「おーいおいおいぉぃ......」
「おーい。誰かこれ止めてくれー」
いつも通り日の光が入る部室。廊下に繋がる扉近くで立ちながら、俺は辟易した顔をしていた。
どれもこれも、理由は隣でしがみついてる元部長のせいである。
「だって、だっでぇ...!!」
「もう大丈夫だから。大体、他のメンバーはそんな長くなかっただろ。妹を見習え」
倒れたことで心配かけたのは分かっているわけで、夜のうちに連絡は入れたし、部室に来てからある程度は何をされても抵抗しなかった。
実際皆は抱きついてきたり質問攻めしてきたりしたものの、現在進行形で抱きついてきてる風がダントツで長い。涙で制服から濡れた感じが伝わってくるほどだ。
何より危惧してるのは、風が長いことやってるせいで、園子達一部メンバーが再び近寄ってきてることだった。このままだと俺は完全に動けなくなる。
「なんであんたはそんな落ち着いてるのよっ!!あんな叫んで倒れたのよ!?」
「...まぁ、自分が倒れて動揺する以上に覚悟を決めなきゃいけないことが沢山あったんでな」
苦しくなかったわけじゃないし、辛くなかったわけじゃない。それでもこんな感じなのは、目が覚めてから半日が過ぎて、また考えなきゃいけないことがあったからだ。
ちらりと見た彼女は、俺を見てにこやかに微笑んでいた。
「......ほら、そろそろ離れろ」
「なんでよ!!」
「俺が動きたいからだ...皆、聞いてくれ」
全員の方を向けば、俺の顔で雰囲気を察したのか、真剣な顔をする人が増えた。
「...悪い。今すべき話は造反神とかこの世界に関することだってのは分かるんだが、俺はまだする気がない」
「そりゃ、自分が倒れたんですからいいですし、誰も咎めたりしませんよ?椿さん」
「すまん」
「いやだからいいんですって...でも、そしたらなんでそんな顔を?」
「......まぁ、大事な話だから改めてな。二人きりでするにせよ」
そこまで言って、一度息をついて。
「ちょっと、来てくれるか?」
俺は最初の一言を口にした。
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「いざ改めて話すとなると、何から言うか迷うな...悪い。これならメモに纏めてきた方が......いや、それを目の前で見るのもカッコ悪いし、いっか」
見上げる空には、数えられる程度の雲と、太陽。それから白く小さい月。
「昨日目覚めた時さ、色々思ったことがあったんだ。夢っぽい所で話をして。俺がどんな道を選びたいかとか、どんな思いで過ごしたいかとか......でも、まず最初に思ったことがあった。何だと思う?」
当然代わり映えしない屋上に立ちながら、目を閉じる。
「想いを伝えたいって、そうするなら誰かって、自然と心から出てきた。ずっと抱えてたものが溢れたみたいに。もう限界なんだと思う。今にすれば、兆候なんて腐るほどあったし」
駆け巡る思い出は、些細なものから大きなものまで沢山あった。とても一日じゃ語り尽くせないような、そんな、大切な記憶。
「俺はかなりバカな時もあるし、後先考えずに行動する時もある。また今回みたいに無茶無謀をするかもしれない。それで、その時悔いがあるのは、告白せずあんな想いを繰り返すのは絶対御免だと思った...昨日、彼女のお陰で決心がついた。だから、今するよ」
振り返って、彼女の顔を見て、俺は。
(...今告白って言っちゃったな。俺。どうしよ)
ことの重要さを改めて自覚し、思いっきりテンパった。
「......月が綺麗だな」
結果出てきたのは、昨日彼女から教わった告白の仕方。それを受けて、目の前の彼女は__________
「何言ってるの椿?こんな昼に月なんて...あ、出てる!はっきり見えるのは珍しいかもなー」
きょとんとしてから、そんなことを言った。
「......」
「椿?」
「......ふふっ」
「?」
「あはははははっ!!!はははっ!!」
「え、こわっ」
(そっか!!知らないか!!そりゃそうだ!!!)
