西暦2018年。白い化物_____バーテックスに人類が襲われて三年。神樹様の結界内で、初めて戦いがあった。
壁を抜けてきた敵に対抗するのは、神に選ばれた『八人』の勇者。その結果は完勝と言って差し支えないだろう。
この結果に、四国に住む人々は喜び、安堵し、希望を見た。この先に待つ日常を信じて。
まぁ、私達にとって、そんな前置きはもう関係なかった。それは二回目の戦いで吹っ飛んだわけだから。
「麗奈、大丈夫か?」
「うん...大丈夫」
最後に扉の外に誰かいないか確認して、扉を閉めた。念のためチェーンロックもしておく。この寮は窓を閉めておけば防音性が高いことも分かっている。
「ここまでする必要、あったのかな...?」
「でも本人に聞かれてどうなるか分からないし、他の皆に話すにしても相談はいるでしょ?その前に漏れたんじゃ意味ないし、必要必要」
私の部屋に集まったのは四人。秋原雪花さん、白鳥歌野さん、藤森水都さん、そしてなっち_____古波蔵棗。
私、緋之宮麗奈を含めた五人には共通点がある。今日はそのことに関してだ。私達は勇者、巫女、一般人と立場は違うけど、皆四国の外から避難してきた人で__________
「じゃあ、全員揃ったし、早速始めましょうか」
そう言って、白鳥さんが最初の言葉を口にした。
「古雪椿さんって、石榴さんよね?」
古雪椿さん。乃木若葉さんと上里ひなたさんが倒れている所を発見、直後にバーテックスとの戦いが始まった。私みたいな一般人は当然、勇者以外の人は動かなくなる神樹様の結界内で、動いていただけでなく、乙女にしかなれないという勇者っぽい姿になり、神様がバーテックスと戦えるよう用意した樹海で戦ったらしい。
それから、私達が生活する丸亀に来て、一緒に生活することになった。記憶が曖昧になってて、迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼むと。
これだけなら、謎は多いものの手助けしなきゃいけない人だな。で済む。実際、ずっと四国にいた皆はそんな感じだ。
ただ、私達はそんな場合じゃない。なっちは戦いから戻ってきてからすぐに私に言った。
『石榴が来た』
海来石榴さん。かつてそれぞれの地域で戦っていた人々を、四国まで避難させた立役者。その正体は神の使いで、現在は役目を果たしたからか消えてしまった。というのがここにいる五人以外の認識だ。
ただ、私達は知っている。バイザーに隠されていた素顔も 、未来から来たという素性も、勇者と巫女を四国に送るために来たという目的も。
その上で、『あの人は古雪椿って言うんだ。仲良くなれるよう頑張ろう!』なんて思えるはずがなかった。いや仲良くなりたいとは思うけど、私達としては驚きの方が勝っている。
それに、あちらはこっちのことを誰も覚えてないみたいで_____それで急遽開かれたのが、この『北海道、諏訪、沖縄組の緊急会議』だった。
「間違いない。あいつは石榴だ。海も言っている」
「あの勇者服、細かい所とか、あのデカイ武器とかは違うけど、ほとんどあの人のだったし、状況証拠的にもまぁ確定で良いと思うよ」
「そうよね。そこは皆想像した通りよね...ていうか石榴さん、これが分かってて顔を隠してたのかしら」
「それ以外バレバレだけど」
「顔も見たことがある」
『......』
「え、えっと、バレたら仕方ないくらいに割りきってたのかもしれません!」
黙り込んだ全員に、巫女の藤森さんがフォローをいれた。確かに、あの勇者服とかが変えられなかった時点でバレることは考えていたのかもしれない。
「ひとまず置いときましょうか。ここで話してても分からないし」
「とりあえず古雪椿と海来石榴が同一人物だとして...古雪さんの方は、私達のこと全く覚えてなさそうですね」
「記憶を失くしたか、それとも...海来石榴の方が後の時代の人物か」
「...多分、後なんだろうね」
