「なんでひなたが、いや、その格好は...?」
「私が、今の椿さんに教えると思いますか?」
遠回しに拒否したひなたは、自身の持つ銃剣を素早く構える。間髪入れずに放たれた射撃を回避出来たのは、ただの防衛本能だった。
(なんで俺はひなたに撃たれて?どうして銃を持って?あの戦衣は?なんで?なんで??)
彼女は、守るべき人で。笑顔にさせたい人で。
(ひなたが...敵?)
それがどうして、真剣な表情で俺に攻撃してくるのか。
(なんで......ひなたは...あいつは...!!)
頭が割れんばかりに痛む。一緒にいたいと言ってくれた相手が、守らなきゃいけない大切な存在が、俺を狙う。赤嶺でさえ躊躇った俺が、ひなたに攻撃する。
(痛い、痛い...頭がっ!)
「ァ...ぐ...!?」
ちぐはぐになりかけていた歯車は、完全に瓦解した。
「逃げてばかりでは、倒せませんよ?」
「......ぇ」
「?」
「うるせぇ」
「!」
歯軋りした口から漏れたのは、そんな言葉だった。
「うるせぇうるせぇうるせぇッ!!!何でいる!!!お前!!!」
二振りの斧を構え直した俺は、『思考を捨てた』
----------------
「でぇぇぇぇい!!!」
「フッ!!」
数えるのは最初から放棄してたけど、流石に長すぎると思う。とはいえ、それはアタシも彼女も全力で戦っている証だった。
何度も何度も互いの武器をぶつけ合い、互いに危ない場面はあった。それをリカバリーして、相手を逆に追い込み、なんとか避けられる。
手を抜けない。ひりひりした感覚の中、距離をとったアタシは首の汗を拭った。
「スタミナは私の方がありそうだね?」
「はぁ...そうか?さっきから動きが悪くなってるけど?」
「......なら、早めに決着をつけようか!!」
素早いフックを体を倒して避けつつ足で蹴りあげるも、見越していたように回避される。
(強い...でも、負けられない!!)
「勇者は、気合いと根性!!」
「そんなもので!」
斧と拳がぶつかり合う感覚は慣れたもので、腕以外にも意識を回せるようになった。
『俺は皆より強くないからな。頭を皆より回さないと』
意識するのは、椿がしそうなこと。こういう時椿のことを考えて動くと、アタシだけじゃ気づけないことも沢山気づけて、戦術が広がる。
だからアタシは、赤嶺の足をひっかけた。
「えっ」
「油断、したなっ!!!」
バランスを崩した赤嶺に、全力の一撃を叩き込む。ガードはされたけどぶっ飛ばせた。
木に叩きつけられればそのままバリアが発動して勝ちだっただろうけど、その前に赤嶺は体勢を持ち直して足をつける。とはいえ、そのタイミングを逃すはずもない。
「アタシは!!負けない!!」
投げた斧は大きく跳躍した赤嶺に当たらない。彼女の後ろに突き刺さった斧を手元へ戻して、もう一度__________
『アァァァァァ!!』
「!?」
耳を打った音に驚いて、攻撃をやめてしまった。
(今の声...)
その声は、きっとアタシが一番聞いてきた人の声。でも、その人らしくない、苦しそうな声。
__________いや、きっと『アタシ自身が発したことのある声』
ただそれだけで、アタシは体が一瞬固まった。
「余所見は感心しないなぁ」
「っ」
瞬時におとされた踵落としを避けて、アタシは走り出した。根拠なんてないけど、走らなきゃいけないと思った。
その結果は、すぐに出た。
「くそっ!!クソッ!!」
「っ...椿さん......」
いたのは、何故か芽吹達と同じ格好をするひなたと、そのひなたへ攻撃を繰り返す椿。
「なんで当たらないんだよっ...!!」
ひなたの格好にも驚いたけど、あいつの血走ったような目を見たアタシはいてもたってもいられなかった。
「赤嶺お願い一時休戦!!!」
「え、ちょっと」
武器を捨てて、アタシは椿の体を後ろから羽交い締めにする。
「何やってんの!?」
「離せよ!!」
「離すわけないでしょうが!!!」
暴れる椿を無理やり抑えて、アタシと同じ斧を落とさせた。これで今負けても構わない。
(今椿を止めないと!!)