腹が痛くなる程の大爆笑。同時に、変な緊張が綺麗に全部なくなった。
やっぱり、彼女と一緒にいたい。
「おーい?つばうぶっ!」
「ふっ、くふっ...」
笑いを堪えながら、彼女を抱きしめて、
「好きだ。大好きだ愛してる!!俺と付き合ってくれ!銀!!!!」
俺は言った。
「......それ、嘘じゃない?」
「嘘じゃない!!!」
「ホント?」
「本当だ!!」
「...ちゃんと考えたの?他の人とか...」
「考えた!!その結果だ!!」
「......バカ?ずるいよ。いっつも思わせ振りな態度だけとる癖に、今も月がどうとか聞いて笑ってるのに...」
彼女は一瞬黙る。
「......はぁ」
そして、ゆっくり息を吐いてから、返事をしてくれた。
「アタシでよければ、喜んで」
輝く涙と、花咲くような笑顔と共に。
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「というわけで、付き合うことになった」
「知ってるわよ!!全部見てたから!!てか気づいてんでしょ!!」
屋上の扉に隠れて見ていた皆に声をかけると、夏凜がいつもの調子でツッコミを入れてきた。正直いつもの感じはありがたい。
他の皆もぞろぞろ出てきたが、この人数はいつものことながらちょっとビビった。
「ミノさん...」
「園子...同情はしないよ」
「したら怒るから」
「...ごめん」
「椿は、ひなたを選ばず銀を選んだのだな」
「あぁ...すまん」
聞いてきた若葉にも答える。ひなたを断ったことに対する謝罪は二人に失礼になるから、これはひなたを慰めてもらう若葉に対してのものだ。
「椿さん、謝らないでください」
「あ、ごめん。今のはひなたに言ったわけじゃ」
「謝る必要なんてないですから♪」
勘違いしたままのひなたは、銀がくっついていた右側とは反対の、俺の左側にくっつく。
『!?』
「ひ、ひなた?」
「確かに私は椿さんにフラれてしまいましたが、愛人でも構わないんですよ?」
「あ、愛人!?」
「なぁ須美、愛人って何?」
「ぅ...わ、私に聞かないで頂戴銀!」
小学生の方は意味が分かってなさそうだが、俺の隣にいる銀はニヤッと笑うだけだった。
「ほう?椿がアタシに告白したのにも関わらず、そこから奪うと?」
「奪うなんてとんでもない...ですが、椿さんが心変わりしてしまう可能性はありますね」
「言うじゃないかひなた。殺るか?お?」
「あら怖い」
「あの、怖いの俺なんですけど」
間近で神様より怖い存在が二人も現れ、片手は握りつぶされそうにまでなっていた。冗談抜きで再び病院送りになりかねない。
「大体ひなた、やっぱり昨日言ってたの冗談じゃなかったのか」
「冗談だと思ってたんですか?」
「そりゃお前、まさか断った直後に愛人宣言するわ、俺を好きな人は沢山いるだとか...まぁそうだったとしても答えは...」
「...」
『......』
「...まさか」
周りの反応を見て、冷や汗が吹き出てくる。
「まさかですよ」
そんな状況下で、ひなただけが薄く笑った。
月明かりが俺を照らす。別に見る場所が病院から学校の屋上になっただけで、他はそんなに変わっていない。
ただ、俺の思う心はまた変わっていた。
(嘘だったらいいとは全く思わないが...)
『はいはい!!もういませんかー?』
俺は雪花が仕切る中、部室の端っこで丸まっていたのを思い出す。起きたことが許容量を遥かに越えていたのだ。
勿論、それぞれの気持ちをちゃんと聞いた。その結果あの体勢なのだ。だって、まさか__________
『最初はお兄ちゃんみたいな気持ちでした。今はお姉ちゃんに譲れないくらい欲しいです』
『好きでした!ずっとずっと前から!』
『私は、椿先輩が好きです』
まさか、俺のことを好きな人がそんなに多くいるとは思わなかったのだ。気持ちが落ち着いた今でも、目を閉じずとも甦る。
(だが、俺が、悪いんだよな...)
彼女達の言葉は、普段とあまり変わらなかった。好きですという気持ちは、言葉にして言われたこともある。
でも、それを俺は友情的な意味合い、仲間としてのものだと思っていた。思い込んでいた。恋愛的な意味合い、恋人としてなりたいという意味ではないと。
しかし、今日のような状態になれば、その言葉にどんな意味が込められているかはバカでも分かる。
ただ、友好的なそれではないと、前々から気づいていたとしても__________
(いや、バカは俺か...)
俺のことを好きになる人なんてそういないと思っていた。それは事実だ。皆俺が釣り合うとは思えないくらいの美少女。別に銀なら釣り合うとか、そういうつもりは一切ない。が、銀を含め、ここまでとは思ってなかったのもまた事実。
なにより。
(あんな堂々と告白して、後から皆に告白されて震えてる俺、なさけねぇ......)
