古雪椿は勇者である   作:メレク

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花結いの章 26話

あまりにもあっさり、造反神本体との戦いは終わった。

 

天の神を模倣したような姿、模倣したような攻撃。決して楽はさせないぞと言わんばかりの物量。

 

とはいえ、それは『人に攻略できるかという考えを前提とした難易度』で。

 

勇者の力に加え、神からの借り物とも言える満開が使える、この人数に対しての敵じゃない。元々攻撃を相殺するだけ、押し込まれるのをなんとか遅らせるだけならもっと少ない人数でもなんとか出来てたのだ。恨み辛みが込められた攻撃は敵を倒し続けた。

 

最後は、最前線に突っ込んだ銀と友奈が本体を叩いて。本人曰く『本物より大したことない』なんて言われ。

 

そして、感想を幾らか話して__________その時は、本当にあっさり訪れたのだった。

 

 

 

 

 

「それほど長くは、いられないみたいです」

「いやー、でもちょっと時間をくれたわけでしょ?別れの挨拶させてくれるなんて、神様は疑うべきじゃないね」

 

勇者部の部室に、全員が揃う。こうしてこの全員が揃うのは、最後になるんだろう。この後、この記憶を知った後の未来は_____俺の、『俺』自身の手にかかっている。

 

とはいえ、今それに関しては何も考えないようにした。今するべきは、大切な仲間との別れだ。

 

「...私が最初か」

 

呟いたのは棗だった。淡く光を放ち、徐々に光が花びらを作っていく。

 

「お姉様...」

「別れの時が来たようだな...こういう時、口下手な私が憎くなるな」

「棗...」

 

苦笑するような棗に、悲しそうな顔をする風。

 

「そんな顔をしないでくれ」

「棗さん...」

「どうか、お元気で」

「そうだな...ありがとう、杏、樹。最後に抱きしめさせてくれ」

 

二人揃って抱きしめた棗は、素早く次々抱きついていく。

 

「赤嶺」

「...お話できて嬉しかったです。お姉様」

 

赤嶺を抱きしめた所で、次は俺の方を向いた。

 

「椿」

「分かってる。ここで拒むわけないだろ」

 

遠慮なく抱きしめる。いや、多少は遠慮があった方が良かったのかもしれないが、今は銀も許してくれるだろう。

 

「私のこと、親友のこと...いや、沖縄にいる皆のこと。頼む」

「任せろ」

 

短く、簡潔に意思表明したところで、彼女はすぐに離れた。きっと、もう長くないことが分かってるんだろう。

 

「風」

「っ...次から次に、アイドルかっての。あんた」

 

棗と風が最後に抱き合う。風の目から溢れた涙が、棗の肩に乗って_________

 

「皆、ありがとう」

 

花びらが舞い、消え去った。

 

「...ついに、一人目か」

「いえ、どんどん続いていくみたいです」

「そうだね。私も一緒か」

 

振り向けば、今度は防人組と、赤嶺が光りつつあった。

 

「あっという間だな...」

「そうですわね...皆さん、お世話になりましたわ。後赤嶺さん、御先祖様によろしく伝えてくださいまし」

「分かった。言っとくよ」

「俺も含め、色々ありがとな!」

「さようなら」

「シズクさん、しずくさん...」

「アタシ達、今度そっちのクラスに遊びに行くからな!」

「ん」

 

棗のように抱き合うことはなかったが、それでも感情が薄いなんてことはない。

 

「あ、これ痛くないんだ。よかった~」

「雀さんはマイペースですわね」

「椿先輩、ありがとうございました」

「亜耶ちゃん...こっちこそありがとう。あっちでもまたよろしくな」

「はい!」

ここのメンバーは、元の世界に戻っても付き合いが続く。例え忘れるとしても、またすぐ会えるだろう。

 

「元気でね。夏凜」

「あんたもね。芽吹」

「...椿さんも、皆も、元の世界でも、この世界と同じくらい仲良くなれるよう願っています」

「芽吹ちゃん。またね!!」

 

友奈の言葉に、防人達は笑みを浮かべ、消えた。

 

「私もだね。じゃあ」

「いいんだな?」

「うん。私の時代は、私の世界は、私達がどうにかするから」

「分かった。じゃあな」

「うん...皆、バイバイ」

 

手を振り、赤嶺が消える。しかし、淡い光が部室から消えることはない。

 

「次は...アタシ達か」

「小学生組、帰ります」

「元気でね。皆」

「千景さんーっ...皆さんお元気で~...ぐすっ」

「いいそのっち?幼い頃からミノさんに言ってつっきーとの関係を持っとくんよ?」

「ちょっと園子!?」

「園子先輩!?それ、アタシは椿と園子が仲良くなるための仲介役ですか!?」

「...すいません。最後までお騒がせして」

「いや...須美ちゃんの頃になるか、東郷の頃になるか分からんが、その時はよろしくな」

「はいっ!」

 

