古雪椿は勇者である   作:メレク

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お待たせしました。バレンタインから約一ヶ月半、もう休暇は十分に楽しんだだろう...

まぁ忙しかったのもありますが、人生初の四国上陸、つるや等ゆゆゆ関連の聖地巡礼もしてきました。凄い楽しかった。うどん美味しかった。

感想はこれくらいにして、更新頻度は不安ですが、改めてよろしくお願いします。今回は見返すとまだ作ってなかった友奈ifです。それでは。


短編 友奈if

「じゃあお疲れ様でした!行ってきまーす!」

「友奈ちゃんっ!!」

「はい東郷、ステイステイ」

 

東郷さんに手を振って、私は勇者部の部室を出る。向かうのは学校から出て少しした所にある道場だ。

 

『あの人』が借りている場所らしいけど、どうやってこの場所を借りたのか、誰から借りたのかは聞いたことがない。でも、詳しく聞くことはなかった。

 

「結城友奈、到着しました!!」

「来たか」

「はい!!今日もよろしくお願いします!!」

 

頭を下げる私に、何故か少し苦しそうな表情をした先輩は、口を開いた。

 

「......あぁ。よろしく。結城」

 

 

 

 

 

始まりは、目の前にいる一つ上の先輩_____古雪椿さんが、勇者部の部活に来たことだった。

 

『柔道で戦う相手が欲しい。勇者部に武術が出来る奴がいるって聞いたんだが』

 

突然頼まれた依頼に、(東郷さんに猛反発されたものの)私が向かうことになり。結果としては思いっきりやられてしまった。

 

『大丈夫か?』

『へ、平気です...凄い強いんですね』

『年下の女子にやられるほど柔な一年を過ごしたつもりはない』

 

タオルで汗を拭う先輩は、まだまだ余裕さが見える。

 

『...なぁ』

『はい?』

『これからも定期的に依頼しても良いか?相手が欲しい』

『えーっと...』

 

突然言われて、私は考える。

 

東郷さんと一緒にいる時も勿論楽しいけど、激しい運動は一緒に出来ないから、久々に全力で体を動かせて楽しさはあった。

 

けれど、定期的にというのは_______

 

『あの、部活には入らないんですか?柔道部とか』

『俺がしたいのはルールのある試合じゃなくて、真剣な勝負なんだ。少し前まで相手がいたんだが、やれなくなってな...だから頼みたい。結城友奈』

『わわっ、そんな、やめてくださいよー!』

 

そう言って頭を下げる先輩。そこまでされると、私は拒否できなかった。

 

『分かりました!結城友奈、お受けします!!』

『そうか、ありがとう』

『はい!よろしくお願いします。えーっと...』

『古雪だ。古雪椿』

『!よろしくお願いします。古雪先輩!』

 

嬉しそうな、それでいて何故か安心したような感じに違和感はあったものの、先輩は__________古雪先輩は、顔をあげて少しだけ微笑んだ。

 

『あぁ、よろしく』

 

(なんだろう...嬉しそうだけど、嬉しくなさそう)

 

こんな風に笑う人もいるんだと、その時の私は感じた。

 

 

 

 

 

こうして始まった依頼は、週に一回、もしくは二回、古雪先輩が用意した道場でやることになった。

 

この場には東郷さんもついてきていない。ただ見ているだけになっちゃうのは申し訳なくなっちゃうし、なにより_____

 

『ぐっ!?』

『甘いな』

 

こうして思いっきり床に叩きつけられる現状を見たら、きっと私のために怒ってくれるからだ。

 

『!まだまだ!!』

『ッ!!』

 

全力で戦って、それでも勝てない。また全力を尽くして、それでも敵わない。

 

でも、運動することは楽しくて、幾らでも自分を高められて、相手は常に新しいことを見せてくれる。私はそれが凄く良かった。

 

『元々殺傷能力のある動きを競技用に削ぎ落としたものが柔道などのスポーツだ。逆に言えば、スポーツの動きに工夫を入れればより高いダメージを与えられる。腰を捻ったことによる遠心力なんかが良い例だ』

 

本当に勝負することを突き詰めたような技術も、考え方も教わった。最初は抵抗もあったものの、私は楽しさからどんどん身に付けていった。勿論、他の人には使わないけど。

 

そして、半年以上経った頃には、私は古雪先輩と互角以上に戦えるようになった。

 

