古雪椿は勇者である   作:メレク

31 / 336
二十九話 終わって、始まって

(俺も...)

 

勇者となって駆ける友奈を見て、体を震え上がらせる。

 

散華で取られたのは胃と左足と右腕と左耳__________現状確認できたのはそれだけだ。

 

(散華って一回一ヵ所じゃないのかよ...!!)

 

前に銀がやった時は、銀が全部持ってってくれたのか_______

 

「くそがぁぁぁ!!」

 

立ち上がろうにも体は満足に動かせない。このままでは__________

 

 

 

 

 

『勇者は、気合いと根性ー!!!』

 

「っっ!!?」

 

いつか、俺じゃない俺の口が叫んだ言葉。その声に自然と押され、体が軽く起き上がる。

 

(そうだな...)

 

壁に寄り添いながら見上げると、遠くに見えたのは大型バーテックスと東郷、友奈。大型は二つに割れ、中から炎を纏った敵が次々現れる。

 

きっと、もう体は満開しなければ戦えない。辿る道は園子のように祀られるというものかもしれない。

 

それでも。まだ戦えるなら。

 

「銀仕込みの根性、見せてやるよ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「とまれぇぇぇ!」

 

おっきなバーテックスの攻撃を避けて殴ろうとするけれど、東郷さんのビームで遮られてしまう。

 

「ダメよ友奈ちゃん!!」

「東郷さんやめて!そいつが神樹様についたら私達の世界がなくなっちゃう!」

「それでいいの...一緒に消えてしまおう」

「よくない!!!」

 

気づいた時には満開していた。そうしなきゃ東郷さんもバーテックスも止められない。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

東郷さんの攻撃を避けて、椿先輩の様な炎を纏った敵を蹴散らして、おっきなバーテックスに拳を叩き込んだ。

 

「御霊!」

「ダメっ!」

「くぅっ!?」

 

御霊への止めはさせなかった。

 

(やっぱり、ちゃんと話さなきゃ...!)

 

「東郷さん、何も知らずに過ごしてる人だっているんだよ。私達が世界を救うことを諦めちゃダメなんだ!だってそれが」

「それが...勇者だから?」

 

東郷さんは涙を流していた。

 

「それが勇者だって言うの!?他の人なんか関係ない!一番大切な友達を守れないなら...世界を守る意味も、勇者になんかなる意味もない!!」

「東、郷さん...」

 

呆然としている間に、バーテックスは御霊を隠してしまった。

 

「っ、回復して...」

「友奈ちゃん。もう手遅れなの」

「手遅れなんかじゃない!!」

 

東郷さんのビームを真正面から受け止める。

 

「ううっ...」

「戦いは終わらない。私達の生き地獄は終わらないの」

「東郷さんっ!!!」

「っ!」

「地獄じゃないよ!だって、東郷さんも皆もいるんだもん!!!」

 

ビームを弾いて、まっすぐ東郷さんを見つめる。

 

「どんなに辛くたって大丈夫!東郷さんは私が守るから!!」

「大切な思いを忘れてしまうんだよ!大丈夫なわけないよ!!」

「きゃあっ!」

 

東郷さんのビームを受け止めきれずに、樹海に叩きつけられてしまった。

 

「友奈ちゃんや皆のことも忘れてしまう。それが仕方のないことだって割りきれない!!一番大事なものを忘れてしまうくらいなら...こんな世界!!」

「忘れないよ!!」

「どうしてそういえるの!?」

 

東郷さんの質問に、答えられることはただひとつ。

 

「忘れない。だって、私がそう思ってるから!!滅茶苦茶強く思ってるから!!!」

「......私も、私達も、きっとそう思ってた」

「っ!」

 

その言葉はきっと_______前に会った、乃木園子ちゃんと東郷さんのこと。なんとなくそう思った。

 

「今はただ、悲しかったということしか覚えてない。自分の涙の意味さえわからない!イヤだよ!怖いよ!きっと友奈ちゃんも私のこと忘れてしまう!!」

 

私にその気持ちは分からない。

 

(でも、私の気持ちも本当だから)

 

「はぁぁぁ!!」

 

樹海から空へ、東郷さんのいる場所へ。

 

「東郷さん!!」

 

東郷さんの抵抗を避けきって、私は殴った。衝撃で倒れないようすぐに抱きしめる。

 

友達を殴りたくなかった。こんなことはしたくなかった。

 

(でも!)

 

「忘れない。私は忘れないよ」

「っ...嘘」

「嘘じゃない」

「嘘よ!」

「嘘じゃない!!」

「......本当?」

 

東郷さんがやっと開いてくれた心。私はそれをこじ開けるため、東郷さんに笑顔で言った。

 

「本当だよ。私はずっと一緒にいる。そうすれば忘れない」

「うぅ...友奈ちゃん、友奈ちゃん......」

「大丈夫だよ」

 

優しく抱きしめてあげると、東郷さんは涙をぽろぽろ流す。

 

(できれば泣かないで欲しいな。東郷さんには笑っていて欲しいから)

 

だから私はもっと抱きしめた。暖かさが伝わってほしいなと思いながら。

 

「忘れたくないよ!私を一人にしないで...うぁぁあぁん」

「うん...うん」

 

抱きしめ続けていると、突然光と熱さが伝わってきた。

 

「!?」

「っ!?」

 

東郷さんと一緒に見た先には、おっきなバーテックスがちっちゃいのと合体して大きな火の玉になっていた。というより寧ろ_______

 

(太陽...)

