生えた方へ突っ込んでいく二人。
(いや何やってる!切り替えろ俺!!)
美しさすら感じる動きを見るのをやめ、すぐに走った。誰だか分からないが銃で狙われているのは確かだ。
「樹ごめん!ありがとう!!仇はとるから!!」
「椿さん...頑張ってくださーい!!」
応援を背に、俺も二人とは違う森へ走り込んだ。
(落ち着け。大丈夫。一難去った。よく考えろ)
落ち着いていた所から風と若葉の連戦。そして狙撃。心臓の音が周りに聞こえるんじゃないかと錯覚するほど大きかった動揺の連続から解放された俺は、ようやく長い息を吐けた。
(...負けられないんだから。しっかりしろ)
とはいえ一時しのぎ。確かに銃はさっきの狙撃方向から考えて射角に入らないよう隠れているつもりだが、まだ狙われているだろう。
(そうだよ。何で銃を持ってる相手がまだいる......?)
若葉が現れパフォーマンスのような動きをした上、もうないと思っていた遠距離からの狙撃。これは狙って行われたことであり、最初の遠距離武器持ちが集まっていたことも、あの銃の一撃に気づかせないための罠だったとさえ考えられる。まんまと嵌められた結果、樹に庇ってもらった。
しかし、今になって思い出せるのは幾つかの違和感。
(流石に若葉も、あの速さなら樹に着弾したか分からなかった筈。だけど、庇われた俺に追撃せず、真っ直ぐ樹を狙った)
何もなければ俺を狙う狙撃に懐に入って樹を切り払う若葉でいいだろう。しかし、あれだと俺を切ることも考える仕草があっても良かった筈。しかし、そんな迷いは全くなかった。
そしてもう一つ。
(あの音は...)
あの銃声は『俺を狙って撃たれることはありえない銃剣のもの』。そう思っていた音だった。
(武器を拾うのはルール上OKか?そしたら複数銃を持つ東郷のじゃないのも...!!)
そこまで考えて、俺は意識を切り替えた。草が揺れる音と、微かだが歩く音もする。
(もうあんな失態はしない......集中!!!!)
頭にかかる圧を無視して、耳を傾けた。風はない。より音がする方へ注力する。
(...右方向。すぐそこ!!)
気づかれないよう声を出すことなく、俺は斧を__________
「あらあら」
「_______________」
手元からすっぽ抜けた斧は、あらぬ方向へ飛んでいった。それだけ思考が吹き飛んでいく。動揺して視界が安定しない。思わず一歩後ずさる。
「そんなところにいたんですか」
「...え、なん、で」
若草色の装束は、胸元に『34』の数字を刻み。
「なんで。なんて、おかしなことを聞きますね」
紫がかった長い黒髪を揺らし。
「貴方を倒すためですよ。椿さん」
一本の銃剣を携えて。
「私の手で、ね」
上里ひなたが、そこにいた。