『ここまでになるなんて...強くなったな』

『古雪先輩のお陰です!』

『そうか......これなら及第点、かな』

 

最後の言葉は聞き取れなかったけれど、その日はそのまま別れることになり。学年が上がってから会った時には、別の意味も込めてこの戦いに望むことになった。

 

突然始まった、勇者としての戦い。神樹様から選ばれた勇者になって、皆を守るためにバーテックスと戦う。

 

躊躇いはなかったわけじゃないけど、怯える東郷さんを守るため、風先輩と一緒に戦うために、すぐに決意できた。

 

相手が人間じゃないなら、世界を壊そうとする化物なら、遠慮はいらない。古雪先輩から教わったことを生かしつつ、全身全霊で放った勇者パンチは、バーテックスを瀕死に追いやるまで出来た。

 

『それならよかった』

 

何も知らない古雪先輩にバーテックスのことまで話すわけにはいかず、ぼんやりと役に立ったことだけ伝えると、古雪先輩は何時かの時より嬉しそうに微笑んだ。

 

『...前より、良い笑顔』

『?なんて?』

『な、何でもないです!』

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日もよろしくお願いします!!」

「あぁ」

 

一応依頼しているのはこちらではあるのだが、俺の方が先輩だからか、彼女がこの戦いを実戦に生かすための特訓と捉えるようになったからか、いつだか俺に頼むような言い方になっていた。

 

別段それを否定はしないが、劣勢になることが増えた俺がまだ指導できるかと言われれば、怪しい所ではある。

 

(...まぁ、俺をボコボコにしてくれるなら、それはそれでいい)

 

あくまで俺の目的は、彼女に勝つことではないのだから。

 

 

 

 

 

始まりは、幼馴染みが死んだことだった。世界のためとか皆のためとか言って、大事なお役目とやらを始めた幼馴染み。そして、彼女はある日突然帰らぬ人になった。

 

そんな役目を与えたという神樹も、指示をしていた大赦も許せなかった。不信感しかなかった俺は、彼女の葬式にいた大赦の人間を密かに追いかけ、彼女のお役目について盗み聞きした。

 

勇者の役目は、四国の外から来る、世界を滅ぼそうとする敵を撃退すること。文字通り、世界を、人類を守ること。

 

それを聞いて、彼女のやりたかったことを聞いて、俺はそれを知れなかった悲しさと、別れも言えずに終わってしまったことへの後悔に包まれた。

 

少しして、俺は大赦の一室に訪れた。

 

『何用ですか』

『俺を雇ってください。安芸さん』

『...突然、子供が何を』

『俺は三ノ輪銀の幼馴染み、古雪椿です』

『!』

『あいつを忘れたとは言わせません。知らないとも言わせません。貴女は銀から話をされて、俺を知っている』

 

仮面に隠れた顔を睨む。そう、以前あいつが話していたことを俺は聞いていた。

 

『......それで、何の用ですか』

『さっき言いました。俺を大赦に雇ってください。勇者となる人間を探しているんでしょう?』

『!な、何故それを』

『大橋の破壊、突然大赦が行っていた健康診断、これで新たな勇者を探していると思いました。貴女の動揺で確信しましたが』

 

普通、橋があんなひしゃげたりしない。そしてあの橋は四国の外、化物の棲みかに繋がっている。

 

それからすぐに行われた健康診断。女子の方が男子と比べ検査項目が多いことから、女子にしかなれないという勇者に関する調査ではないかと当たりをつけた。

 

まるで、次に生け贄となる存在を選定するような。

 

『俺は中学生です。大赦の人間が行くより違和感なく勇者候補と接触できるし、未来への布石を打てるかもしれない。少なくともすぐに切り捨てなくとも損はないと思いますが』

『...貴方は、どうしてそんな提案をしに来たんですか』

『この世界のためです』

 

仮面の奥から絞り出されるような声に、俺はしっかりと返す。

 

『銀が命をかけて守ったこの世界を...いや、あいつがこの世界を守りたいと思い、戦い抜いたなら、この世界を守り抜きたい。その手伝いをしたい』

 

それが、あいつがやりたかったことならば。それを俺が手伝えるなら。

 

あいつの家族を、友達を守れるなら。

 

『あいつが守った世界を、外からの侵略者なんかに奪われたりなんかさせない。それが、俺の意思です』

 

毅然とした態度を崩さず、俺は仮面の奥を見つめた。

 

 

 

 

 

