(何かがおかしい)
星の様に空を覆う白い奴らを見て、思ったことはそれだった。
壁の外から入ってきた奴らは、バーテックスと同じ敵の反応が出ている。だがあれはバーテックスの生き残りなんかの数じゃない。むしろあれが本体の様な軍勢。
(俺達の知らない場所...壁の外で、何か起きている)
「先輩、私東郷さんのところに行きます」
「俺も行く」
近くに風や樹の反応はない。諦めて、ひとまずは東郷の元へ向かった。
特に何事もなく、バーテックス擬きも襲ってくることもなく東郷の元までたどり着けた。
「東郷さん、なにしてるの!?」
東郷の立つ先には、抉られた壁があった。そこから白いバーテックス擬きが出てくる。
「なんだよこれ...」
「壁を壊したのは私です...友奈ちゃん。これ以上貴女を傷つけさせない」
「東郷、お前なに言って」
「あんた!自分がなにしたかわかってんの!?」
跳んできたのは夏凜。刀をまっすぐに東郷へ向ける。
「夏凜ちゃん...古雪先輩も。外を見ればわかります」
「外?」
「壁の外...そっちの真実を見れば」
言われるままに歩くと、景色が変わった。
「何...これ」
夏凜が呟く音、友奈が息を飲む音、俺は恐怖した。
「赤い...」
世界が赤くなっていた。
(こんなことが...!!)
「これが、この世界の本当の姿。壁の中以外は全て滅んでいる。バーテックスは無限に襲来し続ける」
東郷の言葉の直後、バーテックス擬きは一ヶ所に集まり、以前俺が倒したバーテックスに姿を変えていった。
「この世界も私達も未来はない。体の機能を失い続け、大切な、楽しかった思い出も消えて、それでも戦う...これ以上大切な友達を犠牲にさせない!!!」
「東郷...さん」
「お前...っ!!」
襲いかかってきたバーテックス擬きを刀で切り伏せる。
「バーテックスに進化する雑魚って所か...」
手応えのなさから結論づけてる間に、夏凜が東郷に襲いかかった。
「夏凜!」
「これしか方法がないの!どうして止めるの!?」
「...私は、大赦の勇者だから」
「なんで...やめてよ...二人が戦うなんて」
「っ!友奈!!」
風との喧嘩で壊れた盾を投げ、バーテックス擬きと一緒に爆発した。
「くっ、逃げるわよ友奈!」
「待って夏凜ちゃん!東郷さんが!!」
完成した、いつか見たバーテックスが逃げる二人を爆発させた。
「二人とも!!」
精霊バリアがあるため無事ではいるだろうが__________
「古雪先輩も、私を止めますか?」
一人残った東郷が問いかけてくる。突然突きつけられた世界の危機に、俺は__________
「止めるよ」
自然と、口が開いていた。
「俺は、例え供物だとしても、生き地獄だとしても、記憶を無くすことになっても...この世界で、皆と生きたいと願うから。今は戦う」
あいつのように諦めなければ。あいつのように『魂』があれば。守りたいものがあるなら__________
「あぁ...戦う。俺は戦う!!」
この勇者服は彼女の証。二本の斧は絶望を振り払う希望の象徴。
「友奈、東郷、風、樹、夏凜、園子...守りたいと願う者のため。そしてこの世界を守った銀の為に!!!」
「っ...」
東郷が銃をこちらに向けてくる。俺はそれを避けて__________東郷の横を通り抜けた。
「な、何を!?」
「お前を説教すんのは後だよ!覚悟しとけ!!」
きっと、本当の意味で東郷を止められるのはただ一人_________俺は後でジュースでも奢らせて反省させればいい。
(それよりも、今は...バーテックスどもを止める!)
一通のメールを送って、俺は壁を飛び降りた。
俺は、俺の出来ることを。
「見せてやるよバーテックス!!これが俺達の魂だ!!」
俺はやったことないが、体が、魂が覚えている。
だから叫んだ。
「満開!!!!」
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「樹...」
樹海化して、見たこともない敵が出てきてから。私は樹の姿を見ているだけだった。
足がすくんで、恐怖にかられて動けない。他の皆もいない。
(あたしは...)
皆を巻き込んだ本人が怖じ気づいて動けない。
ふと、眼帯を触る。椿や樹がおしゃれだと誉めてくれた眼帯は、散華の跡。
「樹、どうして...」
『いつもお姉ちゃんの後ろを歩いてばかりだった私が、自分で歩くために』
「後ろどころか、前を歩いてるじゃない...」
『お姉ちゃん。ありがとう。家のこととか勇者部のこととか!』
いつか、言われた言葉。あたしは_______________
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お姉ちゃんは動けなくなってしまったので、私が一人で戦っている。ちっちゃな敵はバーテックスより全然弱いけど数が多い。
(スケッチブックもスマホも使えないしなぁ...)