銀からどんな風に見えてるのかと聞かれれば、明らかにダサいだろう。もう少し男気を見せろと言いたくなるだろう。
そんな態度を一瞬でも見せてしまったことが辛かった。それは、告白した彼女にも、後から勇気を振り絞って告白してきてくれた彼女達にも申し訳ない。
(玉砕覚悟で告白するなんて、俺には無理だよ...皆勇者だわ。本当)
「はぁ...」
見上げる夜空は変わらない。いや、正確に言うなら『もう変わらない』
(こんな、最後の最後で...でも、今さら俺がどんな顔して)
別れるとしても、計画を実行するにしても、伝えるべきことは伝えたい。だが、どうして皆の告白を曖昧にしてしまった俺が何か言えるのだろうか。
「もう一度、皆の前で思いを伝えられるのか...?」
「出来るでしょ?」
「!!」
「椿なら、さ」
そこにいたのは、紛れもなく彼女だった。
「どうして」
「家行ったり病院行ったりしたけど、見当たらなかったから。まさか堂々学校の屋上にいるとは思わなかったから遅れたけど...それで?」
壁に寄りかかるようにした銀は、こっちを向いてきた。
「どうしたの?」
_____この自然な感じ。聞かれて当たり前のような感覚。別に他の人でも同じように言ってくれるだろうが、俺には彼女の声が、態度が、全てが特別なものに見えた。
(...あぁ、好きだな)
「色々ありすぎて、頭がパンクしてるところだ。誰が告白を振って、決意して告白して、と思ったらもっと沢山の人から告白されて。なんて日を24時間以内に味わうんだよ」
「椿本人が味わったんだけどね...」
苦笑いを浮かべられると、こっちも少し笑いが漏れた。彼女はそんな、少し困ったようにも見える表情をしながら、改めて口を開いた。
「いいんだよ?」
「何が」
「アタシに告白したの取り消してさ。当然じゃん?あんなに沢山の子から告白されたら、誰だって迷うよ。園子、風先輩や樹、須美、友奈、そしてひなた...皆、皆真剣だもん」
「......」
「だからさ、ね?」
そう言ってくる銀。少し唇は震えていて、両足を擦り合わせている。
だから、俺は。
「俺が、真剣に選ばずお前を選んだと?ひなたを選ばず、皆から一時的にでも逃げた俺が、そうなる原因を考えなかったと?」
「そ、それは違うけど、でも皆から告白されれば」
「確かに悩んだ。今もどう返事をするべきか悩んでる。だがそれはどう断りの返事をいれるべきか悩んでるのであって、誰を選ぶか悩んでるわけじゃなければ、お前を選んだことを後悔したわけじゃない。例え前々から気づいていたり、告白されていたとして...いや、改めて告白されて、情けない姿を見せてるのは確かなんだが、それでも、俺の気持ちは変わらない」
「!」
「...これ以上言わせるなよ」
銀を見ていた顔を月へ向ける。赤くなってるだろう顔を逸らすためじゃない。目を合わせるのが恥ずかしくなったとかでは決してない。
やがて、彼女の涙混じりの笑い声が聞こえてきた。
「...ねぇ、椿」
「ん?」
「......月が綺麗ですね」
「...月はずっと綺麗だったよ。気づけなかっただけで」
「あれ?調べた返しと違う!?それどういう意味!?」
「今度にでも調べるんだな」
----------------
「おーいおいおいぉぃ......」
「ウェェェェンッ!!!!」
「あらあら...」
目の前に広がる光景は、割かし地獄絵図だった。
焼け酒ならぬ焼け甘酒で泣き叫ぶ風さん、樹ちゃん。
「...うっ」
「......」
一方で、隅っこの方で固まっているのは、涙目の若葉ちゃん、無言の東郷さん。
他には、既成事実を画策している園子さんや、お昼からずっと纏め役になっている雪花さん。
広くて大人数が泊まれるということで集まった東郷さんの家は、椿さんに振られた者の集まりとして異様な静けさで始まり、夜になった今はもうこんな様子だった。
「あらあらじゃないわよひなたぁ!!あんたいいわけ!!あたしが言っていいのかも分かんないけどさ!!」
「そんな言い淀むことがありましたか?」
「いやだって...あたし達は......」
「私を含めた西暦の皆はもうチャンスがない。けど、同じ時代を生きている皆さんはチャンスがある。そう言いたいんですか?」
『!!?』
私が自分から言ったことで、場の空気が固まった。でも、それも無理ないと思う。
椿さんの取り合いはするけど、それを気遣ってくれるのが風さん、そして勇者部の皆だ。分かっている。だからこそ私もはっきり告げられる。
