「分かってるんですか!!」
「分かってるの!?」
(これも絆の一種...なのか?同時に怒られるのは)
全てが終わり、全員が揃った丸亀城の一室。俺と若葉を迎えたのは称賛ではなくお説教だった。
「満開なんて使って!!」
「精霊の力が危険なのは知ってるでしょ!!」
「「で、でも...」」
「「でもじゃない(です)!!!!」」
俺にぷんすか怒ってるのは友奈、若葉を怒ってるのは千景で、俺達は揃って正座をしながら聞いている。
「まぁまぁお二人とも、そのくらいで...」
「「ひなた...!!」」
「皆さんの思いは同じでしょうし、そこへの追及はまた後日すれば良いですから♪」
(はい。終わったー)
擁護してくれると思った相手は地獄の門番だった。二人揃って表情を変化させる。
「それより、今は彼女に答えを聞くことが先決です」
だが、そればかり気にしてもいられなかった。理由は、ひなたが言った通りだ。
「...赤嶺」
「あ、終わった?もう少し尋問しててもいいと思うけど」
「尋問ってお前...」
「私に与えられた記憶を漁るだけでも、それだけのことをしたと思ったからね。発想自体は嫌いじゃないけど...本当、この世界だからよかったものの」
「......その辺の理由も含めて、全部教えてくれるんだよな?」
俺の言葉に、部員全員が真剣な顔つきになっていく。一方で、赤嶺は飄々とした態度を崩さなかった。
「もう負けちゃったからね。従うよ」
「...」
きっと、この戦いで定義した二つに正解なんてない。どっちも大切な選択で、正解不正解を求めるものじゃない。
だが、進める道は、交われないから。
「...何から話す」
「これまでで何度か話をしたし、赤嶺家がどういったものかは皆薄々勘づいてると思うから飛ばすとして...皆が望む、造反神の目的について話すよ。最も、こっちも薄々分かってた人はいそうだけど...」
「憶測じゃなく、確固たる事実を話せ」
「はーい...そもそも、今回の騒動は、造反神からの試練だったんだ」
「試練?どういうことだ?タマはともかく、小学生組もいるんだからはっきりとなぁ」
「つまり、私達は試されていたのだ~ってことですか?」
「そうだね」
「なん...だと」
球子が項垂れる姿に、ちょっと心が和らいだ。
「造反神という神はいなかった...いや、正確には造反神という神は神樹の中で造反などしていなかった。という解釈でいいか」
「そうだね。造反神という敵の立場を作り、皆を戦わせる。目的は大きくくくるなら一つだけど、主に三つ。一つは演習回数の蓄積」
「......」
(抑えろ)
『演習』という言葉に、無意識に反応してしまった。
皆が不安に感じていた、この誘拐じみた一連の行いは演習だったなど、どう考えても良い解釈はできない。
「記憶を持って帰れないのに、演習を経験させるんですか?」
「うん。この演習はあなた達には試練として出た。私も、随分前の精神攻撃も、この間の彼も、試練の一部。赤嶺は工作が専門だから、こうして選ばれたというわけ...それに、それだけじゃない」
「というと?」
「この空間で勇者達の戦いを見ていたのは、造反神、神樹様だけじゃないんだよ」
「...まさか、天の神?」
「ううん。その神樹様と天の神、どちらにも属していない中立の神...中立神と呼ぼうかな。中立神が天の神側に加勢しないよう、あわよくばこちらについてもらうよう人の可能性を見せたかった。これが二つ目みたいなものかな。ここまでで質問は?」
赤嶺が聞いてくる。俺は迷って、結局手をあげた。
(...ここで、聞かなきゃならない)
「どうかした?」