戦いながらお姉ちゃんに声をかける方法がないならと、ずっと右手を振るっている。伸びた糸は襲ってくる敵を切り刻むけど、終わりは見えない。
(お姉ちゃん...)
きっと、心で戦ってるんだと思う。だから私はお姉ちゃんが勝つまで耐える。
(お姉ちゃんならきっと勝てる。だって...いつだってお姉ちゃんは可愛くてかっこいいもん!)
この思いが届いてほしい。だからもっともっと暴れよう。
そう思って振り向いたら__________目の前に、口を開いた敵がいた。
(あ、)
「妹に頼りきってるわけにはいかないわ!!」
大きな剣で切るお姉ちゃんが目の前に現れてくれて、私は思わず抱きついた。
「樹、大丈夫?」
こくこくと頷く。
「よし...行くわよ樹!!」
二人で敵のところまで行こうとして、お姉ちゃんのスマホが鳴った。
「って、出鼻くじかれたなぁ...今誰がメールできる...!」
「?」
覗き込むと、『東郷が壁を壊してる。そっち頼む』とのメールが。
「椿から...よし、行くか!!」
「!」
今度こそ移動を初めてすぐに、壁の近くで花が咲いた。
「あれって...!」
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「友達に失格も合格もないっての...」
勇者になれなくなった友奈に迫る敵を刀で凪ぎ払う。
勇者は戦う意志を見せなければなれない。今の友奈はそれがないのだろう。
「でも、東郷さん泣いてた...なのに私は......」
涙を流す友奈に、私は聞いてみた。
「友奈...あんたは、どうしたい?」
「...東郷さんを止めたいよ。世界が壊れたら皆と一緒にいられなくなる」
「そ」
返しは淡白になってしまったけれど、もう決意は出来た。
「夏凜ちゃん...?」
「友奈、私、もう大赦の勇者として戦うのはやめるわ」
「え...」
「...勇者部の一員として、戦う。友奈の泣き顔、もう見たくないから」
そう言い残して、私は樹海の一番上まで登った。見渡す限り白い敵と、奥にはバーテックスも見える。
一度スマホを出して、アルバムを眺める。出会ってすぐに開いてくれた私の誕生日パーティーで撮った写真。
(あの頃の私から、随分変わったな)
それは勇者部のお陰。
ちらりと左肩を覗く。私の満開ゲージーは全部貯まっている。
「あの数、一筋縄じゃいかないものね...」
散華は怖い。それでも、きっとなんとかなる______
「バーテックスを殲滅して、東郷を探して...」
友奈の元へ引っ張り出す。それが私に出来ることだから。
何より、今命を削って戦っている先輩の負担を減らすためにも________
「さぁ!!遠からん者は音に聞け!!近くば寄って目にも見よ!!これが、讃州中学二年、勇者部部員!三好夏凜の実力だぁぁぁぁ!!!」
啖呵を切って、私は戦場に躍り出た。
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「どうしたどうした!!その程度か!?」
満開してついた羽を広げて、バーテックスの上をとる。
「このまま...ここから...出ていけぇぇぇぇぇ!!!」
一回り大きくなった斧から伸びた炎は針を持つバーテックスの倍近くの大きさになり、一刀のもとに焼き切る。
「もぉいっちょぉぉ!!」
降り下ろした斧を横凪ぎに払い、叫びながら、広がる雑魚をなぎ倒す。
「っ!」
咄嗟に上へ回避すると、さっきまでいた場所に無数の矢が通った。いつかのバーテックスがこちらを向いている。
「よくも...」
_______後ろ______
「!!」
もう一度回避行動をとると、後ろのバーテックスに反射された矢が戻ってきていた。
(今の...)
「勇者部五箇条!一つ!!挨拶はきちんと!」
反射板を持っていたバーテックスは、更に後方から現れた夏凜に蹴られ、切られた。
「夏凜...」
「椿!」
背中合わせに寄り添い、敵の数をもう一度確認する。裏をかかれたり神樹様の方へ向かわれたらたまらない。
スマホで見た数と視認できる数が一致する。近くには三体。矢を放つ奴と、爆弾を産み出すやつと、地面を這いずり回るやつ。
ちらりと後ろを見ると、夏凜が見えた。見たことのない衣装に豪腕が四本。どう見ても満開中である。
「...何も言わないのね」
視線に気づいた夏凜がこっちに言ってきた。本人も俺も、それが夏凜が満開したことについてだとわかっている。
「...言いたいことはあるけど、俺も同じことしてるしな。助けてもらったし何も言えないよ」
「ふふっ...さ、さっさと殲滅するわよ!」
「あぁ。いこう!!」
バーテックスの矢に合わせて別方向へ散る。俺が相手するのはその矢を放つバーテックス。
「勇者部五箇条!!一つ!!なるべく、諦めない!!」
夏凜の声を聞いて安心した。こんな場面で勇者部五箇条を叫んでくれる彼女は、心から勇者部に入ってくれたんだと実感できた。
(だったら俺も!)
