「酷いな」
雪花と別れてから一日して。色々と情報収集、偵察を行い、俺の口から溢れた一言目がこれだった。
まず土地。これは仕方ない所もあるが、星屑に襲われた場所はボロボロ、コンクリートも一部剥がされ、瓦礫の山になってる場所すらある。
次に天候。結局昨日から雪が降り続け、慣れない俺は足をとられることもしばしば。寒いし。
続いて物資。衣服は足りてるが、食料、更には日常的に利用する物の一部が足りていない。襲われてからの正確な年数は分からないため、持った方ではあると思うが_____
(一番酷いのは人だな。そりゃ雪花も『寒い場所』なんて言う)
恐らく村長やら町長やらのお偉いさんなんだろう。その会話を盗み聞きした所、食料配給は役に立つ人を優先的に配ることで差が生じていて、自身の保身的態度が目立っているように感じた。
その事自体にとやかく言うつもりは俺にはない。食料を動ける人間に優先的に配布するのは合理的だとは思うし、この状況、自分可愛さで動かない人の方が信じにくい。
だが、俺自身がどう思うかは別だ。
『生け贄を用意するので、どうにかならないだろうか』
『勇者様にも、そろそろいらない人間は捨てるべき判断をしてもらわねばならないな』
『そろそろ養子の件も...両親が亡くなっているしな...』
更に問題を言うなら、それをうだうだお偉いさん方の話し合いでしていることと、雪花を巻き込んでいる点もある。
(胸糞悪いな...まぁ、あれでも雪花が守るというのなら俺も助けるが)
「...戻ろう」
策は練れた。後は本人の意思を問い、実行するだけ。そう考えながら、俺は硬い雪の足場を蹴った。
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どれくらいそうしていたか、私には分からなかった。ひたすら繰り返すのは自問自答。
(私は勇者...そう言ってもいいの?)
ただの臆病者で、我が身可愛さで行動していた。人を助けるのも、結局は非道な人間だと思われたくなかったからだ。
そんな私を勇者だと言う人が突然現れて。全部本当だとするなら、未来から来て、異世界で私と会って、生き延びさせるために四国へ連れていこうとしている人。
(...無茶苦茶だ)
改めて考えても無茶苦茶だった。突拍子の無さすぎる言葉の羅列。とても信じるには値しない。馬鹿馬鹿しい。
『だから俺は、お前自身がそうじゃないと言っても言ってやる。雪花は立派な勇者だ』
じゃあ何で、こんなに声が頭に残るのか。
「答えを聞いてもいいか?」
気づけば、頭に乗った雪を払いながら、バイザーを被った彼がいた。
「お前はどうしたい?」
「......っ」
息を飲んで、言葉を吐き出そうとする。なるべくいつも通りに、掴めない感じで。
「正直、貴方が言ってることを信じられるかと聞かれれば、バカなのかって答えますよ。意味わからないですもん」
本当に、理解には及ばない。
「でも、貴方の強さは見ました。守ってくれるなら私は安全ですしね。護衛つきでこの洞窟より安全な場所に連れてってくれるなら、断る理由もないでしょ。一緒に行きますよ」
「そうかい。なら、あいつらはどうする?この北海道にいる人間は」
まるで、その先の私の言葉を知っているかのような聞き方、言い方。それでも私は全力で乗っかった。
「声をかけて、ついてくる人は拒みません。私だけ逃げますなんて言ったら、後ろから刺されそうですもん...手伝ってくれるんですよね?」
「...お前がそう言うなら、乗ってやる」
お互いに悪役っぽい笑みを浮かべた私達は、どちらからともなく拳を付き合わせた。
「よろしくお願いします。海来さん」
「あぁ。よろしくな。雪花」
(私は、自分が勇者だと思えない)
今までの自分の行動は、胸を張って勇者だと言えるものじゃないだろう。
(だから、これから見てもらおう)
目の前のこの人や、まだ知りもしない勇者から。
その人達に言われれば_____きっと、私は自分を勇者だと言えるだろうから。
だから、これは交換条件だ。私は守ってもらうために利用する。彼は私に言ったことを、本当なのか確かめる__________
「さて。じゃあ早速行動しよう」
「何をするんです?」
「北海道を出る準備だ。目標は二日。大丈夫。算段は立てた...雪花、とりあえず生きてる人を一ヶ所に集めて貰えるか?」
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「集まってんなぁ...」
小さく呟いたのは、隣の雪花にも聞こえなかったらしい。彼女はこっちを見ることもなく、前を向いていた。
市の集会場らしい場所。小学校の運動会で使われてそうなお立ち台の上に、俺達は立っていた。目の前に集まって来たのは雪花が招集をかけた北海道で生きている住人。
(50...60か。思ったより数が少ないな)
他の人からすれば、彼女より目立つように立っている俺を見てひそひそ話が始まっていた。無理もないとは思う。バイザーしてる変なやつが勇者と一緒にいるんだから。
(じゃあ、ここからは俺がやろう。伊達に年は食ってない)
(成る程。じゃあ任せる)
『俺』の感覚を変えるのは、やはり銀と俺の感覚を変えるのによく似ていた。
「さむっ!?」
「え?」
「......これで全員か?」
「あ、はい」
「了解」
(じゃあ、上手いこと立ち回るとするか)
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(っ...)