「どうかした、というか...そもそも、前提が理解できない。俺達の世界には、俺達が生きる時代には、もう神樹も天の神もいない。全て終わってるんだよ」
「!」
今まで明言は避けてきた事実を、率直に口にする。何人かが息を飲む音が聞こえた。
「少なくとも、こんな世界を作る力が残ってるようには思えない。可能性があるなら平行世界の神樹だ」
「平行世界って...椿の方がいってることわけわからなくなってないか」
「俺だって色々纏めようと考えながら話してるんだよ...この女の体の世界があるんだから、本来俺達とは違う、平行世界がいくつかあることは証拠もそろって存在する」
あの高嶋友奈も、本来平行世界の人間だ。
「じゃあ、なんでわざわざこの世界の神樹は俺達別世界の勇者を召喚し、戦わせた。自分の世界の勇者でいいだろうが」
「...ううん。あなた達、いや、私も含めたこのメンバーの世界じゃないとダメなんだ。欲しいのは成功例であり、失敗例ではないから」
「成功例?」
「三つ目の目的は、神樹様が私達の戦いの記録を保存するため。信じた人間が天の神に打ち勝ち、独立した一歩を踏み出す。そうした結末を、自分の世界でも作れる糧とするため」
「それじゃあ...」
「そう。神樹様の大きな目的は自分のいる世界で天の神と有利に戦うためのデータ収集。そのために、平行世界で既にその結末を手に入れた勇者を招いた」
「招いたって...拉致監禁に近いだろうが」
「それもそうだね。私としても否定するつもりはないよ」
この世界に召喚されたばかりの時、園子や友奈はまた戦うのかと怯えていた。いや、顔や態度に出さなかっただけで皆不安になったと思う。そんな思いをさせた理由が、データが欲しかったから。なんて言われれば。
(...っ)
握り締めてしまった拳から血が漏れないよう、より強く握る。
「私が話せるのはこれで全部だよ。何か聞かれれば答える。どうかな?」
「...私としては、椿さん達の時代には神樹様もいないって発言のが気になるんだけど......」
「嘘は言ってないわ。私達防人も、勇者部も、それぞれ色々大変だったから」
「数年後には、戦いに決着がついてるんだ...」
「まぁそこは後でな...赤嶺、改めて確認する。後俺達がやることは造反神の討伐。それで終わりか?」
「そうだね。終われば全員が元の世界、元の時代に返される」
「データ収集が終わったからってことか...日数は?」
「まだなんとも」
「......俺達が戦うことにもなった、戻る派、残る派、両方の意見を噛み合わせられる方法は?」
「ないよ」
すんなり彼女は答えた。そう言われてしまうと、黙るしかない。
「椿さん。いいんですよ。そりゃ私も諦めたくはないですよ」
「雪花...」
「でも、私達は珍しく言い争って喧嘩して決めた。そこにとやかく言うつもりはありません。帰るときが来れば、帰りましょう」
「えぇ。私も同じ意見です。強いて言えば...お別れの前に元の椿さんをもう一度見たいですね」
(......)
ひなたの本心が違うことは分かっている。でも、どうすることも出来ない。
せめて出来ることは、答えを返すこと。いや、答えた上で、行動で示すこと。
「...まぁ、慣れてきたけど、この体は借り物感がするから戻りたいしな」
だから俺は、今はそうやって返すだけだった。
「椿のことだから、神の野郎許さねぇ!みたいに言うかと思ったけど」
「そんなバーサーカーだったっけ...確かにふざけるなと思う部分もあるが、本来会えない仲間に会えた。仲良くなれた。それは感謝してるからな」
(それに...)