「どうしちゃったの!?」
「うるせぇ!!離せよ!!敵を倒さなきゃいけないだろ!!」
「ひなたは敵じゃないでしょ!!」
「俺を攻撃してきてなんで違うんだ!?」
(錯乱してる!?)
「ひなた!椿どうしちゃったの!?」
「わ、分かりません...まさかここまでなるなんて」
「離せ銀!!俺はっ!!」
「離すわけないでしょ!!どうしてこんなになってるのか分かんないけど、今あんたを離しちゃダメなことはハッキリ分かる!!!」
椿は暴れて、アタシは抑える。
「椿!!」
「俺は、俺は...俺に武器を向けるひなたなんて、いるはずが...っ!?」
「いい加減にしろっ!!!椿の戦い方は違うでしょ!!」
『俺は周りより実力はイマイチだからな。やっぱ色々考えて戦わないと』
それは、いつだか椿がぼやいてた言葉。
「椿はちゃんと、何が大切かを考えて行動する人でしょ!!ただナニカに囚われて動くんじゃない!!アタシの好きな椿はそんな、人のことを考えない人じゃない!!!」
「ッ」
椿の体が、一瞬震える。アタシの力は更に強くなった。
いつだって優しくて、誰かの為に動ける椿をずっと見てきたんだから。
どうして椿がこうなったのか分からないけど、少なくとも今は__________
「ひなたも何か言ってやって!」
「...わ、私は......私も、好きなのは、普段の椿さんなんです」
「ッ!!」
「!?」
「そんなに辛そうに戦う貴方は、貴方らしくないですし...苦しんでいるなら、支えてあげたいです。助けてあげたいです。椿さん...」
アタシも驚いたけど、誰も何も言わず動かないでいれた。一方で、椿からはゆっくり力が抜けていく。
(椿......)
一緒に寝た時は、もう大丈夫だと思った。椿だし心配いらないって。
でも、多分実際は。
(こんなに、震えて...)
昨日今日だけでこんな精神状態になる筈もないし、もしもそれだったらもっと不味い。
(幼馴染みだからって、見誤ってたのかな)
とにかく今アタシに出来ることを__________
(そうだよ。悩んでるなんてアタシらしくない)
「椿!!」
「!」
「らしくないぞ!!全く!!」
ぎゅっと強く抱きしめる。こんな時でも椿は暖かくて、慌ててたアタシ自身も不思議と落ち着く。
「ほれほれ、これで慌てるのがいつもの椿でしょ?」
「......ぎ、ん...?」
「そうそう。やっとしゃんとした?」
「...」
「......大丈夫そうだね」
心配かけさせたぶん、雑に椿を離す。しっかり見直して、決して平気ではないと思いながら、そう口にしないと励ませないようにも思えて。
(これ以上、何もなければ...)
椿が正気に戻ったなら、アタシ達は先にやらなきゃいけないことがある。話を聞いたり励ましたりするのはその後。
今はまだ、戦わなきゃいけないから。ちゃんとするのはその後で。
「ごめん赤嶺。じゃあ続けよっか?」
「私は待ってないよ。上里さんが目で動くなって言ってきただけ...それで、どうする?二対二でやるの?」
「アタシが選んでいいの?」
「そっちの二人はまだボーッとしてるし」
「...じゃ、こっから離れて一対一で」
「......いいの?そこの人を一人で戦わせて」
二人で見るのは、まだ荒い呼吸を整えている椿。
「...心配っちゃ心配だけど、多分必要なことだから」
(...きっと、ひなたにとっても椿にとっても。そして、アタシの為にも)
薄々分かってはいた。でも、覚悟を決めなきゃいけない。
「頑張ろうね、椿」
アタシは小さく呟いて、赤嶺の方を向いた。
「...ありがとう、銀」
「っ!...おまたせ赤嶺。じゃああっちでも行く?」
----------------
恐らく何分か、意識が途切れていた。証明するものはないが、焼け焦げたように痛みを放つ脳がそう言っている気がする。
(いや、思い込み...なんだろうな)
「椿さん...?」
「......ごめん、ひなた。ちょっと気が動転してた」
恐らく、俺は怖かったのだ。肉体的にも精神的にも。
ここ数日で、殴られたり、首を締められたりと、体への痛みを植えつけられた。
腹に穴が開いたことのある俺でも、それは怖い。
(...いや、違うか)
