古雪椿は勇者である   作:メレク

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花紡ぎの章 16話

「...」

「終わったんだ」

「そうだな」

 

古雪椿が言った場所への移動_____元々俺(ツバキ)が生まれた世界ではない、ある平行世界からの帰りを最後に、俺達の目的は全て終わり、産みの親とも言えるあいつと別れた。

 

久々に味わう無重力感覚は少しだけ懐かしい。

 

『全ての古雪椿なんて救えない...ただ、関わったあいつくらいは。助けれるなら』

『それは、お前が良いと思ってるだけかもしれないぞ。もっと苦しい思いを奴がするかもしれない』

『それでも。ただ利用されただけの存在に、もう関わってしまった存在を、助けられるのに無視するなんて出来ない』

 

「それで、あの世界で戦った、白い勇者服を着た俺がいる世界の三ノ輪銀を助ける。か...」

「その子達の後は見ないの?」

「見ないよ。そんなことに力を使いたくないし、もしあの世界の未来が良くない結果だったら気分悪いだろ」

 

確かに俺はあいつの願いに答え、平行世界の椿を助けた。しかし、もう助けることはできない以上、その世界の結末を知るというのはあまりにももどかしい。

 

「大体、俺達だって全能じゃない。一つの時空の行く末を見守るだけで一杯一杯だろう?」

「...そうだね」

 

ユウが頷いて、しばらく無言が続いた。この時間も嫌いではないが、今回は彼女が何を言うのか悩んでるだけみたいだ。

 

「......」

「どうした?」

「...よかったの?記憶を消して」

「......良い悪いは分からない。消したくはない。だが、消さざるを得なかった」

 

『誰の』なんてのは、言う必要もない。

 

「元は同じ存在が長時間混ざれば、魂が混同していく。俺自身も数ヵ月前よりあいつの影響を色濃く受けたものになってるだろう。逆もそう。問題は、それでもあいつは人間で、俺は精霊だということだ」

 

300年以上意識のある精霊が数ヵ月新しい記憶が刻まれるのと、ただの人間が精霊の記憶を受けとるのでは訳が違う。

 

「確かに記憶を残してやりたいとは思う。だが、その上での生活は古雪椿という人間を破壊する」

「......そっか」

 

俺が一緒だったとはいえ、戦いながらの膨大な情報の記憶、広域の音を聞き分け、ブラックアウト寸前の挙動を繰り返すことを、激動する精神状態で身に付けていく。

 

そんなことをやれば、既に常人の域を越えているに決まっていた。

 

「...納得いってないのは、俺も一緒だ」

 

あの記憶を大切だと思うのは同じ。消したくない心情も理解できる。あの選択も、あの決意も、約束も、絶対無かったことなんかにするべきじゃない。

 

「...やっぱ、変に選択肢があると悩むな」

「そうだね...彼、どうするかな」

「さぁ。今後、少なくともすぐ関係あるのはあの告白だけだと思うけど...俺個人としては、誰を選んでも構わない」

 

敢えて赤の他人を評価するようにするなら、選べる人から選べばいい。皆そのくらい素敵な人達だ。

 

ただ、あの告白をして、約束をした古雪椿と、俺が、同じとして考えるなら。

 

「でも、『同じ俺』として考えるなら...銀以外を選んだ時点で、一発殴るかな」

「またびっくりしちゃうね。何で俺がいるんだーって」

「正直それはもうどうでもいいな...少し寝る。流石に疲れてるっぽい」

「分かった」

「...あまりにもスムーズ過ぎないか?」

 

いつの間にか膝枕されていた俺は、頭を撫でられてすぐに眠気を誘われた。

 

「お疲れ様。今はゆっくり休んでね」

「...あぁ。ありがとう」

「うん。おやすみ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

少し緩めの制服に袖を通す。高校を卒業する頃には、この制服をぴったり着れる身長になれることを祈るばかりだ。

 

一応鏡で身だしなみをチェック。親が気にしてくるのはイベントがある時だけだが、変にしていると誰かしらに言われるようになり、徐々に気にしていった。

 

ミサンガをつけている腕に時計を巻き、最後に服越しにサファイアの硬さを確かめる。

 

「...よし」

 

一人呟いて、俺は自分の部屋を出た。

 

今日も、一日が始まる。

 

 

 

 

 

まぁ、なんかしゃきっとした感じで始めた一日でも、学校の一時間目が始まる頃には普段と同じになっていて。今日も何事もなく、放課後になっていた。

 

(まぁ、この何事もないのが珍しくなくなってきたな...)

 

数ヵ月前まではやれ神婚だ、やれバーテックスだと忙しく、その前は二人でしばらくいたから、この日常が大切なものだというのは理解しているつもりだ。

 

だが、どうしても慣れというものは人を風化、もしくは摩耗させていくもので。

 

(......)