結局。俺は中学生として日常を過ごす傍らで、勇者となりうる人間の調査を始めた。

 

勇者となる存在は神様が選ぶらしく、健康診断のデータを見ただけで特定するのは困難ではあるが、過去に勇者になった人間から傾向を掴み、人数を絞ることはできるかもしれない。

 

更に、勇者となれそうな人間を鍛えることができるように、三好さんという人に武術を教わることになった。

 

授業を受け、血反吐を吐き、寝る間を惜しんで書類をチェックする。ちょっと無理をするだけで彼女の望んだ世界を守れるなら、俺はこの身を差し出せる。

 

そうして、幾らか時が流れて。俺は一つの書類を見た。

 

『...見つけた』

 

名前は結城友奈。一つ年下の、俺と同じ讃州中学に通う生徒。山のような書類からそれを確認した俺は、それ以降書類に手を伸ばすことはなかった。

 

それは『絶対に彼女が選ばれる』と確信したから。

 

初代勇者と呼ばれている西暦の勇者、その一人と瓜二つの見た目も判断材料として大きい。友奈という名前も。だが、それ以上に、写真を見ただけで他と違う何かを感じた。

 

(...銀と同じ者を見つけたことに対しての直感。そのはず)

 

そうと決まれば動くのは早かった。既に彼女は勇者となる素質を囲うために作られた部活、勇者部に所属している。俺は躊躇うことなく、その戸を叩いた。ある程度形になっていた力を携えて。

 

 

 

 

 

「やぁぁぁっ!!!」

「ッ!!!」

 

気合いの入った声と共に飛んでくる飛び蹴りを両腕で受ける。彼女は俺の腕を蹴ることで飛び退いて距離を取った。

 

恐らく俺が女子とはいえ全体重をかけられた一撃に対して微動だにしなかったことに動揺したのだろう。

 

(久々だからって、前と同じになると思うなよ!!)

 

殴りかかる俺の攻撃を手の甲で的確に捌く結城。だが、それはあくまで陽動。

 

(足元がお留守だ!!)

 

「ッ!」

「もらったぞ!」

 

足を引っかけられた彼女はバランスを崩して倒れそうになった。当然それを逃すことはせず、俺は追撃を入れようと拳を構え__________

 

「ガッ!?」

 

(!?!?)

 

咄嗟の回避は間に合わず、下から飛んで来た踵が顎に掠める。よろけながら後ろに下がった俺は、結局尻餅をついた。

 

「!!古雪先輩!!すみません!!大丈夫ですか!?」

「...けほっ、へーきへーき」

 

本人も予想以上にいい当たりだったのを感じたのか、慌てて駆け寄ってくる。だが、俺はそれを振り切った。

 

お互いが避けると思って本気でやらないと意味がないし、これも必要経費だ。幸い舌も噛んでいない。

 

(それにしても、最初に比べたら躊躇うこともなくなったし、強くなったな...)

 

初めの頃は、やはり人相手に躊躇っていたのもあるし、あくまで運動の一つだったのだろう。変わったのは今年の四月、彼女をはじめとした勇者部が、勇者として敵と戦いだしてからだ。

 

攻撃の捌き方は彼女の武器である籠手で弾けるように。繰り出す一撃は確実に相手にダメージを与えられるように。

 

何より、佇まいは凛として、覚悟があるように見えた。

 

これが要因かは知らないが、先日の戦いでは彼女が一番始めに『満開』と呼ばれる特殊機能を使えたとか__________

 

「先輩!!」

「っ!ごめん、続けるか」

「いえ、休憩にしましょう?夏ですし、しっかり休まないと!」

「...悪い、ありがとう」

 

そう言って、差し出されていた彼女の手を取れば、彼女は明るい笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

「はい」

「あ、ありがとうございます」

 

学校は今夏休み。体を動かせば汗も出るわけで、俺はタオルと飲み物を彼女に渡した。

 

一応こっちが依頼をしている話なので、持参してこようとする彼女の提案を押しきって渡すようにしているのだ。

 

「にしても、やっぱりやられることが多くなってきたな。強いわ」

「そうだとしたら、きっと先輩のお陰ですね。さっきのだって避ける動作に組み合わせようって考えられたの、これまでのお陰ですもん」

 

(それであんなカウンター打つのかよ...)

 

彼女の才能に恐ろしさを感じつつ、俺も飲み物を飲む。口のなかにスポドリの味が広がった俺は、すぐに『顔をしかめた』。

 

(!?)