そう、違うのだ_________きっと耐えられないと感じるのは、今までのことがあったから。数年間皆といる空間は甘い蜜のようで、それに浸っていたから。より幸せな空間を知ってしまったから。
そして、精神に関しても。
「...ひなたのそれ、春信さんから貰ったのか?」
「......えぇ。そうです。東郷さんと同じですよ」
俺の改造された戦衣と同じ、防人で使う予定だった予備の装備。
ひなたもまた、東郷と同じように巫女と勇者の素質があったんだろう。素の俺と同じような少しの勇者適性が。
「最も、これを着れるかどうかの低い適性でしたけど...」
「...それでも、お前はそれを着てここへ来た。それだけの決意があった」
それだけの意思が、初めての戦いの場へ彼女を動かした。それはそうだ。ひなたにも貫きたい意志がある。
それに、これは喧嘩だと俺自身が定めていた。
だが、ひなたに武器を向けられて_____あり得ない光景を前に、俺は喰われたのだ。
「ひなたを目にした時、思ったんだよ。こうまでしてきたお前に、俺なんかが対等に戦えるのかって...な」
造反神がいるような世界にいたくない。当然皆がいるから戻りたいとは思わないが、皆を危険に晒したくないから戻るべきとは思ってる。そんな義務感、使命感みたいな思い。
そんな俺が、強い決意を持ったひなたと戦えるのか。ましてや『その決意をさせたのが俺だというのなら』どうして戦えよう。
それで、それを考えて、苦しくなった。
「...私、そんなに強い人じゃないんですよ?椿さん。今だって、さっき赤嶺さんを止めずに二人を倒して貰えば、こちらの勝ちはほぼ確定。さっきみたいな椿さんを倒して得た勝利はいらないと思った一方で、どうして弱ってる椿さんを倒さなかったのかって後悔してる身勝手な私も、確かにいるんです」
「......」
「でも、そんな汚い勝利でもいい。ここに残って長い時をまだまだ過ごしたい......そう思うくらい、貴方が好きなんです。愛しているんです。一緒にいたいんです」
ひなたは自嘲気味に微笑みながら、それでも銃剣を構える。
「今ここで、その答えは聞きません。でも...一度見逃したんです。やられてはくれませんか?」
銃口は、真っ直ぐ俺を捉えた。素人が構えようと絶対に外さない距離だろう。
それでも彼女がその引き金を引かないのは。俺の答えは。
「......もう俺、分からないんだ。自分がどうするべきなのか。どうしたいのか」
目の前にいる彼女への返事も、この戦いに望む結末も。
元々俺は、多くのことを考えてもやれることなんてたかがしれてるのだ。
だから。
「だから、確かめさせてくれ」
立ち上がり、左手で胸元のペンダントを握る。優しく、けれども確かに感じられるように。
「今俺が何を望んでるのか。お前と戦って、その答えを手に入れさせてくれ」
もし何か心の底で思うのなら、俺の斧は彼女に届かない。
もし自分の考えに迷いがないのなら、俺の斧は彼女に届くはず。
今考えるのは、目の前にいる彼女と戦い、倒すか倒されるか。それだけでいい。
「......分かりました」
「ありがとう」
二振りの斧を握り、切っ先を彼女へ向ける。
斧の先がぶれることは、なかった。
(...始めよう)
放たれた銃弾を無理矢理横へ避け、転がりながら曲げた足で地面を蹴る。
結局俺が得意なのは、つべこべ考えず、それでも思考は捨てずに戦うことなのだ。それこそ、あの幼馴染みのように。
今度こそ、彼女の気持ちに答えるためにも。
「いくぞ!!!ひなたッ!!!!」
----------------
(強いな。やはり)
高いスピード、それを維持できるバランス感覚、そして、それらを扱う完璧なタイミング。バーテックスを相手にする時とはまるで違うのは勿論、普段一緒に特訓するメンバーとも違う。
それに今回は__________
「園子...」
「御先祖様、どうしたの?」
槍を両手で握る園子の目は、普段のぽわぽわしたものではない。戦う者の闘志を伺える。
「......いや、愚問だろう」
そうなっている理由など、もう分かっているのだから。ひなたを相手にした私にとっては。
「だが、私にも引けない理由がある」
「それは、ひなタンのため?」
「そうだな。ひなたの願いを叶えたい」
椿と長くいたいという彼女の望みを叶えるために、今の私は刀を振るう。