詳しい経緯は分からないけど、多分古雪さんがこの時代で過ごして(異世界とも言ってたから、別かもしれない)、私達(というか私以外のここにいる人達)のことを知り、名前を変えて助けに来た_________
「そうよねぇ...アメージングだわ」
「勇者の時も確かに強かったけど、空を飛んでるわけじゃないし、おっきな武器を構えてるわけでもないし」
「あの刀には覚えがある。私が持った時はもう少し小さかったと思うが」
「...謎だらけ、だね」
「じゃあまた話を変えて...あの古雪さん、記憶がないって言ってたけど、信じる?」
秋原さんに言われたことには、全員が否定した。
「だよねー。あんだけ戦えてるわけだし」
「本当に記憶を失くしている。というより、未来から来たことを隠すための言い訳と捉えた方がしっくりくるな」
「そうよね。大社はすぐに住所とか探しそうだし......」
「?うたのん?」
「...うぅん。何でもないわ、みーちゃん」
白鳥さんは何か考えるような態度を取ったものの、特に何もなく。
「...助けてもらったけど、あまり知ってること多くないよね。私達」
「本人が色々隠してそうだったから仕方ないでしょ」
「そうだね。他の人よりは色々知ってると思うけど......」
「では、そのことを知ってる上で、あの古雪椿について、どうする?」
なっちの言葉は当然で、私達の返事も決まっていた。元より今日の集まりは、これを再確認するためなのだから。
「未来から来たことを知られたくないなら、私達は黙ってるでしょ。一般の人はまだ気づいてないみたいだし」
「その上で何か出来ることを協力する!!」
「そうだよね...今度は私達が何かできればいいな」
「一番暇なの、きっと私だよね...勇者でも巫女でもない、ただの一般人だし。任せて」
「......よし」
「確認するまでもなかった?」
「いや、意思疏通は大事だろう。外では話せないし」
「...でも、あの人がここに来たってことは、また何か起きるんでしょうね」
「皆で力を合わせれば大丈夫よ!!」
白鳥さんの言葉に根拠なんてないのかもしれない。それでも、ここにいる私達は全員、その言葉に頷いた。
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「あら、椿さん」
「白鳥」
「もう...歌野って呼んでくださいよ。そんな他人行儀な」
「他人だろ。別に」
「......」
「っ」
私が伸ばした手を反射的に弾こうとした椿さんは、結局その手を戻していた。私は難なく椿さんの頬を摘まむ。
「何するんだよ」
「冷たいことを言うそんな口はこうです」
「いふぁい...」
「ふふっ」
警戒心の強い猫を相手してるみたいと言ったら、本人は怒るだろうか。
(何に警戒して...怯えているのかしら?)
「それにしても、朝早いですね」
「...体を動かしたくなっただけだ。そっちこそ早くないか?」
「そりゃ早いですよ!見てください!」
「......畑?」
頬を擦りながら椿さんが見た先は、 私が作り上げた農場。
「凄いでしょう!!私が一から作り上げたんですよ!!最近は形になってきて、そろそろ収穫できるものもあるんです!!」
「...農作業が趣味なのか?お前は」
「いずれ農業王になる女なので!」
「へーっ...畑、か」
「折角ですし、少し手伝ってくれませんか?これから水やりをするんです」
「...まぁ、そのくらいなら」
決まれば流れは早く、いつも通りだ。椿さんは言った通りの水を撒いてくれて、葉はより青々と、地面はより黒くなっていく。
「椿さん上手ですね!」
「水やりに上手も下手もあるのか?」
「ありますよ。見てください、私の野菜たちが喜んでいます!」
「感覚派かよ...」
「もしかして、記憶を失くす前は農業や園芸をしていたとかないですか?」
「......その辺に関しては、全く記憶にないな」
どこか気まずそうな椿さんは、話題を変えるように口を開いた。
「それにしても、農作業か」
「どうかしました?」