「確かに色々思うことはあります。一人だったら泣いてるかもしれません。でも、私はあの椿さんが好きになったんですから」
悩んで、真剣に迷って一つの決断を出したあの人のことを、より好きになっても、選んでくれなかったことを憎むなんてない。
銀さんだって、大切な仲間なんだから。
「だから私は沈んだりしません。最後まで、あの人に、皆さんに、私の笑顔を焼きつけさせます」
「...ひなたは、凄いな」
「はい♪」
「そんな風に割りきれるわけっ!ないでしょうがぁぁぁ!!!」
大きな音を立ててコップを机に叩きつける樹ちゃん。
「ひなたさん!!!今からでも遅くありません!!!園子さんに協力して椿さんを襲いに行きましょう!!」
「ちょっ!?樹!?」
「樹ちゃん!?」
「...アリ?」
「いや、それはダメでは」
「うん...うん!ヒナちゃんらしい!!」
「あーもー煩すぎて誰が喋ってるのか分からないのよバカー!!!」
部室にいる時のようにどんちゃん騒ぎになってきた皆さんを見て、私は心から笑った。
(お別れは寂しい。記憶がなくなるのは辛い。でも...もう一度会えて。皆さんと会えて。告白出来て......良かったです)
----------------
「ゆーゆ」
「園ちゃん?」
少し外に出て夜風に当たっていたら、園ちゃんが声をかけてきた。
「これから皆で話をするって」
「そっか。分かった!」
「...ゆーゆ」
「?」
「ゆーゆはどうしてそんなに笑顔なの?」
「え、私笑顔だった?」
「自覚ないのか~」
顔を手で触っても、笑顔かは分からない。
「......つっきーがミノさんと付き合って、いいの?」
「...正直ね、もっと嫌な気持ちになると思ってた。銀ちゃんも大切で、椿先輩も大切だけど、男の人に向けての思いはあったから」
この気持ちに嘘はない。私は椿先輩が好きだし、付き合いたいとも思ってる。
だから、その可能性が一つ終わりを迎えて、もっと嫌になると思っていた。
「でも、実際はそうでもないんだ」
『私、椿先輩のことが好きです!!大好きです!!!』
それは、後からとはいえ椿先輩に告白して、思いを伝えられたからか。
「私達の関係は、ちょっと変わるかも知れない。でも、隣にいるのが銀ちゃんなら、それも良いなって。それに、恋人が出来たからって私達のことを避ける人でもないし」
そうなれば、普段と変わらない。寧ろ、思いを伝えたんだからくっ付くことだって出来る。
「色々考えたら、そんな泣くほどでもないかなって...皆受け取り方が違うだろうし、他の皆に何か言うことはないよ」
「そっかー...ゆーゆはやっぱり強いや」
園ちゃんはぽつりとそう呟いた。
「私は、あぁやって告白できたけど...悔しいし悲しい。苦しい、かな?」
「園ちゃん......」
「だから、ゆーゆは凄いよ」
「そんなことないよ...だって、園ちゃん達が椿先輩を襲うなら、混ざりたいと思ってるしね!」
「...ぷっ、あははっ!!じゃあゆーゆも混ざる!?」
「混ざる混ざる!!」
園ちゃんが笑って、私もつられるように笑った。
(うん、そうだね)
やっぱり、私にはこっちの方があってる。あの人のことを思って、あの人について話すだけで、こんなに胸が熱くなるんだから。
その人が悩んで出していた答えなんだから。
そして、何より。
(私の好きって気持ちは変わらない...だったら、それでいい)
心の中では悔やんでるのかもしれない。泣いてるのかもしれない。
でも、今は。何よりも、椿先輩のことを思えることが嬉しい。あの人がきちんと私達のことを考えて答えてくれたのが嬉しい。あの人が目覚めてくれて、話せることが嬉しい。
例え、この世界での記憶を失くしてしまうとしても__________
「ゆーゆ。本当に強いね」
「えへへ」
『こら!!園子いつまで呼びに行ってるの!?早く戻ってきなさい!!』
「はーい!...じゃあゆーゆ、行こうか」
「そうだね、園ちゃん」
私は体を起こして、家の方へ戻っていく。
(椿先輩。私はあなたが好き...大好きですよ)
何度目か分からない気持ちに答えるように、星が一つ瞬いた。
「いっそ、椿さんが増えたらいいのにね」
「それだゆーゆ!!つっきー量産計画!!!それから寝込みを襲う計画!!!ミノさんも巻き込んでつっきーを...」
「何話してるんだい二人とも。ほら、入りな」
「「はーい」」
「じゃあほら、悪酔いしてる部長と元部長の代わりに、夜が開ける前に話纏めちゃうよ__________」