 

太陽はまっすぐ神樹様に向かっていく。

 

「そんな...」

 

 

 

 

 

「ここは死守する!!!」

 

聞こえたのは椿先輩の声。満開した先輩は太陽を押し返そうとする。

 

「椿先輩!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

遠くてこっちの声は聞こえていないけれど、 先輩の声が聞こえて少し安心した。

 

「私達もやろう!あいつを止める!」

「うん!」

 

続いて私達も回り込んで、力を込めた。

 

「東郷...」

「古雪先輩、私...」

「今度、ケーキ作ってこい。お前が滅多に作らない紅茶付きでな。和を重んじるお前に無理やり作らせるとか、ピッタリの罰だろ?」

「っ...」

「一気に押し返すぞ!!」

「「はい!!」」

 

三人の力が合わさって、太陽の速度はどんどん落ちていく。

 

「...止まらない......」

「こっのぉぉぉぉ!!!」

「絶対諦めない...っ」

 

満開が解けてしまった。そのまま地面にまで落ちていく。

 

「友奈ちゃん!」

「友奈!!くそっ」

 

(東郷さん...椿先輩...ごめん)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

友奈が散華して落ちて行ったが、それを助けられるほど余裕はなかった。

 

「もう...だめ...」

 

諦めそうになる東郷を鼓舞する意味でも、もう一度叫んだ。

 

「勇者は、気合いと、根性ー!!!」

 

だが二人だけでは________

 

「よく言った椿!!」

「風!樹!」

 

風と樹も満開して押し返す。

 

「お前ら満開を...」

「言いっこなしでしょ!」

「...あぁ!!」

「風先輩も、私...私は」

「お帰り。東郷」

「っ!ただいま。です」

「そこかぁぁぁぁ!!」

「夏凜!来てくれたのね!」

「勇者部を、なめるなぁぁぁぁ!!!!」

 

飛んできた夏凜も、両腕だけでなく満開して止める。

 

(目も耳も使えてない筈なのに!!)

 

「皆行くよ!押し返せ!!」

「おう!!」

「はい!」

 

太陽のように燃え盛るバーテックスに、左手の斧をもっと強く打ちつける。じりじりと減速しているが、まだ足りない。

 

「五人でもダメなの...」

「くっ!」

 

これ以上行かせられない。

 

(世界がなくなる...そんなこと......)

 

 

 

 

 

『椿』

 

(っ!!)

 

『勇者は、気合いと根性と_______』

 

動かなくなっていた右手に、斧を呼び出す。二つの斧に白く輝くの炎を纏わせ、背中の羽からも炎の輝きが出る。

 

(...見ろよ。これが勇者部の、勇者の、俺達の!!)

 

「魂だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

俺は両腕でバーテックスを止めた。

 

「椿...よぉーし!勇者部...」

『ファイトー!!!!』

 

全員の叫びは届き、バーテックスの動きは完全に止まる。

 

ならあとは__________

 

「私は!!讃州中学勇者部!!」

 

後ろから聞こえる名乗り。

 

「友奈!」

「友奈!!」

「友奈!」

「友奈ちゃん!」

「(友奈さん!)」

 

「勇者!結城友奈!!!」

 

 

 

 

 

届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

月明かりをぼんやり眺めると、流れ星が落ちた気がした。

 

バーテックスとの戦いから、数日。

 

事の顛末としては、太陽の様なバーテックスは爆発。俺達は全員生き残り、すぐさま病院に搬送された。

 

大赦が全員の勇者システムを回収したらしいので、戦いは本当に終わったのだろう。

 

壁の外の世界、次に使わされる勇者、それを抜いて、俺達の戦い。という意味では。

 

現実にも被害がフィードバックされたらしく、その日は事故が多発したらしい。死人はいないらしいのでその程度ですんでよかったと今でこそ笑い事だ。

 

朗報は、神樹様が供物を捧げなくても良いと判断されたことだろう。聞いた話だと風も樹も東郷も夏凜も、回復傾向にあるらしい。

 

らしい。というのも俺はまだ病院にいるため実際はメールでしかやりとりしていない。面会も明日以降となっている。

 

大赦の使いが来て渡された紙には、俺の勇者システムの満開が足りないスペックを補うことも含めていたので多くの供物を捧げる機能だったこと。そして、多くの供物を捧げたため治りが遅いということが書かれていた。だとすれば園子の方がきついだろうから、根をあげるつもりはない。

 

それから、俺の使っていた勇者システムは処分されるとのこと。なんでも俺以外の適性者を受け付けなくなったらしい。それから大赦とは連絡もつかない。

 

勇者システムの廃棄について、特に反対はしなかった。俺達の戦いが終わったなら、関係ないだろう。世界が滅ぶかは次の世代だ。

 

というより、ボケッとして適当に返してしまった。

 

戻ってきた日常。守り抜いた世界だが、二人は未だに帰ってきていない。

 

(友奈...銀)

 

意識が未だ戻らない友奈と、満開の後遺症にも関わらず戻らない銀。

 

(早く、戻ってこい...)

 

俺は星に願いながら、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから。思ってなかったんだ。こうも突然戻ってくるって。

 

『おはよう椿!』

「......おはよう。銀」

 

少しだけの、奇跡の時間が始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。