「勇者部五箇条!一つ!!よく寝て、よく食べる!!」
飛んできた矢と炎がぶつかり、矢が爆発した。そのまま乱舞を浴びせる。
「くっ...」
時間切れか、満開が終わってしまった。同時に腹の感覚が失せる。
(これは...胃でも持ってかれたかな?)
「勇者部五箇条!一つ!!悩んだら相談!!」
地面に落ちていくと、丁度這いずり回っていた奴が喰らいに来た。
(戦うための場所が残ってるなんてラッキーだな!)
「一番大事なものはもう取られてんだ...好きなだけ持っていけ!!」
さらに満開。そのまま斧を突き刺し、中から火炙りにした。
「バーテックスをここまで簡単に...封印も必要ないし、強いなこれ」
感心したまま雑魚の掃除をし始める。
「これでぇ!」
炎を纏わせた斧を投げると、辺りが星空のように瞬いた。
「「勇者部五箇条!一つ!!なせば大抵、なんとかなる!!!」」
夏凜もバーテックスを一体倒し、最後は息の揃った声。
「やったな夏凜」
「見たかー!勇者部のちからー!!!」
夏凜から返ってきたのは返事ではなく、叫びだった。まるで俺の声が聞こえていないような意志疎通の不出来__________
(まさか、満開で!?)
「っっ...」
「夏凜!!」
気絶して落ちていく彼女を慌てて支える。
(...俺も、ヤバイな)
満開が切れた俺の意識も、そこでなくなった。
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「東郷!!これ以上壁を壊しちゃダメ!!」
風先輩に剣を打ち付けられるものの、精霊の守りを貫くことはできない。
「私達が救われるにはこれしかないんです」
「部長として...あんたを止める!!歯を食い縛りなさい!」
横凪ぎに振られた剣に当たって、私は炎の中へ飛ばされた。
「私は負けられない...」
絶望しかない未来に友奈ちゃんを、皆を残さないために。
「負けられないの!」
覚えている中では一度だけ起こした神の力を顕現させた。
「あんた、満開を!?」
「二人とも、退いてください」
もうすぐ以前にも見た大型バーテックスが生まれる。それを神樹の元へ通せば__________
「退くわけないでしょ!」
「っ!!!」
動かない風先輩と樹ちゃんに向けて、主砲を放った。
「東郷ー!!」
風先輩と樹ちゃんに直撃した主砲は、壁も巻き込んで爆発した。
「......勇者の力では神樹本体を傷つけることはできない」
出来た道を、悠々と大型バーテックスが通っていく。
「でもこれを神樹に持っていけば...殺しきれる」
バーテックスは移動するまでもなく、炎の球体を作り出して発射した。
「やめろぉぉぉぉ!!!」
風先輩の悲鳴が聞こえても、なにも起こらない。
(これで、世界は...)
誰も止めることは________
「勇者...パーンチ!!」
聞き覚えのある声と共に、球体が爆発する。
「そんな...」
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夏凜ちゃんと椿先輩が満開してバーテックスに立ち向かっていくのを、私は見ていることしか出来なかった。
「夏凜ちゃん!椿先輩!!」
二人がバーテックスを倒しきって墜落する。
制服姿に戻っていた二人は、どちらも動かなかった。
(満開したから...!)
「夏凜ちゃん!!椿先輩!!しっかりしてください!」
「......友奈、夏凜を...東郷を...」
「先輩!!」
「俺は、大丈夫だから...」
椿先輩が息絶え絶えに言ってくるのを聞いて、夏凜ちゃんに寄り添う。夏凜ちゃんは目は開いているけどそこに光がない。
「誰...椿?」
「夏凜ちゃん!!」
「...この感じは友奈かな?ごめん、目と耳持ってかれて...」
夏凜ちゃんがわかるように、手を頬に持っていく。
「夏凜ちゃん!夏凜ちゃん!!」
「...私ね、言いたかったことがあるの」
泣きじゃくる私に、夏凜ちゃんはか細い声で言ってきてくれる。それが今にも消えてしまいそうで_________
「ありがとう」
「っ...」
「誕生日会を開いてくれて、居場所をくれて、大切な仲間にいれてくれて......ありがとう」
「夏凜ちゃん!!」
「私じゃ東郷を止められなかったから...あいつを、助けてあげて」
「でも!」
「私なら大丈夫だから...行きなさい」
私の声が聞こえているように言ってくれる夏凜ちゃん。私はそっと夏凜ちゃんを寝かせて、涙を拭った。
「行ってくるね!!」
勇者には、なれた。
「勇者...パーンチ!!」
飛んできた火の玉を殴って止める。見える先には満開した東郷さん。
「もう迷わない!私が勇者部を...東郷さんを守る!!」