「...よくやるなって。趣味を否定するつもりはない。けど、勇者として特訓したり授業を受けたりして、星屑...バーテックスと戦う中で、早起きして色々やるの。どうしても負担だろう」
「...私とみーちゃんが諏訪から四国へきた勇者と巫女だというのは、もう知ってますよね。あの頃からやっていたので、負担だなんて思いません」
この光景は、努力して手に入れたものではあるけど、嫌々やったものではない。
それに。
「それに、私はこうした日常を望んで、この四国まで来たんですから」
畑を耕して、作物を育てて、蕎麦を食べて。そうした日常を続けるために、あの人の話に乗ったのだ。
「......そうか」
「はい。私の大切な部分です」
「...ちゃんと育つといいな」
「育ちます。私が育てますし、椿さんも育ててくれたんですから!」
「ただ水やり一回しただけだっての」
「じゃあ、また来てくれますか?」
「...考えとく」
「はい!!」
そっぼを向いた椿さんに笑みを浮かべ、私はもう一つ、少し離れた場所で、水を垂らす。
「そっちは...何だ?野菜ではなさそうだが」
「そうですね。これは違います。これは『椿』の苗木です」
「!!」
「はい。貴方と同じ名前ですね」
「なんでまた、これだけを?」
「......多分、納得して貰えるだけの理由は言えないと思います」
理由を言うなら、なんとなくになってしまう。詳しく言うなら、『石榴さん(貴方)が呟いたから』になってしまう。
「この木を育てて、花を咲かせて、それを見たいと思ったんです」
「...そうか」
「ところで、調べたんですけど椿って海に石榴と書いても『海石榴(つばき)』と読むみたいですよ?」
「へー...知らなかった」
(知らなそうですね。本当に)
「......椿さん」
「ん?」
「ちょっといいですか?」
「何を?これ以外にも何かあったり」
「いえ。ちょっと動かず、目を閉じてください」
「...何で?」
「いいですから。もうほっぺた摘まんだりしませんから」
怪しんだ目をしながらも、渋々といった様子で目を閉じる椿さん。
「動いちゃダメですよ?」
「分かったよ」
『もしも『俺達』が潰れそうになったら』
諏訪で、石榴さんから言われた言葉。
『その時は、お前達が発破をかけてやってくれ。頼むな』
その意味が、今目の前にいる椿さんのことを指すなら。
「!?」
「ぎゅー...」
「えっ、は!?歌野!?」
「動いちゃダメって言いましたよ!」
「っ、あ、ぅ......」
顔は見れないけど、抵抗しようとしていた力は少しずつ抜けていった。
「記憶が失くなって、いきなり知らない人と生活するって、凄く不安だと思うんです」
「!」
「なので、少しでも暖かく感じてもらえれば良いなって...だからほら。ね?」
「......」
ここで何か言い訳するなら、私に記憶の欠落を疑われることになる。まだ私と仲良くない椿さんは、きっとそんな行動はしない。
「椿さん。覚えておいてください。貴方の力になろうと思ってる人は、ちゃんといますので」
「!!」
「はいっ。終わりです。もしよかったらまた言ってくださいね」
「......頼まないだろ」
そう言う椿さんは、さっき会った時より、どこか楽そうで。
「じゃあ、私が勝手にやりますね!!」
私はもっと椿さんに笑って見せた。
「...それも勘弁してくれ」
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「これで終わりだな」
椿の伸ばした木刀が、若葉の喉元に迫る。当たっていないのは双方の技量が高いからだろう。
「すっげぇ...」
「若葉ちゃんに勝っちゃった...」
隣でそんな呟きが聞こえたが、私はただ一点を見ている。
(...凄い目付きだな)
バイザーで隠れていた中でも、あぁはなっていないだろうと思えるような、真っ暗な夜空を映したような瞳。若葉との戦いが長引くにつれて、椿の瞳はそうなっていった。
(......)