 

慌ててボトルを見ると、桜の花びらを模したシール。

 

(やばっ)

 

結城に渡す用の飲み物を飲んでいたことに焦る。俺が飲む用で作ったのは、味を度外視した健康ドリンクなのだ。

 

運動時に良いものだけを詰め込んだ結果、良薬口に苦しなんてレベルじゃない味のクソマズドリンク。その酷さは覚悟していてもなかなかきつい。

 

「悪い結城、そのドリンク俺の...」

 

すぐに結城の方を向いた俺は、言葉の最中に止まった。

 

「?」

 

結城はまるで気にしていないかのように、俺に小首を傾げながらドリンクを飲んでいる。

 

「どうかしました?」

「え、どうかしたって...不味いだろそれ。え、不味くない?」

「!ちょ、ちょっとざらっとした感じはありましたけど...そ、そういえば不味いかな~」

「......」

「あっ」

 

あまりにも動揺した態度に、俺は黙って彼女から容器を奪い取って口に運ぶ。罰ゲーム染みた味がいつも通り口に広がって、改めて彼女の方を見た。

 

「か、間接...」

「結城」

「はいっ!?」

「何を隠してる」

「......先週、病院に行ってたという連絡はしましたよね?」

「あぁ」

 

バーテックスと大きな戦いがあり、勇者部全員が検査入院という形になっていた。彼女から聞いた話だけなら、ただ病院に行っていただけということだったが。

 

「その時、お医者さんから、私の味覚が鈍くなってると言われて...た、ただの疲れだって言われたんですけどね!!」

「......」

 

確かに、勇者となり人外と戦うのは疲れるのだろう。

 

だが、その結果味覚がなくなるなんてことがあるのだろうか。あれだけ機敏に動けるのに、味覚だけなど。

 

「......」

「あの、古雪先輩?」

「...今日はもう、それ飲んで帰れ」

「ぇ」

「体調悪くても来いなんて、俺は言ってない。不味くないならそれはスポドリの何倍も健康に良い奴だから、さっさと飲め。いいな?」

「...はい」

 

有無を言わさない口調に諦めたのか、彼女は割りとすぐに頷いた。

 

「ありがとうございます」

「感謝されることじゃない」

 

俺が気にしているのは、世界の守り手である勇者が体調不良でダウンすることで考えられる損失だけだ。結城のように好意的な解釈をされる必要はない。

 

「...本当に、そんなことじゃない」

 

決して、感謝されるようなことじゃないのだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『古雪先輩』

『ん?』

『もし、大きな力が使えるってなったら、すぐ使いますか?それとも取っときますか?』

『なんだそれ、随分抽象的な話だな。ゲームか?』

『えっと、はい。私やり慣れてなくて』

『俺も最近はやってる暇なくて、やってないが...まぁ、それでもその時次第じゃないのか』

『その時次第?』

『例えば、俺達が喧嘩に強いと分かってる相手は簡単に手を出してこない。これは力を持ってるだけで抑止力になるからだ。これは力を使ってはいない』

『そうですね』

『それが出来ないなら、力のメリット、デメリットを考えて使えばいい......ただ』

『ただ?』

『...出し惜しむくらいなら、使っちまえばいい。そう俺は思う』

 

 

 

 

 

気づけば、私の目には天井が映っていた。自分の部屋の、よく見てきた天井だ。

 

「...夢、か」

 

今日は特に予定はない。とはいえ、洋服に着替えて外に出れるような準備をした。

 

「ご飯よー」

「はーい」

 

朝ごはんはパンと目玉焼き。焼き色のついたパンにバターを塗って「頂きます!」と大きく一口。バターのとろとろした感じと、パンの少し焦げた部分が口に刺さってちょっと痛い。

 

だが、それだけだ。

 

(味はまだしないかぁ)

 

一度にたくさん来たバーテックスとの戦いが終わってから、私の味覚はなくなってしまった。食感を楽しむことはできるけど、味が分からないのは少し悲しい。

 

(大変だったし、疲れはしたけど...力を使う上での、メリットと、デメリット)

 

以前言われたことを思い出して、少し考える。

 

(満開を使ったメリットは、宇宙にいるバーテックスを倒せるくらいの強さ。デメリットは、疲れること...その疲れが、私は味覚に、風先輩が目に、樹ちゃんが声に出た。東郷さんは何もなくて、夏凜ちゃんは満開をしていない......)