『そういう予感がした』と言えばそれまでで、口を閉じる。頭の中で考えているうちに、周りからも雑談するような声が広がった。
「湿っぽいのはなしで行きましょう!!」
「ギリギリまで方法を探すのはありですかね?ないと言われても、あるかもしれないし...」
「よぉーし!じゃあまずは皆で遊ぼう!!喧嘩したぶん仲良く仲良く!!」
どことなく暗い雰囲気だったのは霧散して、いつものような明るい勇者部になっていく様は、冷えかけた心を暖めてくれた。
(...そうだな。勇者部はこうでなきゃ)
俺の好きな勇者部は、皆との思い出は、楽しくありたいから。
「よし。じゃあ赤嶺、ひとまず俺を元の体に戻す方法はないか教えてくれよ」
「心配しなくても、多分何日かすれば戻ると思うよ。元々貴方がその姿になったのは、敵として彼を出すためだから」
「本来の勇者としての俺を出すため...か?ドッペルゲンガーを見ないようにするためなら、園子とかもダメだと思うんだが」
「より勇者に近いデータが欲しかったからだと思うよ。敵として男バージョンを出したのは、貴方以外の男性勇者のサンプルが欲しかったんでしょ」
「あいつも俺ではあるんだけどな...いや、違うっちゃ違うけど」
何人古雪椿がいるのか分からなくなってくるが、元の世界に戻ればそう会うことはないだろう。またこうして呼び出されたりしない限りは。
「...出来ることなら、約束、叶えられるといいな。これから」
乃木銀も、俺の心に入ってからもう一度死に、それから生き返ったようなものだ。これからの未来、神樹が存在しているなら銀が甦らせてくれることがあり得るかもしれない。
「約束って?」
「あいつが...戦った俺が言ってたんだよ。戦いに勝てたら銀を生き返らせてくれると造反神が約束してくれたんだって。お互い守るために戦ったから後悔はないけど、勝ったのは俺だし、出来ればあいつも幸せになるよう、神樹様は何かしら」
「そんな話ないよ?」
「ないってなんだよそれ」
「だって、用意された試練の情報はこの後の最後を除いて全部私に通知されてきたもん。彼はただ呼ばれただけだよ?」
「は?」
「だから、そんな約束を取りつけたなんて報告はなかったんだよ。神樹様がそこだけ秘匿するとも思えないし、間違いないと思う」
間抜けに開けた口が、塞がらなかった。
だって、それは。
『そうだ。この戦いに勝てば、三ノ輪銀を生き返らせてくれるという条件なんだよ。あいつともう一度やり直せる』
あの話は、全く守られないもので、平然と神に騙されて。
『...だ、だからって、俺は俺の知るあいつを痛めつけたお前を、許すわけにはいかないんだよっ!!』
二人して、踊らされて。データを取るためだけに戦わされて。
『何でお前が、そんな顔してるんだよ...勝ったんだから、笑えよ』
あいつが信じていた希望はなんて、最初からなくて。
『本気で、殺しあえる』
まるで道化師のように踊って。
ただの演習の世界で、俺は奴の元々ない希望を摘み取って。
俺達は、対等なんかじゃない。『ただ試練のために召喚され、騙されながら戦わされた者』と、『それに気づかず戦った愚か者』の二人だった。
二人とも、同じ『古雪椿』だった。
その、証明だから。
そんな理不尽が、不条理が、許される筈がない。
あの覚悟も、決意も、前提からして全て『無駄』であったなど_____
「おい」
「きゃっ、なに、して」
「...言えよ」
「ちょっ、椿!?何してんのよあんた!?」
友奈や園子を不安にさせるこの世界が、
「言えよ。今のは嘘だって言えよ。そんなことないって言えよ!!」
「ぐっ」
「何騒いで、って椿!?」
「やめろお前!!赤嶺が苦しそうだろ!!」
「椿先輩!!!」
ひなたを泣かせるこの世界が、
「言え!!!ふざけるな!!!そんなことがあっていい筈ないだろ!!!!」
皆を戦わせるこの世界が、
「椿っ!!やめろ!!!」
「あーもー!!いい加減にしろっ!!!」
『俺自身』にそんなことをしてくる、こんな世界を。
『俺(自分)が絶対に幸せになれない』世界を。
信じられるはずがない。許せるわけ、ないのだ。
「嘘だ。そんなのっ!!!!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだウソダウソダ嘘だァァアァァァァァァッッッッ!!!!」