そして、タイトルはツイッターでアンケした新しいものにしましたが、話としては花結いの章からの続きです。ご注意ください。
では本編をお楽しみください。
最初に降り立つ地が四国の遥か北、北海道だということは、説明がなくとも分かっていた。銀と一緒だった時のような感覚で、相手が300年近く意識のある精霊だから、あの高嶋友奈の話してないことまで手に取るように分かる。
(本当の二重人格みたいだな...とりあえず)
俺達には二つの誤算があった。彼女の飛ばした地点が地上から離れた遥か上空であったこと。もう一つは__________
「さっっっっっっむ!?!?」
試される大地、北海道の気温を侮っていたことである。自由落下で風が当たり寒い。滅茶苦茶寒い。
「お前なんで知らないんだ!?分かってたら春信さんに厚手のインナー入れて貰うよう頼んだのに!!」
『俺が生まれたのはお前が帰ってからの四国だぞ。その頃どうやって北海道の寒さが分かる。今は感覚共有はしてないから俺は快適だしな』
「絶対後で交代してやるからな!!!!寒いっ!!口もだし目痛い!!あっ!」
人間ピンチになると頭が回るもので、すぐさま俺はあるものを取り出した。
『それは...バイザー?』
防人の隊員が使っている、目元を覆うバイザー。かつて炎に包まれていた樹海の外へ出向く際、目の保護にと使用されていた物だ。視野が少し狭くなるため、芽吹達一部メンバーは着けてなかったりしたようだが。
「これで、雪が当たることはない!!」
口に入った雪を食べながら、低いところにあった雲を突き抜け、地面が見えるようになる。
『!あそこ』
「分かってる!!」
叫びつつ、背面につけている武器を掴んだ。持ち手が伸び、両手で掴めるようになる。
(...大型のメイス)
俺の武器適性を見抜いていた春信さんが、元の世界で作っていて、だが完成前に天の神との戦いが終結したため、お蔵入りになっていた武器。
その形は、知ってか知らずかあの古雪椿が使っていた物によく似ている。
「...行こう」
『レイルクス、システム起動。推進翼、放熱翼最大展開。行けるぞ』
「......ッ!!!!」
一瞬でかかった最大加速であっという間に目的地へ_____会いに来た彼女の元へ向かう。
「貫け!!!」
そうして捩じ込んだメイスは、初めて使うとは思えないほど正確な軌道で星屑を穿つ。あまりの勢いに雪と地面を抉りながら止まった時には、周りの星屑が俺に注目していた。
だが、俺にとってはどうでもいい。
俺が今見ているのは、本来会うはずのなかった、会えない筈だった仲間の一人。秋原雪花だけだった。
「さぁ、ここから始めよう」
(まずは、いらない邪魔者を倒さないとな)
万感の思いを込めて呟いた俺は、両手でメイスを構え直し、雪の降る空へ飛んだ。
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何の脈絡もなく、本当に突然現れたその人は、私と同じように白い化物を一匹一匹倒していった。
違うことと言えば、その速度。大きな鈍器で鈍器を叩きつけたり、突然取り出すナイフらしき物を投げたり。とにかく私が倒すより遥かに素早く敵を倒していく。
そうなれば、私がギリギリで守れていた戦いは、ただの虐め現場に変わっているようにすら思えた。途中から逃げ出そうとしていた相手にすら、正確無比な一撃を叩き込んでいる。
あっという間に全滅させたその人は、辺りに残っていないか確認してから、私達のすぐ近くに降り立った。
(っ!)
咄嗟に槍を構える。あんな強さ尋常じゃないわけで、人の姿をしているとはいえ味方である保証はないのだから。
しかし、息をついた彼の第一声は_________
「なぁ。話す前に厚手の服がある場所に案内してくれないか?寒さ限界...ぐしゅ!!」
そんな言葉と、鼻水を出すほどのくしゃみだった。
「大丈夫ですか?」
「ん。平気平気...これだけ着てれば暖かい」
黒のオーバーコートに、灰色のマフラーまでしっかり巻いた件の人物は、私達が助けた女の子と話していた。
「あの方も、勇者様なのでしょうか...?」
「私には何も」
一方、私は隣に座るおばあちゃんの呟きに答える。といっても、知ってることなんて何もない。
私達が訪れたのは、まだ敵に襲われてない、服や生活品が残っているショッピングモールだった。もうここで働いてる人はいないし、皆日用品は大体揃ってるから化物に見つかるリスクを負ってまでここに来る人は少なく、案外食料品以外の物は残ってるお店も多い。
「すいません。お孫さんをお借りしてしまって」
「いえ。寧ろ感謝するのは我らの方です。勇者様も、改めて助けてくれてありがとうございました」
「御自宅まで送りましょうか?」
「いえ。これ以上迷惑をかけるわけにもいきませんし、家も歩いて数分です」
「...分かりました」
バイザーを被った変な人と、おばあちゃんの会話はまぁシュール。ぽけーっと見ていた私は、全く会話に入れなかった。
(ま、いっか。私の目的は...)