だから、そのために。
「私だって、もう振りきれたよ。今日の私は自分の為だけに戦う。負けないよ」
「そうか...本気の園子とは、一度戦ってみたいと思ってたんだ」
純粋な興味。普段から強いと言われているけれど、そんな態度は見せない彼女。本来出会わない自分の子孫。
そんな彼女と、これ以上の槍裁きと戦える。
自然と、ワクワクした。
(私も...本気で戦いたい)
今までも本気で戦ってきた。しかし、さっきの椿を見て思えてしまった。あの銀と同じ、赤い勇者服。
もしあの姿をずっとしてられるほど、神樹が協力的ならば__________
(私の思いを証明するためにも)
「......園子」
「何?もう続けていい?」
「...あぁ、そうだな」
瞳を閉じる。自分の中に異物を入れていく。一度降ろした禁忌の力を確信した。
「降りよ...」
(これは...あぁ、これなら怒られないだろう)
私の予想通りだった。椿が勇者服をずっと着られているのに代償が何もないことから、この世界ならば精霊を降ろすことによるデメリットはなく、力に飲まれることはないのではと考えていた。実際、今も尚飲み込んでくるモノがない。
千景がいたら「ただのバフ」とでも言うだろうか。
(さぁ、いこう)
「!」
人間には決して生えない黒き翼。
着ている感覚がないくらい体と合っている装束。
普段より大きくなって、特殊な覇気を感じる生大刀。
その名は。
「大天狗!!!!」
「ッ!!!」
翼で肉薄し、一瞬の交錯で刀を返した。一撃は二撃となり、決着は__________
「私、言ったよね?負けないよって」
「!?!?」
私は一瞬で身を引いた。同時に戦慄する。
これで勝負を決めるつもりだった。不意をついた精霊の力による最大火力。
しかし、園子は振り下ろされた一撃と、勢いそのままに返した一撃。どちらも完璧に捌いてみせた上に、突きを返してきた。初見でこれである。
(これが...乃木園子)
「それが私達にとっての満開...そっか。つっきーの服がそのままなのを見て、この世界は強化のデメリットがないって思ったんだね」
「......その通りだ。流石だな。園子」
「どう?昔は精霊による精神汚染があるって聞いたんだけど」
「ないだろうな。頭に『そういう感じ』が伝わってこない」
「ふーん...私のはおっきいし、使わなくていいかな。このままの方が慣れてるし。あ、服だけ変えよっと」
一息ついて、彼女の纏う服が光る。
光が消え、その瞳を見て_____心の奥が、カッと熱くなった。
「これが私達の切り札、満開だよ...じゃあやろうか。御先祖様」
「あぁ。勝たせてもらうぞ。園子ッ!!!」
「ハァッ!!!」
音すら置き去りにする勢いで、私達は互いの武器を突き出した。
----------------
「くそっ、上手いな!」
悪態をつきながら、俺は更に足を動かした。
ひなたは当然普段から戦ってるわけじゃない。動きが素早いわけでもないし、銃の狙いも安定していない。だがそれでも、俺は彼女とまだ決着をつけられずにいた。
「私がこの世界に来て、どれだけ貴方を見てきたと思ってるんですか!!」
「チッ!」
原因はひなたにある。彼女は決して強くない。寧ろ赤嶺を相手にするより遥かに簡単だ。が、その技量の低さを俺の動きを尽く見抜くことで五分まで持っていっていた。
俺が動こうとする場所に弾丸を置いておく。俺の攻撃を理解して間合いからギリギリ外れた場所へ離れる。俺が正気を失ってた時も、こうして捌かれていたのだろう。
手は決して抜いていない。だが、攻撃は全く当たらない。
「普段の癖!戦闘時の心意気!!なにより覚悟を決めた時の決意!!全部私は知っています!!記憶しているんですから!!!」
「それならこれでっ!!」
足に当たりそうだった銃弾を避け、両手の斧を地面に叩きつける。一瞬で舞い上がった砂煙の中で、俺は敢えて右から攻めた。まっすぐからは斧を投げる。
(近距離にさえ持ち込めれば...!)
足音は消しつつ一気に距離を詰める。さっきまでひなたがいた場所で金属のぶつかる音がして、俺は斧を手元へ戻した。
(貰った!!)
そこに躊躇いはない。振り下ろされた俺の斧はまっすぐ彼女の元へ_____いくことはなく、ただ地面を新たに抉るだけだった。
(っ!?)