今の椿が来たくもない世界でこんなことをしているなら、あんな瞳になるのも分かる。気がする。
だから、私は前に出た。
「椿」
「古波蔵」
「私とも戦ってほしい。連戦で悪いが」
「......いや、平気だ」
木刀を二本構える姿は、彼と重ならない。かといって、彼と目の前の存在が別だとは全く思えない。
「ついでに、一ついいだろうか」
「ん?」
「大きめの木刀二本。何故それを選んだ?」
「......」
「興味本意だ」
彼の武器にそれはなかった。
「...かっこいいだろ?」
「それでいいのか?」
困惑と苛立ち。夜を見せた椿の瞳が揺れる。
「...俺の武器だ。これが」
やがて呟かれた、決意と覚悟が乗った言葉に、私は思わず__________
「大切なのだな。その想いは」
「ッ!!」
「答えてくれてありがとう...嬉しいぞ」
椿ははぐらかすことなく、気持ちをぶつけてきてくれた。ならば、私は私自身でもって返す。
「私も全力でいく。お前のこと、もっと教えてくれ」
「はい、なっち」
「ありがとう。麗奈」
タオルを受け取って、体についた水を拭いていく。大体拭き取れば、シャワー室から出て服を着る。
「それにしてもびっくりした。突然戦おうとするからさ。それも、最初にあんな質問して」
「...私は、会話で全部の思いを伝えられるほど、口が上手くない。だが、椿のことをもっと知りたかった」
四国に来てから支給された制服は、若葉達と同じものだ。やっと慣れてきたのか、新品の匂いは消えている。
「石榴と椿は同じであり違う。今いるのは椿だ。だったら、ちゃんと椿のことを知りたい」
「それで戦ったの?」
「負けたがな」
戦っていく最中、椿の目はまた夜を_____いや、光のない深海を見せていた。
「だが、あの目は変えたい」
「目?」
「強い目だった...だが、椿らしくも、石榴らしくもない。気がする」
「気がするって...また海?」
麗奈の言葉に、私は首を横に振った。
「私の勘だ...このことは海でも何でもいい。ただ、より知れるといいな」
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「ありがとうございます」
「別に...頼まれたからな」
古雪さんは、迷って買った紅茶を飲んだ。
(あれだけ悩んでたの、みかん好きなのかな?)
「でも、この量の買い物...今までも一人で来てたのか?」
「いえ。普段はうたのんだったり、他の人にお願いしていたんですが......今日は都合が噛み合わなくて」
両手に持っているのは、皆の生活用品。これは前々から、なるべく勇者の皆にやらせないよう私が率先してやり始めたことだ。
「そうか...大社に頼めばやってくれるだろうに」
「皆の生活用品は、自分で揃えたいなと思ったんです......私、大社のことあまり信用してないので」
私の呟きに、古雪さんが少し目を大きくした。
「分かっていますよ。巫女らしくない発言だということは...私とうたのんが諏訪から避難してきたことは知ってますよね?」
「あぁ」
「諏訪は、うたのんは、三年近く、一人で皆を守り続けてくれたんです。その間、連絡を取り合っていた四国の大社は、連絡を取ってきただけでした」
「...」
「こっちの事情があったことは、分かります。それでも、納得できない気持ちもあるんです......貴方の方が、信用できる」
「それはないだろ?自分で言うのもあれだが、俺は記憶が曖昧で勇者と遜色なく戦える男だぞ?」
古雪さんの言葉に、私は首を横に振った。
「戦ってくれてるじゃないですか。うたのん達と一緒に戦ってくれて、私達を守ってくれている。命を助けてもらってる人を、少なくとも後ろ向きに捉えられません」
「...別に、俺はそんな高尚な理念の元動いてる訳じゃない」
「この際、貴方がどう思っていても関係ありません」
「!」
私らしくない強い口調なのは、脳裏にあの人のことがあるからだろう。
「いいですか?古雪さん。これはただの取り引きです。貴方は命をかけて戦う。その分、私は出来ることを貴方にする。やってくれただけ、貴方の味方につく。最悪、そこに感情はなくてもいいです。私のことは信用しなくてもいい」
海来さんは、私に取り引きを持ちかけた。私達を生き残らせるための取り引き。
なら、私は同じように古雪さんと取り引きをする。悩んでいるこの人を支えられるように。
「私を利用するくらいでいいですから。それなら、気楽ですか?」
「......巫女らしくないな。お前」
「誰かの影響かもしれません...あれだけ言いましたけど、お互いのことを知って、信頼していければなとも思ってます...何かあれば遠慮なく言ってくださいね」
「......考えとくよ」
そう言って、古雪さんは紅茶を飲む。私はその光景を直視せず、顔をそらした。
(...変なこと、言ってないよね?ぐいぐい行ったみたいじゃないよね??)