「勇者様!さようなら!!」
「えっ、あ、うん」
「お兄さんもありがとう!!またね!」
「おう。気をつけてな」
二人がいなくなって、残るは私達だけ。
「...あの二人はマフラーもしてなかったが、北海道の人はこのくらいの寒さ慣れてるのか?こんなにくそ寒いのに?」
「......ねぇ、そろそろ真面目に話がしたいんだけど」
「あ、そうだな。いや分かってる。どうして似たような力を持ってるとか、そもそもお前誰とか。だが、立ち話もなんだ...」
バイザー越しに、私達は目を合わせた。そして、私は震えることになる。
「とりあえず洞窟に行こう。雪花、お前が作ってる奴」
「っ!?」
「二人で話すには、それが一番いい」
誰にも言ってない私の逃げ場。一文字も告げてない私の名前。その二つを同時に言われた私は、今度こそ頭が真っ白になった。
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「結構広いんだな」
半ば放心状態の雪花に連れられたどり着いた洞窟は、確かに人が入ってくるには厳しい場所にあった。
(さて、ここからどうするか...)
雪花に言われる前にこの場所を当て、名前を言った。これで彼女の警戒心は高くなる。
(いや、もう言っちゃったんだ。今更戻れない...やるしかないな)
「...なんなんですか。貴方」
「俺の名前は」
(待て)
「んっ!?」
「んっ...?」
「...ごめん。ちょっとだけ待って」
(何だよ)
(彼女を四国に届けるとなると、俺達ではない俺と会うことになる。その時同じ名前だと面倒だろ)
(た、確かに...でももう顔も見せてるし、意味ないんじゃ)
(まだ見せてないぞ。これのお陰でな)
顔に触れると、人にない硬さが手に伝わった。
(バイザー!)
(後は適当に偽名でも使えば、少なくとも同一だと確信されるまで時間はかかるだろう。その間に同じ人でも違う存在と区別できる程になる...かもしれない)
(まぁ、何もしないよりはマシ...か?事情を汲み取ってくれるかもしれないし。よし)
「俺の...俺の名前は、海来石榴(みらい ざくろ)だ」
『未来』から来た『海石榴(つばき)』。なんとも安直な名前を口にした。
まぁ、そんなものどうでもいい。大切なのはここからだ。
「それで、なんでここを知ってるかとか、お前の名前を知ってるかという話だが...」
『多分私相手だったら、色々含みながら伝えた方が良いですよ。きっと深く考えて惑わされて動揺してチョロくなります』
(言われた通り、当たって砕けてみますか)
本人に言われたことを思い出して、少しだけ微笑みながら、俺は口にした。
「それは、俺が未来でお前と出会ってて、お前を助けるためにここへ来たからだ」
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『俺とお前は未来で会ってる。その特殊な力を持った、勇者と呼ばれる存在が集められた異世界で』
『お前は俺だけじゃなく、他にも20人以上と仲良くしてたんだ。お前の名前は勿論、この場所の存在もその時聞いたから、お前から聞かなくても分かってたってこと』
『それで、俺はお前と約束した。それを果たすためにここに来たんだ』
次々に言われた言葉に、私は他人事のように聞いていた。だって、あまりにも突拍子のない話なのだ。異世界だの未来だの。嘘ならもう少し信憑性のある嘘をついて欲しい。
だけど、だからこそ私にはその話が全て嘘には思えなかった。
「どんな約束をしたんですか?」
「えっ」
「えって何です」
「いや、こんな話突然したのに信じてくれてるみたいだから...」
「言ってること無茶苦茶過ぎてとりあえず話聞こうってだけです」
「そうか...」
顎に手を当て、何か悩む様子の海来さん。
「俺がお前とした約束は、な」
「はい」
「寒くない場所に連れていくことだ」
「...はい?」
思ってた以上に抽象的な言葉に疑問を浮かべてしまう。
「ここは寒いだろ?」
「は、はぁ。慣れてるつもりですけど」
「違う。確かに物理的な寒さもあるけど、俺が言いたいのは精神的な話だ。北海道でただ一人の勇者。果てのない防衛戦。周りから利用されそうになる日々。そりゃ、こんな洞窟を用意するのも無理はない」
「......」
「俺は、そんなお前を連れ出しに来た」
「...日本で安全な場所なんてあるんですか?」
「ある。いや、安全安心とは言いにくいが...そのうち日本は四国だけになるからな」
「四国...」
行ったことのない、南の方の島。今こうして化け物に襲われてる中、何故そこが安全なのか分からない。
「俺が説明出来るのは大まかにここまでだ。ここからは説得、交渉になる」
「交渉て」
「初対面でべらべら意味わからんこと喋る奴を丸ごと信じるような奴とは思ってない。だったら俺はメリットを提示してついてきて貰うしかない。お前も好きだろ?」
「...一理はありますけど」
「四国が安全かどうかは口以上に証明出来ることがない。だが、俺の強さはさっき見せた通りだ。星屑...白い雑魚だけなら大したこともない」
(雑魚って言い切るのか、この人...)