ほんの僅かに足を動かしただけで、彼女は目の前を通る斧を回避した。その間は顔一つぶんもない。
恐れがないのかと錯覚するほどの度胸と、相手の動きを正確すぎるまでに読みきる観察眼がなければこうはいかない。
(ヤバいっ)
そしてそのリターンは、俺にとってのリスクでしかなかった。叩きつけた斧を切り上げるにも、もう片方の斧で突き抜くのにも相手の動作より劣る。
どんな初心者でも絶対外さないゼロ距離で、銃剣が構えられた。
(集中ッ!!!!)
どこを狙うか知覚する前に、俺は斧を持つ手に力を込めた。地面に深く刺さった斧は、そこを支点として動き出す。
「どらぁっ!」
棒高跳びの要領で無理矢理体を浮かび上がらせた俺は、ギリギリ銃弾から逃れた。そのまま力任せにぶっ飛び、地面に倒れ伏す。
(読まれるなら、裏をかく!!!)
追撃の銃弾は転がって回避し、なんとかピンチから逃れられた。
「今のは読めなかったか!」
「折角のチャンスを逃しました...私は後ろに下がると思ったので」
言いながらも、引き金を引く手は止まらない。断続的に放たれる弾を避けながらも、俺は思考を回す。
(これじゃあ埒が明かない...いや、銃の精度が上がってきてる以上不利にしかならない。一か八かやるしか......)
さっきもギリギリまではいけた。ならば、少し趣向を変えれば。
(...覚悟、決めるか)
一瞬で気持ちを切り替え、ひなたを見つめた。防御を捨てて前へ出る。相手は俺の動きを読みきる彼女。
それでも、俺は吠えた。
「なら、そろそろ終わらせるか!!!」
横に逃げていたのを前へ変える。ひなたへの距離は約10メートル。
「やられませんよ!!」
しっかり構えられた銃剣からは、直撃コースの弾が吐き出された。俺が直進しているとはいえ確実に上達している。
その弾を、俺は__________
「ッッ!!!!」
「!」
飛んできた弾丸は、斧に当たって弾道が逸れた。衝撃で手元から飛んでいった斧を再び右手へ。
斧ならカバーできる面積が広いから、俺を守るためだけに銃弾を弾くだけなら、そこまで難易度が高くない。
続けて放たれた弾丸も防いで見せた俺は、更にひなたへ近づいた。彼女のバックステップを含めて、斧のリーチまではあと一発。
「このっ...!」
近くなった彼女は、構えを取り直して弾を放った。この距離での弾丸だ。目で追えるどころかマズルフラッシュを見る頃には当たっている。
しかし。
(ここだろっ...!!)
俺の右腰辺りを狙った一撃。大きな斧で防ぐには手近過ぎるしバランスを崩しかねない場所を的確に攻撃してくるひなたには尊敬しかない。練習を積んでも未だに外すことがある俺にはそんな銃撃センスがないから。
普段なら防げない。でも、今回に限っては場所が確かに分かる。この距離なら、彼女の純粋な目が教えてくれる。
(お前が俺を見ていたなら、俺はお前を見ていたっ!!)
だから、俺は彼女を信じて斧を振った。
「当たれっ!!!」
ガンと音がし、右足のすぐそばを弾丸が通った。
「!!」
構えにくい場所への弾丸を切り払うことで防いだ俺は、体勢を崩すことなく彼女に肉薄してみせた。
「ひなたっ!!」
「ッ」
流石に近距離ではこっちに分があることはお互い分かっている。それでもひなたは諦めずに銃剣を持つ手を伸ばしてきた。胸元に届きそうな剣先を、俺は両側から斧で挟み込んで動きを止める。
強引に上へ向かせ、銃口も反らした。こうなれば彼女はきっと無理せず手を離して距離を取ろうとするだろう。チャンスは今しかない。
「おおおおおっ!!」
「きゃっ」
手を離し引き下がるひなたへ、俺も斧を捨てて飛びかかる。手首を抑えて一緒に地面に倒れ込む様子は、俺が襲ってるようにしか見えないだろう。ひなたも痛そうで申し訳なさもある。
(でも!!)