 

ここに規則性があれば_____満開した人の症状が同じであれば、疲れがそこに対しての負荷が大きいというのが分かる。だけど、ここまでバラバラだと分からない。

 

(古雪先輩なら、こうやって考えそうだけど...この先はどう考えたら良いのか分かんないな)

 

古雪先輩に言っても、きっと一蹴されてしまうんだろう。何か隠してそうではあるけど、勇者のことを知ってるわけでも、大赦に詳しいわけでもないだろうし。

 

(...もしかしたら、大赦のことは知ってるかな?今度聞いてみようかな...)

 

だって、夢に出るくらいの人だし________

 

(......あれ?私、夢に出るくらい古雪先輩のこと)

 

「友奈」

「はいぃ!?」

「なんて声出してるの。食べないの?ぼーっとして」

「あ、えっと、頂きます!!」

 

私はさっきまでのことを思い出さないようにしながら、大きく口を開けて食べた。

 

 

 

 

 

これから、もっと大きな戦いが始まることを知らずに。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「どういうことですか」

 

苛立ちを隠そうともせず、俺は紙の束を地面に放った。全員中身を知ってるわけで、今更読む必要はない。

 

内容は、満開の機能と、使用時の注意点について。

 

「満開使用時、敵を殲滅するだけの力を得られる。ただし、使用後自身の心身的機能の一部が失われ、戻ることがない。何故こんなに重要なことが秘匿されているのですか」

 

結城から話を聞いて、密かに大赦を調べたら出てきた情報。この事実は現勇者の誰も知らない。

 

俺の問いに、仮面をつけた一人が答える。

 

「この事実を知れば、勇者様は戦うことを躊躇ってしまいます。それは、四国を敵の手から守れなくなるということ。それだけは避けなければなりません」

「だからといって、これは...」

 

真実を知らず、世界を守るために身体を差し出し続ける。これでは、勇者と祭り上げられているだけの奴隷だ。

 

「しかし貴方も、勇者様にこの世界を守って頂くため、戦ってもらうために活動していたのでしょう?」

「ッ!!!!」

 

勇者の選定は、戦う生け贄を選ぶ行為、決定権は神にあっても、神官の言葉に反論は出来ない。

 

(だけど...俺は)

 

だが、素直に頷くことは決してできなかった。戦ってほしかったが、供物になれとは思っていない。他者から見て同じだったとしても、それは、違う。

 

むしろ俺は、そんなことを回避するために_____少しでも、銀と同じ存在を出さないために、腕を磨いて、生き残る術を伝えていたつもりだから。

 

(俺は...)

彼女の笑顔が脳裏をよぎって、俺は苦虫を潰したような顔をした。

 

「精霊の力により、勇者様は死にません。そして、満開を使用すれば敵を倒すことができる。であれば、勇者様に戦う意志があれば」

「......出過ぎたことを言いました。すいません」

 

決して納得はしていない。しかし、今俺がここで何を言っても無駄なことは分かったし、今すぐ帰りたかった。

 

(......)

 

 

 

 

 

気づけば、さっきまでいた神官は消え、俺も大赦内の廊下にいた。少し壁に寄りかかり、浅い呼吸を繰り返す。

 

「......精霊のシステムって、前はなかったんですね」

 

絞り出すような声に、反応する声が一つ。

 

「精霊、そして満開は、三ノ輪銀様が亡くなってから実装されたものです......彼女と同じ存在が、これ以上生まれないように」

 

さっきの所にはいなかった、仮面をつけた神官。

 

「...以前、強く当たって、すみませんでした」

 

俺は、それだけを口にした。今はそれしか言えない。自分のことで一杯一杯だし、あの人の辛さも知ってしまったから。

 

「......迎えを用意しましょうか」

「いえ、自力で帰ります。これ以上貴女に迷惑をかけたくないし、貴方達に借りを作りたくない」

「...分かりました」

 

世界を守って欲しい。だが、彼女の笑顔を奪うのは、抵抗がある。

 

何より苦しいのは、守るべきだと考えていた世界と、彼女の笑顔を奪うことと同義なのかを天秤にかけている自分自身だった。俺にそんな権限はないのに。

 

(無力な俺は...どうしたらいい。教えてくれ、銀......)