確かに、ついさっき見た強さは圧倒的だった。数の暴力なんて関係ないくらいには。
「助けたいのがお前一人で、この場所が安全なら籠城戦の支援も考える。だが、お前以外にも助けたい仲間はいるし、そいつらに会って欲しい気持ちもある。そして、ここが安全とは言いづらい。だから俺はお前をここから連れ出したい。この寒い場所から」
「......」
「だから、一緒に来てくれないか?」
差し伸べられる手。それを私はすぐに取れなかった。
(いやいや、信用できないから...)
「まぁ、すぐに答えを出せとは言わない。まだ余裕はある」
「...分かった。考えさせて」
「了解。んじゃ外行ってくるわ」
マフラーを巻き直して、手に息を吹き掛けた海来さん。
「何処へ?」
「さっきある程度把握したが、一般人を避難させる手段を探したりしてくる。後は見回り。被害をこれ以上大きくしたくないしな」
「...凄いですね」
どこか親近感のあった存在が、急に遠く感じた。こんな洞窟を作る私と、今外へ出ていこうとしている彼の差は、大きい。
「凄いことなんて何もないよ」
「だって、貴方の言ってることが全部真実なら、今来たばかりの地域の人を助けようとしてるんですよね?」
「まぁそうだな」
「そんなの聖人じゃないですか」
それこそ、誰かのために戦える聖人、『勇者』だ。
そんな思いを込めた言葉を聞いて、海来さんは少し笑った。
「そんなことない。俺は雪花を助ける。その為にあの人達を助けるだけだから」
(それは......)
「どういう、意味ですか?」
意味が分からなかった。私を助けたいから皆の避難の準備を始める。というのは、どういうことなのか。
「お前を助けたい。ただ死なないようにするだけじゃなく、心から喜べるように。だから、お前が助けようとしてる人は助ける」
「わっ、私は助けようとなんてしてません!!」
条件反射だった。あまりにも勇者らしくない発言なのは分かっていても、それが本心な筈だから。
「だって、私、私はこうやって自分だけ隠れられる場所を作ったりしてるんです!自分だけ生きられるよう、引きこもろうとっ!!」
だから。私は誰かを助けられる勇ましい存在なんかじゃない。
「だから私は、そんな、勇者なんかじゃ...!」
「......こんな感じだったか...そうだな。かもな」
海来さんが微笑む。何もかも見透かされてるかのような笑みに、私は動揺した心が更にざわめくのを感じる。
「雪花」
やがて、彼は口を開いた。
「お前は勇者だよ」
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「さっきお前は、自分の命をかけてあの二人を守るために戦っていた。これだけ完成した隠れ家があって、尚誰かを守るために。それだけで十分なんだよ」
この時代で見た彼女は、まだ半日も経ってない。 でも、これまで見てきた彼女と根っこは同じだ。何だかんだ言って誰かの為に動ける女の子。
「だから俺は、お前自身がそうじゃないと言っても言ってやる。秋原雪花は立派な勇者だ」
彼女は今度こそ固まり、俯いた。無理もないだろう。突然変な奴が来て、自分のことを色々言われて。
(...落ち着ける時間が必要だな)
「俺は一度出る。色々急に言って悪かった...暫く敵は迎撃するから、お前はあの人達のことも含めて、自分がどうしたいのか、ちょっと考えてみてくれ。お前が守りたいと思う人達は、俺も守る。この力の限り」
言うだけ言って、俺は外へ出た。この夏に近い季節だと流石の北海道でも雪は降らないと以前雪花から聞いたことがあるが、天の神の影響か、雪景色に変わりはない。
(彼女は、どういう選択を取るだろうか)
(きっと一つさ。で、俺達もやることは一つ。あいつの望みを叶えるために動くだけ。まずは情報収集をしとこう)
空を飛んだ俺は、ついさっき助けた二人の家へ向け加速した。
(若葉達の初戦闘をタイムリミットとした場合、期間は約三ヶ月)
「必ず皆を、届けて見せる」