らしくなく大胆な言い方をした自分の、赤くなった頬を隠すために。
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「おっ、奇遇ですね」
「秋原か」
寮への帰り道、まだ歩いて十分はかかるだろう所で、ばったり古雪さんと会った。
「...買い物帰りか?」
「はい。流石に長年使ってた眼鏡とおさらばしようかと思いまして...どうです?印象変わりました?」
「......フレームも色もほとんど前と変わらないだろ」
「あ、バレてます?」
確かに、今私がかけている新しい眼鏡と、箱にしまっている古い眼鏡は、ほとんど違いがない。
(...ちゃんと、見てるんですね)
それが好意があるとか、そんなことは微塵も思わない。むしろ逆、そんな細かいことを覚える程に、私達を警戒している。
今の彼も謎が多いけど、態度から他の人より察するとこができていた。
(きっと似てるからなんだろうな。私に)
どことなく、自分を客観視している時と重なることがある。とはいえ違いも当然あるけど。
「ところで古雪さんは?休日とはいえお出掛けは珍しいですよね?いっつも部屋にいる印象でした」
「......なんとなく、歩きたくなって。散歩だよ」
古雪さんはどこか迷いながらそう言った。
「そうでしたか。今日の天気は散歩に適してますし、いいですね」
「そうだな。風も爽やかだ」
「まだ歩きます?私はこのまま帰りますけど」
「...いや、俺もここまでにする」
「じゃあ一緒に帰りましょうか」
私達は横並びで歩き始める。添えるのは他愛もない話だ。
「勇者様!お兄さん!!」
「?」
そんな時、私達は声をかけられた。振り向くと、女の子と、大人が何人か。
私はその姿に見覚えがある。
「これ優衣(ゆい)」
「こんにちは!」
「こんにちは。元気だね」
「...えっと、お兄さんってのは、俺でいいのか?」
「?お兄さんでしょ??」
「......まぁ、そうか」
北海道から一緒に避難してきた人の一人。そして、私が海来さんと出会った時に守っていた子。
「すみません勇者様。そこのお方も」
「いえ。気にしてませんよ」
「...はい。自分も特には」
その言葉を聞いて、私は反応しそうになったのを抑える。この人は多分勇者を近くで見ようと寄ってきた女の子に見えてるのかもしれない。
でも、この女の子が古雪さんを『お兄さん』と呼んだのは__________
(どうしたもんかねぇ...)
「ねぇねぇ勇者様、お兄さん。一緒に写真撮って!」
「写真?」
「え、俺も?」
「うん!」
「...どうする?」
「私は別に構いませんよ?」
「......まぁ、じゃあ」
「やったー!!」
女の子が持っていた携帯はすぐにつけられて、テキパキ準備が進んでいく。
「小さい子の頼みは断れませんか?」
「別に、無下に扱うこともないだろ...」
『振り回されるのには慣れている』と言わんばかりに、やると決めてからの古雪さんの動きも早く。女の子の隣にしゃがんでカメラの方を向いていた。
「こんな感じでいいか?」
(...この人の素は、こんな感じなのかな)
私はそれを見て、ちょっと微笑んで。
「私も混ぜてくださいよ!」
女の子を挟む形で写り込んだ。
「勇者様、お兄さん。北海道からずっと、守ってくれてありがとう!!」
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「んっ...」
大きめの音が響き、寝ぼけた頭はなんとかスマホの目覚ましを消す。すぐそばのカーテンを開ければ、見事なまでの快晴だ。
「......」
過去に来てから幾らかが過ぎた。最初からここに来てしまった理由も、帰る条件も明確にはなってないが、こちらの生活も問題なく過ごせるくらいにはなった。
「...はぁ」
今の俺の目的は、勇者の守護。戦い続ける彼女達の隣で戦う力が俺には残ってる。
(あんだけ数がいるとなぁ)
とはいえ、生活するメンバーが気心の知れない女子ばかりというのは、どうにもやりにくさがあった。
特に、少し前に四国へ避難してきたという彼女達。
理由は分からない。ただ、何か感じることがある。視線というか、言動というか、何というか。
(...俺は、帰る。元の時代に。勇者部に)
目的を果たし、何事もなかったかのように元の時代に戻る。全てはそのために。
『椿さん。覚えておいてください。貴方の力になろうと思ってる人は、ちゃんといますので』
「......行くか」
窓に背を向けて、俺は登校の準備をする。
鏡に映るその顔は________今から行く先を、まんざらでもないと思っているように見えた。