 

 

 

 

 

勇者達が新たな戦いに身を投じ、彼女の意識が戻らないことを知ったのは、それからしばらく経ってからだった。

 

 

 

 

 

扉越しに鳴り響く電子音。伸ばした手を戻し、進め、扉に手をかけることができないまま、どのくらいの時間が過ぎただろうか。

 

挙動不審なこの姿を咎める者がいないのは、ここが夜の病院で、一般病棟から離れた場所だからだろう。中には未だ動かない彼女以外いない。

 

「......」

 

『どういう結論になるにせよ。会ってきなさい。今の君と戦ってもつまらない』

 

三好さんはそう言って、夜間にこの病室を訪れる権利を病院から貰っていた。それを受け取ってしまったのは、まだ動揺を抑えられてないからだ。

 

「......」

 

ゆっくり、扉に触れる。特に立て付けも悪くないため、スムーズに室内が見えた。

 

「...っ」

 

既に退院した他の勇者_____勇者部のメンバーが置いていったであろう花や果物。それが側に置かれているベッドには、横たわっている人が一人。

 

 

「っ、!」

 

動かなくなった足を手で無理矢理動かして、一歩一歩病室の中へ入る。三秒で辿り着ける場所に数倍の時間をかけてつけば。彼女の顔が目に入った。

 

笑顔など欠片もない。目は開いたままで、その瞳に光彩はない。

 

「......」

 

無言で俺は崩れ落ちた。それでも手だけはなんとか動かして、彼女の手に触れる。

 

そこにはまだ、確かな温かさがあって__________すがるように両手で握り、頭をぶつけた。

 

「......ごめん」

 

一度溢れてしまえば、もう止まらない。

 

「ごめん、ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい...!!!」

 

バーテックスは倒された。世界には再び平和が訪れた。何も知らない一般人は気ままに日常を謳歌する。

 

しかし、その代償として、彼女の魂は捧げられた。

 

「俺が、俺が...!!」

 

俺が彼女にもっと技術を教えていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。俺が一緒に戦えていれば、また違ったのかもしれない。

 

(いや、違うのか...)

 

俺が彼女と接触しなければ、神が彼女を選ばなかったかもしれない。なんてったって俺は、死んでしまった勇者の幼馴染み、すぐ側にいた存在なのだから。

 

「...これで、最後だ」

 

決めたなら実行する。彼女のために。

 

(...ごめん、銀)

 

あいつの守ろうとした世界を守る。その約束はもう果たせそうにない。

 

でも、今更遅いとしても。目の前にいる彼女のことを、俺は________

 

(でも、彼女がまた笑えるなら)

 

そのために、何かできるなら。

 

やがて、俺は病室をあとにした。

 

(きっと、彼女は......)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「だから、勇者は絶対負けないんだ!!!」

 

大きな声を出したことで力を使ったのが想像以上にきつかったみたいで、地面に倒れそうになる私。

 

咄嗟に東郷さんに受け止めて貰って、それを演出だと思ったお客さんから拍手されて、無事に演劇が終了した。

 

本当に、この半年だけで色んなことがあった。突然勇者になって、バーテックスと戦って、外の世界の真実を知って。

 

風先輩とも東郷さんとも戦って、最後には全てを止めるために体を動かして、私自身動かなくなってしまったらしくて。

 

それでも、今こうしていられる。それが凄く幸せだった。

 

そう、この幸せの報告を、もう一人に__________

 

「そういえば、古雪先輩は...風先輩、ご存知ですか?」

「ぁー...うん。多分。でもあいつ......」

「っ」

 

数日前送っていた連絡が返ってきていないことを、いつもより遅めだと判断するんじゃなかった。そう後悔するより前に、電話をかけてみる。返事は一切返ってこない。

 

「風先輩!古雪先輩はどうしたんですか!?」

「ぅーん...」

「と、東郷さん!!」

「......風先輩、私は言ってもいいと思っていますが」

「東郷...」

「友奈ちゃんを不安にさせる存在を消すことも考えましたが...何より友奈ちゃんが気にしてしまいますから」

 

 

 

 

 

「すいません」

「勇者様」

 

深いお辞儀をされるのは慣れてなくて、やめてもらうよう手を振る。そうしたら、すぐに「どんなご用で」と聞かれた。

 

「会いたい人がいるんですけど」

「すぐにお呼び致します。どなたでしょう?」

「...分かりませんか?」

「はぁ......」

「......貴方ですよ。先輩」

 

 

 

 

 

「それ、いつまでつけてるんですか」

「私は大赦の一員です。これはその証に他なりません」

 