須美ちゃんの返事は元気がよくて_____そのまま消えていくのに、残したものは何もなさそうだった。

 

「ラッシュが続くわね...って、次は私達か」

「うたのんと、私と...」

「雪花さんもですよ」

「そうみたいね...では!諏訪と北海道は帰ります!!」

 

敬礼する歌野、頷く水都、こっちへくる雪花。

 

「椿さん」

「ん?」

「...私には、色々揺さぶりかけてみてください。きっと何かしら深読みとかしてくれますから」

「随分雑なアドバイスだな...参考にする」

「私はさっき言ったように!そして、若葉!」

 

歌野は若葉を呼んだ。呼ばれた本人は何を考えているのか、真顔になっている。

 

だが、その顔はすぐに変わった。

 

「歌野。ここが偽りの世界だとしても、お前に会えてよかった...元の世界に戻っても、また会おう」

「えぇ。そうね。椿さんと一緒に会いに行くわ...って、泣かないでよ」

 

涙を流す若葉の目元を歌野が撫でる。

 

「しょうがないわね...大丈夫よ。また会いましょう」

「っ、あぁ!!」

「その調子その調子。さ、みーちゃん。帰りましょう」

「うん...皆、ありがとう。元気でね」

「お二人もお元気で!」

 

花になって消えていく彼女達と、涙をこらえている若葉を見て、つられて出そうになっている涙を戻した。

 

「せっちゃん!!」

「雪花!!!」

「結城っちに夏凜...そんな抱きつかれたら苦しいって...でも、そうだね......もう、寒くないや」

 

ぽそりと呟かれた最後の言葉は、彼女の宣言のようで。

 

「椿さん。私をこんな風に寒くない場所まで、お願いしますね?」

「...分かった。必ず」

 

今はそう言うだけ。それでも、彼女は安心しきったように笑って_____そのまま消えた。

 

「せっちゃん...」

「しんみりしてる暇はないぞー結城。次はタマ達だ」

 

友奈はそちらをバッと向く。当然球子の言葉に嘘はなくて、彼女をはじめとした西暦の勇者達が光始めていた。

 

「椿さん」

「杏?」

「好きです」

「...ありがとう」

「タマも好きだぞ椿!!」

「ぐおっ...」

 

腹に貰った球子の抱きつきは、確実に俺にダメージを与える。

 

「ふふっ...結構いいの入ったわね」

「タマちゃんに続けー!」

「いやユウ俺はもう...うぐ!」

 

脇から来たのはユウと、なんと千景。

 

「千景まで」

「これで、最後だから」

「...あぁもう」

 

そう言われてしまえば何も言い返せず、俺は全員を抱きしめる。

 

「若葉も来るか?」

「...私はいい。離れたくなくなってしまいそうだからな」

 

若葉は毅然と友奈達の方を向いた。目元に涙はあるものの、まさに勇者の様だ。

 

「皆、お別れだ。元気でな」

「若葉さん...」

「御先祖様......」

「そんな顔をするな。私も限界なんだ...ひなた、私は変な顔していないよな?」

「頂きました」

「写真を撮るなぁ!!」

「はいはい!若葉さん暴れない!」

 

杏に取り押さえられた若葉がひなたに手を伸ばすも、ひなたは俺の背中に隠れてしまった。

 

「皆さん、挨拶はいいんですか?」

「お別れは言うけど、今顔見せられないよ!」

「...だそうだ」

 

うっすら感じていた、服越しの濡れた感覚。どうやらそれは間違いではなかったらしい。

 

「皆、元気でね!」

「タマには思い出しタマえ!!」

「...じゃあね」

「皆さん、ありがとうございました」

「あぁ。さよなら。未来の勇者達」

 

若葉の言葉を最後に。花達は散っていく。俺もかなり楽になった。

 

(...幸せな重みだったな)

 

「......ん?」

「どうかしましたか?椿さん」

「いや、ひなたがいる?」

 

背中にいた彼女だけが、西暦のメンバーで唯一残っている。

 

「私が最も早くにこの世界に来たので、切り離すのにも時間がかかってるんだと思います」

「今までの順番、別に来た順じゃなかったような...まぁ、いいか」

 

特に気にしていられなかった。光始めた俺達は、そんなことを考える時間なんてもったいない。

 

そんなことを考えるくらいなら、最後の言葉を考える。

 

「元祖勇者部。って感じね。部室が広く感じるわ」

「そうですね。元々この人数でも増えたと思っていましたが...」

「あっという間に増えたものね......本当、あっという間だったわ」

「皆といたら楽しかったもんね!」

「...皆さん、まさに勇者って人達でした」

「じゃあ私も、勇ましくいきますか~」

 

意味深なことを呟いた園子は、すっと俺の元に近づいてきた。

 

「つっきー」

「園子?」

「んっ」

「......」

『あーっ!?!?』

「......!?」

 

頬に感じた感触は一瞬でも、理解には相当な時間がかかった。そして、理解した瞬間顔が赤くなる。

 

「そのっ!?おま!?」

「ふっふっふ...ご馳走さま。やっぱり記憶があるうちにしておきたかったからさ。じゃあ先に行くね」

「お前っ、まっ」

「皆もチャンスだよ~」

 

唇をなめた園子はすぐに消えてしまった。俺が何か言う暇もない。

 

(俺達は一人ずつなのか...ってか、園子の奴......)