「皆さん。聞こえていますか」
海来さんが話し始める前から感じだした違和感は、発声された途端に強まった。姿は当然変わりないのに、その仕草や言葉に威圧感を受ける。私はそうでない場合を知っているから驚いてるだけだが、初対面でこれはなかなか苦しいだろう。
「初めまして。自分はこの地の土地神、カムイからの使者です」
『!』
自己紹介からぶっ飛んだ説明に、全員の顔が驚く。
「どうか驚かずに聞いてください...突如現れた異形の化け物。それは誰にも予測できないものでした。ここ北海道では、彼女、秋原雪花様に勇者となる力を与えこれまで耐えてきましたが...いえ、事実耐えきれてはいなかったでしょう。そして、辛うじて保てていた均衡も、間もなく崩れてしまうでしょう」
言葉にするのが難しい神聖さ、『人じゃない』感じがすると言うべきなのか。
(なにこの人...)
さっきまでの海来さんの言葉を信じた理由が情だとするなら、今の彼は、膝をついて頭を下げてしまいそうになる。
「これに対し、カムイは一つの決断を下しました。この地に住んでいる方々を守るために、自らの力を使って私を召喚し...この地を放棄することを」
『!!』
その言葉に、どよめきが走った。
「目指すは四国です。あそこには多くの神が集い、力を結集しつつあります。唐突な連絡となってしまい申し訳ないのですが、生き延びたいと思う方々は、明後日までにこの地を去る準備をお願いします。その時点で、カムイはこの地を放棄します」
(どこまで、真実なんですか...?)
事前にある適度聞かされていた私でも戸惑いを隠せない。つまりそれは、他の人からしたらもっと分からないことだろう。さっきからざわつきが止まらない。
「あの、使者様」
「はい。なんでしょう?」
そんな中で声をかけたのは、ある意味予想通りの人_____この辺りで一番権力のあった及川さんだった。私にも何度か養子に来ないかと誘って来たり、守る人に優先順位をつけさせようとしたりする人。
「四国の神様をこの地に集めることは出来ないのでしょうか?そうすれば、我々は危険な道を歩まずに済みます」
「それは出来ません。この地は既にほとんどの力を使い果たしてしまいましたから。今から集まるまでにここは陥落してしまうでしょう」
「っ...で、でしたら、どのようにして我々を四国までたどり着かせてくれるのでしょう?」
「手段に関しては考えがありますが、ここでは話しません。皆様は突然のことに驚いているでしょうから、それを落ち着けてから聞いて頂きたいのです」
「こ、この地を放棄ってことは、ここには戻れないんですか!?」
別の人の声に、海来さんは悔しそうな顔をした。
「....残念ながら、そうなります。どうしてもこの地を去りたくないという方は、残る選択をとることも出来ます。神の御加護は受けれませんが...申し訳ありません」
「い、いえ、安全な場所まで運んでくださるというなら...私は従います」
「わ、私も言われた通りにします!!」
遠くから手をあげたのは昨日の女の子。
「...ありがとうございます」
そこからちらほらあがる手や声。でも、当然賛成意見だけじゃない。
「だ、騙してる可能性はないのか!?あんたはホントに神様の使いなのか!?」
人ならざる者のオーラを本能的に感じるけど、寧ろそれだけで信じる人が多かったように思える。
(私が後ろにいるってのもあるのかな...いや、皆もう藁にもすがりたいんだ)
少なくない死傷者、しょっちゅう現れる敵、隠れ家なんて作ってる守り人。
「確かに、その意見も最もです。ですが、これはこれまで皆様を守ってきた勇者、秋原雪花様も了承済み...そして」
突然小刀を出したことに皆が驚くも、海来さんは構わず投げる。投げた先には_____死角から泳いできた化け物に刺さった。
「野良で一匹現れただけのようですね...貴方達は自分が必ず守れます。不信な行動を取るようならば...後ろから私を刺してくれて構いませんから」
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(いや、凄いな)
(それほどでも...いや、あったな。正直誤算だった)
短刀を回しながら、さっきの集まりを振り返る。精霊ツバキの気迫は確かに凄かったが、突然現れた不審者に対していきなり信じきる人がいるのは意外だった。あれは狂信者の目だ。
(それほど極限状態だと言うことだろう...好都合ではあるが、よく見張らないと何をしでかすか分からないな)
(平和に送り届けられればいいんだが...)
「あの、海来さん」
「ん?」
脳内会議が終わった所で今度は外から声をかけられ、俺は刀を消した。
「さっきの話、どこまで本当なんですか?」
「寧ろ本当のことを探す方が難しいんじゃないか?」
「えぇ...」
雪花が変な顔をしているが、さっきのパフォーマンスはそんなものだ。
神の使いはあながち間違いではないが、カムイの話は雪花から聞いた話を一部混ぜただけの、丸々嘘。目的は雪花達を助けるためで、他の人はあくまでおまけに過ぎない。助けないときっと雪花が傷つくから。それだけ。
野良の星屑は、その前に残り一匹になるまで近くの奴を討伐しといたからだ。マッチポンプだが、あれで俺の実力は見せられた。
「信じてついてきてくれるなら何だっていいんだよ」
「後ろから刺されてもいいんですか?」
「寧ろ今の俺を殺せる相手がいるなら、そいつにこの立場を変わってもらった方がいい」
一般人にやられるようなら、俺はまずここにいれなかっただろう。
「ま、いいや。とりあえず色々準備してくるから、また明日な」
「今からどこ行くんです?もう夜ですよ?」
「どこって、出発の準備。じゃ」
住人名簿を頭に叩き込んだ俺は、目的地まで迷うことなく飛んでいった。
「雪花だけなら、抱えて飛んできゃいいんだけどな」
今年の更新はここまでです。来年もよろしくお願いします。