 

戻りたいとは思わない。どうしたらこの今の平和をもっと味わえるのか。

 

「あれ、来てたんだ」

 

そこを考えようとしたところで声をかけられた俺は、思考を中断した。夕日に照らされながら、春信さんが歩いてくる。

 

「珍しいかな?」

「春信さんはよく来るんですか?」

「暇な時はね。僕はもう大赦の人間ではないけど...一番来てるのは安芸さんだよ。今日は来ないらしいけどさ」

 

座っていた横長の椅子から一度立って少しずれると、「ありがとう」と言って落ち着いた所作で隣に座る。音が出ないのがまたらしいというか流石というか。

 

「寧ろ僕は、勇者部の人がいつも来ると思ってたけど、案外来ないんだね」

「大体この後依頼こなしに戻ってくるし、一人で来るのが俺のバイクを待つより早いんですよ。授業と立地的に」

「そっか」

 

春信さんが俺の方を向く。

 

「じゃあ、今日は何でまた?」

「...」

「この前のこと?」

「......まぁ、それはあると思います」

 

数日前、俺は過去に行ったらしい。平行世界で若葉達ともう一度会い、その時仲良くなった人を助けるためにもう一度過去に行くと。

 

『おう。銀、帰ったらちゃんと告白するから待っててくれよな』

 

そんな爆弾発言とキスを置き去りにして。

 

ただ、その日、俺の記憶は朝の分が少しあるだけだった。

 

この話を、俺は逆に信用した。記憶を消された事例が過去にある以上、ちゃんとした記憶がないことは突拍子もない事態を逆に立証している。

 

なら、悩むべきはどういう心境で俺がその行動を取ったのかという考察と__________キスされたのにも関わらず、満更でもない反応をしている彼女の考えを推測することだった。

 

いや、推測なんて大仰な言い方をしなくていい。要は__________俺のこと好きなのではないか。ということだ。

 

キスは流石に、恋人同士がやるものだろう。大昔の外国では挨拶がわりにすると聞いたが、ここは日本の四国の香川だ。

 

であれば、ライクではなく、キスされてもいいと思うくらいには__________

 

しかし俺は、本人から話を聞いていなかった。自分の覚えてない気まずい話をどうやって掘り返すのか。

 

それに、このことを考え始めてから、別のことを思うのだ。まるで誰かに囁かれるように。

 

『貴方を好きなのは、もっと大勢いますよ。遠い過去にいるくらいなのですから』

 

それが本当なのか分からない。ただ、銀の態度を見て_________友奈、東郷、風、樹、夏凜、園子。彼女達の態度が気にならないわけではない。

 

俺に対して、銀と、そんなに違いがあるのかと。

 

いや、独りよがりの妄想なのかもしれない。そんな気がしてならない。だが、かといって無下にできる筈はない。

 

そうして見ていれば、気づかないまま、今までより彼女達のことを見るようになって________

 

「椿君?」

「ッ!?す、すいません。ちょっとボケてました」

 

謝って思考を止める。この考えは一人では堂々巡りをしてしまうから、なるべく止めた方がいいのだ。彼女達のことだから、どうしてもなかなか止まらないのが問題だが。

 

「大丈夫かい?」

「はい...で、ここに来た理由でしたっけ?」

「まぁ、そうだね」

 

今日来たのは、確かに目的がない。目的は、ないが__________

 

「......今日は、いなきゃって思ったんです」

「?」

 

思い出していた出来事があってから、最初の彼女の定期検診。人ならざる力がどうなっているかの確認作業。気づけば、俺はこの大赦管轄の病院に訪れていた。

 

「ここにいて、あいつを待ってなきゃって」

「...あまり、深い意味はなさそうだね?」

「理論も理屈もないですね。ただの意思です」

「そうか...そういうことなら、僕は必要ないかな」

「えっ、見てかないんですか?」

 

立ち上がる春信さんを引き留めようとするも、関係なく廊下を歩きだした。

 

「君が見るならその方がいいだろう。また今度来るさ。よろしくね」

「え、ぁ...」

 

あっという間に角へ消えた春信さんを見て、俺は頭をかく。

 

「全く...あの人は」

「何が全くなの?」

「!?」

 

気づけば、彼女が隣にいた。

 

「いつの間に!?」

「今終わったの。今回も特に異常なし!」

「そ、そうか...」

「でもどうしたの?普段は部室で待ってるじゃん」

 

言われて少し焦る。ここで銀が来るのを無意識に待ってたなんて言ったら、どう解釈されるか分からない。ならば今回は当たり障りのないことを言っとくのも__________

 

「...今日は、言いたくて」

 

しかし、俺の口は、頭は、魂は、全く違うことをしていた。

 

「ちゃんと、お前に」

 

夕暮れはただ俺達を照らす。光を吸い込むように開けた口からは、何故かうまく言葉が出なくて_____

 

 

 

 

 

『なんて言うんですか?椿さん』

 

(_____あぁ、こう言うんだよ。代表してな)

 

「おかえり。銀」

「...おうっ!ただいま!!椿!!」

俺の言葉は、彼女に、満面の笑みを浮かべさせた。

 

 

 

神世紀301年。今日も、勇者部は活動する。

 

離れていても繋がっている、大切な仲間達と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古雪椿は勇者である 花結いの章 花紡ぎの章 完

 

 

 




ここまでで、古雪椿は勇者であるの新たなストーリーは区切りがつきます。無事投稿出来てよかった...ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

今後の詳しい予定とかは、花紡ぎの章の後日談が少し残ってるので、その時に話そうかなと。具体的にはまだ決めてません。

また、今回の花結いの章、花紡ぎの章に関して聞きたいことがありましたら、活動報告にある質問箱に書き込んで頂けると嬉しいです。製作予定の設定集とかに纏めたいので。是非よろしくお願いします。勿論感想、高評価も嬉しいです。喜びます。

ではまた。改めて皆さん、ここまで読んで頂いてありがとうございました!!
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