ひなたは武器を顕現させても俺に向けられず、俺は彼女の手首を掴んでいて大きな斧を出すスペースはない。
「っ」
「...」
ひなたと一瞬目が合う。俺が力を抜けばそのままキスできそうな距離。戦いの最中ではあるが、お互いに顔が赤いだろう。
(...あぁ)
でも、それが逆に俺を落ち着かせた。
(......ひなた、俺は)
「...終わりだな」
「......えぇ。負けました」
ひなたが微笑むのを見て、俺も自然に口角が上がる。
ひなたの脇には、短刀が刺さっていた。
「出せたんですか?」
「元々、俺がこの勇者服の時に使えるよう調整されてる武器なんでな。銃は今出せなかったんだが」
彼女の手首を掴んだまま、二本指で刀を持つ手を作る。後はそのまま彼女のバリアが発動する場所まで持っていくだけだった。
周りにはドローンもいて、勝敗は完全に決まっている。
「ふうっ...」
「もう離れてしまうんですか?」
「いつまでもお前を倒れさせとく訳にもいかないだろ。痛いし近いし」
「近くにいたかったんですよ」
「......はい」
これまでなら勘違いしてたかもしれないが、彼女の気持ちが分かりながら照れもなくそんなことを言われれば、俺は狼狽えるしかない。
そんな俺の姿を見て、彼女はクスクス笑った。
「...ひなた」
「はい」
「......」
「答えは、見つかりましたか?」
「......整理する時間をくれ」
恐らく、答えは得た。ならば口にするために纏めるだけだ。
「仕方ありませんね...ですが」
ひなたが、小さく呟く。
「__________」
理解するより先に、本能が動く。ひなたが笑みでも浮かべていたら絶対間に合わなかったタイミングで、出した斧が吹き飛ばされた。
「勝ちは頂いたと思いましたのに」
「流石だな。椿は」
平然と二人が会話を繰り広げる中、俺は目を見開く。それは彼女が不意の一撃を与えてきたことではなく、彼女の姿。
黒い翼で空を飛び、彼女を包む装束は淡い光を放っている。おおよそ人間の姿ではない。そう__________
「若葉...お前」
精霊、大天狗に身を包んだ彼女がそこにいた。
「安心しろ椿。害はない」
「そんなの何で」
「椿のその勇者服と同じだ。本来であれば、お前のそれもおかしいだろう」
「ぁ......」
言われて気づくことはあった。適性の低さから本来もうこの服を着れない俺が、女の姿とはいえ何のデメリットを感じないままここに立っている。若葉は恐らく、それで判断し実行したのだろう。
この世界なら、本来代償のある姿も大丈夫だろうと。
「だからってお前」
「私は勝つ。どんな手を使っても、ひなたに勝利を捧げる...非難するなら受けよう。だが、そうするだけの覚悟はある」
『乃木園子、三ノ輪銀、白鳥歌野、_____』
長々と名前の読み上げが始まり、俺達は武器を構えたまま固まった。これは脱落者の合図であり、今どこにも戦闘が行われていない証拠。
『__________赤嶺友奈、乃木銀、乃木園子、上里ひなた、脱落です』
読み上げが終わると、若葉は刀を一度振るう。途中で攻めてこなかったのはフェアプレー精神なのか、精神を研ぎ澄ませていたのか。
(...きっと後者だ)
精神を蝕まれるデメリットはなく、今の彼女はひなたのために、らしくないことをする。ならば、確実に俺を屠るため、精神を統一させているんだろう。
勝つためにかつて自分を苦しめた力に手を出した。その事実に驚嘆と称賛、そして、自分に対しての気持ちが生まれる。
(俺は...俺だって)
ひなたに勝ってみせた覚悟は、なんであれ本物だ。決して偽物なんかじゃない。
「ありがとう。ひなた」
「!」
「お前のお陰で、また立てる」
(だったら、その気持ちを貫くためにも)
覚悟は、案外すぐに出来た。
「俺が勝てば、決着がつくのか」
「勝つつもりか?椿」
「当たり前だろ」
チリチリとした感覚が火花を散らす。何度かこの身をもって体験してきた感覚。
(...若葉の言いたかったこと、分かったわ)
漠然と、ただ確かに『大丈夫』だと分かるものは、俺の一歩を確実に進ませた。
「「!」」
「俺だって、負けはしない」
切り札、希望の象徴であり絶望の呪い。
炎に包まれるように光を纏った俺は、一度目を閉じた。
「若葉、勝ちを貰うぞ」
その名は__________
「満開っ!!!!」
「...そうでなくてはな!!椿ッ!!!!」
花が咲き誇った瞬間、若葉は獰猛な笑みを浮かべながら翼をはためかせ。
彼女より無骨な翼を広げた俺は、彼女と最初の交錯をした。
「絶対に勝つ!!!!この力で!!!!」