ベンチに二人で座る。こんなにゆったりした感じなのは、この人と出会ってからなかったことだ。

 

会話の内容は、決してその限りではないけれど。

 

「学校もやめたと聞きました」

「ご存知ないかと思いますが、大赦の元育った巫女などは学校に通っていない者もいます。大きな問題ではありません」

「...私のため、ですか?」

「大赦の人間として、勇者様に尽くすのは当然のこと」

 

躊躇うことなく答える仮面を睨み付ける。私はもう知っているのだ。

 

「満開の後遺症、動かなくなってしまった私。それをどうにか出来ないか調べるために、大赦に入ったんですよね?」

「いえ、私は」

「そうですね。きっと、元々大赦の人だったのかもしれません。でも、学校もやめて、大赦にずっといて。そういうことを始めたのは前からではないですよね?」

「...勇者様のため、当然の」

「だったら、なんで作ってくれたんですか」

 

スマホを見せつける。写っているのは演劇で使った勇者服を着た私。

 

『実は友奈の服、スケジュール的に難しかったのよ。クオリティを下げることも考えてたんだけど...そんな時にあいつが来てね。手伝わせてくれって』

『理由聞いたらさ。あいつは絶対目覚める。人類のために頑張ったあいつがここで終わっていい筈がない。そんなことがあっていい筈がない。って』

 

「私のこと、心配してくれてたんですよね」

「心配するのは当然...」

「......」

「......当たり前だろ。そんなの」

 

ぽそりと、先輩が呟いた。

 

「俺は前から大赦の一員だった。お前に勇者の素質があると睨んで接触し、相手を倒すための術を教えていった...そうだ。俺はお前に、危険な目に合って貰うために近づいたんだ」

「選んだのは神様じゃないですか」

「それでもだ。満開のこともそう。知らなかったは言い訳にならない。俺は知れる立場にありながらそれをせず、お前を苦しめ、挙げ句意識不明の重体になった...そんな俺が贖罪の為に大赦に入るのも、お前との接触を避けるのも、当たり前だろ」

「当たり前なんかじゃありません」

「......少なくとも俺は、この仮面を外して顔向けなんて、出来ない」

 

その言葉を聞いて、私は立ち上がった。

 

「先輩。先輩が全部悪いなんてことはありません。抱え込みすぎです。悪く言えば自意識過剰です」

「お前っ!」

「私は許します。心配してくれて、悩んでくれて、頑張ってくれた先輩を許します。そして、私はこれからも貴方と会いたいです。それじゃあダメですか?」

「っ、それは...」

「ダメって言われても会いに来ますけどね」

 

私はそう言って、仮面に触れる。

 

「だから、もう泣かないでください」

 

仮面を外された先輩は、涙を浮かべていた。

 

(私はこの人に、こんな顔をして欲しくないから)

 

「結城...っ」

「もう終わったんです。私も、皆も無事です。だから、そんなに泣かないで」

「......なん、で。お前はそんなに...」

「...」

「おかしいだろ。そんな優しい人間が、自分の命を危険に晒した人間を、どうしてそんな風に許せるんだ...」

「今こうして、辛そうな顔をしているからですよ」

 

頭を優しく抱きしめる。先輩はやがて、私の胸の中で震え始めた。

 

「ごめ...さい。ごめんなさい...っ!!俺は、俺はお前に、こんな...!!」

 

少しずつ声が大きくなって、それが啜り泣く音に変わり、すぐに叫ぶような声になる。それを私はただただ聞き続けた。

 

 

 

 

 

「...ごめん」

「何回目ですか」

「いや、だって......」

 

しばらくして、目元を赤くした先輩は私から離れて、仮面を弄りながらまた謝ってきた。私としてはもう何度目の返事をする。

 

「言いたいことは理解したし、納得した。ただ、謝らずにはいられないというか...今何も問題なかったとしても、過去を変えられてる訳じゃないわけだし......」

「じゃあ、私のためにお願いを一つ聞いたら許します」

 

私の言葉に、先輩は少し目を丸くして頷いた。

 

「何でも言ってくれ」

「私のことはこれから友奈って呼んでください」

「...へ?」

「いいですか?」

「いや、それはいいが、お前に何のメリットが」

「いいですか??」

「......分かった。改めてよろしく。友奈」

 

それを聞いて、私は________

 

「はい!!椿先輩!!」

 

笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

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