 

数日前なら、何でこんなことをしてきたんだと言っているだろう。だが、もう俺は彼女の想いも、キスの理由も分かっている。だからこそ、拒むことも難しい。

 

(いや、銀に失礼か...?)

 

ちらりと銀の方を見たら、本人はニヤニヤしていた。

 

「モテる男は違うね~?」

「それでいいのかお前...」

「だって皆の気持ちは知ってるし、止められる気もしないし」

「そうか...ん?」

 

発言が引っ掛かったのと、目の前に樹がいたのはほぼ同時。

 

「椿さん。記念です」

 

唇が近づいて来るのを、俺は身動きができずにただされるがままだった。

 

 

 

 

 

「......」

「あらあら」

「完全にショートしてるな。これ」

 

銀とひなたが何か言っているが、俺には分からない。今俺が見えてるのは、目の前で笑う彼女のみ。

 

「えへへ...椿先輩、私、幸せです」

 

友奈の笑顔は魅力的で、こっちまで引き込まれそうで。すぐに見れなくなってしまったことを凄く残念に思うくらいだった。

 

「さて、皆もいなくなって...次はアタシかな。光具合から」

「銀さん。元の世界に戻っても椿さんと仲良くですよ?」

「それは約束しかねるなー。意見が食い違えば喧嘩もするだろうし......ほら、椿はいつまでそうしてるの!」

「うぐ」

 

頬を軽く叩かれ、ため息をつく銀が見える。

 

「ひなたとのお別れ、それでいいの?」

「...すまん。ありがとう」

「はいはい」

 

俺を立て直すのに最適な言葉をすんなり言われて、俺も一杯一杯だった感情を落ち着かせた。

 

「銀もキスするか?」

「帰ってからでいいよ。もういなくなるし。ひなた!」

「はい」

「アタシも、今までありがとう。ひなた達がいてよかった...でも、この後椿を襲っちゃダメだからね?」

「善処します」

「それダメなやつ_____」

 

ツッコミは最後までされず、銀は花になって消えた。残るのは、俺と、彼女。

 

「しまらないなぁ」

「言われなければ、今のうちに既成事実を考えたのですが」

「...ん?」

「なんでもありませんよ...お別れですね。椿さん」

「......そう、だな」

 

つっかえた言葉を出しきって、俺はひなたの方を向いた。これがもう、最後になる。

 

(泣くのは違うだろ。俺)

 

ここまでで俺だって涙は出そうになっている。だが、本当に泣きたいのは俺より彼女の筈なのだ。

 

「椿さん」

「何だ?ひなた」

「抱きついてもいいですか?」

「...おいで」

 

俺達の距離がゼロになり、柔らかい感触が伝わってくる。儚く折れてしまいそうな、逆に、どんなことがあっても曲がらなさそうな。

 

「嬉しかったです。また貴方と話すことができて。また触れることができて...きちんと想いを伝えることができて」

「......俺も、聞けてよかった。ありがとう」

 

彼女が、彼女達が俺を好きになってくれた。それは、俺にとっては凄く幸せなことだ。

 

「...最後に一つ、いいですか?」

「何でも」

「今度、来るときに...一度だけでいいんです。私と会ってくれませんか?」

「いいのか?この世界の記憶はないし...なんなら、俺のこと全く分からないんじゃ」

「それなら、それまでです。でも、そうじゃないなら...というより、もう一度、会えるなら。私と会ってください。会いたいんです」

「...分かった。必ず果たす」

 

はっきり答えたことに、ひなたからの力が強くなる。

 

「...ありがとうございます」

「別に、どうってことない」

「でしたらもう一つ」

「おう。何でも...」

 

その続きは、俺の口から言えないまま飲み込まれた。

 

「!?!?」

「んっ...ぷはっ」

 

触れていた唇が離れ、近すぎて見れなかった彼女の顔がはっきり見える。

 

「お、お前っ」

「やっぱり我慢できませんでした。唇同士は私だけ...銀さんには、後で謝っといてくださいね?」

「っ...」

 

舌を出す彼女は、やっぱり可愛くて、やっぱり好きで。

 

「......ひなた」

「はい」

「...必ず。会いに行く。約束だ」

「......はいっ!!」

 

その返事と共に見せてくれた涙混じりの笑顔は、俺には勿体なさ過ぎる気もした。

 

(例え、この世界の記憶がなくなっても。新しい思い出くらい、作ってみせる)

そうして、俺達は光に包まれる。最後に見えたのは、最後まで笑顔のひなただった。

 

「大好きです。椿さん」

 

 

 

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