「ひなたー!写真とってくれ!!」
昔から写真を撮っていた。思い出を残すのは好きだったから。
「おー、ひなた、撮るの上手だな!タマも撮ってくれよ!」
「こらタマっち先輩、頼むのにそんな言い方はないでしょ?」
それは、丸亀城で生活するようになってからも。
「折角だ。写真を頼む」
「ほら千景!卒業証書を持てって」
「椿君もだよ」
「た、高嶋さん、押さないで...」
「分かった分かった。俺は逃げも隠れもしないから」
若葉ちゃんが多かったアルバムは少しずつその割合が小さくなって。その誰をも失いそうになった時、そのアルバムにまた一人増えて__________
「あれ、ひなた?」
「はい!?」
「うおっ、ごめん。驚かせちゃったか」
気づけば目の前にその人がいて、私は大きな声を出してしまった。
(裏返ったり変だったりしてませんよね...?)
「休憩中か?」
「はい。折角天気もいいので」
「確かに、これはそのまま寝れそうなくらい良い天気だよなー」
「椿さんはどうしてここに...」
私が今いる場所は、大赦本部の近くにある公園。普段であれば、私達の生活圏から離れている場所だ。
「俺もちょっと大赦に用があってさ。バイクも持って来なかったから歩こうとして、お前を見かけた」
「そうでしたか...言ってくださればご一緒しましたのに」
「んー......ちょっと、なぁ」
曖昧に笑う椿さんに違和感はあるものの、追求するのはやめた。無理に言えば話してくれるだろうけど、したいわけじゃない。
「では、帰りましょうか」
「いいのか?」
「これ以上いたら夕方まで寝ちゃいそうです」
もし椿さんが隣に座ったりしたら、私は本当に動く気がなくなってしまう。
「折角ですから、少し遠回りして景色を見ながら帰りたいです。私」
「...了解。お姫様」
「わぁ...!!」
曲がった先、目に飛び込んできた景色を前に、私は思わず声が漏れた。
「車に乗ってる時見つけてな。良いだろ?ここ」
通りの両側から咲いている、満開の桜。それが道の先まで沢山。
「もって後数日だろうけど...今は最高だろう」
風が吹いて、桜が舞う。花びらの一つを手の平で掴んだ椿さんは、くすりと笑った。
「毎年毎年、咲いてるのは一週間やそこらなのに、どうして桜は他の花よりニュースになったりするんだろうな。ピンクの花が珍しいからなのか、散り際が美しいからなのか」
「...きっと、私達がここから動けないのが理由ですよ」
難しい言葉なんていらない。綺麗で、美しくて、それを見れることが幸せ。ただそれだけなのだ。
「......そか。そだな」
椿さんもそれだけ呟いてから、桜並木を見上げる。
いつまでそうしていたか分からない。
「ひなた」
「はい...?」
唐突に伸ばされた片方の手は、私の頭に触れた。
「花びら、ついてるぞ」
「......あ、ありがとう、ございますっ!?」
私はそこで、片手が椿さんと繋がっていることに気づいた。いつの間にか椿さんに手を伸ばしていて、椿さんはその手を取ってくれていのだ。
「す、すいません!!」
パッと手を離す。「おおっ」と言いながら、椿さんは私を見た。
「別に気にしなくていいのに。あ、もしかして汗かいてた?」
「そんなことありません!!」
「そ、そうか...まぁ俺は気にしてないから」
(それはそれでどうなんですかっ!)
「あ、そうだ。折角だから写真撮ってくれよ。ひなた」
「写真ですか!?」
「お、おう。ほら、こんな景色を見れる機会はまた遠くなるだろうからな」
「...分かりました」
少し熱くなった頬を無視するように、私はすぐにカメラの準備をした。
「じゃあ撮りますね」
「あぁ。よろしく」
「?椿さん、こっち向いてください」
「え?俺必要ないだろ?」
「椿さんが桜を見てる写真を撮るんじゃないんですか!?」
「いや別に...普通にこの景色だけのつもりだったが。なんならひなたが入った写真を俺が撮りたい」
「それと同じくらい椿さんが入った写真が欲しいです!!」
「お、おぅ...」
私の気合いに押された椿さんが、動揺したまま桜並木の間に入る。
「これでいいか?」
「ポーズもとりましょうよ」
「どんなのが良いか分からん」
「任せてください!!」
椿さんに似合いそうな注文をして、どんどん写真を撮っていった。
「モデルになった気分だな...というか、恥っず......」
「はい椿さん!もう一枚!!」
「...はーい」
気づけばカメラのアルバムギリギリまで撮っていた私は、なんとかその手を止めた。
「出掛ける前に整理しておけば...」
「まぁまぁ。さて、俺もひなたを撮らせてくれ」
「っ、はい」
椿さんは片手にスマホ、片手に私が貸したカメラを持って位置を交代する。
「......」
「?どうかしましたか?」
「...いや。何でもない」
「何でもなくないですよね??椿さん??」
「うっ...言わん!そんな目で見ても言わないからな!!」
私の疑いの目を撮り始めた椿さんに、私は一度ため息をついて笑顔を作った。折角彼のスマホに残るのなら、良い顔を保存してもらいたい。
だから、彼の心情を察して照れてしまった顔としては残らない筈だ。
「ふぅ...」
「もういいんですか?」
「そこまで枚数多くても...あ、折角だし二人で撮るか」
「いいですね!是非!!」
「えっ」
椿さんの手を取り、桜並木を背景に写真を撮る。
「ひなたっ」
「何ですか?」
「いや、いくら何でも近すぎじゃ」
「スマホのカメラに入りきりませんよ。もっと寄ってください」
「っ...わかった!逃げないから!!」
照れた様子の椿さんは、笑顔で。
画面に見える私も笑顔で。
撮られた写真は、とても大切な宝物になった。
そんな写真が、私の目の前から飛びたつ。次に目の前に来たのは、まだ記憶に新しい彼の写真。次は全体で撮った集合写真。
人数が増えた現状で撮ったこれは、小学生の頃のクラスで撮った写真のように、一人一人がとても小さい。
(...えぇ。分かっています)
これはきっと、最後の記憶だ。忘れる前に私が見せている、私達の記録。
(皆さん、素敵な人達ばかりでした)
人柄もそう。恋のライバルとしてもそう。この記憶は、私だけなら忘れようとしても忘れられない。
でも、今回は__________
(きっと元の時代に戻ったら、忘れてしまうんでしょうね)
わざわざ神様がそうするとは思えないし、赤嶺さんが嘘をつくこともない。きっと、ここから抜け出せば泡のように消えてしまう。
(...でも、そうですね)
例え覚えてなくても、例え思い出せなくても。
「私、皆に会えてよかった」
私は、皆が一緒だったこと。彼を好きだったこと。彼にもう一度会って、気持ちを伝えられたこと。全部、あってよかったと思う。
「椿さん。貴方に会えてよかった」
私達二人が写った写真を最後に、私の目は閉じていった。
この胸の温もりは、例え思いが消えたとしてもあり続けるものだから。